舞台神聖祝典劇パルジファル
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第二幕その八
第二幕その八
「償えばそれでいい」
「けれど僕は」
若者は崩れ落ちたまま言った。
「何故母さんを忘れたんだ」
「御前の母をか」
「そう。何故忘れたんだ」
このことを嘆き悲しんでの言葉だった。
「何故なんだ、そして今思い出した」
「立つのよ」
クンドリーはその若者にまた告げた。
「立てばいいわ」
「立つ」
「そう、まずは立つ」
そうしろというのである。
「御前は今何を感じているのかしら」
「ぼんやりとした愚かさが」
まずはこう答える若者だった。
「僕の中にあることを」
「それをなのね」
「それが」
「懺悔をすれば罪は後悔となって消える」
母が今言うのはこのことだった。
「悟りが開ければ愚かさも分別に変わる」
「分別・・・・・・」
「愛というものを知るといい」
それをだというのだ。
「愛を」
「そう、愛を」
何時の前にか彼の前に来ていた。
「御前の母の愛が御前の父に注がれたその時に」
「その時に?」
「御前が生まれた」
その時にだというのだ。
「御前にその身体や命を授けてくれたのも愛であり」
「愛が」
「そう、それが」
まさにそれがだというのだ。
「愛に出会えば死も愚かさも逃げ出すより他はない」
「愛が」
「その愛が今日御前に捧げるものが」
それを捧げようというのだ。
「御前の母の祝福の最後の挨拶としてのおの愛の最初の口付けなのだから」
こう言ってそれで彼に顔を近付けてだ。そうして彼の唇に己の唇を押し付けた。そのうえで接吻をしたのであった。
長い接吻であった。それが終わったその時だった。若者は何もかもが変わったのであった。
そしてだ。表情を一変させてだ。彼は言った。
「パルジファル・・・・・・」
「名前を知ったのね」
「これが私の名前だな」
まさにそれだというのだ。
「私の名前だ」
「そして他には」
クンドリーは彼、パルジファルにさらに問うた。
「あるというの?」
「アムフォルタス王」
王の名前がだ。自然に彼の口から出たのだ。
「あの傷が私の心の中で燃えている。あの嘆き声が私の中で響いている」
「それを感じているのね」
「救われるべき人だ」
それが王なのだという。
「あの傷口から血が流れ出るのを私は見た」
「それを」
「それは傷口ではない。傷口なら流れ出ろ」
パルジファルが話す。
「心の中が火の様に燃え上がる」
「心で感じているのね」
「憧れ、私の五官全てを捉えて強いる憧れ。愛の苦しみ」
それを捉えての言葉だった。己の中でだ。
「私の身体が震えて慄く。罪深い欲望のうちに
そして言うのであった。
「眼差しが救いの聖杯を求める」
「するとどうなるの?」
「神々しくも和やかな救済の喜びを感じる」
「それをだというのね」
「そう、感じる」
まさにそれをだというのだ。
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