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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第二十一章


第二十一章

「日本のものですか」
「そうです。如何ですか」
「そうですね」
 アンジェレッタは自分の舌に尋ねていた。それから評論等を頭の中で検証してみた。そのうえで速水に答えてきた。かなり手間がかかる筈だがかかった時間はそれ程ではなかった。
「あまり議題には上りません」
「そうですか」
 こう言われると少し残念であった。イタリア人としては悲しいことであった。
「私自身はそんなに悪くは無いと思います。むしろいい」
「いいですか」
「はい、飲みやすいものが多くて」
「それが日本らしいと」
 アンジェレッタはそこに問う。だが彼女にはいささかわかりにくい話であった。やはり彼女はイタリア人であり日本らしさというものには理解が薄いからである。
「そう思ったのも事実です」
「やはり」
「予想通りでしたか」
「ええ」
 アンジェレッタの返事は今一つ歯切れのよくないものであった。だがそれでも話は続いた。
「では今宵のワインは」
「ですがどちらもイタリア産です」
「ふむ」
「ランブルスコですよ、赤も白も」
「よいですね」
 それを聞いた速水の目が細まる。ランブルスコはイタリアモデナ産のワインであり発泡性の甘みの強いワインである。かなり飲み易く、美味い。
「それで宜しいですよね」
「あのワインは大好きです」
 速水の趣味は案外高級品やそうしたものにこあわらないものであるらしい。ランブルスコは決して高くはないワインだからである。安くともいいワインはいいものなのである。
「何も高いワインを出すばかりではないのですよ」
「そうです」
 二人はここでも意見が合った。
「フランス人の様にね」
「そこでフランスですか」
「フランス料理のもとは御存知ですよね」
「無論です」
 それを知らない速水ではなかった。これは当然である。
「イタリア料理」
「その通りです」
 カトリーヌ=ド=メディチがヴァロア家のアンリ二世に嫁ぐ時に多くの料理人を連れてフランスに入り連日連夜宴を開いたのがはじまりである。それまでフランス料理というのは実に粗野なものでしかなかったのだ。少なくとも今の様に洗練されたものでhなかったのである。
 それからフランス料理は今のようになった。デザートにしろメインディッシュにしろだ。アイスクリームの様な菓子類やトリュフやフォアグラといったものを食べるようになったのもこの時からであった。それも全て悪名高いとされるメディチ家の者からもたらされたというのはある意味歴史の皮肉であった。
「イタリア料理は気取ったものではありません」
「はい」
「フランス料理とは違い」
「和食もそうだと思われてはいませんか?」
「違うのですか?」
「それは一部の料理だけです」
 速水はそう断る。懐石料理のことである。
「他は到ってざっくばらんなものです」
「はあ」
「意外でしたか」
「ええ」
 アンジェレッタはどうやら和食で何かあったらしい。驚いた顔になっていた。
「それはまた」
「まあそれはまた日本ででも」
「ローマの和食はやはり違いますか」
「食べたことはありませんがね」
 彼は答える。どうも外国での和食は日本でのものとは違うからだ。はっきり言えば味がその国の嗜好にアレンジされているのである。
「ですがおそらくは」
「やはり」
「それは日本でのイタリア料理も同じことでしょうね」
「オリーブが弱いですね。それにガーリックも」
 いささか予想された答えであった。イタリア人の愛するこの二つのものに関してであったからだ。
「そこが気になりました」
「ではこちらの料理は」
「御安心下さい」
 返事は決まっていた。
「見事なまでのイタリア料理ですよ」
「では味あわせてもらいましょう」
「はい」
「そのイタリア料理を」
 二人は食事の間に入った。既に食事の用意が整えられていた。向かい合って座るとまずはペンネが運ばれてきた。

 
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