魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter30「師の想い、弟子の焦り」
風呂上がりに、夜風に当たりたかったルドガーは外のベンチに腰掛け、ミッドチルダで初めてアルコールを口にする。
色々な事があったことで蓄積した疲労も、アルコールを摂取すれば、少しは忘れられる。
やはり酒は偉大な飲み物だと実感してしまう。
「よぉ、こんなところで1人寂しく飲み会か?」
背後の林から1人の男が近づいてくる。横目で確認し、振り替える事なくルドガーは相手に話し掛ける。
「今日のクルスニクレストランは店じまいしたんでね……今は自分へのご褒美タイム中だよ、ヴァイちゃん」
「クルスニクレストランって何だよ?てかヴァイちゃんって……うぉ」
背後にいるヴァイスに持ってきていた1つの酒缶を投げ渡す。
「飲めよ。久しぶりに誰かと飲んでみたくなった」
「そいつは奇遇だな。ちょうど俺も一杯やりたかったとこだったんだ」
ヴァイスはベンチの背ずりに腰掛け、ルドガーから貰った酒缶のプルタブを空け、喉にアルコールを流し込む。
「くぅ~!いいよな、この喉越し!どんなクソ嫌な事でも飲んでる時は忘れられるんだよな」
「そうだな。飲み過ぎは禁物だけど」
「オタク、けっこうイケる口?」
「普通だよ。仲間には酒に強いのに、焼酎一杯飲んで語尾にニャがもれなくついてくる奴がいたけどな」
「あー、たまにいるよなそーゆう体質の奴」
どんな酒が好みか、タイプの女性の話し、女性の前では決して口にできない話し。
女性の比率が高い六課では中々語れない事で2人は酒を飲みつつ、語り合う。
まるでアルヴィンやガイアス達と接しているような感覚に、ルドガーは自然と懐かしさを感じてしまっていた。
「なぁ……ティアナの事どう思う?」
「ティアナのスリーサイズか?アイツ同年代の中でもスタイル抜群だよなぁ。胸は大きさは普通だけど形は張りがあって……というか六課女性陣は皆レベルが---」
「真面目な話しを聞いてるんだよ。ていうかオマエ、ティアナの事そんな目で見てたんだな」
自分にとって弟子のような存在であるティアナに、ヴァイスの色目を使った言葉に軽蔑の目を向ける。さすがに空気を読めていなかったと思い、軽く謝罪すると、ヴァイスは自分のティアナを見て感じた感想を話し出す。
「ルドガーオマエ、ティアナの兄貴の事は知ってるか?」
「……ああ」
「本当、ヒデー話しだよな。役に立たない局員は死んだ方がマシだって?ハッ、俺かりゃすりゃ、人をゴミクズ扱いする奴の方こそ、一遍死んでもらった方が、管理局の……いや、世界のためになると思うぜ」
吐き捨てるようにヴァイスは話す。
「今日のアイツの失敗……きっと強くなりたいあまりに、先走ったんだろうな」
「自分の力の証明……兄の意志を継ぎ、彼が無能なんかじゃない事をティアナは証明したいんだ」
「流石お師匠さん。アイツの事よくわかってるじゃないか」
「全てわかってる訳じゃない……でも、アイツの気持ちを少しは共有する事はできる」
手にある酒を一気に飲み干す。
「俺はよぉ、アイツは十分優秀だと思ってるぜ。けど、肝心なティアナが妙に自分を卑屈してる。それで何か大切な事を今、見失いかけてるじゃないか?」
「それは何なんだ?」
「そこまでは俺もわからねーよ。でもよ……」
手に持つ空になった空缶を数メートル先のゴミ箱に投げ入れる。
だが空缶は惜しくもゴミ箱の縁にあたり、中には入らなかった。
舌打ちをしながらヴァイスは外れた空缶を捨てなおしに動き始める。
「誰だって後悔したくないだろう……テメーの力が及ばなくて、大事なもん失うのは身を削られるような痛みだからな」
「……そうだな」
ヴァイスの指す痛みはルドガー自身がよく一番わかる。
大切なものを守るには、他の何かを犠牲にしなけばならい。……時に自分さえも。
「どこ行くんだよ?」
ベンチから立ち上がり、歩き出したルドガーをヴァイスが呼び止める。
「ティアナのところだ。何となくアイツ、無茶してるんじゃないかって思ったんだ」
「……へぇ…よくわかったな」
「どういうことだ?」
「ティアナの奴は、この奥林ん中で、1人自主練してるぜ」
言われた林を見る。言われて気付いたが、林の奥から人の気配を感じられる。
口にはしないが、何故ティアナを止めなかったとヴァイスを軽く睨む。
「言っとくが俺は止めたぞ?だがありゃ、人の話しを素直に聞くとは思えねーぞ?」
「はぁ……とりあえず、情報提供感謝」
酔い醒まし用に持ってきた水の入ったペットボトルだけ持ち、残りの酒は全てヴァイスに譲り、林の奥へとルドガーは消えていった。
「かぁ~羨ましいぜ……曇りなんて1つもないアイツの目……ホント……」
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林の奥を暫く歩いていると、小規模の広場を見つける。その中心では両膝に手を着け、息切れしているティアナが立っている。
「よう、休暇か?」
「!ルドガーさん……」
ルドガーに話し掛けられ、彼が近くにいた事に始めて気付く。
ティアナの前まで行き、手を掴み水の入ったペットボトルを持たせる。
「飲めよ。どうぜ飯も食ってないんだろ?後で軽く軽食作ってやるから今はそれで我慢しろよ」
「……ありがとうございます」
渡された水を口に流し、飲む。
「うっ、ゲホッ!」
「お、おい……そんなに慌て飲むからだ」
ヤレヤレと思いながらもティアナの背中を擦る。
だがティアナは大丈夫だと言いルドガーから少し離れる。
その顔は何故か少し赤い。
(ルドガーさん、お願いだからこっち来ないで!任務から今までシャワー浴びてないから汗とか匂いが……うぅ)
どうやら女性としての恥じらいからのようだ。とっさに近づいてほしくないあまり、きつめの目を向けてしまう。
(あ、あれ?ご機嫌斜めなのか?)
事情をしらないルドガーが今のティアナを見れば、にらまれているとしか思えない。
それでもルドガーはティアナに話し掛ける。
「……もう今日はやめろ。いい加減体力も限界だろ?」
「やっぱり…止めに来たんですね」
「当たり前だ。オマエ達前線メンバーには休むよう指示が出ていたろ。休むことも立派な訓練だ」
「ご忠告感謝します。でも私はまだ大丈夫です。私は強くならなきゃならないんです」
それだけを告げると、射撃の構えを取りトレーニングを再開する。
どうしたものかと悩むルドガーだったが、こちらから始めなければ何も始まらない。
「……そんなに、今の訓練内容が不満なのか?」
「!?」
ティアナの背中が驚いたように一瞬震え、ティアナはルドガーを見る。
ここに来るまでにルドガーは考えていた。ティアナの今日の行動全ての根幹は兄の事から来ているのはそうなのかもしれないが、発端は違う事から来たのではという推測だ。
その発端になったものが何のかまではわからなかったが、今のティアナの姿を見て確信した。
「そんな事は……」
「否定はさせない。今のオマエの行動と言動を見ればはそうとしか取れない」
そこでティアナは初めてルドガーの方へ振り替える。
「そうですね……私は確かに不満を持っています。なのはさんの教導方針と私自身に」
ティアナは胸の内に秘めた思いを静かに吐き出す。
「私はスバルやエリオほどの才能もなければ、キャロの様なレアスキルも持っていません。ルドガーさんやなのはさん達のように強くありません!……凡人の私は人一倍…いえ、それ以上の努力をしなきゃいけないんです!」
「……俺は、強くなんてない」
あくまでも自分は強くないと否定するルドガー。だが逆にそれはティアナの感情を高ぶらせていく。
「……残酷ですね、ルドガーさん」
「残酷だって?」
そしてついに高ぶる感情を抑えきれず、言動に激しさが表れ出す。
「嫌みにしか聞こえないって言ってるんです!貴方は隊長達と同等の実力を持っている上さらに、骸殻という自分の能力を上げるスキル持っている!自分は強くない?あはは……馬鹿にするのも大概にしてください!」
「……わかっていない……いや、見ようとしていないんだ。お前はまだ、小手先の力しか信じていない。それは本当の強さなんかじゃない」
感情のままに自分の気持ちを叫ぶティアナにルドガーは落ち着いた口調で諭す。
この歳のティアナにはわからなくて当然のことかもしれない。
だが、彼女の選んだ世界ではそれは必要不可欠なこと。
ルドガーは彼女自身に気付いてもらいたいのだ。
「オマエの言う強さは、その手にある銃の腕や、力の強さのことだろ?確かにそれも大切なことだろう……けどな」
ルドガーは両手を平広げ見つめ、かつての戦いを振り替える。
もしエルに出会わなかったら、とっくにルドガーの時間は止まっていたかもしれない。
彼女の存在があったからルドガーは審判を超える事はできた。
「どんなに強い力を持っていても、大切なものを守ることができなければ、それは強いなんて言えない」
「まるで大切なものを失ったことがあるような物言いですね」
「俺は……」
「貴方の言っている事はただの綺麗事です!天才に私の気持ちがわかるものか!それに本当に何かを失った事がある人なら私の言っている事だってわかるはずですよ!」
「………」
これ以上ないほどに自分の心情をルドガーへぶつける。そして気付いた時には感情的になっていた事に気付き、しまったと後悔する。
「ル、ルド---」
「……いいんだ。今やっとティアナの本音を聞けた気がした。お前、俺にどこか距離を置いてるとこあるからなぁ。少しショックだったぞ?」
「えっ?」
怒られると身構えていたティアナだったが、逆に彼女の本音が聞けて良かったと語るルドガーに拍子抜けてしまう。
「とりあえず今日はもう休め。無理していざ出動って時にくたばってしまったら、あの豆狸の専用逆胸部マッサージ機にされるかもな」
ルドガーは笑い話にしているが、ティアナからすれば笑い事ではない。
二度となんな恥辱など味わいたくなどない。
「ほら、行くぞ」
「あっ……」
頭に思い浮かんだ苦い記憶を必死に払拭しているティアナの手をルドガーが引く。
「あの……ル、ルドガーさん……」
「リクエストを聞くぞ?」
「へ?」
「夜食のリクエストだよ。好きな物なんでも作ってやる」
そういえば、ルドガーが夜食を作くると言っていたなとティアナは思い出す。
しかし、ルドガーの食堂での勤務時間は既に終わっており、ティアナとしては彼に頼みづらいところ。
「悪いですよ、そんな。今日はもう簡単にスポーツドリンクで---」
「スポーツドリンクで済ますなんて言ったら、明日の朝飯はサイダー飯・特で確定な?」
「…………」
サイダー飯と聞いてあからさまに嫌な顔をするティアナ。
サイダー飯。
ルドガーが六課食堂に働き始めてからできた、食堂の裏メニュー。
ご飯でサイダー特有のシュワシュワ感を味わえる新しい食感に対して実際に食する人間からは賛否両論の声がでており、ティアナはどちらかと言うと食べたくはなかった。
「わかりました……」
あんな砂糖飯、二度と口にするなんて御免こうむる。
あれが旨いと絶賛していたスバルの味覚が本当に不思議に思えて仕方ない。
結局林からティアナはルドガーに連れられ渋々食堂に向う事なってしまった。
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トントントン、と一定感覚でまな板の上で音を鳴らす。
調理人は切ったほうれん草を沸かしたお湯の中にサッと入れ、茹で上がったほうれん草を冷水につけ、水を絞り、半分の長さに切り次の作業に入る。
冷蔵庫からメインデッシュとなる鮭を取出し、包装を外すと鮭の両面に塩をふり、5分ほどおく。
時間が経つと、水分をよく拭き取った鮭を、待ち時間の間にサラダ油を入れ少々熱したフライパンで焼く。ジュワーと油の勢い良く弾ける音と、香ばしい香りが厨房に広がる。
その香りは食堂から調理人を見ていたティアナの下にも行き渡っていた。
(凄く良い匂い……)
鼻腔に入る鮭の香ばしい香りにティアナは、彼女の意思とは関係なくお腹が鳴ってしまうが、漂う香りを楽しんでいるあまり耳に入らない。
そして手慣れた手つきで調理する調理人を見て、やはり自分の師---ルドガーは何でもこなせる達人に思えて仕方ない。
半ば強制的に連れられては来たが、見ていればやはり女としてこの彼の料理の腕前は、羨ましいもの。また尊敬していると同時に、女として何かが負けている気がするのは気のせいではないのだろう。
「お待たせいたしました。サーモンのチーズ焼きでございます」
料理を乗せたトレイ片手に、ウェイター口調でそれらしい振舞いで現れたルドガーは、テーブルに運んだ皿をそっと置く。
「いかがでしょうか?お嬢様?」
「あの、それはいったい何のマネなんですか?」
一度やってみたかったんだと、笑いながら話したルドガーは席につくと、食べろとティアナに促す。
ナイフとフォークを手に取り、改めて皿の上にある料理を見る。いい具合に焦げ目が付いた鮭。
その上に広がるチーズは、鮮やかな黄金色の輝きを放っており、この光景にティアナは目を奪われ、なかなか手が出せそうにないでいたが、やっと手をつける。
鮭の一部を切り取り、口に運ぶ。
瞬間、少女の顔が驚きのものへと変化し、自分が口にした料理に目を向ける。
美味しい。
今まで魚料理は何度も食べた事があるが、ルドガーの作ったサーモンのチーズ焼きはその中でも別格の味わいだ。ただ夜食を食べるだけだと思っていたティアナは、自分は今六課の食堂ではなく、料理の鉄人の高級レストランに来てしまったのではと、錯覚をしてしまっていた。
「お口に合ったかな?」
「はい!凄く美味しいです!」
口直しの丸パンの乗った皿と、水の入ったグラスを置くルドガーからの料理の感想を尋ねられ、一旦食べるのをやめ感想を答える。
「でも鮭を使ったメニューってここの食堂にありませんでしたよね?」
「新メニューだよ。使ってる食材も六課に届けられるものじゃなくて、俺がクラナガンで仕入れたものを使ってる」
先日六課の厨房スタッフは、新たな料理をメニューに加えるためミーティングを行った。
しかもこれはただ話し合うだけでなく、実際に幾つかの料理を作り、スタッフが試食しながら意見を出し合うものだった。
しかし結局これといった案もでる事もなくミーティングは終わってしまい、後日また行われるミーティングまでにスタッフはそれぞれ新メニューを考える事になったのだ。
「新メニューは一発で完成はしないからな。それに試食用の料理を作るのに六課の食材は使えない」
「ってことは食材費は……」
「もちろん自腹だ」
「だ、大丈夫なんですか?大分値段の高い食材使ってますけど……お金とか」
「ん?」
ティアナの言葉で意外そうな顔になるルドガーだが、そぐに何か面白い事を知ったのか笑いだしていた。
「そうか、そうか……はっはっ」
「何か私、変なこと言いました?」
「いや、そうじゃなくてな……嬉しくてさ」
嬉しいと話した事で、更にティアナはルドガーが何を考えているかわからなくなってしまった。
僅かに間を置くと、ルドガーはその答えを告げる。
「ティアナ。もう一度聞くが、その鮭のチーズ焼きは美味いか?」
「え?えぇ、はい……今まで食べてきた魚料理の中で間違いなく一番美味しかったです」
「お前さっき、この料理の食材は値段の高い食材が使われているんじゃって言ってたな?」
「はい……それが何か?」
ルドガーはワイシャツのポケットから一枚の折りたたんだチラシを取出し、ティアナに渡す。
渡されたチラシを広げて見るが、ルドガーが自分に何を伝えたいのか理解できない。
「実はその鮭、そのチラシのスーパーで買ったものなんだ」
ティアナの表情が再び驚きのものに変わった。
調理した本人が言うからには間違いだろうが、だがやはりこれだけの高級感溢れる料理がスーパーの、それもチラシを見るからには、鮭は安売りセールのもののようだ。
「料理の味を決めるのは、料理人の下準備と食材を生かせる技能……もちろん食材はいいに越したことはないが、腕の立つ料理人は食材を選ばなくても、人が心から幸せになれる料理を作る事ができる」
「それって……!」
言いかけてティアナはルドガーの伝えたい事を理解した。
食材とはすなわち、自分自身の持つ素質でその食材の良さを表現できるかで、“味”が決まる。
これは自分達の訓練でも通じること。
市民の平和と笑顔を守る為には自分自身を鍛え努力しなければならない。
そして更に自身を高めるに必須なものがあるのだ。
「俺は自分の力を信じている。料理に限らず…な」
「料理でも戦いでも、ルドガーさんは自分の力を信じているんですね?」
「ティアナだってそうだろ?じゃなきゃ、今日のあの誤射は起きなかったんじゃないか?」
「あっ……」
ホテル・アグスタでティアナは、自分と兄の力を証明しようとシャーリー達の制止を無視して、無茶やった挙げ句スバルを危うく撃墜するところだった。あれは自分の銃技ならガジェットを撃ち落とせるという自信があったから起きた事だった。
「あのルドガーさん。力って何なんでしょうか?」
「随分哲学的なことをまた……さぁな?その答えは自分で見つけるしかないんじゃないか?」
「……そう…ですよね」
自分にとって無敵とも言える力を持つ1人のルドガーなら、強さの意味について答えてくれるのではと期待していた。
だがルドガーから返ってきた答えは、期待していたものと違っていて思わず気を落としてしまう。
「どうした?期待していた答えが返って来なくて、失望したか?」
「そ、そんなんじゃありません……ただ……」
ほんの少し図星を言い当てられる。
上手く誤魔化そうとするがルドガーに通用したかはわからない。
が、自分の本音を相談するにはまたとない機会だと思い、心中を吐露する。
「もう今日のような失敗は二度としたくはありません……だから、ひたすら努力して、もっと強くなってみせます」
「そうか……期待はするけど、無茶だけはするなよ?」
失敗から学び、新たに目標を見定める事で、自身が迷っている事の意味を知ってもらいたい。
もっと気のきいた言葉を掛けるべきなのかもしれないが、上手い言葉が思いつかない。
口下手な自分が今になって情けなく思えてくる。
「大丈夫です。もう、失敗はしませんから」
食事を終え、テーブルの上にある食器類を片付けると、食事を作った本人であるルドガーに礼を告げ、ティアナは食堂を後にする。その後ろ姿をただ見つめる。
「……失敗はしない…か……」
数えきれない失敗をルドガーは犯してきた。
その失敗の殆どを思い返せば、自分が決して強い人間だと思う事はできない。
だがその失敗があるから今の自分はここに居る。
今だから言える事なのだが、失敗は決して恥ずべき事ではない事を今のティアナに知ってほしいとルドガーは願っていた。
その翌日からだ。
ティアナとスバル、スターズコンビがより訓練に熱を入れ始めたのは。
汗水垂らし、胃の中のものをぶちまけ、ボロボロになりながらも必死に訓練に励む2人。
何よりティアナはより強い意志をその目に宿しているように見えた。
しかしまだルドガーはティアナの事が心配だった。
自分との会話で彼女が"何か"を得る事ができたのならそれでいい。
だがもしそれが間違ったものだったら?
(いや……俺はティアナを信じる)
そう決めたんだ。なのはにティアナを預かったあの日から。
そしてもし生徒が道に迷った時は、自分が手を差し伸べ導いて最後は一緒に笑い合う。
″彼方の喜びを此方の喜びとせよ″
かつてローエンから聞かされた、エレンピオスの思想家ブラッドベリの代表作『幸福の知性』の有名なフレーズを思い出す。
誰かの笑顔で自分も笑顔になれるというのは些か綺麗すぎるような気もするが、決して悪くない。
今ティアナが思い悩んでいるわだかまりが解決したら、きっと2人で笑い合える。
今はこの場にはいないティアナの事を考えながら、ルドガーはそんな希望が頭に思い浮かぶのだった。
後書き
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