【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第四二幕 「鈴の音が響く」
前回のあらすじ:寝落ち
数日前クラースに問われたことを思い出す。なぜお前は力を求めるのか、と。
あの時はああいったが、実際にはもっとシンプルな思いがある。「負けたくない」という非常に単純な闘争本能が。男の子の意地とも言えるかもしれないそれは、いつも心の内で自分の未熟を許せない、せめてあいつくらいには強くなれ、そのためには努力を惜しまない、と叫ぶ。
「そう、俺はなんだかんだ言いつつユウに負けたくないんだ!」
「そうか、頑張れよ」
「いやいやいやジョウさんが「何故剣を振るうのか言ってみろ」っていうから言ったのになんですかその薄いリアクション!!」
「剣を振るう理由なんぞ千差万別だからどうこう言えんし・・・何よりタクアン美味しいし」
「タクアンは関係ないでしょうが!じゃあなんでそんな事聞いたんですか!?」
「そりゃたった一つの冴えたボケを期待してたに決まってんだろう」
「俺は芸人か何かですか!?」
「二人とも・・・特に一夏。朝餉の場で騒がしくするのは感心しないぞ」
呆れ顔の箒から注意を受けて取り敢えずは落ち着きを取り戻す一夏。うっかりジョウのペースに乗せられてしまったことを心の中で恥じ、目の前の緑茶を啜って心を落ち着かせる。
朝の朝食中に突然聞かれたものだから真面目に答えたが、なんだか損した気分である。
だが今自分が前向きになる理由をはっきりさせるのは別に悪い事ではない。ジョウさんも実はその辺の意識を自覚させるためにあえて質問したのかもしれない。・・・本当にからかうだけだったかもしれないが。
そんなことを取り留めもなく考えながら鯖の塩焼きから骨を外していると、目の前に鈴が現れてドンと座る。
「お、おはよう一夏!前、座るわよ」
「おはようさん。別にかまわないぜ?」
近くの席にはユウの姿も見えるので軽く会釈を交わす。ユウとは普段は同じテーブルで食事するのだが、トーナメントに備え気を引き締めるためか敢えて別の席に座っている。これはジョウさんの提案でもあるので俺もどうこう言うことはしない。
脂っこい匂いにちらりと鈴のお盆の上を見やる。・・・・・・朝っぱらから豚骨チャーシューメン大盛り+チャーハンとは恐れ入るメニューだ。見ているだけで食欲が削がれるというか、胃が靠れそうだ。コイツ、朝からラーメンは昔もやってたような気もするが、いつの間に大食いキャラに転業したのだろうか。そして、それだけ食べてもちっとも肉付きが良くならない寸胴ボディの哀しさよ。
「そんなに食うのに身体はあんまり成長してねえのな」
「誰が豆粒ミジンコドチビかぁぁーー!!」
「そこまで言ってねえよ!?ちょっと落ち着け!」
「フシャー!!・・・・・・ふう、そうよ落ち着くのよアタシ、今日はそんな挑発に乗ってる訳にはいかないんだから・・・」
「???」
怒りで真っ赤にした顔から何やら恥ずかしげにもじもじする悩める乙女の顔へと移行する鈴を不審に思う一夏。無論恥じらう乙女というのは周囲の感想で、一夏本人は「腹の調子でも悪いのか?」位にしか考えていない。だが、そのことを問おうとした正にその時、鈴の方から勢いよく声が掛かってそれは中断された。
「あ、あの、一夏!!」
「うおっ!?・・・な、何だ?」
「・・・・・・・・・その」
突然声をかけたと思えば今度は黙り、両手の人差し指を突き合わせながら何やら思い悩む鈴。その頬が紅潮していることから何か言いにくい事を言おうとして恥ずかしがっているものと一夏は推測する。周囲もその様子を不思議に思ったのか、自然と食堂内の視線が鈴と一夏に集中していく。
そして覚悟を決めた鈴は、一夏の目を真っ直ぐ見つめてこう言い放った。
「今度のトーナメント・・・もしあたしが優勝したら、あ、あたしと付き合いなさい!!」
「「「「「・・・えぇぇぇーーーー!?」」」」」
唐突な告白ぶっぱなし。女しかいないIS学園で告白イベントなど御目に書かれると思っていなかった周囲の衝撃は計り知れない。そして一夏はその告白に、何と二つ返事で返す。
「ああ、いいぜ?」
「「「「「・・・えええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!?!?」」」」」
まさかのOKに食堂内は阿鼻叫喚。大胆な鈴に黄色い声を上げて囃し立てる子もいれば一夏に思いを寄せていたのにと悔し涙を流す子も。ただし残間兄弟はまるで時が見えているような瞳で読めてしまったこの一件のオチを垣間見ており、佐藤さんは何故か「なるほど、おりんりんがトリガーを引くように歴史が修正されたのかな?」などと良く分からないことを供述していたという。
~
学年別トーナメントは全員参加だが、流石に全員分の試合をやるとなると相当な時間がかかってしまう。どうにか短縮できないか。
そんな話が職員会議で飛び出した。確かにそれは前から指摘されていた問題である。大会の進行が長引けばそれだけ生徒や教師人の負担も増えてしまう。今までも学年別トーナメントの時期が来るたびに教師たちは憂鬱な気分に襲われてきたのだからここいらでその苦労から少しでも脱却したかったのだろう。しかしそれには「どうやって短縮するか」という壁が立ちはだかる。
トーナメントは生徒全員により実戦的な戦いの空気というものを理解させると共に切磋琢磨させるという訓練的観点と単純なIS試合の娯楽性、更には世界中から将来有望そうな操縦者をチェックしにくる各国のお偉いさんに軍事関係者、ISの畑に住む研究者の類が来客として多く訪れる重要なイベントだ。
「初戦をバトルロワイアル形式に・・・」
「それでは生徒一人一人の能力が示されにくいじゃないですか、却下です!」
「スケジュールをこれ以上詰めるのも現実的じゃないですね」
「一試合ごとの制限時間や開始時のシールドエネルギーを減らすとかは・・・」
「試合内容が消化不良になる。却下だな」
「じゃあいっそ3on3形式でやりましょう!試合総数が三分の一になりますよ?」
「アホ抜かせ。3年生ならともかく1,2年のヒヨッコどもにそんな高度な連携が・・・いや、待てよ?3on3は駄目でも2on2なら・・・」
「ふむ。タッグ形式ならばIS戦における連携を学ぶいい機会になるな」
「試合数も単純計算で二分の一、試合内容もより戦略性が求められるから充実しますね」
「誰か代価案、若しくは反対意見はあるか?・・・・・・ないようだな。では今年のトーナメントにはタッグ形式を採用する!」
というわけで・・・今年のトーナメントは急遽タッグマッチ形式を採用、ツーマンセルトーナメントへと名前を変えることになる。突然のルール変更が引き起こした波紋はあっという間に学園中に広がり、生徒たちは相方探しに右往左往することとなった。
「という訳でお姉さま!!ぜひ、ぜひ私とタッグ申請を!!」
「はいはい分かりました。分かりましたからちょっと顔を遠ざけてくださいな・・・」
こうなると思っていただけに辟易としながらもちゃんと聞いてあげる私は偉い。偉いから・・・誰か偶にはこの役目を代わってくれないだろうか、とセシリアはため息をつく。
つららの天真爛漫で元気凛凛な所は嫌いではない。むしろ裏表のないその性格は好感が持てる。だが・・・その有り余るエネルギーにはどうしても引いてしまう。あと顔が近い。遠ざけなければそのままキスする気なんじゃないかというほど近い。
ひょっとしたらセシリアから分泌される御姉様物質セシリウムを吸収して爆発的なエネルギーを得ているのかもしれないが、んなこと誰も調べやしないので謎のままでいいや。
「たしかつららは接近戦が得意なんでしたっけ?」
「はい!流石に篠ノ之さんには劣りますが、これでも入試では試験官に一太刀入れたんですよ?」
「あら、本当ですの?」
「お姉さまに嘘なんかつきません!!」
ぶー、とふくれっ面で不満げにこちらを見るつららの頬にアッチョンプリケして遊びながらもセシリアは少し感心していた。IS学園の入試試験で実技を務める試験管は全員がそれなりのIS実績を積んだ人間である。素人が挑んだところで傷一つつけられずに終わるのも珍しくない中で一太刀、つまり銃ではなくブレードによる一撃を加えることが出来たというのは誇ってもいい事である。
(これは・・・思ったより面白い事になりそうですわね)
妹分の思わぬポテンシャルを見出したセシリアは、乗り気でなかった気分を急激にトーナメントの方へ向け始めた。
「ほ、ほねえはま・・・(お、お姉さま・・・)へをははひへふははい~(手を離してください~)」
「あら、御免あそばせ?」
「ひどいですよお姉さま~!人の顔で遊ぶなんて~!!あ、で、でもお姉さまに弄ばれるなら私・・・むぎゅ」
「もう、少しは慎みを持ちなさいな」
とりあえず追加のアッチョンプリケを食らわておいた。なお、その一部始終を見ていた周囲の生徒は「キマシ!?キマシなの!?」「つららさんったらやっぱり百合の花なのね・・・!」「わ、私も!お姉さまになら!!」などとあらぬことを口走っていたとか。・・・ちなみにこのIS学園、毎年十数人は同性愛者が発見されていたりするのは外には漏らせない秘密である。
==セシリア・オルコットand峰雪つらら タッグ結成==
~
鈴の告白はあっという間に噂で広がり、昼休みには既に1年生中に広がっていた。だが、伝言ゲームで段々言葉が変わっていくように何故か噂は妙な形に歪んでいき、末端にもなると「優勝すれば男性IS操縦者と付き合える」という全然違う内容になっていた。その結果何が起きたかというと・・・
「織斑君!アタイと組んでIS同士によるとんでもねえ戦争って奴を始めようぜ!?」
「私、射撃には些自信があるのよ?私の方が相性いいって!」
「結章君・・・もしもまだパートナーが決まってないなら、わ、私と・・・」
「いいえ!ユウ君が私とタッグを組むのは1万年と2千年くらい前からの決定事項よ!!誰にも渡さない!」
「ねえねえあの噂ってベル君にも有効なのかな?ううん、きっと有効だよね?」
「なん・・・だと・・・!?かーー!!燃えてきたぁぁーーーー!!!」
「ジョウさん狙いはいないの?」
「いるにはいるんだけど・・・ジョウさん本人が「俺はトーナメント参加できないから対象外」って言いきったから引っ込んじゃった」
20XX年、1年1組は女子生徒の嵐に包まれた。・・・え?いつもの事?・・・それもそうか。
とにかく不参加のジョウとベルーナを除く残り二人の男子にこの機にお近づきになろう、あわよくば優勝して告白しようとする輩が殺到したのだ。しかし一夏もユウもいきなり湧いて出てきて今までろくに喋ったこともない人といきなりタッグを組むのは抵抗がある。ということで――
「あ、俺今からジョウさんに稽古つけてもらうんだ!という訳でユウに頼んでね!?」
「あ、僕は今から風花の調整しなきゃいけないから頼むなら一夏の方にしてね!?」
「「って人に押し付けるな(ないで)よ!!」」
――2人はすぐさま逃げることにした。
こういう時の息の合いっぷりは親友ならではだろう。とにかく互いに互いの面倒事を押し突行けようとしながらも、2人は女子包囲網を強引に突破して逃走するのであった。
ちなみに、現在二人が考えているのは全く同じこと。すなわち―――
((急いで相方を見つけないと訓練(調整)どころじゃない!!))
―――である。
おまけ 「つらら、一太刀の真相は・・・」
『では試験開始です!さあ、どこからでもかかってきていいですよ!』
『では遠慮なくそぉい!!』
『ブレードを投げたぁぁーーーー!?ぐへぇ!!』
『やった!当たった!』
いきなり原始的な方法に頼ってくると思わなかった試験官はその一撃をもろに受けてしまったとさ。
なお、つららはその後も隙あらばブレードを投擲武器として使用している。
試験管の評価:これそういう武器じゃねーから!しかも投げるたびに精度が良くなってるし!?そういうのはIS用手榴弾とかISダガーでやってください!!
つららの返答:え!?そんな素敵な武器があるんですか!?
後書き
ISダガー・・・フルメタに出てくる対戦車ダガーが元ネタ。付け根に成型炸薬が内蔵されており、設定によってナイフとしても手榴弾代わりとしても使える武器。なお、刃部分は爆発寸前に自動で量子化するために何度でも再利用できる。
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