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中国的麺

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第四章

 妻の晴日はその夫に心配する顔でこう言ったのだった。
「ちょっと、それやったら」
「いいだろ、これでどの麺が一番美味いかわかるんだぞ」
「そうはならないんじゃないかしら」
 こう言うのだった。
「もっと酷いことになるわよ」
「もっと?」
「そう、もっとよ」 
 そうなるのではないかといのだ。
「収拾がつかなくなる騒ぎにね」
「まさか、そうはならないだろ」
 夫は妻に楽観している声で返した。
「どれが一番美味いかランキングでわかれば皆納得するだろ」
「どの地域の拉麺が一番美味しいかよね」
「ああ、ついでだからもう中国全土にしような」
 風呂敷も拡げた、しかも大胆に。
「折角だからな」
「漢民族の場所だけじゃないのね」
「当たり前だろ、中国は世界一人口が多いんだぞ」
 しかもである、ただ多いだけではないのだ。
「漢民族だって何種類もの拉麺があってな」
「それぞれの民族で、っていうのね」
「そうだよ。満州なり苗なりでな」
 実は店にはそうした所謂少数民族が食べている麺も揃えている。張も晴日もそうした麺まで勉強しているのだ。
 だからだ、彼はこう言ったのだ。
「それぞれの拉麺があるからな」
「そうした拉麺もランキングに入れるのね」
「じゃあいいだろ、やるなら大きくやるぞ」
 張の性格からもそうせずにはいられなかった、だからこそ店にあらゆる麺も揃えているのである。
「うちの店らしくな、店のサイトでランキングを設けて中国各地からも票を募集するぞ」
「どうなっても知らないわよ」
 妻はこう言うだけだった、そして。
 張は実際にランキングをはじめた、すると実際に中国全土から票が来た。
 北京がいい、上海がいい、広東がだとだ。皆意見も主張する。
 店でもだ、客達は喧々諤々で食べながら言い合った。
「上海が一番だよ!」
「いや、長沙だよ!」
「河南知らないだろ!」
「違う違う、山東だ!」
 誰も一歩も引かない、店の至る場所で言い合っている。
 サイトでもだ、本当に漢民族だけではなかった。
「おい、朝鮮族の拉麺馬鹿にするな!」
「何っ、満州民族は満漢全席を考えだしたんだぞ!」
「ウイグルの麺知らないのかよ!」
「チベットでも麺はあるんだぞ!」
 民族問題、実際に中国ではあるがそれの如きだった。
「朝鮮民族の味を否定するか!」
「韓国料理と一緒だろうが!」
「そうだ、どう違うんだ!」
「辛拉麺でも食ってろ!インスタントのな!」
「インスタントラーメン馬鹿にするな!」
 普通の拉麺派だけではなかった、遂にはインスタントラーメン派まで参戦してきた。中国ではインスタントラーメンも大人気なのだ。
 それでだ、インスタント派もだった。
「この企業のがいい!」
「いや、この企業のもだ!」
「普通の拉麺なんてめじゃねえぞ!」
「そうだ、この店もインスタントやれ!」
「それじゃあインスタントラーメン屋になるだろ!」
「それでもいいだろ!」
「インスタントラーメンは毛沢東同志も絶賛したんだぞ!」
 歴史的に有り得ない主張まで出て来た。
「そのインスタントラーメンを否定するのか!」
「毛沢東同志の時にインスタントなんてあるか!」
「乾隆帝も食ってたぞ!」
「ちったら時代考証考えろ!清代だろうが!」
「岳飛や関羽もドラマで食ってたぞ!」
「どんなトンデモドラマだ!」
「嘘つけ嘘!」
 無茶苦茶な意見がサイトのランキングでの意見に書かれていった、最早そこを利用した議論になっていた。 
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