ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
つかの間の休息
俺が通路を抜けた時には既に他の面子は揃っていた。全員が薄汚れて(ゲツガは何があったのか血まみれだ)かなりの激闘だったと推測される。
「よお、どうしたんだゲツガ。ケガしたのか?」
「いや、返り血だ。……取りたいだが」
生憎誰も洗剤なんてアイテムは持っていない。そもそもSAOじゃ装備の汚れ(バットステータス扱いになるもの)は時間経過か、専用のアイテムで簡単に取れた。その《cloth》の属性を持つ筈の布アイテムでは落ちなかったらしい。
「うーん……」
ステータス異常は認められないらしいので放っておいても大丈夫だろうが、盛大に返り血を浴びたままにしておいて気にならない狂人は希少だ。それにゲツガも気持ち悪いだろう。
「洗ってみたらどうかな?」
「確かにそうだが、水がない。一応雲の上だぞ、ここ」
レンがもっともらしい意見を言うが、残念ながらここは地上ですらない。こんな石造りの建物が何で浮かんでいるのかは、多分《魔法》で片付けられる事項だ。ご都合主義ではない。
「…………そう言えば」
リンがふと思い立ったように呟いた。
「俺がこっちの世界に来る前は午後6時頃だったんだが、相対して今何時だ?」
「うん?……えっと体感で塔を昇り始めてから1時間と少し。目が覚めてからは大体……4時間ってとこだな」
聞けば全員が午後6時頃に鏡に吸い込まれたようだ。
そうすると体内時計では午後10時の筈だ…………
『グゥ~~~~』
時間を意識した途端、正直な腹の虫が抗議の音を鳴らした。
「「「「………………」」」」
行きずりのパーティーにしては会話が多かった4人だが、ここへ来て最長にして重い沈黙。そう、度々意識させられてきた『現実』で回避し難い、人間の生理的欲求。その名は《食欲》。
「……食材あればなぁ。俺、料理スキル取ってんだけど……」
ゲツガがメニューウィンドウをスクロールさせながらぼやく。念のため他の3人もウィンドウを開き、何かないか探すが何も無…………――――
「……ゲツガ、調理器具はあるのか?」
「ん?ああ。あるけど……何か、あったか?」
「……ああ、幸いな事にあった」
長期戦になることをアイツも予想してたんだろう。
……何で俺のとこのストレージに入れたのかは分からんが。
「中々に気が利くな。で、その食材は?」
「早く早く!肉?魚?……この際野菜でも……!!」
ああ、分かったよ、ヒースクリフ。アンタ、このタイミングで《コレ》を平然と出せるキャラは俺だけだと思ったのだろう。
そして多分それは正解だ。今度会ったらぶん殴るが、今回だけはアンタの策に嵌まってやる。
「今日の晩ごはんは………………蛙だ」
「「「…………は?」」」
ウィンドウのオブジェクト化をポチッと押す。どちゃ、と現れたのは……
「未知なる珍味。《スカベンジトードの肉》、だ」
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腹が減っては戦が出来ぬ。
昔の人々は上手いことを言ったものだ。一層の地下ダンジョンで入手したあの肉を俺は結局食べず仕舞いにゲームを終えた。
理由は料理スキルを取っていなかった、こんな時に頼りになるシェフは調理する事を断固拒否した等があげられるが、俺自身がキリトほど食の探求者でなかった事もある。
茶腹も一時、という言葉もある。
幸いな事にゲツガが持っていた道具で緑茶くらいは飲めるのだ。下手したら死にかねない食物を食べるよりかは良い。だが、近代の先人はこんな言葉も残している。『空腹は最高のソース』、と。
現在ゲツガは心底疑わしげな視線を肉焼き器にセットしたカエル肉に注いでいる。数は全部で4つ、1人1つずつだ。
「「「「………………」」」」
しばらくして焼きあがったものをそれぞれ手に持つと、見た目は実に美味そうなそれをじっと見つめる。熟練料理人のゲツガの焼いたそれは香ばしい匂いを放ち、生のときにした何とも言えぬ泥臭さは無い。
鶏肉のようにこんがり焼けた茶色の表面は薄暗いこの部屋でもしっかりと光沢がある。
だが、元がアレである。ガブリと行くのはかなり勇気が必要だ。
「……やっぱりここはせーの、でいくか」
「……まあ、焼いてしまったのは食べるしかないな」
「……ゲツガにーちゃん、信じてるよ」
「待て、もしもの時は俺のせいなのか!?」
神妙な空気の中俺達は徐々にブツと口の距離を縮めていき、やがて一斉にかぶりついた。
焼かれてもなお残る生臭さ、強靭な筋繊維のような堅い筋、今まで経験した事の無いバイオレンスな味わいとそのゴムのようなしつこい堅さが絶妙なハーモニーを―――
「「「「………………」」」」
ブツを口から取り出すと、4人は無言のままその場に倒れた。
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幸いな事に目覚めは穏やかなものだった。焼いた肉は耐久値がなくなったのか消え去っていた。
視界の右端に表示されているHPはどうゆう訳か7割程残っていた筈が6割りを割っている。
しかしふと気づけば腹の虫もいつの間にか収まっている。つまり、
「……腹が減りすぎてHP減少に還元され、代わりに体の不調が治ったってことか」
体の不調扱いは少し分からない事もあるが、それで問題が起きたわけではないため、ポーチからポーションを取り出すとそれを煽る。
そうしている間に他の3人も順々に起き上がり、仕様の説明を受けると何とも言えぬ表情になった。
なお、ゲツガの服に付着した返り血やリンのコートの綻びも時間経過で消えたらしく、元の状態に戻っていた。
「全く、何だか訳分からんな。この世界は……」
「ああ。でも、仕様上の理解不能な点が不利な影響を持つわけでなく、むしろ役立ってる。細かい事気にしてもしょうがないぜ?」
「……それはそうだが」
リンが垂れる不満も尤もで、不安になるのも理解できる。『今まで』の世界は基本的にシステム
基盤の上で戦ってきた。制約は多いが安心感はある。
たがこの世界においてはそれが無い。言わば『システムを越えた』事が出来てしまうのだ。無茶はできるが、不安が残る。『異端者』として集められた俺達だが、異端の種類がそれぞれ違う。
優劣はさておき、システムを越えた『異端』かシステム内での『異端』かの二種類だ。
前者にゲツガ、レンが当てはまり、後者にリンと俺が当てはまる。
俺が不安を感じていない訳ではないが、これに関しては例のごとく気質性格の差だろう。リンにはやってもらわなければならない事がある。気の毒だが、細かい事に気を回している暇はない。
「リン、それとレン。ちょっと2人で協力してやってもらいたい事がある。出来るかどうかは分からんが」
「……ん」
「なになに?」
リンとレンに一層の階段手前で思い付いた事を言い、2人の意見を聞きながらそれを修正していく。
5分程でそれを完了すると、リンとレンはその練習のために離れていく。
「何してんだ?あいつら」
「ん?ああ。噂に聞く《魔女》さんは相当らしいからな。思い付きを試して貰ってるんだが……存外はまったようで何よりだ」
マッドなにやにや笑いを浮かべるレイに若干引いたゲツガだったが、レイの次の一言でゲツガの脳裏には軽く走馬灯が流れたとか流れなかったとか。
「……さて、次はお前だ。ゲツガ」
―――後に、ゲツガ/優は恋人にこう言った。
―――『正直、あの時一番恐ろしかったのはアイツの笑みだな』
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異世界の過去の未来で(誤字にあらず)そんな話をされる事になろうとは露知らず、レイはゲツガに階段手前ではまだ秘密にしていた事を明かし、それが可能である事も確かめた。
手に入れた鍵を使い、封印されていた中央の扉を開く。
目の前に現れたのは塔まで昇ったときに使ったのと同じような昇降機。
今さら、というノリで疑うこと無く4人はそれに乗った。上昇はすぐに終わり、《刻の塔》の下部ダンジョンだった要塞施設の頂上に出る。
眼前100m先にあるこじんまりした突起(と言ってもディ○ニーランドの某城ぐらいはあるが)が目的の《刻の塔》だ。
そして手前に居るのがラストダンジョンに挑むために当然立ちはだかるであろう、ボスキャラ。
『へぇ、君達あいつら倒したんだ?……全く酷いよねぇ、『アリス』様も。皆がサシで戦って勝てなかった人達をボク1人で止めろ?いやいや、ムリだよねぇ?』
少年のような響きの声で弱気発言をするボスは黒い翼の鳥だ。ポ○モンのオニ○リルに翼を付け、頭を1つにしたような(ただし、つり目ではない)体高3メートルぐらいの黒鳥はどこか諦めたように呟いた。
『……でも召喚の呪いには勝てないしなぁ。皆がんばったんだろうし、ボクだけ生きててもしょうがないよね……』
ピリ、と空気が張り詰め、俺達は即座に頭を切り替えると得物を抜いた。
『ボクの名は愚鳥。司るのは《在幻》。黒き翼を持つ五神獣が末尾。―――いくよ』
「「「…………ッ!?」」」
宙に突然現れた無数の槍にレンを除く3人は驚き、何とか避けようとする。
「同じ手は効かないよ」しかしレンだけはワイヤーに緑の光を宿らせると、それを4人の回りに展開した。
―奏鳴曲・暴食―
ワイヤーに触れた槍は一瞬にして塵に変わる。攻撃が止んだと感じたときゲツガ、リンは既に飛び出していた。ステータス変換術を使ったゲツガがドードーに肉薄した瞬間、轟音が響き、地が揺れる。
勢いよく出た鮮血が柱の様に上空に飛び散り、雨のように降り注いだ。リンが飛び込みながら両手の剣を光らせ、ソードスキルを発動させる。
二刀流最上位剣技《ジ・イクリプス》27連撃
コロナのような残光を空に刻み、ドードーの抉られた胸部から鮮血が舞った。
(……幻?いや、なぜあんなに……?)
ズゥン、と巨体を横たわらせて動かなくなったドードーに近づいていくと、僅だが呼吸があった。
「おい、何の真似だ」
『……ボクが答える事じゃないね。行きなよ、塔へ』
言わんとしていることは分かったらしく、ドードーは俺を睨み付けると無愛想に答えた。辛うじて生きてはいるが、先程までの圧力を全く感じない。まるで、力を吸い盗られたかのように…………
(……魔女、ますます分からんぞ。いったい、どうゆう事だ)
4人はドードーの倒れている脇を通り、《刻の塔》の重厚な扉を開けた。
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内部はどこかの宮廷のような内装だった。赤色の床に白地の壁。大小様々な黄金の装飾品と並ぶ悪趣味なドきつい色の人形。大きさは30センチ程ではあるが、剣やランス、槍、弓矢等で武装し、動いている。襲ってくる様子はなかったが、その無機質な顔と得物の組み合わせは背筋が凍るような思いをした。
やがてお馴染みの円盤の昇降機が現れ、もはや慣れた様子でそれに乗る。今までになくゆっくりとそれは上昇していき、停止したフロアの目の前には人の身長より少し高いかぐらいのごく普通の両開き扉があった。
「ここ、だな」
「……だろうな」
「うん。とっととやっつけちゃおう!」
「……戦う前提なのか」
戦わないで済む僅かな望みはあるが、まぁ期待はしていない。
執拗なまでの、あの不快な観察は二層での戦闘が終了した時から感じていないが、代わりに1つ扉を挟んだ向こうが側からその気配を感じる。
「ここまで来たんだ。今さらだぜ?」
「ああ……」
4人で頷き合うと扉を同時に押す。
レイ、リン、レン、ゲツガはゆっくりと開いたその最後の部屋に足を踏み入れた。
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「……遂に、到達したか」
深紅の鎧に銀髪。その両の手には十字の紋様が入った大盾と対の十字剣。その鈍色の刀身からは真紅の血が滴っていた。
かつて1万人の人を電子の牢獄に捕え、その世界の消滅と同時に死んだ男はその未来の灰色の空を仰いでいた。
「ヒースクリフ、こっちは済んだよ」
「……掃討完了」
「終わったのニャ!」
「お疲れ様、ルビィ君、サフィール君、ラルル君」
笑顔で駆けてきた赤、青、黄の小さな少女達を彼はそれぞれに同等の慈しみを込めて労った。
「「「むぅ…………」」」
「……どうしたのかね?」
なぜか不満そうにする3人に流石の天才も戸惑う。
しかし、このやり取りは彼らの間で日常茶飯事だ。ヒースクリフは大してその理由について考察せず、話を進めることにした。
「アルクトスの王女殿下から舞踏会のお誘いだ。行こうか」
「また、ですか……」
「……苦手」
「……ご飯が出た試しが無いのニャ」
三者三様の反応をする彼の友にして《剣》である少女達の様子に自然と笑みをこぼしながらヒースクリフは《刻の塔》に向かって歩き出した。
後書き
すいません。今週は一話だけです。
最終話は現在、鋭意執筆中です。
コラボも残すところ後一話。どうか最後までお付き合いお願いします。
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