箱庭に流れる旋律
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歌い手、メイドができる
前書き
一気に一巻を書ききりました。
では、本編へどうぞ!
「ね~んね~ん、ころ~り~よ~、おこ~ろ~り~よ~。ぼ~や~は~、よい~こ~だ~。ねん~ね~し~な~」
僕は白亜の宮殿に入ってから、逆廻君たちとは別行動で歌を歌いながら進んでいた。
誰もが一度は聴いたことがあるだろう、有名な子守歌はその効果を十二分に発動し、会う人全員が眠っているので僕は誰にも見られずに進んでいる。
まあ、この歌の歌詞には「お前が眠らなかったら裏山に捨てるぞ」的な意味合いを持つものもあるのだが・・・そのあたりは気にしない。
もちろん、“音響操作”を使い、逆廻君たちのほうに音が届かないようにはしてる。
そして、そのまま寝ている人が持っている剣を全部倉庫にしまいながら進んでいると、途中ですぐそばに兜を落として眠っている人がいたので、その兜をかぶり、不可視になる。
「これでもう歌う必要はないか。にしても、本当に便利なギフトだよな、“奇跡の歌い手”って」
そんなことを考えつつ、最奥に向かって進んでいく。
「あ・・・でも少しでもたくさん剣がいるから、まだ歌わないといけないか・・・よし」
おんなじ曲を歌うというのもつまらないし、今度は春日部さんに頼まれて歌った、『Wiegenlied』を歌うことにしよう。
「Gu-ten A – bend,gut’ Nacht」
そのまま、眠っている騎士達から剣を取りつつ進み、最奥にたどり着いたのでその中に入る。
「結構簡単な造りなんだな・・・闘技場みたいだ」
さて、そんな感傷に浸っている時間はあるのだろうか?
まだ逆廻君達がたどり着いてないといいんだけど・・・あ、何か黒ウサギさんが急に笑い出した。あそこに逆廻君がいるな、間違いない。
とりあえず、皆と合流しよう。
「いい反応だぜ、黒ウサギ!」
「全く、せっかくのギフトで何をしているんですか」
「本当に、ギフトの無駄遣いだよね。不可視になる兜なんて、早々あるものじゃないだろうし」
「ジン坊ちゃん、十六夜さんに奏さんも!」
黒ウサギさんは僕たちの姿を確認すると、安堵からかため息を漏らした。
たどり着いたのはこれだけか・・・まあ、逆廻君一人いれば問題ないよね?
「――――三人も来させるなんて、ほんとに使えないやつら。このゲームを片付けたら、まとめて粛清しないと」
そうつぶやく声がする上方を見ると、ロングブーツから生えたきれいな翼で飛んでいる、亜麻色の髪の男性がいた。おそらく、彼がルイオスだろう。
彼は翼を一度羽ばたかせ、僕たちの前に降り立つと、
「ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。・・・この台詞を言うの、初めてだな」
おそらく、それは“ペルセウス”の騎士達が優秀だったからだろう。
ぱっと見ただけでも、かなり鍛えられていることが分かった。
「ま、不意を打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」
「僕の相手をした人たちも、何にもできない間に眠らせたから、何にもできないよ」
「そんなことは関係ない、名無し風情を僕の前に来させた時点で重罪さ」
そう言いながら、彼は再び空を舞い、ギフトカードから燃え盛る炎の弓を取り出した。
あんな武器、ペルセウスの神話に有ったっけ?
「それ、神話とは関係ないぶきだな?」
「当然。空が飛べるのに同じ土俵で戦う必要はないだろ?それに、メインで戦うのは僕じゃないし」
そういいながら、首につけていたチョーカーから蛇の髪を持つ女の首の装飾を外し、それを掲げて、
「目覚めろ――――“アルゴールの魔王”!!」
「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」
元魔王を、開放した。
その女性は体中を拘束具によって捕縛されていたが、それを引き千切りながらさらに絶叫を上げる。うん、かなりうるさいです。ここまで不快に感じる音は、早々ないと思う。
「へえ、あれが元魔王様か・・・奏!あそこまで自信満々だったんだ、あれはオマエでどうにかしろ!!」
「まって!僕はただの歌い手だよ!?あんな化物、一人でどうにかする術は持ってない!!」
「作戦があるんだろ!ルイオスがいくら強くなろうが問題ねえ!」
ああもう!なんで君はそんなに楽しそうなのかな!?人に化物押し付けといて!
「仕方ないか・・・まあ、さすがに危険だと思ったら助けてくれるだろ。・・・では、お聴きください。“ペルセウスのテーマ”」
そして僕は、歌う。
この曲は題名の通り、ギリシア神話における英雄、ペルセウスのテーマソングだ。
そして、歌い始めるとすぐに、あるところで変化が起こる。
「へえ、この曲は僕の祖先、英雄ペルセウスのテーマじゃないか!しかも僕の霊核が上がっていく・・・そうか!そいつは“音楽シリーズ”のギフトの持ち主か!」
そう、この曲はルイオスの祖先についてのテーマなので、その血を引く彼の霊格を上げてしまうのだ。
でも、それ以外のところにも変化は現れる。目的はそっちだ。
「GYAAAAAAAAAAaaaaaaa!!」
この曲を聴いたアルゴールの魔王は、苦しそうに悲鳴を上げる。
そう、変化が起こる対象は、英雄ペルセウスによって倒されたアルゴールの魔王だ。
ペルセウスのテーマには、もちろん蛇の魔物退治の逸話も含まれている。
その逸話を歌えば、倒された張本人であるアルゴールの魔王の霊核は落ち、ダメージを与えることも可能なのでは?という憶測だったのだが・・・どうやら賭けには勝てたようだ。
「ど、どうした、アルゴール!?」
「分からねえのか?まあ、これで切り札は使えなくなったな!!」
ルイオスが動揺したところに、逆廻君が思いっきり殴りかかる。
その一撃はかなり重く、ルイオスは思いっきり吹っ飛ぶ。
「いいのか?このまま殴られっぱなしなら、ゲームはすぐに終わるぜ?」
「クソ・・・でも、対照的に僕の霊格はあがってるんだ!」
そう言いながら、一つの鎌・・・おそらく、ハルパーだろう、を取り出し、逆廻君に振り下ろす。
普通なら彼には一切通用しないだろうが、霊格を上げてしまったからか、逆廻君は少し余裕そうな顔を崩し・・・楽しそうな顔になる。
「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ!!予想以上に楽しめそうだ・・・!!!」
そこから、逆廻君は本当に楽しそうに戦っていた。
一撃も逆廻君に決まっていないが、それでも逆廻君は楽しそうだった。
まるで、少しでも自分に近い存在がいることを、喜んでいるかのように。
「GI・・・GYA・・・」
どうやら、気付かないうちにアルゴールの霊格をほぼ削りきっていたようだ。
“ペルセウスのテーマ”も終わったし、殺さないにしても、そろそろこのゲームでは再起不能なくらいにはしないと。
「続きまして・・・“剣の舞”」
そのまま、大量の剣を放り込んだ倉庫を開きながら、ガルドとのゲームでも使った“剣の舞”を歌う。
今回歌に込める意味は、あの時と同じ。よって、剣が、舞う。
その大量の剣は、霊核が下がることによって脆くなったアルゴールを切り、貫き、最強種、星霊を倒した。
「これで、どうだ!」
僕が剣を回収していると、ルイオス達のほうからそんな声が聞こえてくる。
そちらを見ると、ルイオスがハルパーを構え、空から逆廻君に向かって突っ込んでくるところだった。
そして、逆廻君はルイオスに突っ込むように跳び、足を後ろに引くと、
「ハッ・・・しゃらくせえ!!」
ルイオスのハルパーを真正面から蹴りはるか彼方にとばす。
そのまま二人は着地し、互いににらみ合うと、同時に拳を構え、
「来いよ、ペルセウス」
「負けて、たまるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
お互いの拳が交差し、頬に当たり・・・ルイオスが倒れた。
「ゲーム終了!FAIRYTALE in PERSEUSは、ノーネームの勝利です!」
ふう・・・ようやく終わった。
さて、逆廻君はこれからどうする気なのかな?
「さて、ゲームをクリアして“ペルセウス”の“旗印”を手に入れたけど、逆廻君はまだ何かする気が?」
「ああ。最初はアイツがつまらないやつだったら旗印を盾にゲームを挑んだり脅したりする予定だったんだが・・・」
そう言いながら、倒れているルイオスを見ると、
「まあ、十分に楽しめたからな。あいつを起こして、“旗印”とレティシアを交換して帰るぞ」
「了解です、逆廻君。黒ウサギさんもそれでいい?」
「YES!レティシア様を連れて、早く本拠に帰るのですよ!」
♪♪♪
さて、あの後予想より早く意識が戻ったルイオスと“旗印”とレティシアさん、石化をとくギフトの交換をして、無事本拠に帰還。大広間で石化をといたところまではよかったんだけど・・・
「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」
問題児三人がそんなことを言い出した。
いや、一体何を考えてるんだ?
「え?」
「え?」
「え?」
「・・・え?」
そんなことを思っていたせいか、無意識のうちにそんな声が漏れた。
僕と同じように黒ウサギさん、ジン君、レティシアさんも声を出してるから、間違ってはいないはずだ。
「え?じゃないわよ。今回のゲームで活躍したのは私たち四人だけでしょう?」
四人?まさか、僕も勘定に含められてる?
「うん。私なんて力いっぱい殴られたりしたし」
僕がいないところでそんなことがあったんだ。
鋭い五感を持つ春日部さんが殴られるって、どれだけの騎士ですか・・・?
「つーか挑戦権を持ってきたのとゲームマスターを倒したのは俺で、アルゴールを倒したのは奏だろ?」
あ、やっぱり僕も計算に含まれてた。
「所有権については俺、奏、お嬢様、春日部の順に3:3:2:2で話はついた!」
「「何を言っちゃってんだ(でございますか)この人達!?」」
僕と黒ウサギさんの突込みが重なった。
僕何も聞いてないんだけど!?いつの間に人の所有権手に入れちゃってんの!?
「というか、奏さんまで何故参加しているんですか!」
「たった今突込みが重なったよね!僕も初耳だよこんなの!!」
いつの間に決めやがった、という意味合いを込めて逆廻君達を見ると、
「ああ、奏の所有権の割り振りについては、三人での話し合いの結果だ」
「何故一声かけなかった!」
「ちなみに、拒否権はないわよ」
「何故故に!?」
「これは正当な報酬」
く・・・意外と筋は通っている・・・
「ふむ・・・そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。君達が家政婦をやれというなら・・・喜んでやろうじゃないか!」
そして、予想外なことにレティシアさんは乗り気だった。
いい笑顔だなぁ・・・もうなるようになれ。
そうして、僕はメイドさんの所有権を手に入れました。
箱庭に来てから、驚くことばっかりだなぁ・・・
♫♫♫
ペルセウスとの決闘から三日がたった今日、ノーネームの全メンバーは水樹の貯水池付近に集合していた。
「えーそれでは!只今より新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」
そう、今から僕達の歓迎会をしてくれるそうだ。
子供だらけの歓迎会なのだが、すごく嬉しい。
「だけど、どうして屋外での歓迎会なのかしら?」
「うん。私も思った」
「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってとこじゃねえか?」
「それに、変に室内を飾るより、この星空の元で、のほうがきれいだし」
まあ、そんなことをするお金もないし。
黒ウサギさんに聞いたところ、ノーネームの金蔵は後数日で底をつくそうだ。
だから、こんなおなかいっぱい食べながら騒ぐ、というのも贅沢にあたるんだけど・・・今日ぐらいは、いいと思う。
「それでは、本日のメインイベントが始まります!箱庭の天幕をご覧ください!」
黒ウサギさんがそういうので天幕のほうを見るけど、特に何も・・・
「・・・あっ」
そう誰かが声を上げるのと同時に、流星群が流れ始めた。
確かあの辺りって、ペルセウス座があったと思うんだけど・・・
「この流星群を引き起こしたのは、我々の新たなる同士です。
ペルセウスは“サウザンドアイズ”を追放され、あの星空からも旗を降ろすことになりました」
「この箱庭では、星空さえ盛り上げるためのシステムの一つでしかない・・・ってこと?」
「そうなんだろうな。さすが箱庭、予想もしなかったことばかり起こる」
「観賞するもよし、星に願いを託すもよし。さあ皆さん、今日は目一杯騒ぎましょう!!」
そして、その日は本当に楽しい時間を過ごした。
後書き
こんな感じになりました。
ひとつご報告が。
自分、今日からテスト週間に入りまして・・・しばらくの間、更新がストップします。
だから一巻を終わらせたかった、という思いもあって、終わらせた部分もあります。
あ、無形物の方は更新が続きますよ?
お詫び代わりに一つ予告を。
二巻では新しい“音楽シリーズ”のギフト保持者が現れます。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。
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