皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第19話 「趣味のお時間」
前書き
皇太子殿下が動くと、それだけで大勢の人間を巻き込んでしまいます。
第19話 「あわわ、何という事を」
宇宙、それは広大な……。
ちょっち、やばいセリフを吐きつつも、俺はいま宇宙に飛び出している。
オーディンを出発したのだが、付き従っているのは半個艦隊。五千隻である。
「大げさすぎやしないかい?」
思わず、司令官のレンネンカンプに言ってしまった。
「そんな事はございません。これでも少ないぐらいです」
ヘルムート・レンネンカンプ。
この半個艦隊を指揮している。ヒゲのおじさんだ。
イメージとは違い、まあまとも。
少なくとも嫌がらせを喜ぶような印象はない。というか、良くも悪くも真面目すぎるんだな。
そしてそのひげのおじさんは、少し苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
原因はあれだ。
クラリッサ・フォン・ベルヴァルト少尉とその部下十数名。
全て女性兵である。十人以上、二十人近くいるだろう。一小隊全員乗り込んで来ていた。
同盟と違って基本的に、艦隊に女性兵は乗ってないからな~。
司令部だけでなく、各部署の男どもが、どこかしら浮ついているように見えるのが、気に入らないのだろう。気持ちは分かる。しかし如何ともしがたい。
そして、なんとぉ~イゼルローンの悪夢こと。アルトゥル・フォン・キルシュバオム少佐と、鋼鉄の猟犬こと。ミヒャエル・ヴルツェル大尉が同乗している。
いやんいやん。サインでも貰おうかしら?
この二人が俺のMS模擬戦の相手を務めることになっている。
……いやがらせか?
あのくそじじいども。
俺がMSに乗って、この二人相手に勝てるわきゃ~ねえだろがよ。相手はMS乗りのなかでもトップエースと呼ばれるやつらだぞ。操縦技術で勝てる気がしねえ。
嫌がらせにも程がある。
少しは花を持たせてやろうとか、そんな優しい気持ちはないのか?
これだから重力に魂を引かれているじじいは、困るんだ。
やはり、あれの封印を解くときが来てしまったのか……。
あれだけは手を出しちゃいけないと、MS開発局の連中にも口を酸っぱくして、言い聞かせたというのに、連中は作ってしまったのだ。
悪の囁きに耐え切れなかったのか?
俺も耐えられそうにない。
「いや、まだだ。まだやれる」
やる前から気持ちで負けてどうする。
俺のクシ○トリアがザ○に負けるものかっ
■オーディン上空 クラリッサ・フォン・ベルヴァルト■
宇宙空間を三機のMSが飛び交っています。
宰相閣下のクシ○トリアが四枚の羽を広げ、螺旋を描くように、キルシュバオム少佐のザ○に向かっています。
速い。めちゃくちゃ速いです。
ワルキューレ以上?
さすが宰相閣下の専用機。
並みじゃありません。ですがキルシュバオム少佐は最小の動きで避けた。すっごいです。
よくもまあ、あんな動きができるものだと思う。
生身の格闘戦の動きをMSで再現するなんて、MSも馬鹿に出来たものじゃありませんね。避けられた宰相閣下がほぼ直角の動きを見せ、キルシュバオム少佐に襲い掛かる。
それを避けるキルシュバオム少佐。
「きゃっ」
モニターが一つ破壊されました。
宰相閣下がモニター用の衛星を踏み台にして、攻撃したようです。
「喰らえ」
練習用のビーム砲が、キルシュバオム少佐に向けられる。
しかしそれすら、かわされてしまう。
宰相閣下は確かに速い。動きも機敏です。感覚も良く。操縦技術も確かでした。
でも、それだけです。
並み以上ではありますが、一流どころには及びません。
自分も格闘を学んできたので判ります。
素質はあっても、経験が無い。練習量も足りない。才能の持ち腐れというところでしょうか?
三人の動きを見ていると、宰相閣下がMSに乗って、戦場に出たがった理由が理解できます。
悔しかったのでしょうね。
皇太子殿下ではなくて、ただのMS乗りのパイロットだったら、かなり活躍できたでしょうに。
才能はある。
でもそれを発揮する場所がない。
立つ事すらできない。
他の人たちが活躍しているところを、指を咥えて見ていることしかできない。
ものすごく悔しかったでしょう。
なまじ才能がある分、悔しさもひとしおのはず。
「だが、宰相閣下を戦場に立たせるなど、できるはずもない」
レンネンカンプ准将が、しみじみと仰りました。
そうです。宰相閣下は帝都にあって、帝国の改革をなさってもらうべきお方です。
戦場になど、立ってもらっては困る。
「お諦めいただくしかない」
何をとは、レンネンカンプ准将も仰りませんでしたが、仰りたい事は理解できます。
二百五十億の帝国臣民が望むのは改革。
決して戦場に立って華々しく活躍する事ではない。
「宰相閣下も分かっておられるでしょう」
「うむ。駄々を捏ねられても、本気で仰っておられない」
「でも時には言いたくなるのでしょうね」
「愚痴を零したいときは、誰にでもあるものだ」
■オーディン上空 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■
うおう。勝てねえ。
こいつら凄すぎる。ニュータイプかよ。
感覚が鋭い。
後ろに目があるって感じ?
油断も隙もねえな。
やはり、封印の一つを解くしかない。
やりたくはなかったが……。
仕方あるまい。仕方ない。仕方ないのだ。
「いけ。ファンネル」
この世界、ニュータイプなんぞいないからな。
サイコフレームもねえし、こんなもの必要ないんだが、男の浪漫。
その一言であの連中、終わらせやがった。
アルテミスの首飾り。あれの応用。
自動追尾装置付き。浮遊砲台。
パチ物のファンネル。
四枚の羽から二十基のファンネルが飛び出していく。
避けられるものなら、避けてみろ。けっけっけ。
そしてあっさりと二機とも撃墜された。
ある意味、二十対一だからなぁ~。当然といえば、当然だ。
しかし空しい。
空しすぎるぜ。
こんなんで勝っても嬉しくねえ~。
うわ~むちゃ悔しいぞ。
やはり、封印など解くべきではなかった。
旗艦に戻ったが、俺は軽く落ち込んでいた。
やるんじゃなかったという思いがある。
やめときゃ良かった。
あいつらにも悪いことしたな……。
お詫びに、もう一つの封印を開けてやろう。
聞いて驚け、見て驚け。
「おい。例の封印を解くときが来たのだ」
「か、閣下。まさか、あの、封印を解くと仰るのですか?」
開発局の連中が蒼白となった。
普段、浪漫とかほざいているわりに、軟弱な奴らよ。
「いいから解け」
キルシュバオム少佐とヴルツェル大尉が、興味津々といった感じで見ている。
他の連中もだ。
旗艦のハンガーに置かれていた機体。そのベールがとかれる。
中から現れたのは、白い機体だ。
「宰相閣下。これはいったい?」
二人の驚いた顔。さすがに驚いているようだ。
ザ○とは明らかに違うタイプだからな。これに比べれば、クシ○トリアはまだ、ザ○の系統だ。
姿を現したのは、そうガ○ダム一号機と二号機である。しかもフルバーニアン。高機動タイプと重武装タイプ。
ジ○ン縛りで開発してきたというのに、これに手を出しやがったのだ。
出しちゃいけないと言ってきたのに……。SEEDやDESTINYじゃないだけマシとしようか? サイコフレームもなしにユ二○ーンを作るのは無意味だからな。
「ところでなぜ、これに手を出した?」
「浪漫です」
「ええい、その一言ですべてが許される時代は、もはや終わったのだ」
「ではもう一言。趣味です」
「てめえら~」
「MS開発局は、圧力に屈せず叫ぶのだ。浪漫は全てを超える、と。セクサロイド作らないだけ、マシと思ってくださいな」
「誰がそんなもん、造れといったぁ~」
オーバーヘッドキック。
俺が手技だけと思うなよ。蹴りも使えるのだ。
ほれ見ろ。女性兵士が引いてるじゃねえか。
ところでおい。どうして旗艦に乗員してる兵士達、お前達の目が、意味深に光るのだ?
おいったら、おい。なぜ目を逸らす?
「こっち、見ろよ」
「いえ何も……」
「何も考えておりません」
まあいい。追求してやらないだけの、優しさはあるつもりだ。
そっとしておいてやろう。武士の情けだ。
「まあいい。キルシュバオム少佐、ヴルツェル大尉。卿らはこの機体に乗って動かしてくれ。テストしたい。好きな方を選んで良いぞ」
本当はマラサイとか、あの辺りを出したかったんだが……こいつらがっ!!
一号機に乗ったヴルツェル大尉。
ところでキルシュバオム少佐、なぜお前が二号機なのだ。
理解に苦しむのだが?
二号機は重武装タイプだぞ?
そんな装備で、大丈夫か?
「問題ありません」
宇宙空間に飛び交う白い機体。
けっ、どうせこいつらなら乗りこなすと思っていたんだ。
どうせ、どうせ。へっ。
「宰相閣下、拗ねちゃだめです」
クラリッサ・フォン・ベルヴァルト少尉に窘められた。
うわっ、めっちゃ悔しい。
後書き
たまには趣味でストレス発散。
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