八条学園怪異譚
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第四十話 開かずの間その四
「経理幹部としてな、勤務していた」
「そうだったんですか、おられたことはあったんですか」
「江田島には」
「勤務をしたことはあった」
こう二人に話す。
「その頃は生徒達の手前アイロンがけも靴磨きも徹底的にした」
「そうなんですね、制服も靴も」
「そこまで手入れされてたんですね」
「ああ、海軍将校って私達の頃は凄い人気があったのよ」
幽霊もここでまた二人に話してきた。
「アイドルみたいにね」
「そのお話は聞いたことがありますけれど」
「そんなに人気だったんですね」
「そうだったのよ、まあ昔の話だけれどね」
幽霊は日下部を見ながら二人に話す。
「私がまだ若かった頃はね」
「戦争前はですね」
「凄かったんですね」
「日下部さんとは同じ歳だけれど」
日下部は三年前に九十歳で死んでいる、そしてこの幽霊は十年前に八十三歳で死んでいる。確かに同じである。
「この人ももてたと思うわ」
「へえ、そうなんですか」
「日下部さんも」
二人はl日下部も見た、そして言うことは。
「もててたんですか」
「そうだったんですね」
「だからその話は止めてくれ」
日下部はこの話には困った顔で返した。
「どうもな」
「あっ、お嫌ですか?」
「そうなんですか」
二人もここで察した、それで言った。
「じゃあこれで止めます」
「そうしますので」
「そうしてくれると有り難い」
日下部は二人にあらためて言った。
「それでだが」
「はい、倉庫ですよね」
「今からそこにですよね」
「行くとしよう」
「倉庫ね、あそこはね」
幽霊もここで言う。
「開かないけれどね」
「開かないけれど?」
「何かあるんですか?」
「実はないのよ」
あっさりと衝撃の事実が話される。
「ただお掃除はしてないから。何十年もね」
「ああ、汚いんですね」
「それもかなりなんですね」
「埃だらけでね」
幽霊はその倉庫の状況も話した。
「それが積もりに積もってね」
「あまりいい場所じゃないですね」
「入るには、ですね」
「二人共綺麗好きなのね、身体があったらその汚さが気になるわね」
幽霊は魂だけだ、それでこう言ったのだった。
「だったら中に入るの止める?どうするの?」
「あっ、行きます」
「その為にここに来ましたから」
二人は幽霊にすぐに答えた。
「そうさせてもらいます」
「それで中に入ってみます」
「わかったわ、ただ扉はね」
肝心のそこはというと。
「開かないからね」
「ああ、開かずの間だからですね」
「それでなんですね」
「そう、けれどね」
確かに開かない、だがそれでもだというのだ。
「開け方はあるのよ」
「あれっ、開かずの間なのにですか」
「開け方があるんですか」
「そう、外からはいられるのよ」
そこからだというのだ。
「実は窓鍵がかかってないのよ」
「えっ、そうだったんですか」
「窓はですか」
「そう、鍵がかかっていないのよ」
今わかった衝撃の事実である。
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