とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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時宮遭遇
Trick49_だから俺は悪くない
近付くにつれて、信乃の違和感が確信へと変わった。
同じ感じの魂が複数あったのだ。
そこまで来れば充分に疑う要素となる。
当たりだ。それは信乃にとって嬉しい出来事だった。
先程以上に気合を入れて走り出した信乃だが、新しく感じ取った魂が動揺を走らせた。
「な・・・・なんでここに・・・」
その優しく、そして世界で一番愛おしい存在と同じ魂。
「あの馬鹿。なんで寄り道して帰ってんだよ!
頼むから無事でいてくれよ、美雪!」
西折美雪。
信乃が帰れば明るい笑顔で迎えてくれる大事な家族だ。
気合を入れた走りから、決死の走りに変えて強く、強く地面を蹴った。
路地の曲がり角は狭くて直角になっている。
100km/hを超える速度では普通では曲がれない。
だが、それを可能とするのが信乃とA・Tだ。
地面を蹴り、曲がる方と逆方向の壁に足を付ける。
瞬間、壁を蹴って曲がり角へと入る。
直角の曲がり角を入射角度45度で鋭く、かつ無駄なく曲がり切る。
怪我をしているとは思えない華麗な動き。
しかし信乃の表情は無表情でも普段はない冷や汗と顔色の悪さが万全ではない事を隠し切れていなかった。
「早く、もっと速く! 疾く!!」
それでも足りない。速さが足りない。
限界を超えて走り続けた信乃は、美雪を感知してから数分とかからずに近くへと来た。
それと同時に4人の男たちが狭い路地で待ち伏せをしていた。
「おまえらか、妙な魂の奴らは」
普通に見た限りでは妙なところはないただのスキルアウトの4人。
服装が一般生徒と比べてラフだが、それでも一般的なスキルアウトと考えれば普通だ。
それでも異様しか思えない部分がある。
4人に共通して目が虚ろなのだ。
1ヵ月前、ビックスパイダー事件での蛇谷たちと同じように虚ろな目をしていた。
「覚えておくよ。この魂の感じは人形の共通事項だって」
明らかに棒読みで、本当に覚えるつもりがあるか疑問に感じる物言いだが、今考えるべきは目の前にいる“敵”。
「生憎、てめぇらと勝負をするつもりはない。
というより操られているお前らと戦わされている時点で俺の負けだ
でも、勘違いするなよ?
操られているだけなのにかわいそう。
とか
ちなみに俺は全然思わない。
操られている奴が悪い。
だから
俺は
悪くない」
炎の道(フレイム・ロード)
Trick - AFTER BURNER -
+ - Quick-Action Aeon Clock Perfect Combustion -
瞬時に容赦なく掌底と拳を叩き込み、地上の3人の動きを封じた。
残りは1人。だが地上にはいなかった。
ローラーを回転させ、壁登りで信乃の上を取っていた。
紛れもない A・Tの動きを使って
小烏丸以外にA・Tを使っている人間がいる。
それは驚くべき事態だが、予想できない事態ではなかった。
「その程度か」
冷たい一言が男へ向ける最後の言葉。
炎の道(フレイム・ロード)
Trick - Spining Wallride Fire Point Junp -
+
轢藍の道(オーヴァ・ロード)
Trick - Iron Hammer -
炎の移動と轟の攻撃。
一瞬で通り過ぎ、頭上からの蹴り落としで沈める。
ハラザキ側で開発されたA・Tと初めての対戦は瞬殺で終わった。
その事実に考え耽ることなく、信乃が考えているのは美雪の事だけ
更に速度を上げて進む。
そして次の角を曲がると1人の男が待っていた。
『やぁ、初めましてと言うべきかな。
弐栞 信乃くん』
「どけ」
炎の道(フレイム・ロード)
Trick - Rondo At The Fire -
話を聞かず躊躇なく攻撃する。
≪時の番人≫と呼ばれた男が使っていた48ある必殺技の一つ。
高速移動で多角度から同時と変わらないタイミングで攻撃を行う技。
刹那の時間で男は空中を舞い、両腕両足の関節が変な方向へとながらグシャリと地面に落ちた。
「美雪! おい! 大丈夫か!?」
「ッ! ------!!!」
信乃が目の前に立つが、どこを向いて良いのか分からない様子で顔を左右へと彷徨わせるように動かす。
それだけで勘の良い信乃には何があったのか解った。
「・・まさか・・・」
『ご明察。彼女は今、見る事も話す事ができない。
そんな彼女は放っておいて。改めて初めましてだね。
弐栞信乃くん』
声は立ち上がる男から聞こえた。
だが顎の関節も外してあるから話す事も出来ない筈。それ以前に両足の股関節、膝、足首に至るまで徹底的に攻撃したはずだが立ち上がっていた。
「・・・・美雪に何やった?」
『ふふふふ、私に聞くことはそれかね?
≪A・Tどうやって作った?≫
≪何故、自分の君の本名を知っている?≫
≪攻撃したのになぜ立ち上がれる?≫
≪どうしてハラザキと手を組んでいる?≫
とか、他に色々聞くべきことはあるじゃないのかい?』
「答えろ。美雪に何をした!!?」
『落ち着けよ、クールになれよ。
それが人類最速の請負人と呼ばれている人物とは到底思えない程に
冷静さが欠けているぜ。
無関係で傀儡にされた相手に、どれほど手加減をして苦戦するか見たかったのに
容赦なく攻撃するとは予想外だ。
むしろ彼女が襲われた後に到着した事で、八つ当たりに近い攻撃をしているように
見える。この体が時宮ではなくただの傀儡であると気付いてなお攻撃してきたよね。
それほど彼女の事が大事かい?』
関節がまともに機能せず、フラフラになりながらの男は、美雪を襲った時宮ではなかった。
先程、信乃が攻撃した4人のスキルアウトと同じ傀儡。
声は胸ポケットに入っている携帯電話のスピーカーから聞こえた。
「美雪に手を出したのは、てめぇか?
時宮(ときのみや) 時針(じしん)」
『その通り。どうしても君と話がしたくて傀儡をここに1体残していたよ。
あと、実力が見たくてもう一体を用意した』
「ッ!?」
気配は上からだった。
時宮と信乃の間に降り立つ男。
5階以上の高さから降りてきたはずだが、その着地の音はカチャっと軽いものだった。
そう、聞き慣れた音だった。
男の足にはローラーブレードが
否、A・Tが装着されていた。
「懲りもせず傀儡にA・Tをつけさせたのか?
そいつと同じ奴ならさっき倒した。結果は同じだ」
体勢を低く、速効で動く。
炎の道(フレイム・ロード)
Trick - AFTER BURNER -
A・T最速級の技で動く。そして繋げる技も同じく最速。
「その命の時を止める」
炎の道(フレイム・ロード)
Trick - Quick-Acting Aeon Clock -
1秒の間に出されるのは数十発の掌底。
“時”が発動され一方的に男は倒されるはずだった。
「え?」
手ごたえはあった。だが人間の体を攻撃した感触と同じではない。
目の前の男を見れば、片手を突き出すポーズをとっていた。
(なっ!?
奴の前に・・・・・俺の“時”を阻む空気の壁が!?)
Trick - The Wind Wall of Refusal -
自分が使った事のある翼の道(ウィング・ロード)の防御ではない。
翼の道では出せない、格段と固く、一発の攻撃すらも通さない空気の壁。
「嘘だろ・・・なんで・・・」
その漏れた言葉は、攻撃が通じなかった事の驚きではなく
防御に使った技に対してだ。
間違いない。目の前にいるのは、A・Tを装着しただけの傀儡ではない。
A・T使い(ライダー)
信乃と同じ土俵の存在。
少し考えれば分かる事だったはずだ。
ここに到着する直前、敵の人数を魂感知で確認した。
その人数には、この男は含まれていなかった。
つまり魂感知の範囲外から、ここまで数秒間できたという事だ。
このレベルの移動が出来るのは能力者や魔術師を除けば・・・本物しかいない。
そして次に出された技、技も“本物”の“A・T使い(ライダー)”にしか出せないものだった。
Trick - Implosion Gun -
風の面を操るのではなく、風の面を破壊することで
驚異的な威力を出す。それは風を操作しているが翼の道ではない。
先程の空気の壁と同じく、固くて力技がメインの道。
そして“王の8本道”(ロード・オブ・エイト)には数えられていない、
しかし重力子(グラビティ・チルドレン)が走っていた道。
風系統攻撃特化型の道。
「風爆の道(ゲイル・ロード)だと!!?」
防御と攻撃、立て続けに繰り出された風爆の道を防げたのは、信乃の染み込んだ戦闘経験の賜物だった。
反射的に両腕を前に突き出す。繰り出されるのは奴と同じく空気の壁。
翼の道(ウィング・ロード)
Trick - Feather Dome -
しかし、辛うじて出したのは同じ風系統でも翼の道。
攻撃特化型の攻撃と、汎用型の防御。
信乃に勝てる道理はない。
「ぐぁ!!」
せめてもの足掻きに、自分の壁を敵の攻撃の下へ潜らせて方向を上へずらす。
それで後ろにいる美雪と白井への影響は最小限に抑えられた。
だが防御の起点となった信乃は、後ろの壁まで一気に吹き飛ばされてしまった。
「がっぁ! ゲホっ」
食道、または気管から溢れた鉄の味が口に広がる。
「くそったれ・・・」
『ほう、なかなかやるものだな。罪口の道具は』
スピーカーからは感心したような時宮の声が聞こえた。
『だが、ここまでのようだ』
「せやな。この体、技2回で潰れてもうた。
ほな、あとはよろしゅうな。 ゲボォ!!」
敵のA・T使いから初めての発言。それと同時に相手のA・Tが粉々に壊れた。
そして攻撃をした相手も全身が痙攣して倒れた。
目、鼻、口、耳からは血が流れ始め、数秒間の痙攣ののちに動かなくなった。
『ふむ、中々良い見せものだった。誉めて使わす』
時宮は倒れた奴がいなかったように、ただ面白いものが見れただけを感想として言った。
『これで今回の目的は全て果たした。今日はここまでのようだ。それではま「させるか」』
最後の言葉を繰り出す前に、信乃はもう一度足掻いた。
倒れた体を起こし、高速移動で時宮の傀儡に辿りつく。
そして瞬時に男の胸ポケットから携帯電話を盗み取り、電源を切りバッテリーを抜き取った。
これで例え携帯電話に自動全部消去ウイルスが入っていたとしてもある程度防げるはずだ。
“戦闘”では敗北したが、奴らへの手掛かりを辛うじて奪い取った。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
あとは、襲われた2人。美雪と白井を運ぶ事だけだ。
うつ伏せで意識を失っている白井を小脇に抱え、次は美雪を運ぶために上を彼女の背中へと回す。
ビクン!
腕を回した瞬間に全身から拒絶と恐怖が伝わってきた。
別に信乃に対して拒絶をしたわけではない。
だが、自分に触れるもの全てが敵意があると思えるほど美雪は怯えきっていた。
「大丈夫だ。絶対に俺が助ける」
ゆっくりと抱き寄せ、美雪の頭を自分の胸へと優しく押し当てる。
それに応えるかのように、美雪は震える手でゆっくりと信乃の背中に手を回した。
恐怖は簡単に抜けるはずもなく、爪を立てる様に強く振るえながらであった。
「しっかり掴まってろ。すぐに病院に行く」
返事はなかったが、美雪が抱きつく力が強くなった。
右腕で抱えるように白井、左腕で抱きしめるように美雪を運ぶ。
信乃は2人の体に負担を掛けないように全身をバネにして壁を昇り、
屋上を渡って最短ルートでカエル顔のいる病院へと向かった。
つづく
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
皆様の感想をお待ちしています!
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