Element Magic Trinity
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妖精たちは風の中
「2人で力を合わせれば、だぁ?冗談じゃねぇ」
「火と水じゃ力は1つになんねーしな。無理!」
「だいたいエルザは勝手過ぎんだよ!」
「何でもかんでも自分1人で決めやがって!」
「「エリゴールなんか俺1人で十分だっての!」」
エルザとティアが雑魚を一掃したその頃、ナツとグレイ、ルーとアルカは駅の中を走っていた。
「あのさ、僕達もいるって事・・・忘れてない?」
「完全に忘れられてるな、こりゃ」
苦笑いを浮かべるルーとアルカ。
すると、通路が二手に分かれているのが見えた。
「ムッ」
「どっちだ?」
「二手に分かれりゃいいだろうが」
「じゃあグレイとルー、俺とナツで行くか」
「魔法の相性的にもそれがいいね」
そう言うと、4人は分かれ道の前で足を止めた。
「いいかナツ、アルカ。相手は危ねぇ魔法ぶっ放そうとしてるバカ野郎だ。見つけたら叩き潰せ」
「それだけじゃねぇだろ?妖精の尻尾に喧嘩売ってきた大バカ野郎だ。黒焦げにしてやるよ」
2人はニッと笑い合う。
「2人って実は仲良いんじゃない?」
「「!ふん!」」
「素直じゃねぇなぁ」
ルーとアルカに言われ、2人はすぐに顔を背けた。
「死ぬんじゃねーぞ」
誰にも聞こえないような小さい声でグレイが呟く。
だが滅竜魔導士のナツには聞こえていたようだ。
「ん?」
「どうした、ナツ」
「何でもねぇよ!さっさと行きやがれっ!行くぞ、ルー!」
「待ってよ~!僕が急かされるの嫌いだって知ってるでしょ~!」
照れたように走るグレイを追うルーの背中を見て、ナツとアルカも走り出した。
そしてグレイとルーは辺りを隈なく見ながら駅を走る。
「呪殺の音色を流されたら、たまったモンじゃねぇぞ」
「でもティアがスピーカーは全部壊したし・・・どうやって流すの?」
「!流す!?」
ピタッとグレイが動きを止める。
「そうかっ!呪歌を放送するつもりなら、エリゴールは拡声装置のある部屋にいるはずじゃねぇかっ!」
「だから、スピーカーは全部ティアが・・・」
「他の方法があるかもしれねぇだろ!」
2人は放送室に向かって走る。
見えてきた放送室の扉を、グレイが蹴破った。
元扉が飛び散るが、中は無人。
「なぜいねぇ?放送するにはココからしか出来ねぇだろ?」
「やっぱりスピーカー壊されちゃったから放送は出来ないんだよ」
「でも待てよ・・・スピーカーを直せば放送できるよな。だったらココにいてもおかしくねぇだろ」
「それはそうだけど」
「じゃあココにいねぇのはおかしい・・・放送が目的じゃねぇってのか?」
すると、天井からレイユールの黒い紐がグレイに伸びる。
グレイとルーが入って来た時から天井にいたのだ。
その黒い紐が2人に直撃するほどの長さになった時、2人はほぼ同時に跳んでかわした。
天井からレイユールが降りてくる。
「お前・・・勘が良すぎるよ。この計画には邪魔だな」
「やっぱり裏があるって事か?」
「仕事もしないで何くだらない事やってるんだか・・・」
一方その頃、ここはクローバーの街・・・の、地方ギルドマスター連盟定例会会場。
「マカロフちゃん。あんたんトコの魔導士ちゃんは元気があっていいわぁ~♪」
やけにねっとりした声で喋っているのは、魔導士ギルド青い天馬のマスターボブ。
何故か背中から羽が生えたホステス風だが、男である。
「聞いたわよ。どっかの権力者コテンパンにしちゃったとかぁ」
「おーっ!新人のルーシィじゃあ!あいつはいいぞぉっ!特に乳が良い!」
酒のせいか、マカロフはセクハラじみた発言をする。
「元気があるのはいいが、テメェんトコはちぃとやりすぎなんじゃないかい?」
そう声を掛けてきたのは、魔導士ギルド四つ首の番犬のマスターゴールドマインだ。
「評議員の中じゃいつか妖精の尻尾が街1個潰すんじゃねぇかって懸念してる奴もいるらしいぞ」
「うひょひょ、潰されてみたいのぅ!ルーシィのボディで~」
「もう♪ダメよ!自分トコの魔導士ちゃんに手ぇ出しちゃ」
照れたようにボブが言う。
「マカロフ様。ミラジェーン様とティア様からお手紙が届いてます」
「ん?」
青く喋る魔法鳥の足に持たれた手紙を手に取り、封筒に貼ってあるギルドの紋章が書かれたシールに指を当てて指で丸を書く。
すると緑に似た色合いの魔法陣が展開され、そこにミラのホログラムが現れる。
『マスター、定例会ご苦労様です』
「どうじゃ!こやつがウチの看板娘じゃ!め~ん~こ~い~じゃろぉ!」
歓声が上がる。
『実はマスターが留守の間、とても素敵な事がありました』
「ほう」
その後、ミラは満面の天使の笑顔でとてつもない事を言い放った。
『エルザとあのナツとグレイとルーとアルカがチームを組んだんです、もちろんルーシィとハッピーも。ね?素敵でしょ。私が思うに、これって妖精の尻尾最強チームかと思うんです。一応報告しておこうと思ってお手紙しました♪』
ミラは笑顔でそう言うが、聞くマカロフは聞く度に汗をかいていく。
『それでは~』
ミラの映像が完全に消えた時、マカロフはパタッと倒れた。
だが直ぐに起き上がり、今度はティアからの手紙を開く。
ミラの時と同じように、ティアの全く笑っていないホログラムが現れた。
『マスター、定例会お疲れ様。老人の集いに毎回顔を出さないといけないなんて大変ね』
「おっ!ティアちゃんか」
「相変わらずの毒舌っぷりだわぁ~」
ゴールドマインとボブが呟く。
『一応報告しておくけど・・・エルザ達のチームに私も参加する事になったわ。エルザったら仕事終えたばかりだというのに・・・それと、前の仕事で相手を全員半殺しにして建物を崩壊させてしまったから評議員から始末書の提出を求められると思うけど、どうにかしておいて。任せたわよ』
1度も表情を変えずに映像が消えた。
また倒れ、今度はしばらく起きられそうにない。
その頃、駅の前には大勢の野次馬がいた。
「一体、中で何が起きてるんだ?」
「軍隊が突入したけど、まだ戻って来てねぇぞ」
「まさかテロリスト達にやられちまったのか?」
「それにしても風が強いな・・・」
「見ろ!誰か出てきた!」
1人の男が指さした先にいたのは、エルザだった。
「き、君!さっき強引に中に入った人だね。中の様子はどうなんだね」
その質問には答えず、エルザは駅員から拡声器を奪い取った。
「命が惜しい者は今すぐこの場を離れろ!駅は邪悪な魔導士どもに占拠されている!そしてその魔導士はここにいる人間全てを殺すだけの魔法を放とうとしている!出来るだけ遠くに避難するんだ!」
エルザが叫んだ直後、野次馬は一気に静まり返る。
だがしばらくして、その恐怖から逃げ出そうとすぐさま駆け出して行った。
「き、君!なぜそんなパニックになるような事を!」
「人が大勢死ぬよりはマシだろう。それに今私が言った事は本当の事だ。もちろん私達は全力でそれを阻止するつもりだが、万が一という可能性もある。君達も避難した方がいい」
エルザの言葉を聞いて、駅員たちも慌てて逃げていく。
走り去っていく人達を見てエルザが振り返り・・・目を見開いた。
「こ、これは!?」
一方その頃、放送室。
ここではグレイとルーがレイユールと対峙していた。
「計画の邪魔をする奴は全て殺す」
「計画もクソもねぇだろ」
「呪歌を放送したいならココからしかできないし、そもそもスピーカーが壊れてる以上放送は出来ない」
「その呪歌を持ったエリゴールがここに居ねぇんじゃ、何のために駅を占拠したのかわかんねぇぞ」
レイユールは地面に足をつくなり、攻撃を仕掛ける。
「はァ!」
「おっと」
「わっ!」
右手の黒い紐がグレイとルーの頭上を掠める。
その攻撃により、放送機器が破壊された。
頭上を掠めた紐がかくんと向きを変え、2人に向かう。
「!」
それを目で捉えると、グレイは右手を前に出す。
その手から長方形の大きな氷が現れ、紐を防いだ。
「氷!?へぇ」
「テメェ等の本当の目的は何だ?」
「放送機器を躊躇なく壊すって事は、放送が目的じゃないでしょ?」
「そろそろエリゴールさんの『魔風壁』が発動する頃だな」
「魔風壁?」
黒い紐がレイユールの手に戻り、氷が消える。
「貴様等をここから逃がさねぇ為の風のバリアさ」
「何!?」
「嘘!?」
一方その頃、エルザは驚きで目を見張っていた。
「こ、こんな事が・・・」
エルザの目に映ったもの、それは・・・。
「駅が風に包まれている!」
そう、風に包まれた駅だった。
その風も微風などという様な軟なものじゃなく、台風並みに強い風だ。
「ん?なぜ妖精が外に1匹・・・そうか・・・野次馬共を逃がしたのはテメェか。女王様よォ」
「エリゴール!」
声を掛けられ振り返ると、エリゴールが空を飛んでいた。
「貴様がこれを!?」
「テメェとは1度戦ってみたかったんだがな・・・残念だ。今は相手をしてるヒマがねぇ」
そう言うとエリゴールは手をかざす。
強い勢いの風がエルザを吹き飛ばし、風を纏う駅に突き飛ばされた。
「エリゴール!」
怒りを露わにして風に向かって走るエルザだが、バチィッと音がして見事に跳ね返された。
風に切り刻まれた右腕からは血が流れている。
「やめておけ・・・この魔風壁は外からの一方通行だ。中から出ようとすれば風が体を切り刻む」
「これは一体何のマネだ!?」
「鳥籠ならぬ妖精籠ってところか・・・にしてはちとデケェがな。ははっ」
バカにしたように笑うエリゴール。
「テメェ等のせいでだいぶ時間を無駄にしちまった。俺はこれで失礼させてもらうよ」
「どこに行くつもりだ!?エリゴール!話は終わっていないぞっ!」
だが、返事はない。
「一体・・・どうなっているんだ・・・この駅が標的じゃないというのか!?」
ゴッと痛々しい音が響く。
グレイの膝がレイユールの顎辺りに決まったのだ。
そのままレイユールは凄い勢いで吹き飛ばされていく。
ルーの操った風によって、勢いがついたのだ。
「ややこしい話は嫌いなんだ」
「何がどうなってやがる!」
「計画に想定外の妖精が飛んで来た。だから閉じ込めたってだけの話だ」
流れる血を拭いながらレイユールが答える。
「本来この駅を占拠する目的はこの先の終点、クローバー駅との交通を遮断する為だ」
「!?」
「でもあの街は大渓谷の向こうにあるから列車以外の交通手段は無いはずだよ!?」
「忘れたのか?エリゴールさんは空を飛べる」
「呪歌はそっちかっ!?」
「クローバーには何があるか、よーく思い出してみるんだなっ!」
レイユールの両手から紐が伸び、油断していたグレイとルーを容赦なく傷つける。
にや、とレイユールが微笑んだ。
「ま、まさか・・・!そんな・・・!」
「クローバー・・・あの街は・・・」
2人とも驚愕している。
そりゃそうだろう。クローバーにあるもの、それは・・・。
「じーさんどもが定例会をしてる街だ!」
「本当の狙いはギルドマスターかぁっ!」
そう。先ほど行われていた定例会の会場はクローバーの街にあるのだ。
「ははっ!」
「強力な魔法を持ったじーさんども相手に、思い切った事するじゃねーの」
「その勇気と覚悟は別の所で使ってほしかったよ」
「何も知らねぇじじい相手に笛を聴かせるなんて造作もねぇさ、エリゴールさんならきっとやってくれる。そして邪魔するテメェ等はこの駅から出られない。そうだ・・・もう止められないって事だ」
そう言うレイユールは知らない。
グレイの左手に冷気が集まってきている事を。
ルーの右手に冷たい風が集まっている事を。
「今まで虐げられてきた報復をするのだっ!全て消えてなくなるぞォ!」
そうレイユールが叫んだ瞬間、その顔にグレイの左手とルーの右手が強く当てられた。
「止めてやるよ」
「絶対に、ね」
そう呟く度にグレイの手から氷が現れ、レイユールの顔を凍らせていく。
ルーの風は凍らせるスピードを上げる様に徐々に冷たくなっていった。
「そして俺達の『親』を狙った事を後悔しやがれ」
「あんなお爺さん達だけど、僕達にとっては親みたいなものなんだ」
「がっ、は・・・」
ピキィ、と音を立ててレイユールの顔が完全に凍る。
顔を凍らされたレイユールは倒れ、そこには怒りを露わにしたグレイとルーだけが残った。
「闇ギルドよりおっかねぇギルドがあるって事を思い知らせてやる!」
「妖精の尻尾に手を出すとどうなるか、教えてあげるよ」
所変わって、ここは駅のホーム。
先ほどエルザとティアが雑魚を一掃した場所だ。
「知らねぇんだよ・・・む、無理だって・・・魔風壁の解除なんて・・・俺達が出来る訳ねぇだろ・・・」
エルザに胸倉をつかまれたビアードが弱弱しく答える。
「エルザー!」
「グレイとルーか!?ナツとアルカは一緒じゃないのか?」
「途中で別れ道になったから二手に分かれたんだ」
「つーかそれどころじゃねぇっ!鉄の森の本当の標的はこの先の街だ!じーさんどもの定例会の会場・・・奴はそこで呪歌を使う気なんだ!」
「だいたいの話は彼から聞いた。しかしこの駅には魔風壁が・・・」
「あぁ!さっき見てきた!無理矢理出ようとすればミンチになるぜ、ありゃ!」
グレイとルーは2階から飛び降り、着地する。
「こうしてる間にもエリゴールはマスター達の所へ近づいているというのに・・・」
「こいつ等は魔風壁の消し方知らねぇのかよ!」
「ひっ」
「よせ・・・彼らは知らない」
「あ」
「どうかしたのか?ルー」
ずっと黙っていたルーが口を開いた。
「あのさ。呪歌って封印されてたんだよね?」
「あぁ」
「呪殺魔法だ。封印されてて当然だろ」
「じゃあ、その封印を解いた解除魔導士がいるんじゃない?」
「!そういえばカゲと呼ばれていた奴がいたはずだ!奴は確かたった1人で呪歌の封印を解除した!」
「それなら魔風壁も!」
「探すぞ!カゲを捕らえるんだ!」
脱出の糸口が見えてきた3人は駆けだす。
その様子を見ていたビアードが、ゆっくり口を開いた。
「カラッカ・・・いつまで隠れてる?いるんだろ?」
そう言われて壁からぬぅっと出てきたのは、ルーシィとティアが追っているはずのカラッカだった。
「ス、スマネ・・・」
「聞いてただろ?カゲが狙われている・・・行けよ」
「か、勘弁してくれ!俺には助太刀なんて無理だっ!」
「もっと簡単な仕事だよ・・・」
「え?」
そう言うビアードの顔には、不気味な笑みが広がっていた。
「あーあ・・・完全に見失っちゃったよ」
「あい」
「その様ね」
その頃、ルーシィとティアとハッピーはエルザに頼まれたとおりにカラッカを探していた。
だがその姿はない。
「ねぇ・・・一旦エルザのトコ戻らない?」
「!」
「な、何よ」
ルーシィの言葉にハッピーが突然震え始めた。
「エルザは「追え』って言ったんだよ。そっか・・・凄いなぁルーシィは・・・エルザの頼みを無視するのかぁ。あのエルザの頼みをねぇ~、エルザにあんな事されるルーシィは見たくないなぁ」
「あ、あたし何されちゃう訳!?」
「そんな事はどうでもいいわ」
ティアがじっとルーシィを見つめる。
ルーシィもティアを見つめ、ティアはゆっくりと口を開いた。
「普通に考えなさい。これが仕事だとして『見つからなかったから出来なかった』なんて理由は通らないの。私達は『追う仕事』を任されたのよ。仕事放棄なんてしていい訳が無い。今私達がすべき事はエルザの所に戻る事じゃなく、アイツを追う事でしょ?仕事以外でも頼まれた事をきちんと熟せないようじゃ、妖精の尻尾の魔導士とは言えないわね」
そう言うとティアは1人で先に行ってしまった。
「ティアにあんな事言われちゃったけど、どうする?」
「・・・わ、解ったわよっ!探しますっ!見つけるまで探しますっ!」
「ルーシィってコロコロ態度変わるよね」
「もおぉぉっ!うるさいなぁっ!てか何でアタシになついてんの!?このネコォ!」
「エリゴォォォォル!」
一方その頃、ナツは炎を纏った足で壁を破壊していた。
「どこに隠れてんだァァっ!コラァァァーっ!」
そう叫んで左右を見回し、エリゴールがいない事を確認する。
そして。
「次ィィっ!」
すぐ隣の壁も壊した。
ちなみに扉はすぐ真横にある。
「おい待てナツ」
「あ?何だよ、アルカ」
「いいか?人間はな、常に進歩してるんだ」
「は?」
「でもって人間は『扉』っつーハイテクなモンを創ったんだ。これはな、こうドアノブを捻るなり押すなりすれば部屋に入れる超画期的なモンでな。いちいち壁を壊さなくても部屋に入れるんだよ」
「んな事知ってるぞ」
「じゃあなんでいちいち壁壊すんだよ、お前は」
「だってその方が早いじゃんか」
あっけらかんと答えるナツに呆れるアルカ。
「気が治まらないんでねっ!」
「ぐほぉっ!」
「ナツ!」
突然の言葉と共に、カゲヤマがナツの後頭部を蹴った。
ナツはそのまま四角い木の箱の山の中に顔から突っ込む。
「ヒャハ・・・あれ、緑頭はいないのか」
「おおお・・・またお前かーっ!」
「ナツ、顔」
くわっと振り返ったナツの顔には、どこかのアミューズメントパークの看板。
しかも真ん中に書かれている人の顔の部分にナツの顔があり、なんだかミスマッチだ。
「君の魔法は大体分かった。身体に炎を付加する事で破壊力を上げる珍しい魔法だね」
「ぬぉぉぉっ!めっちゃくちゃ殴りてぇけどそれどころじゃねぇっ!殴りてぇけどおめぇに用はねぇ!エリゴールはどこだっ!」
「さぁてどこかな。僕に勝てたら教えてやってもいいけどね」
カゲヤマの足元の影が伸び、巨大な手になってナツを襲う。
だがナツはそれをひらりと避けた。
「お!殴った後に教えてくれんのか?一石二鳥じゃねーか、燃えてきたぞ!アルカ!手ぇ出すなよ!」
「へいへい。手を出そうなんぞ思ってねぇさ。こいつァお前の獲物だろ」
「そーゆー事だっ!」
そんな会話をしながらもナツは影をかわしていく。
「チッ、すばしっこい」
カゲヤマは軽く舌打ちをし、両手を地に付けた。
「しかし八つ影はかわせまいっ!逃げてもどこまでも追いかけてゆくぞ!」
大蛇の形をした8つの影がナツに向かってくる。
それを見たナツは拳に炎を纏う・・・が。
「大火大蛇!」
炎の大蛇が影を全て燃やし尽くした。
ナツは不満げに魔法を発動したアルカを見る。
「おい、手ぇ出すなっつっただろ!?」
「だから『本体』には何もしてねぇよ。俺が倒したのは『魔法』。獲物は残ってるだろ」
ナツは少しの間呻き、頷いた。
そしてニッと笑い、右手に炎を纏い、カゲヤマに向かっていく。
「だりゃあっ!」
「がっ!」
倒れたカゲヤマの首根っこをすかさずナツは掴み、雄叫びと共に壁にぶち当てる。
そしてそこに咆哮を放った。
その衝撃音は駅全体に響く。
「かっかっかっ!俺の勝ちだな!約束通りエリゴールの場所言えよ」
「くくく・・・バカめ・・・エリゴールさんはもうこの駅にはいない・・・」
「は?」
「意味解らねぇな」
首を傾げるナツとアルカ。
「ナツー!アルカー!それ以上はいい!彼が必要なんだ!」
「うお!?何だ何だ!?」
「俺ァ何もしてねーぞ?」
「でかしたクソ炎!」
「お手柄だよ、さっすがナツ!」
「何だよ3人して・・・これくれー何ともねぇよ」
状況が理解できないナツ。
アルカも同様に首を傾げるばかり。
「説明してる暇はねぇが、そいつを探してたんだ」
「私に任せろ」
そう言うが早いが、エルザは左手に剣を持ち右手でカゲヤマの胸倉を持って無理矢理立たせ、その顔に剣を近づけた。
「四の五の言わず魔風壁を解いてもらおう。一回NOという度に切創が1つ増えるぞ」
「う・・・」
ナツにコテンパンにやられ、目の前には怒りを露わにしたエルザ。
そんな状況で抵抗出来る訳が無い。
「おい・・・そいつァ、ナツにボコボコのボロボロにされてんだぞ」
「いくら何でもそりゃヒデェぞ・・・やっぱりエルザは危ねェ!」
「黙ってろ!」
「今はそんな事どうでもいいんだ!」
事情が呑み込めない2人をグレイとルーが一蹴する。
「いいな?」
「わ・・・わか・・・ばっ!ぶ・・・」
「解った」と言い終える前に、カゲヤマの口から言葉ではなく血が飛び出る。
倒れ込むカゲヤマの背中には、短剣が刺さっていた。
その背後の壁にはカラッカ。
彼はビアードから「簡単な仕事」を頼まれたのだ。
「カゲヤマを殺す」という・・・。
「カゲ!」
「そんなぁっ!こんな事って・・・!」
「お、おいっ!お前、大丈夫かっ!?」
「くそっ!唯一の突破口が!」
慌ててエルザが倒れ込むカゲヤマを支え、そこにグレイとルー、事情は知らないが危険だと察知したアルカが駆け寄る。
その中でナツは1人、呆然と立ち、その様子を見ていた。
「ちくしょオォ!」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ララバイ編って本当長いんですね・・・百鬼憑乱で短くし過ぎたからそう思うんでしょうか。
感想・批評、お待ちしてます。
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