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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第三十八章


第三十八章

「じゃあ何故」
「簡単な理由です」
 彼は述べる。
「そのまま時間が過ぎたのですよ」
「くっ、謀ったわね」
「ですから申し上げた筈です」
 飄々とした言葉であるがそこには勝利を感じるものがあった。
「私達は頭脳で以って対すると。貴女はそれを甘くみられましたね」
「なら」
「行かせないわ」
 逃げようとする少女をアンジェレッタが止める。
「速水さんだけではないのはわかっているわね」
「何をしたというの?貴女は」
「私はこの周りに仕掛けさせてもらったわ」
 彼女は言う。
「わかるわね。この結界」
 見れば城の中空に数個の水晶が浮かんでいた。どうやらそれで結界を築いているらしい。
「一つの水晶で駄目というのなら複数使えばいいだけ。違うかしら」
「どうやらそれで逃げられないようにしたつもりね」
「これだけの水晶と力を使えば魔王でも封じられるわ」
 アンジェレッタは少女を睨み据えて述べた。
「魔王でもね」
「そういうことです。ではおわかりですね」
 速水はまたカードを構えてきた。
「貴女がここを脱出出来る方法は一つ」
「貴方達を倒すということ」
「そうです。それでは最後の戦いといきましょう」
 そこまで言うと悠然と身構えてきた。
「この天使の城でね。さあ」
「そうね」
 少女の顔にはもう笑みはない。構えはないがその全身からはこれまでにない邪悪な気を放っていた。
「そうとわかれば私も全ての力を出すわ」
「速水さん」
「はい、わかっています」
 速水はそれに答える。そしてカードをまた出してきた。
「い出よ」
 そのカードを出して述べる。
「教皇よ。そして我等を護るのだ」
 カードが輝きそこからあの美男子が姿を現わした。その知性に溢れた目で前を見据えている。どうやら今度はあの時とは違う力を出すようであった。
「教皇ですか」
「そうです、教皇の加護は物理的な攻撃を防ぎます」
「それでは」
「ええ。完全に防御を目的としたカードです」
 彼は答える。
「魔力も封じます。ですから御安心下さい」
「わかりました。では」
 アンジェレッタはそれに頷く。そして今教皇が光をその手から放った。 
 光は宙に登りそこから二人に舞い降りた。すぐにそれが二人を護る緑の壁となったのであった。
 壁はまるでエメラルドの様に透き通っている。だが攻撃は全て防いでいる。少女のその蜘蛛の巣を思わせる邪悪な光を全て防いでいたのだ。
「この壁で防いで」
「はいそして」
 速水の前には今天使がいる。天使はじっと少女を見据えていた。
「天使もいます。それで勝機が出ました」
「はい」
「ですがまだ」
 速水は最大の切り札を残していた。しかし今はそれを出さない。
「彼女も諦めはしないでしょうね」
「彼女も」
「そうです、まだ」
 彼はまだ油断してはいなかった。剣と盾を用意しても。それでもまだ少女の実力を甘く見てはいなかったのである。ここは彼の用心深さが出ていた。
 天使は一旦身体をその六つの翼で覆う。それから思いきり拡げて羽根を撒く。その羽根は黄金色の光となり少女に降り注ぎ、周りを覆ってきた。
 それにより少女の光は消されていく。それだけではなく羽根の光は少女の身体に触れるとそれだけで彼女の身体に火傷の様な煙を生じさせたのであった。
「天使の羽根というわけね」
「御名答です」
 速水はその言葉に頷く。
「如何ですか、この羽根は」
「そうね。見事と言うべきかしら」
 速水を見据えて述べる。
「けれど光が駄目というのなら」
 少女は光を消してきた。それからすぐに身体から別のものを出してきた。
「これならどうかしら」
「これは」
「そう、これこそが私の本来の力」
 あの影であった。
「永遠の闇。これならば私に勝てはしないわね」
「くっ」
 アンジェレッタはそれを見てすぐに右手を横に切った。すると全ての水晶から七色の光が出てそれが少女を撃った。

 
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