ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
六十六話:サンタローズの村
オラクルベリーの町を回ってる間に買っておいた地図を頼りに、サンタローズの村を目指します。
気持ちに余裕があれば、仲間モンスターも狙っていきたいところだが。
いま来られたところで、ケアできるとも思えないので。
愛も従えるも特に考えず、淡々と戦闘をこなします。
ヘンリーも空気読んで黙ってくれてるのをいいことに、ほとんど会話も無く。
村の近く、もう少し進めば村が見えてくるはずの場所に差し掛かります。
この、角を曲がったら。
森が開けて、村が見えるはずだけど。
無かったら、どうしよう。
考えて足が止まり、動かなくなって。
「……行くぞ」
しばらく黙って待ってたヘンリーが、先に立ち、私の手を引きます。
行こうと思い切ることも、逆らって踏み留まることもできずに、ただ引かれるがままに前に進んで、角を曲がり。
「……あった」
記憶にある通りの、でも記憶より少し小さく感じられる。
サンタローズの村が、十年前と変わらない姿で、そこにありました。
「ヘンリー。……あった」
「ああ。良かったな」
「うん。……良かった」
身構えてた分、力が抜けて、そのままヘンリーに引っ張られて村に向かいます。
「サンタローズの村に、ようこそ!」
十年分、歳を取ってはいるけれど、まだまだ元気な門番のおじさんが、前に立って歩くヘンリーに、にこやかに挨拶をします。
「旅人さんかい?宿で休むには早いから、薬でも買いに来たのかな?初めて見る顔だが、場所はわかるかい?」
「ああ。たぶん、大丈夫だ」
「そうかい。それじゃ、ゆっくりしていってくれな!」
なにも言えずに俯く私に構うこと無くふたりで会話を進め、またヘンリーが私を引っ張って歩き出します。
門番のおじさんと別れて、少しだけ気持ちに余裕ができ、顔を上げて辺りを見回します。
十年の時間を感じさせない、変わらない家々の中に交じる、見覚えの無い新しい小屋。
森が少し切り拓かれて、広くなっている畑。
歳を重ねて変化した、それでもどこか変わらない、懐かしい人たち。
十年を恙無く過ごしてきたことが見てわかる、懐かしい村。
見ているうちに力が戻ってきて、足が早まり、ヘンリーを追い抜いて前に出て、さっきまでとは逆にヘンリーを引っ張るような形になって進みます。
家は、どうなってるだろう。
私たちの家だけ無くなってるということは、無いだろうけど。
誰もいなくなった家は、どうなっただろう。
他の誰かが住んでるか、放置されて荒れてるか。
それとももしかして、もしかしたら、サンチョが。
ほとんど小走りになって進む私の手をそれでも離さずに、ヘンリーも着いてきます。
橋を渡って武器屋の前を抜け、遠目には変わらないように見える我が家が見えて。
完全に走り出したところでヘンリーの手が外れて、一人で家の前に着いて、扉に手を掛けて。
ガチッと錠のひっかかる音がして、扉は、開きませんでした。
「……そりゃ、そうか」
村が無事で、罪人扱いはされてなくても。
それならパパンが死んだことは、王様がちゃんと伝えてくれただろうから。
私も死んだと思われてる以上、サンチョが一人でここに残る理由なんて、どこにも無くて。
最後の義務を果たしに、国に戻ったに決まってる。
事実を確認して少し冷静になって家をよく眺めると、荒れているというほどでは無くても、サンチョが手入れしていた花壇に花は無く、窓の鎧戸が閉められて、今も人が住んでいる様子はどこにも見当たりません。
溜め息を吐いて振り返ると、馬車を引いたヘンリーが追い付いてきてました。
「ヘンリー。ごめんね、置いてきちゃって」
「いいよ、謝らなくて。……サンチョさん。やっぱり、いないのか」
「うん。そうみたい」
「そうか。……このまま、洞窟に行くか?それとも少し、休むか」
「大丈夫。行こう、このまま」
話していると、遠くから呼び掛けられました。
「もし。この家に、なにかご用ですか?」
少しの警戒を含む女性の声に、しまった怪しかったか、と少し反省して、そちらに向き直ります。
「すみません。……古い、知り合いの家で。今も、住んでいるならと思いまして」
嘘を吐く理由は無いけど、冷静に説明できる気もしなくて、ギリギリ嘘では無いようなことを、なんとか微笑みながら言うと。
十年前は見習いになりたてで、まだ少女の域を出ていなかった、今ではすっかり大人の女性になった村のシスターがそこにいて、ぽっと顔を赤らめて。
うん、いま男装中だからね、私。
多少怪しかろうが、そりゃあシスターだって赤くもなるよ、無理も無い。
「そうでしたか。……ご存知かもしれませんけど、この家の方は……」
頬を赤らめながらも神妙な顔で言い淀むシスターに、この流れなら言えそうだと思い。
「はい。知ってます。私も、ここに住んでましたから」
シスターが驚きも露に、顔を赤らめることも忘れて、まじまじと私の顔を見詰めます。
「ここに、って……。あなたは、まさか……。いえ、そんなはずは……。そもそも、男の子では無かったし……」
すみません。
余計な混乱を招いて、本当にすみません。
でも、こちらにも事情というものが!
だから言ったのに的なヘンリーの視線はキレイに受け流し、シスターに事情を説明します。
「女の身だと、色々と不都合があるので。こんな格好ですけど、私です。ドーラです。お久し振りです、シスター」
「……本当に?ドーラちゃん、なの?」
「はい。本当に」
「……ええ、面影があるわ。本当に、よく、生きて……。立ち話も何だわ。教会に、きてちょうだい?お話を、聞かせてくれないかしら」
「はい」
と、いうことで、馬車はその辺に停めておくことにして、身軽になってシスターに連れられ、教会に向かいます。
教会に来ていた村人や神父さんにまたひとしきり驚かれ、ついでだからみなさんに説明してしまうか、と思っていると、あれよあれよという間に人が集まり。
村中から集まってきたレベルで、村人が大集合してしまいました。
「ドーラちゃん!まさか、生きてたなんて!驚いたけど、本当に良かったよ!」
「すっかり綺麗になっちゃって!なんでまた男の格好なんかしてるのかね、勿体無い」
「いや、わかるよ。こんなに綺麗になっちゃって、旅なんかしてるんじゃ。大変なんだろ、男に言い寄られて」
「そうは言ってもねえ。やっぱり勿体無いよ、ホントに」
説明どころでは無い。
久しぶりに帰った実家で、親戚のみなさんに囲まれてネタにされる若者みたいになってるんですけど。
ほぼ、そのままですけど。
「……ところで。そっちの兄さんは、なんだい?……まさか、とは思うけど……」
一人のおじさんが話を振ったのをきっかけに、ヘンリーにやけに冷たい視線が集中します。
……えーと、なんですか?
なんでみんなして、娘が連れてきた男を見定める父親のような感じになってるの?
……とりあえず、紹介するか。
「この人は、ヘンリー。一緒に拐われて、十年一緒に奴隷をやってました。恋人とかそういうのでは無いです」
私の言葉に、一気にざわめきが起こります。
「ちょっと、ドーラちゃん……」
「そんな、はっきり言っちゃ可哀想だろ!いくらなんでも」
「オレたちとしちゃ、ひと安心だけども」
え、そっち?
そっちに食い付くの?
「恋人でも無いのに一緒に旅してるってのも、どうなんだ」
「そうだよ、若い男女が二人っきりで、間違いでもあったらどうする」
「でも女の子の一人旅ってのも、それはそれで」
話がおかしくなってきた。
でも、そうだよね。
普通そう思うよね。
でもみんなは知らないけど、ヘンリーはみんなの命の恩人であるわけだし。
あんまり認められすぎても困るけど、適度にフォローしてみるか。
「あの、みなさん」
「ドーラちゃん。ちょっとオレたちで、こっちのヘンリーさんに、話があるから。シスターさんと、奥で待っててくれるかい?」
遮られた。
そして、追い出しにかかられた。
えーと、みなさん?
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