占術師速水丈太郎 五つの港で
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第二章
第二章
「東郷平八郎のいたですね」
「そうですね。あの人がいましたね」
官僚も微笑んで速水の今の言葉に乗った。
「あの人があの舞鶴に」
「そこもまた大きな港ですね」
「そこが日本海の護りで」
「そして次は」
「佐世保です」
官僚が四番目に選んだ港はそこだった。
「九州にあります」
「九州、西の護りというわけですね」
「日本最先端の街にあるのです」
佐世保には実際にそういう碑がある。そこにも海上自衛隊の港があるのだ。
「そして最後は」
「呉ですね」
「そうです、そこです」
まさにそこだというのだ。最後は。
「広島のあの港です」
「かつて大和があった」
「その五つです」
これで全ての港を出し終えたのだった。
「五つの港があります」
「そうですね。それが重要な港ですね」
「そしてです」
官僚はさらに話してきた。
「今回速水さんに向かってもらいたい場所はです」
「横須賀ではないのですか」
速水はここで己のその右目を意外なものを感じたものにさせた。
「といいますと」
「はい、これがですね」
官僚は彼に対して話していく。
「横須賀でも大湊でも舞鶴でも」
「ふむ」
「そして佐世保でも呉でもです」
先に挙げられた五つの港が全部出ていた。
「同じ様な事件が起こっているのです」
「超常的な事件がですか」
「はい、かなり不可思議なことにです」86
こう彼に話すのだった。
「全ての港で、です」
「それはまた」
速水はその話を聞いてあらためてその右目の眉を顰めさせた。やはり左目は見えない。その右目だけを見せて話をしているのである。
「複雑な様ですね」
「我が国にも術者は数多くいます」
これは官僚も知っていることだった。日本にはそうした存在が数多くいるのである。これは決して公にはされないことだが確かに存在しているのである。
「ですが今このことを依頼できるのはです」
「私しかいませんか」
「ええ。探してみたところ貴方だけしかいませんので」
「他の方はどうなのですか?」
「どなたも予定が入っていました」
首を横に振りながらの言葉である。残念そうな顔で。
「ですから」
「それで私なのですね」
「本来は他の方も御一緒にと思っていたのですが」
「人が見つからず」
「それで貴方だけとなってしまったのです」
人がいない、それでは仕方がなかった。何事も人や金がなくては何もできはしない。この場合は人がいないというケースだったのである。
「ですから」
「私一人で、なのですね」
「御願いできますか?」
「そうですね」
ここで速水は己のスーツの胸ポケットに手を入れた。そうしてそこから何かを出してきた。見ればそれは。
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