舞台神聖祝典劇パルジファル
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第一幕その九
第一幕その九
「御前は何も知らないのか?」
「知らないのかって?」
「言い換えれば何か知っているか?」
こう問うたのである。
「何か知っていることを言ってみるのだ」
「母さんの名前を」
それは知っているというのだ。
「知っている」
「ではその名前は何だ?」
「ヘルツェライデ」
この名前を出すのであった。
「そして僕は森の中や荒野で育った」
「ではその弓は誰に貰った」
「自分で作った」
そうだというのだ。
「これがあれば荒鷲達を森から追っ払える」
「そうして何も知らないまま育ったが」
グルネマンツはあらためて若者を見た。その彼は。
「品も悪くないし家柄もいいようだな」
「品?家柄?」
「御前の母は何故もっとましな弓矢を使わせなかったのか」
「この子を産んだ母は」
ここでだった。クンドリーが不意に顔をあげてきた。そうして若者を鋭い目で見ながら少しずつ話してきたのであった。
「父ガムレットが死んだ後だった」
「ガムレットか」
「知っているのか」
「名前は聞いたことがある」
それはグルネマンツも知っている者だった。
「名高い騎士だったな」
「だが死んでしまった」
「そうだったな」
静かに頷いて答えたグルネマンツだった。
「だがそれも神の御心だ」
「母は我が子が父の様に勇士になり死ぬことを恐れた」
そのヘルツェライデに関する話だった。
「そしてその為に」
「どうしたというのだ?」
「全ての武具を遠ざけた」
そうしたというのだ。
「人気のない荒野の中で愚か者になれと育てた」
「そしてか」
「そう。そうしてこの若者を育てたのだ」
「そうだった」
若者はここで思い出したようにして言葉を出してきた。
「僕はある時森の脇を見事な馬に乗った立派な人達が通り過ぎるのを見た」
「騎士達をだな」
また言う彼だった。
「それをか」
「僕もああした風になりたいと言うとその人達は笑顔を向けてくれた」
その時のことを思い出しながらの言葉だった。
「僕はその人達を追い掛けてここまで来た」
「この聖地にか」
「そうだ。ここに来た」
こうグルネマンツに話す。
「度々暗くなって明るくなった」
「夜と昼か」
「弓は獣や大男の為に使った」
「その通りだった」
クンドリーは完全に起き上がった。そのうえでグルネマンツを若者の間に来てそのうえでまたゆっくりと話すのであった。
「どんな獣も巨人も盗賊も」
「この愚か者は倒してきたのか」
「弓でも力でも適わなかった」
そうだったとグルネマンツに話すのだ。
「皆彼を恐れた」
「僕を恐れている」
これはパルジファルには思いも寄らないことだった。話を聞いても少し戸惑っていた。そうしてそのうえで言うのであった。
「誰が」
「悪人達が」
「それなら」
それを聞いてまた言う若者であった。やはり何も知らない顔である。
「僕が倒してきたのは悪人達だったのか」
「その通り」
「では善人は」
パルジファルはここでそれとは逆のことについて考えた。
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