BALDR SKY
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03修行
一週間後、母さんが帰ってきた。その姿は俺を産んだ時と同じままだ。おそらく、ノイ先生と同じ遺伝子操作により先天的に常人よりも高い身体能力や知能を持たせようとして生み出された改良人……種被造子とも呼ばれるデザイナーズ・チャイルドなのだろう。
「シャル、元気にしてたか?」
「うん。元気だよ」
俺は近づいて来た母さんに抱き上げられる。母さんは無表情だが、嬉しそうにしている。その証拠にベットに座り、俺を膝の上に乗せたまま頭を撫でてくるのだ。
「そうか。これがお土産だ」
膨大なデータが転送されてくる。視界に映ったローディングの長さでそれはわかる。
「おい、何をお土産にしたんだ?」
「エルピス・インダストリーの研究資料とドレクスラー機関が行っている自己増殖能力と組織改編能力を兼ね備えた新世代ナノマシンの情報だ」
「馬鹿かお前は! 5歳の子供に持ってくるお土産じゃないだろう!」
「だが、ノイ……喜んでいるぞ?」
俺は即座に解凍されたデータを読んでいく。特にドレスラー機関の新世代ナノマシンは嬉しい。灰色のクリスマスを防ぐ手段を構築できるからだ。例え、この情報が数十年前の未完成品だったとしても、基礎となるこのデータさえあれば樹形図の設計者ならば完成に近づけられる。エルピスの情報もシュミクラムを強化する上では必要だ。
「こいつらは……」
「そもそも、私とノイで育てているのだ。まともになると思っているのか?」
「……なるわけないな。まあ、いいか。それで、学校に行かせるのか? 私としてはいかせたいと思うのだが……」
「ふむ。どうせならいい環境がいいな。ミッドスパイアにでも住むか」
「任せろ。手段はある。依頼された仕事を利用すれば容易い」
「なら、そっちは任せるぞ。私は仕事をしてくる」
ノイ先生が部屋から出て行ったので、俺と母さんだけになった。
「ああ、シャル。シナンジュの実戦データを送ったのだが、反応速度が遅い。機体の速度は申し分ないのだが……」
母さんの言った事にシナンジュの実戦データを開いてみる。機体の各所が摩耗している。母さんの反応速度に機体が耐えられていない。数値から考えると、約3倍ほどあげればシナンジュのスペックをフルに使える状態のようだ。どこの赤い彗星だと言いたい。
「しかし、使用料が高いな」
「それだけ高スペックだしね」
各パーツ事にライセンスが存在するし、1体事にネットの使用料がかかる。なので、できる限り効率化を目指して無駄なデータを入れない。プラグインの挿入を増やして、高性能かつ低コストというのを実現させる。
「そうだ。シナンジュという名前を変えていいか?」
「別にいいけど?」
「紅の暴君が私の使っているシュミクラムだ。これのデータとシナンジュのデータで改造してくれ。悪いが、こっちに思い入れがある」
「わかった」
紅の暴君3に出てきた魔剣の名前か。シャルトスだって、魔剣の名前だよね。まあ、いいや。シナンジュと紅の暴君を合わせて魔改造する。シナンジュは無人機か、母さんのPMCの人達にあげよう。いや、俺自身が使ってもいいけどね。
「できたよ」
「ありがとう。それじゃあ、早速テストするか……」
「なら、ドローンを出すね」
「頼む」
それから、母さんがログインして新しくなった紅の暴君に変わった。この紅の暴君には自己進化ロジックを組み込み、一定のダメージを与えられるとデストロイモードへと移行し、受けたダメージを瞬時に再生し、スペックを跳ね上げる仕様にしてある。ようは抜剣覚醒をイメージしてみた。それと強制離脱システムも搭載し、撃破されそうになると強制的に離脱される仕様だ。身体への負担はあるが死ぬ事はないだろう。それすらも、俺が第二世代型ナノマシンを開発すれば問題すら無くせる。
『準備が出来た。初めてくれ』
「了解。先ずは軽く3機ね」
母さんが立っているアリーナのようになっている場所にドローンであるユニコーン、バンシィ・ノルン、シナンジュを生成して戦いを始める準備をさせる。
「交戦開始」
命令を送ると、3体は連携を取りながら、ユニコーンとバンシィ・ノルンがビーム・マグナムを放つ。母さんはビーム・マグナムの軌道を予測して、瞬時に回避行動を行いながら突撃し、ビームサーベルを持って突撃してきたシナンジュを最小限の動きで回避しながら、刀の形になっているビームサーベルを横から通り抜けざまに胴体に1擊を入れてその場で回転して、もう片方に握られたビームサーベルで首を叩き切った。そこに直ぐにビーム・マグナムが放たれるが、瞬時にいなくなっていて、残り2体のユニコーンとバンシィ・ノルン近くに接近して、首をビームサーベルで跳ね飛ばしていた。
『ドローンでは所詮この程度か。シャル。格100体ずつ出せ。訓練にならない』
「わ、わかった」
言われた通りに合計300体のドローンを放つ。すると、母さんはその中を縦横無尽に暴れまわり、虐殺を行っていく。近場の敵を掴んで盾として使い、使い終わると相手に蹴り飛ばして、ビーム・キャノンで敵を纏めて殺す。装甲にカスリ傷を無数に負うが、それは倒した時に生まれるエネルギーを吸収する事で自己修復機能を働かせ、瞬時に再生される。
『この紅の暴君は素晴らしい性能だ。どんどん追加してくれ。それとシャル自身が指揮を取れ』
「わかった」
取りあえず、数を調整して指揮しながら母さんと戦うのだが……止まらないし、落とせない。樹形図の設計者を使って予測しても、多少ダメージを与えたら直ぐに適応してくる。
「にゃろっ!!」
こっちも本気になって指揮して、どんどん兵力をつぎ込んで包囲作戦を結構する。ドローン100機で突撃させ、母さんを押さえ込む。そこに包囲した500機でビーム・マグナムを乱射するのだ。デストロイモードでなんとか、倒せたと思ったのだが、中心から真紅の光が立ち上って、忘れていた機能を思い出した。
『第二形態とは面白い』
ボロボロになっていただろう装甲は瞬時に再生されて、元の綺麗な装甲となり、真紅の光を放出している。その後は地獄だった。捉えきれない速度で動かれ、ドローンを殲滅されるのだ。三國無双を見ている気分になった。いや、ガンダム無双か。盾すら鈍器とし、ビーム・キャノンを撃つ。これが腕利き(ホットドガー)……いや、この実力は既にワンマンアーミーと呼ばれる賞金首(マッドドガー)だろ。
「ん? どうした?」
「ノイ先生、これ……」
「ああ、ヘイゼルか。紅の暴君と呼ばれるだけあるだろ。ヘイゼルは強いぞ。単体で賞金首(マッドドガー)をギリギリだが倒す事が出来るからな。シャルのブレインチップもアークが輸送中に奪ってきた奴だしな。それにしても、シュミクラムの性能が変わるとここまで変わるものなのだな」
対軍を相手にしてもまるで止まらない。デストロイモードになるとかすりすらしない。ログを確認するとどんどん進化しては最適化され、進化していく。
「4000機が撃破された……こっちもアップデートを繰り返しているのに……」
「化け物だな。おい、ヘイゼル。そこまでにしろ。そろそろ晩御飯の時間だ」
気がつけばかなりの時間が経っていた。仕方無いので、プログラムを終了してご飯の準備にかかる。すると、背後から母さんの悲鳴が聞こえてきた。
「っぅっ、な、なんだこれは……」
「当たり前だ、馬鹿者め。急激な再生とあの速度だ。お前の身体でも負担は相当な物だ。ほら、治療用ナノマシンを打ってやるから来い」
「わかった」
それから少ししてご飯を食べた。
「母さん、シュミクラムの戦い方を教えて」
「樹形図の設計者に私の先程のデータを入れて解析すれば早いと思うが……まあ、いいか。教えよう」
「ほどほどにしろよ」
ノイ先生の言葉に従って、母さんにとっての程々だがスパルタ授業を行って貰った。御蔭でシュミクラムの腕はかなり上がった。むしろ、対戦相手が母さんの無双モードドローンなので嫌でも実力が上がっていく。8ヶ月もの訓練で俺は無双モードの母さんに樹形図の設計者有りでかつ、デストロイモードでなら対抗できるようにはなった。だが、相手もデストロイモードに入られると無理だ。自力が違いすぎるのだ。
「母さん、外に出てもいい? 小遣い稼ぎがしたい」
「……まあ、その実力ならいいか。丁度良い。明日は傭兵登録をしに行くぞ。その後、私と一緒に仕事だ」
「やった! ありがとう!」
これでSASに向かう準備も出来る。できる限り早く電脳症は治すに限る。同一体(スワンプマン)のデータが欲しい。既に電脳症を患っている部分の特定は完了している。後はそこを同一体(スワンプマン)に押し付けるだけだ。
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