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万華鏡

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第四十話 二学期のはじまりその四

「晩御飯の方大丈夫?」
「あっ、そのことね」
「お腹一杯食べることはいいけれど」
 このことはいいというのだ。
「晩御飯大丈夫よね」
「ううん、そういえば」
 そう言われるとだ、琴乃も苦笑いでこう返した。
「結構以上にね」
「ほら、そうでしょ」
「さっき食べ終えたばかりだから」
「仕方ないわね、だったらね」
「それだったら?」
「お父さんも今日遅いしあの子も今日塾だから」
 家の男組のことも頭の中に入れての言葉だった。
「晩御飯は遅くするから」
「そうするの」
「ええ、今日は餃子よ」
 それだというのだ。
「あと中華風の野菜スープにするから」
「餃子ね」
「そう、見ず餃子よ」
 そちらの餃子だというのだ。
「つまりスープと一緒にするから」
「あっちなの」
「それとお魚もあるから」
「鰯?」
 母の好物だからだ、琴乃はそれかと尋ねた。
「それ?」
「そう、鰯はもう煮てるから」
 それもあるというのだ。
「スープももう作ってるわよ」
「後は餃子だけなのね」
 琴乃は母の話を聞きながら台所の方を見た。見ればコンロの上に二つの鍋が置かれている。その二つこそだった。
「後は餃子をスープの中に入れて茹でたら」
「ああ、餃子は餃子で茹でてね」
 そしてだというのだ。
「スープに入れるから」
「そうするのね」
「そう、遅くするから」
 またこう娘に話す母だった。
「ちょっと待っててね」
「ええ、それじゃあ」
「さてと、お母さんちょっと行って来るわね」
「何処に行くの?」
「散歩よ」
 それに行くというのだ、見れば母は化粧を全くしておらず服もジャージのままだ、髪もぼさぼさの感じだ。
「この格好なら夕方街を歩いても誰も声をかけないから」
「ああ、変な人が」
「痴漢とか出たら厄介だからね」
 だからあえて色気の欠片もない格好になっているというのだ。
「こうしてね」
「けれどその格好は」
 琴乃は娘として母のその姿を見て言った。
「何ていうかね」
「駄目?」
「うん、もう完全におばさんじゃない」
 だからだというのだ。
「ちょっとね」
「いいのよ、おばさんで」
「痴漢に遭わないからなの」
「痴漢は色気のある相手に近寄るのよ」
 若しくは可愛い相手だ、綺麗な相手の場合もある。
「けれどこんなぼさぼさのおばさんに色気なんてないでしょ」
「本当に何処のおばさんって感じよ」
「そうよ、だからあえてこの格好でね」
 外に出て、というのだ。 
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