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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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14部分:第十四章


第十四章

「やはりこれですか」
 速水はカードの中で誘うように笑う悪魔を見て呟く。沙耶香もそれを見ている。
「わかってはいても」
「やはり魔人なのね」
 沙耶香もそれを見て納得した顔になっていた。
「あの殺し方は。人ではないとは思ったけれど」
「その魔人の居場所ですが」
「別に探す必要はないわ」
 沙耶香は静かな声で述べてきた。
「別にね」
「ないですか」
「ええ。あちらから近付いて来るでしょうね」
 そのブラックルビーの目を静かに輝かせて言う。黒い光が黄昏ていく雪の街の中に映える。まるでその光で暗くなろうとする街の全てを見るように。
「魔性は魔性を呼ぶものだから」
「魔性をですか」
「そうではなくて?」
 速水に問い返す。
「魔性というものは。お互いを呼び合うもの」
「それは貴女が呼び寄せるということですか?」
「私だけとは限らないわよ」
 しかし妖しい笑みをまた浮かべる。
「貴方もまた」
「おや、私もですか」
 速水はその言葉を聞いてその右目を細めさせてきた。まんざらでもないといったふうである。
「これは意外ですね」
「そうは見えないけれど」
 また笑って返す。楽しそうに。
「貴方も私も。この世にいてこの世とはまた違った世界にいる者だから」
「ふふふ」
 その言葉に答えずに笑みを返す。
「そうした存在は同じ存在を呼ぶ。魔性の存在を」
「我々はお互いを呼び合う」
「違うかしら。実際に感じていると思うけれど」
「確かに」
 漆黒の髪に隠れて見えない左目が光った。黄金色の光が漆黒の絹の奥から見える。それは沙耶香のブラックルビーの光と同じ妖しい輝きであった。
「この目が教えてくれています」
 その左目の前に自分の左手をかざして言う。
「近付いているようです」
「そうね。来ているわ」
「さて、一体何が出て来るか」
 速水は面白そうに笑って呟いた。
「楽しみではあります」
「楽しみなのね」
「出会いは誰とであれ楽しいものではないですか」
 沙耶香に対して述べた。声もまた笑みを含ませていた。
「違いますか?」
「そうね。できれば今は可愛らしい女の子がいいのだけれど」
「おや、そちらですか」
 その言葉を聞いてまた笑う。
「女の子ですか。また」
「肌、いえ唇が求めているのよ」
 目を細めて唇に左手人差し指の腹の部分を当てて述べる。
「女の子をね」
「そうですか。ですが今は」
「残念だけれど遊んでいる時間はないみたいね」
「はい。では参りましょう」
 また沙耶香に声をかける。
「舞台へ」
「ええ」
 二人はそのまま何処かへと姿を消す。そうして夜になると札幌地下街に出た。もう店は全て閉まり誰もいない筈の場所だ。真っ暗闇でシャッターだけが左右にあるコンクリートの世界に二人の足音だけが響く。
 地下鉄大通駅とススキノ駅を結ぶこの地下街のオーロラタウンと呼ばれる場所に今いた。昼も夜も賑やかな筈のこの場所も流石に誰もが眠るこの時間では静かなものだった。そこを二人は静かに進んでいたのだ。
 その彼等の前に人影が一つ浮かび上がってきた。それは少しずつ大きくなりやがて人と同じ大きさになった。一見するとそれは普通の人であった。
「ふうん、面白い人達だね」
 白い上着にズボン、コート、靴といった服であった。全てが白で覆われた見栄えのする服であった。その服に身体を包み込んでいるのは黒く縮れた髪に黒檀の目を持ち無邪気な笑みを浮かべる若者であった。眉は太く彫もいささか深い顔をしている。その彼がゆっくりと二人の前に姿を現わしてきたのだ。
「僕に似てるね、雰囲気が」
「だから会ったのよ」
 沙耶香が彼に言う。
「ここでね。きっと会えると思っていたわ」
「僕も今日は面白い人達で会えると思っていたんだ」
 白衣の若者もそれに答える。首を傾げたり揺らしたりしていささか落ち着かない感じである。その動作は確かに子供じみている。しかしそれ以上に何か妖気を感じさせるものだった。

 
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