ソードアート・オンライン ~生きる少年~
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第一章 護れなかった少年
第十一話 夢と予感 (後)
前書き
あと、少しで、やっと、ボス戦だぜキャッほぉぉぉぉぉぉぉう!!
「わいは《キバオウ》ってもんや」
そしてキバオウさんが小さいながらに鋭く光る両目で広場の全プレイヤーを睥睨した。
そして、さらにドスの利いた声でしゃべり始める。
「こん中に、五人か十人、ワビィ入れなあかん奴らがおるはずや」
「詫び? 誰にだい?」
背後で噴水の縁に立ったままのディアベルさんが様になった仕草で両手を持ち上げる。
が、それを見ること無く、キバオウさんが続ける。
「ハッ! 決まっとるやろ。今までに死んでいった二千人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」
途端、低くざわめいていた約四十人の聴衆がピタリと押し黙った。
......どうやらみんな、キバオウさんが言っていることがようやく理解できたらしい。僕もやっとだけど。
「......キバオウさん。君の言う奴らとはつまり......元βテスター達のこと、かな?」
腕組みをしたディアベルさんが、今までで最も厳しい表情で確認した。
「決まっとるやろ」
そして背後にいるディアベルさんを一瞥し、続ける。
「β上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にダッシュで始まりの街から消えよった。右も左もわからん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。奴らはうまい狩り場や、ボロいクエストを独り占めして、自分らだけポンポン強うなって、その後もズーッと知らんぷりや。......こんなかにもおるはずやで。自分がβテスターっちゅうことをかくして、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えとる小狡い奴らが! そいつらに土下座させて、ため込んだ金やらアイテムをこん作戦のタメに吐きだしてもらわな、パーティーメンバーとして命を預けられんし、預かれんと、わいは言うとるんや!」
......つまり、魔女狩りならぬ、βテスター狩りってことか......。
(こっちの世界でも......僕は断罪される側なのかな......)
ふと、そんなことを思ってしまう。
と、そこで......
「発言、いいか?」
という声が聞こえてきた。
あれは......エギルさん!!
やっぱり間に合ったのか。
そして、立ち上がり、噴水の側まで進んでいくエギルさん。
そして振り向き、四十数人のプレイヤーに一礼し、キバオウさんに向き直った。
「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元βテスタ-面倒を見なかったから、ビギナーが沢山死んだ。その責任を取って、謝罪・賠償をしろ、ということだな?」
「そ、そうや」
一瞬気圧されたかのように足を引きかけたキバオウさんだが、すぐに前傾姿勢に戻ると、爛々と光る眼で叫んだ。
「あいつらが見捨てんかったら、死なずにすんだ二千人や!しかもただの二千人ちゃうで。ほとんど全部がほかのMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!!アホテスター達がちゃんと情報やらアイテムやら、金やら分け合うとったら、今頃ここには十倍の人数が......ちゃう、今頃は二層やら三層まで突破できとったに違いないんや!!」
と、それに対して、エギルさんは冷静に返した。
「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報ならあったと思うぞ」
そして、腰元につけている大型ポーチから、羊皮紙を閉じた簡易な本アイテムを取り出す。表紙には丸い耳と左右三本ずつのひげを図案化した、《鼠マーク》。
「このガイドブック、あんただってもらっただろう? 何せ、ホルンカやメダイの道具屋で無料配布されてたんだからな」
......マジか......。
ちなみにあれは、アルゴさんの作った、SAOの攻略本のような物だ。
ちなみに僕は、一冊五百コルと言う、安くないお金を支払って全巻コンプリートしている。
が、どうやら無料配布もしていたらしい。
「貰たで。それが何や」
トゲトゲしい声で言うキバオウさん。
対してエギルさんは本をポーチにしまい、腕組みして口を開いた。
「このガイドは、オレが新しい街に着くと、必ず道具屋にあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのか」
「せやから、早かったら何やっちゅうんや!!」
「コイツに載っているモンスターや、マップの情報を提供したのはβテスター達以外あり得ない、ってことだ」
その声でプレイヤー達が一気にざわついた。
キバオウさんはぐっと口を閉じ、背後のディアベルさんがなるほどとばかりに頷く。
「いいか、情報はあったんだ。なのに沢山のプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランプレイヤーだったからだとオレは考えている。このSAOを他のタイトルと同じ物差しで測り、そして引き際を見誤った。だが、今はその責任を追及している場合じゃ無いだろ。オレ達自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されるとオレは思っているんだがな」
エギルさん、流石の堂々っぷりっす。
さらに言っていることもこの上なく真っ当で、だから、キバオウさんも噛みつけなかったのだろう、今はエギルさんを憎々しげに睨んでいる。
無言で対峙する二人の後ろで、噴水の縁に立ったままのディアベルさんが、夕陽を受けて紫色になりかけている長髪を揺らしてもう一度頷いた。
なんか、この光景逆〇裁判に似てるな......。
エギルさんが弁護側、キバオウさんが検事、βテスター達が容疑者、ディアベルさんが裁判長。
そしてその裁判長が口を開いた。
「キバオウさん、君の言うことも理解できるよ。オレだって右も左もわからないフィールドで何度か死にかけながらここまでたどり着いたからさ。でも、そこのエギルさんの言うとおり、今は前を見るべきだろ?元βテスターたちだって、今はボス戦のための大事な戦力だ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したら何の意味も無いじゃないか」
流石ッス。裁判長。あちらでは流されまくりだけど、こっちでは流石ッス。
ってまぁ、そろそろ、このネタも置いといて......。
一気に場の空気が柔らかくなる。
「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、今だけはこの第一層を攻略するために力を合わせてほしい。どうしてもβテスターと一緒に戦えない、って人は残念だけど、抜けてくれてかまわないよ。ボス戦ではチームワークが何より大事だからさ」
ぐるりと一同を見渡したさい......ディアベルさんは、最後にキバオウさんを真顔でじぃっと見詰めた。
キバオウさんはしばし、その視線を受け止めていたが、ふんと盛大に鼻を鳴らし、押し殺すような声で言う。
「......ええわ。この場はあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、きっちり白黒つけさせて貰うで」
そして振り向き、自分がいたところに戻っていくキバオウさん。
そしてもう言うことはないとばかりに腕を広げ、一瞬こっちを見て、自分の列に戻っていくエギルさん。
......気づかれてたか......。
すこし苦笑いする。
そして、この会議は解散となった。
後書き
こんな感じで、第十一話終了ですかね。
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