ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
―Last Battle ―亡国の王女2
「……気づくなよ」
襲撃者は右腕1つで持っていたらしい大太刀を後ろに下がりながら引き寄せると、左手で握っていた大太刀と触れ合わせる。
「『八葉蓮華』」
雷鳴のような轟音を切り裂くかのようにすぐさま飛び出してきたレイをアリスは2本の剣で受け止めた。
しかし剣にはたちまちひびが入り、アリスがそれを放棄すると同時に破砕した。
危険を感じたアリスはレイを吹き飛ばそうと魔法を編み上げるが、レイは人間の身体能力を越えたスピードで肉薄、距離が1メートル程に縮まると、《両刀》唯一無二のソードスキルを発動した。
両刀終極ソードスキル《アブソリュートダンス》13連撃
SAO最高威力のソードスキル。それをさらに加速させながら全撃を防御魔法に叩き込み、僅かにひびを入れる。
長大な硬直を強いられるレイを潰そうと右手の指先に極光が集束し放たれるが、突然現れた腕によってそれは僅かに彼を逸れた。
「……なに!?」
アリスの手首を千切らんばかりに全力で握り締め、方向をずらしたのはゲツガ、そんな彼をここまでバリスタのごとく撃って飛ばしたのはレン。そしてその隙を突くのは、
「剣技……連鎖ッ!!」
薄青色のライトエフェクトがリンの双剣を包み、神速の連撃を放つ。
二刀流最上位ソードスキル《スターバーストストリーム》16連撃
二刀流最上位ソードスキル《ジ・イクリプス》27連撃
二刀流上位ソードスキル《ハイパーソニックフロー》14連撃
二刀流上位ソードスキル《アトモスフェリックス》15連撃
二刀流最上位ソードスキル《プリディクション・オブ・ノストラダムス》25連撃
驚いた事に技がフィニッシュした瞬間に、剣が弾かれたように次のモーションに移行し、技後硬直が起こらない。
彼のその鋭い双眸からは《意思力》が太陽光のように強烈な光となって迸り、防御魔法の装甲を吹き飛ばした。
「……はぁ」
防御が破られたアリスはため息を吐くと、予備動作無しで魔法を構築、直後に付近3人を再び壁に叩きつけた。
「……がっ!!」
「……ぐぅ」
「……っ!!」
今までの戦闘で既にHPは3割を切っている。
しかし、アリスは焦ったような表情からまたあの余裕の表情を取り戻しつつある。
「さあ、どうする?このままでは帰るための門が開くまでに全滅だぞ?」
「……白々しい」
「……全くだ」
ゲツガ、レイがガラガラと壁を軋ませながらゆっくりと立ち上がる。リンも何とか這い出そうとするが、ソードスキルの無理が祟って手に力が入っていない。俺はリンを無言で制すると、分離した両刀を投げ捨てた。
「……ゲツガ、もうアレしかない。やれるか?」
「……ああ。やってやるさ、帰んなきゃいけない、大切な場所があるからな」
「……ん?コレか?」
小指を立ててみる。
「……悪いかよ」
「いや、そんじゃあ、俺も頑張んなきゃな」
レイはにや、と笑うと膝を突いて目を閉じる。
集中……さっきまでの限定的なものではなく、もっと深く、奥底から水を汲み上げるイメージ。
深く
―接続―
より深く
―撹拌―
底に到る
―臨海―
殺戮の……
――『螢!!』――
「……ッ、はいはい、分かってるよ」
「……何がだよ?」
「何でもない。独り言さ」
頭が、体が、精神が軋む。心臓は痛い程に胸を打ち、代わりに感覚が鮮明になっていく。
見える、聞こえる、アリスが動こうとする、一挙一動が!!
ドンッ!!―メキッ!!
瞬間的に加速し、心内で謝りながら体に亜音速の蹴りを叩き込む。惜しくもそれは腕で防がれるが、骨を砕いた感触があった。
「ぐぅ……何だ、お前!?」
「化物だよ、今だけな―――ゲツガ!!」
「ああ!!」
再度接近し、脇腹に向けて貫手を放つ。内蔵を抉り取る危険な技だが、アリスはそれを難なくかわす。
今の貫手のスピードは普段の約30倍。
音速を越えると手が裂けるのでその一歩手前だ。それに反応するアリスもまた、人間では無いと改めて思う。
アリスのかわして出来た隙にゲツガが《錬金》で作り出した武器をやたらめったらに投げつけるが、アリスはそれを鼻で笑いながら叩き落とし、かわしきった。―――予定通りに。
ちゃき、と地面から無個性な槍を拾い上げ、鋭く突き出す。
「ハッ……!!」
一突き毎に空気が裂け、アリスのウェーブのかかった髪が舞い上がる。
レイはザクッ、と槍を床に突き刺し、いつの間に拾ったのか今度は無骨な両手剣を振り回す。袈裟斬り、切り上げ、払い切り、突き、返し切り……流れるように体重を移動させながら、戦斧、短槍、片手半剣、薙刀、片手棍、曲刀、十字棍……次々と武器を持ち替え、怒濤の攻めを繰り出す。
「……なるほど、多様な武器を操り、敵にリズムを覚えさせないという事か」
「ご名答!!」
細剣による神速の連続突きを繰り出そうとし、止まる。
―ドクンッ
(……限界、か)
強烈な虚脱感に耐えられず、地面に伏す。ゲツガと上ってきたレンが駆け寄ろうとして、止める。
アリスが掌に禍々しい光球を生み出し、牽制しているのだ。硬直化した戦闘は直後、唐突な終わりを告げた。
「そこまでだ」
カツ、カツ、とゆっくりと歩み寄ってくるのは深紅の鎧騎士、ヒースクリフ。
「ようやく来たか、ムッツリ」
「元気そうで何よりだ」
アリスがフンと鼻を鳴らすと光が彼女を包み、傷が治っていく。ついでに風前の灯火だった俺達のHPが満タンまでグイッ、と回復した。
アリスはそれを見届けると、フワッと宙に浮いて何か呪文を唱え始めた。ヒースクリフはそんな彼女を見ること無く俺達に向き直った。
「よくぞ塔を昇りきったものだ。君達はやはり、飛び切りのイレギュラーだった」
「……昇れない、と思ってたのか?」
レイを助け起こしたリンがヒースクリフを睨み付けて言う。
「正直、五分五分だと思っていたのだがな。予想以上にあの子が甘かっ…「黙らんと殺すぞ、魔王」…それは勘弁だ」
耳ざといアリスが遠くから殺気を放つとヒースクリフは微妙に頬をひきつらせながら黙った。
「それで、俺達は無事に帰れるのか?」
「問題ないだろう。捕捉説明になるが、君達に渡したアカシックレコードを起動させるには特殊なエネルギーが必要なのだ。人間の激しい感情がそれに当たるのだが……これ以上続けると少しばかりお遊びが過ぎてしまいそうであったため止めさせてもらった」
アリスが呪文を唱え終えると、戦いであちこちにひびが入った部屋の中央に大きな渦が現れた。
「ほら、開いてやったぞ。帰るための扉。とっとと帰れ」
言うなりアリスは姿を消し、塔が振動し始めた。
「わわぁ!?」
レンの立っている場所から少し離れたところに瓦礫が落下し、砕ける。
「早くしたまえ。あの門も長くはもたないぞ」
ヒースクリフが体の向きを変えて歩み出す。
「……行こう」
レイもヨロヨロと立ち上がると自分の足で渦に向かって歩き出した。音もなく蠢いている渦は4人を飲み込むと、静かに消えた―――。
「―――また会おう。異端の剣士達よ」
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体が軽い。半ば浮いているような感触の中、俺達4人は薄明かるく、何もない空間に居た。無言でそこを歩いたり漂ったりしている内にどこかで見たような鏡が4つ彼らを迎えた。
何となく、自分がどの鏡の前に立てばいいかが分かり、その前へ立つ。
「……お別れだな」
「はは。何かそのセリフ、テンプレだけど……そうだな」
自分でもその自覚があったため、ゲツガのツッコミに苦笑で返すしかない。
「別れ、か。何だかそんな気がしないな」
「うん。何となくだけど……また、会えるんじゃないかな?」
「……そうだといいけどな。代わりにまた未来があんなになっちゃうのは勘弁だ」
そもそもヒースクリフの説明に寄れば俺達が引き合ったせいで世界が壊れたとか何とか言ってたし。
リンもレンもゲツガも皆、何というか……そう、親近感が湧く不思議な気持ちになるのだった。だから、これからも―――
「その時はまた元に戻せば良いだろ。4人で協力して」
「は?……まあ、そうなんだけどさ」
鏡が震え、辺りが少し暗くなる。―――時間はあまり無いようだった。
「……じゃあ、またな、だな」
「ああ。いつかな」
「うん、またね!!」
「次はカエル肉以外でごちそうするよ」
『またな』そう言って4人は一時なのか永遠なのか……それは誰にも分からないが別れを告げた…………
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「燐……!!」
幼馴染みの少年が突然鏡に吸い込まれ、その余りにも現実放れした光景に思考が停止した。鏡に駆け寄る、と言うことも出来ずにただ突き飛ばされた格好で呆然としていた―――その時、
「……っと、まさかの10年後とかじゃないな」
鏡の向こうに消え去ったはずの燐がにょき、と何事もなく出てきた。そして詩乃に笑いかけ、言った。
「ただいま」
「お、お帰り?」
何となく、燐が安心したように顔を綻ばせたように見えたのでそう返しておく。
2人で並んで階段を上がり、部屋に戻った所で詩乃は燐から不思議な話を聞いた。
鏡はいつの間にか消えていた。
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「痛てて……」
何の恨みか鏡から『射出』された蓮はコンクリの床に尻餅をついた。
「あら、転んじゃったんですか?レンちゃん」
「あ……うん、まあ」
「大丈夫ですか!?すぐ手当てを……」
「いやいや、そんな大袈裟な事じゃ……」
というかついさっきまで血がとばとば出たり、逆に出させたりしてたのだ。生身で。
(考えてみたら……よく生きてられたな~)
思い返せば生身である事を忘れて色々無茶苦茶やったような気がする……。
(でも……楽しかったな。マイちゃんに話してあげよっと)
そう考えた途端気持ちが高揚し始め、待ちきれなくなってきた。
とは言うものの、取り合えず『まともな』ご飯を食べようと思い、未だにあたふたしている小萌先生を正気に戻してから階段を降りていった。
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「ゲツガ……ゲツガ君……!!」
静かなマンションの踊り場にユキの悲鳴じみた声が木霊する。突然の事にどうすることも出来ず、頭が真っ白だった。そこへ―――
「ん?……ユキ、ただいま」
「……ゲツガ君?」
「おう、って……おわっ!?」
ドン、とゲツガが押し倒されるぐらいの勢いで飛び付いて来たユキが目を潤ませながらベシベシと頭を叩いてくる。
「お、おい。ユキ、やめてくれ!?地味に痛いぞ!?」
「し、心配したんだから!!何なのよ、このかが……あれ?」
「どうし……消えた、のか?」
さっきまであったはずの大きな鏡は跡形もなく消えていた。混乱するユキを余所にゲツガは心の中でさっき4人でした約束をもう一度呟やいた。
「ぐすん……それで、何処行ってたの?」
「え?」
「分かるんだから……戦って、来たんでしょ?」
「…………すごいな、ユキは。……話すよ、まずは帰ろう」
「うん……」
先に立ち上がってユキに手を貸し、最愛の彼女の柔らかい手を握りながら残りの階段を上って行った。
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暖かな光が射し込む静かな階段。
ちょうど1年ほど前になるのだろうか。彼はその一番上にあった大きな鏡から『未来』へ跳んだ。
「……ふぅ」
弱った体ではここまで来るのも一苦労。最近ようやく動き始めた足や右腕、大穴が空いていたらしい脇腹に鈍痛が甦る。
「……あっちでも生身で大怪我したはずなんだがなぁ」
具体的には鎖で殴られたり、魔法で10メートル近く吹っ飛ばされた挙げ句壁にめり込んだり……
「よっこらせ……っと」
階段の一番上に腰を下ろし(肋に激痛)、ボロボロの体を労る。昼休みの喧騒は遥か遠くから聞こえ、病み上がりの彼が1人で居ると頬を可愛く膨らませて怒る彼女もこの場所は知らな―――
「み~つ~け~た~、螢!!」
「うぉ!?」
弁当箱が入っているのであろう可愛らしい手提げを持つ手はわなわなと震え、怒りのあまり辺りの景色が歪んでいる(これはイメージ)。
「ゆ、木綿季。どうしてここを!?」
逃走経路を頭で構築するための時間稼ぎにその怒れる少女に訊ねる。すると、木綿季は何故か頬を赤く染め、
「……螢が何処に居るかなんて、ここで分かるもん」
ポン、と心臓辺りを押さえた。無論それが意味するのは心臓ではなく、心だと言いたいのだろう。
その愛らしい様子に脳内で繰っていた逃走経路はポシャ、と消えて全身の痛みにも関わらず階段を一気に飛び降りて木綿季の隣に着地した。
「んぐ!!……っと……木綿季」
「!?ちょ、螢!!激しい運動しちゃダメって雪螺先生が……わぁっ!?」
ぎゅうぅぅぅ、とその華奢な体を抱き締める。腕の中の真っ赤になりながらもぎこちなく腰に手を回してくれる、大切な人を感じながら言う。
「ありがとう、木綿季。俺、ちゃんと生きてるよ」
「うん……」
光の中で安寧を貪る人々が居れば闇の中で孤独に死んでいく人々もいる。
彼の新たな生きる意味とはそんな人々を支え、助ける事。
自分の命だけでなく人の命を預かること。それが彼の『未来』から学んだ事だ。
後書き
100話!
やったね!
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