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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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5部分:第五章


第五章

「凍って。そのまま砕け散りなさい」
 刃が突き刺さると元木は禍々しい姿のまま凍りついてしまった。宙に浮かんだまま凍りつき落ちて砕け散って消え去ったのであった。
「これで終わりね」
「いきなり出て来られて美味しいところを持って行かれるとは。貴女らしいというか」
「それが許されるのが私なのよ」
 しかし美女は抗議めいた声を送る速水にそう返した。
「まして。そこの男は多くの美女を毒牙にかけ己が欲望のままに蹂躙してきた。こうなって当然ね」
「それはそうですが。貴女が来られた理由を御聞きしたいですね」
「この男達を消すように頼まれたの」
 美女はそう答えてきた。
「娘を攫われて手篭めにされて薬と暴力で廃人同様になるまで壊された方にね。けれど」
「お話は聞いていますね」
「ええ」
 また速水の言葉に頷いてきた。
「殺されたそうね、全員」
「そうです。私はそれで来ました」
 速水は美女に言ってきた。
「貴女とは違う理由でこの街に」
「そうね。けれど私も同じ理由になったわ」
「用件が変わりましたか」
「ええ。この事件の解決も頼まれたのよ」
 ここで警部の方を見てうっすらと笑って述べてきた。
「聞いていたかしら。もう一人この事件の捜査を受け持つ人間がいるって」
「えっ、じゃあ貴女は」
「ええ、そうよ」
 その妖艶な笑みで警部を見てきた。ブラックルビーの瞳が黒く妖しい光を放つ。その光はまるで闇の中に舞う異形の星達の輝きのようであった。
「そのまさかよ。私の名は松本沙耶香」
 自分の名を名乗ってきた。
「黒魔術師のね。宜しくね」
「お話ではまだ来られていないと聞いていましたが」
「だからここにいた人達を始末するように頼まれていたの」
 そう答える。
「そのお話が流れてね。一旦東京に帰るつもりだったけれど」
「それがどうして」
「北国の女の子達もいいものね」
 目を細めて妖しく笑ってきた。その目に映っているのはこの殺風景な場所ではなかった。少女達の白い肌と赤い胸であったのだ。
「帰るつもりが遊び過ぎてしまったわ」
「女性ですか」
「ええ」
 警部の言葉に妖しい笑みのまま答える。
「私はどちらでもいいのよ」
「といいますと」
「男性でも女性でも」
「バイセクシャルということですか?」
 警部はその言葉に首を傾げさせる。それと共に何か稀有なものを見る目で彼女を見てきた。
「それは」
「そう言うのならそれでいいわ。隠すつもりはないし」
「はあ」
「それよりも。捜査を受け持つ人間が二人揃ったことだし打ち合わせといかないかしら」
「打ち合わせですか」
「ええ。レストランででも。いいかしら」
「あの、すいません」
 警部はここで申し訳なさそうな顔で沙耶香に対して言ってきた。その顔を見ていると彼が何を言いたいのかはすぐにわかるものであった。
「私はお金はあまり。ないのですが」
「あら。そうですの」
「何しろ女房と子供を養うのが大変で。いや、これはどうでもいいですよね」
「安心して下さい、そちらは」
 速水はにこやかに笑ってこう述べてきた。
「お金なら私が持っていますので」
「本当ですか」
「私もね」
 沙耶香も名乗り出てきた。どうやら二人はそれなりに金を持っているようである。
「ですから御安心を」
「それでそのお店だけれど」
「はい」
「北海道は美味しいものが一杯あるけれどやっぱり」
 ここで思わせぶりな笑みを浮かべてきた。何かを探るように。
「羊かしら。どうかしら」
「羊ですか」
 速水はその言葉を聞いて目をうっすらと細めさせてきた。
「悪くないですね。そして」
「ワインは赤でね」
「あの、私はその」
 警部は酒と聞いて困った顔をまた見せてきた。
「勤務中ですのでそれはちょっと」
「わかってるわ。それは今はね」
「遠慮させて頂きます」
「そう言って頂けると何よりです。いや、あのですね」
 警部はここで急に申し訳なさそうな声で述べてきた。
「やっぱり五月蝿いですからね、何かと」
「困った話ね」
 沙耶香が警部のその言葉に応えてうっすらと笑みを浮かべる。やはり妖しい雰囲気に満ちた笑みであった。
「お酒と美女があってこその人生だというのに」
「お酒には賛成致しますが」
 速水はここに付け加えてきた。
「貴女には純愛というものを差し上げたいものです」
「あら、それはどんな味かしら」
 しかし沙耶香は妖艶な笑みのままそれに笑って返す。

 
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