| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

変わった鯨

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章

「何かいたぞ」
「何か?」
「ああ、何かな」
「何かって何だ」
「いや、黒く丸いものが見えたんだよ」
「魚か海豚じゃないのか?」
 トムもその海を見てこう返した。
「そんなの幾らでもいるだろ」
「それか?」
「それか鯨かな」
 そうしたものではないかというのだ。
「まあどっちにしても大したものじゃないだろ」
「そうか」
「ああ、まあ海ばかり見ても面白くないしな」
 トムはそれはそれでと言うのだった。
「何か見てみるか?」
「そうするか。どうせ暇だしな」
「セブンブリッジばかりでも飽きるしな」
 むしろ飽きていた、それでだった。
 その海に見えたものが何か二人で確かめることにした、ウィリアムは船のすぐ右手を指し示してトムに教えた。
「あそこにいたんだよ」
「あそこか」
「ああ、ちょっと浮かんでたんだよ」
「今はないな」
 トムは海にじっと目を凝らした、しかし今は何も見えない。
「それはな」
「ああ、そうだな」
「まあどうせ鯨か何かだろ」
 トムは自分の考えを述べる。
「この船は軍艦だ、捕鯨船じゃないからな」
「鯨でも何も出来ないな」
「見るだけだ、鯨は捕鯨船に任せておこうな」
「そうするしかないからな」
 二人は海を見下ろしながらこう話した、しかし。
 そうした暇潰しも兼ねた話をしているとだ、その海の上に。
 あるものが出て来た、それはウィリアムの言う通り黒いものだった。
 しかしただの黒いものではなかった、それは。
 丸く大きくそこに目と口があった、それに。
 首の後ろには鬣があり身体は大きく細長い、それが船と並行して泳いでいたのだ。
 トムはそこまで見てこう言った。
「おい、あれはまさかな」
「ああ、シーサーペントだよな」
 ウィリアムもそれを見ながら応える。
「間違いなくな」
「そうだよな、あれは」
「おい、皆呼べよ」
 ウィリアムは我が目を疑いつつもトムに言った。
「シーサーペントがいるぞ」
「そうだな、すぐにな」
 トムも彼の言葉に応える、そうしてだった。
 すぐに水兵達だけでなく下士官、それに士官達も呼ばれた。彼等は船の淵に集まってそのうえで凝視した。
 そして年配の士官がこう言った。
「間違いないな、どう見ても」
「はい、シーサーペントですね」
「あれは」
「ああ、絶対にな」
 ウィリアムとトムにも答える。
「あれはな」
「このことはだ」
 艦長もいた、彼もまた来ていた。
 船の責任者である彼もこう言ったのである。
「航海日誌に書いておくぞ」
「そうされますか」
「日誌にも」
「間違いなくこの目で見た」 
 艦長はまず己の目で見たことから述べた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧