ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
七十話:飲めない人に飲ませてはいけない
「では、ドーラちゃんの帰郷と、ヘンリーさんとの出会いを祝して!乾杯!」
現在、村長的な立場にあるというおじさんが乾杯の音頭を取り、みんなが唱和して、杯に口を付けます。
……うん、特に美味しくは無い。
むしろ、不味いと言ってもいい。
前世でも、好きというわけでは無かったしなあ。
ましてまだ若くて、一度も飲んだことの無いこの体では無理も無い。
が、あからさまに不味そうな顔をするのも何なので、表情を変えずにちびちびと、舐めるように飲んでおきます。
同じく飲酒の経験は今回はまだ無いはずのヘンリーは、どうなんだろう。
と思って隣を見ると。
……割と、普通。
景気よく飲み干すようなことも無いが、普通に、それなりに飲めそうな感じで飲んでます。
「……ヘンリー。おいしいの?」
「不味くは無いな。……って、お前!」
私が声を潜めて問うのにヘンリーも静かに返してましたが、こちらを見た途端、声を荒げます。
「なに?」
「真っ赤じゃねえか!どんだけ飲んで……って、ほとんど飲んでないな。どんだけ弱いんだよ」
ああ、やはり弱かったか。
「れすよね~」
既に、呂律が回らない。
と、訳もわからず惰性で傾け続けてた杯を、取り上げられます。
「言ってる側から飲むなよ。すみません、水ください」
「あらあら。ドーラちゃんは、飲めなかったのね。悪いことしたわねえ」
「らいじょ~ぶれす~」
自分の耳に入る言葉が、もう大丈夫では無い。
おばちゃんが急いで持ってきてくれた水を、ヘンリー経由で渡されますが。
「おい、しっかり持て……ないな」
平衡感覚もおかしくて、すぐに傾けそうになるのを見かねてヘンリーが手を添え、口元まで運んでくれます。
済まないねえ、酔っ払いの面倒まで見させて。
とりあえず、水を飲まないといけないのを覚えてるくらいの判断力は残ってるので、ほとんど飲ませてもらう感じで水を飲み。
「ありあと、へんり~」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるヘンリーに、笑顔でお礼を言います。
の、のちに首を傾げます。
「あれ~?へんり~も、よってる~?」
尋常じゃなく、顔が赤い。
「お前……性質悪いな……」
失礼な!
酔っ払ってなお、きちんとお礼の言える私に対して!
「みんな~。へんり~が、ひろいれす~」
いかにヘンリーが私に不当な評価を下しているかについて賛同を得るために、周りのみなさんの顔を見回します。
あれ、みんなも顔が赤い。
「みんな~?のみすぎ、れすか~?」
私は、弱いから仕方ないけど。
飲み慣れてるはずのみなさんがその有り様とは、少々ペースが早過ぎるんじゃないですかね?
「これは……不味いね……」
「ちょっと、男共には見せられないよ」
「ドーラちゃんは、少し休ませたほうが」
おや?
私の、お祝いなのに?
追い出すの?
……いかん、悲しくなってきた。
「みんなも、……ひろい、れす……」
「ちょ、ドーラちゃん!泣かないで!」
「違うから!追い出すとかじゃ無いから!」
「ヘンリーさん!もう連れてって!」
「はい!」
「うう~……」
涙ながらに苦情を申し立てようと考えていると、ヘンリーに抱き上げられて、運び出されます。
「あ~……」
まだ、言うべきことを言ってないのに!
ますます悲しくなって、手近なところにあったヘンリーの首に抱き付いて、悲しみを吐き出します。
「うう~……うえ~ん……」
「ちょ、ドーラ!泣くなって!」
ヘンリーがなんか言ってますが、知らん。
私は、悲しい。
私を部屋に運び込み、ベッドに降ろして水を汲んでこようとするヘンリーに、泣きながら縋り付いて困らせ。
「やら~!!おいてかないれ~!!」
「すぐ戻るって!すぐだから!」
なんとか汲んできた水と毒消し草を、その間放置されたことで拗ねて拒否し、宥めすかされて飲まされて。
「やら。しらない。いらない」
「駄々こねるなよ。飲めって、とにかく」
「やら。きらい」
「嫌いって……!!嫌いでも良……くは無いが!飲んでくれよ、頼むから!」
毒消し草の効果で少々酔いが醒めたところで、キアリーを応用して酔い醒ましに特化させた便利魔法の存在を思い出し、自分にかけて。
「……申し訳、ありませんでした……」
海よりも深く、反省中。
ベッドの上ではありますが、土下座してます。
土下座って言わないか、ベッドじゃ。
「……いいよ。仕方なかった、と思う、ような気がする」
状況的には仕方なかったけど、性質が悪すぎたね。
そりゃあ、そんな言い方にもなるよ。
ヘンリーの状態を確認するため、土下座状態から少し顔を上げ、上目遣いでチラ見します。
……うん、真っ赤。
どころじゃない。
こんな美女に、あんなにあられも無い感じで、縋り付いて泣かれちゃったらね……。
酒に酔って、肌が上気したり目が潤んだりの、妙な色気もあっただろうしね……。
状況的にどんなにアホらしくとも、そりゃあ動揺もするよ、無理も無い。
……だから、男装にしておけば良かったのに。
それはそれで、おかしな絵面にはなるが。
「とにかく、酔いが醒めたんなら戻って……って、おい!!やめろ、その体勢!!」
大変に慌てたヘンリーに、腕を掴んで引っ張り上げられ、土下座状態を解除されます。
「……なにか、まずかったでしょうか……」
心当たりは無いが、もはや下手にしか出られない。
「見えるから!その……」
言い淀むヘンリーが一瞬私の胸元に目をやり、慌てて逸らします。
……ああ。
奴隷時代を考えれば、今さらと言いたいところだが。
状況が変わった現在、そういうわけにもいかないくらい、いい加減に私にもわかってはいたが。
慎ましく覆い隠される服(女性用)とか、体型を隠して誤魔化す服(両用)とか、男装とか。
そんなんばっかりだったから、忘れてた。
「ごめん。気を付ける」
「本当に、気を付けろよ。いくらこの村でも、男の目はあるんだから」
「うん」
「じゃ、行くか」
酔いが醒めて顔色の戻った私と、一連の流れですっかり赤みが戻らなくなってしまったヘンリーと、連れ立って地下の酒場に戻ります。
スラリンを置いてきてしまったことが、酔いが醒めてからは気になってましたが。
「はい、スラリンちゃん!あーん!」
「こっちもおいしいわよ!」
「魔物なんて、怖いだけかと思ってたけど。こうして見ると、可愛いもんね!」
おばさま達のアイドルと化し、餌付けされてました。
……くっ!
私も、まだあげてないのに!
でも、良かった!
と微妙に悔しがってると、別のおばさま方に声をかけられました。
「ああ、ドーラちゃん。もういいんだね?」
「はい。すみませんでした」
「いいんだよ。飲ませちゃったあたしたちが悪いよ」
私も、軽く考えて油断してたわけなので。
痛み分けということで、いいんでしょうか。
とにかく席に戻って、酒の代わりに出された果汁の炭酸割りを飲んだり、料理を食べたりしながら旧交を温めます。
すっかりおばさま達に囲まれているスラリンに続き、ヘンリーもおじさん達に連れ去られ、男同士のお話やら酒の酌み交わしやらが始まったようです。
私の隣の空いた席に、いつの間にか男性が座ってます。
比較的若い、というか私とヘンリーを除いて、たぶんこの場で一番若い。
えーと、この人は確か。
「久しぶりだね、ドーラちゃん」
「はい。お久しぶりです、おにいちゃん」
よく遊んでくれてた、お兄さん。
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