人鬼―ヒトオニ―
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人鬼―ヒトオニ―
前書き
崩れ始める
*崩れ始める*
↑↓←→
次の日、純平は1時間目授業から、大きなあくびをしていた。
キーンコーンカーンコーンー…
聞き慣れたチャイムの音と共に、皆一斉に立ち上がり、友人の居る教室やトイレに用をたしに走った。
純平も、いつもなら皆と同じように友人のもとへ行きたいが、今はそんな事を出来る状態では無い。
「よー、ジュンペー。どーしたんだよ?」
陽気にヘラヘラ笑いながら、友人の斉藤 晴樹(さいとう はるき)が純平のもとまでやってきた。
晴樹は、明るくてとても良い奴なのだが、疲れている時に相手をするのは大変な奴だ。
「さっきの授業、やけに眠そうだったじゃん。ジュンペーにしちゃあ珍しいんじゃねぇの?」
「あー…うん。」
純平は、素っ気なく言葉を返した。
にも関わらず晴樹はどんどん話しかけてくる。
「熱でもあるんじゃねぇのか?保健室でも行ってくるか?なんなら俺、保健室まで送って行くぜ?
それとも、何か悩み事でもあんのか?あるなら俺に相談しろよ?俺だって、何か力になれるかもしれないからな。
おっと!もうすぐ授業が始まっちまう!ジュンペー!また後でな!」
晴樹はそそくさと、自分の席へ戻っていった。
…何だか一気に疲れた。
心配してくれるのは嬉しいが、流石にあのマシンガントークは疲れる。
純平は再び、目を閉じた。
気が付くと、6時間目も終わり、終礼が始まっていた。
今日は1日、ぼーっとしていて、授業が頭に入ってこなかった。
「…だめだ、もうすぐ期末考査なのに…。」
純平は、虚ろな目でバイトに向かった。
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バイトが終わり、純平がコンビニの外に出ると いつも暗くなっている。
そして その帰り道、近くの小さな弁当屋に寄って大好きなエビフライ弁当を買うのが 楽しみでたまらなかった。
エビフライについてくるタルタルソースが、なんだか懐かしい味がして好んで食べていた。
もちろん今日も買って帰っていた。
…おかしい。
弁当を買う所まではいつも通りだ。
だが何か様子が違う。
なぜだ。
おかしい。
なんなんだ。
同じ言葉が 重なるように何度も頭の中をよぎり、最終的に全ての言葉が固まり 結論へと変わった。
「気持ち悪い。」
その瞬間、純平の目の前は真っ暗になった。
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*蓄積*
―…シャー…―
そんな音が耳に入り、純平はベッドの上で目を覚ました。
辺りを見回すと、とても見覚えのある 小さな机、古ぼけた壁と天井、ゴワゴワゴワとしたカーペットの敷かれた床が目に入った。
「…どうやって帰って来たんだ…?」
何があったかさっぱり解らず、状況を整理しようと手で目を覆った。
―…シャー…―
…気が動転していて忘れていた。
あの『シャー』という音の事を。
どうやら、その音は風呂場から聞こえるらしい。
純平はあわてて 風呂場へ向かった。
風呂場の戸を開けると、浴槽に永遠とシャワーから水が注がれている光景が目にうつった。
「あーもう、なんだよこれ。出しっぱなしだ…。水道代がもったいないじゃないか…。」
そう呟きながら、シャワーの蛇口をキュッと閉めた。
純平は、ほぅっと安心したように息を吐き、その場を後にしようとした。
…なぜシャワーの蛇口が開いていて、浴槽に水が注がれていたんだ?
そんな疑問が頭の中を駆け巡り、純平は更に混乱した。
…鼓動が早くなる。
目の前がチカチカし始める。
息が荒くなる。
足が震える。
手が震える。
…
純平は恐る恐る、浴槽を覗き込んだ。
浴槽には、半分より少し少ないぐらい水が張られ、その中には自分のジャージが浸かっていた。
純平は、なんだか首元に寒気を感じた。
寒気と言うよりも、恐怖を感じたと言った方が良いかもしれない。
なぜ、誰が、どうしてこんな事をするのかは解らない。
それゆえに、更に恐怖を感じたのだった。
純平は 慌ててジャージを薄いビニールの袋に入れ、自分の目につかない場所に押し込めた。
まだ、息が上がっている。
ふらりとベッドに座り込み、膝を抱えて縮こまった。
「何なんだよこれ…。」
純平のすぐ耳元で、笑い声が響いた。
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