戦国異伝
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第百三十七話 虎口を脱しその十三
「今度はな」
「そうされますか、次は」
「次の戦に備えますか」
「義兄上は必ずすぐに来られる」
大軍を率いてだというのだ。
「その軍を迎える」
「では朝倉殿ともお話して」
「そしてですな」
「次で勝たねばな」
どうしてもだというのだ。
「我等は滅ぶ」
「ではこの戦以上にですか」
「次の戦では」
「勝たねばな、そしてじゃ」
長政はさらに言う。
「織田家の十万の大軍に勝つには」
「それにはですか」
「やはりですな」
「義兄上の御首を貰い受けるしかない」
それしか、だというのだ。
「我等が生き残るのにはな」
「あの、殿」
ここで家老の一人が言ってきた、怪訝な顔で。
「今ならまだ間に合うのでは」
「頭を下げてか」
「はい、右大臣殿はお市様の兄上ですし」
だからだというのだ。
「その縁もあります、確かに裏切りましたが」
「しかも殿は直接裏切られてはいません」
「大殿が決められたことです」
「殿はそれに従っただけです」
「それでどうして」
「言うな」
長政はあえて言葉を短くさせて家臣達に返した。
「そのことはな」
「ですか」
「では」
「父上には父上のお考えがある」
だから言うなと言うのだ、彼等が自分のことを思って言っているのはわかる、しかし父のことを言うことはというのだ。
「だからだ」
「申し訳ありません、では」
「これ以上は」
「覆水盆に返らずじゃ」
長政はこの言葉を出した。
「してしまったことはもう戻らぬ」
「では殿はこのまま」
「次の戦にも出陣されますか」
「そうする、そしてじゃ」
そのうえでだというのだ。
「何としても勝つ」
「それが浅井家の生きる道ですな」
「それしかありませぬか」
「うむ、ない」
まさにだというのだ。
「義兄上の御首を手に入れるぞ」
「次こそは」
「何があろうとも」
家臣の者達も長政に応えはする、だがだった。
長政は誰よりもわかっていた、それがどれだけ困難であるのかを。それで彼は既に命を捨てて今は小谷城に戻るのだった。
第百三十七話 完
2013・5・17
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