【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第四十幕 「意地と意気地の二重奏」
前回のあらすじ:青春決闘
バリアを纏ったユウの棒術と足技が次々に白式に襲いかかる。それを体裁きと剣で必死に受け流す一夏。戦いはユウが押しているように見えるが、実際には差は殆ど無い。何故なら棒も蹴りも一夏は紙一重で直撃を免れているからだ。細やかなスラスター裁きと的確に棒を剣で打ち払うことによって、ユウも思うほど攻め込めていなかった。
ユウは舌を巻く。暫く見ないうちに一夏は随分と成長していた。初めて見せたはずの棒術にも反応できているのにはさすがに驚いたが、そうでなくてはという思いも同時に存在した。
(此処まで出来るようになってたのか・・・!一夏、君って奴は本当に成長が早い!)
その顔にある表情は、歓喜。僕はこれからこの男とも切磋琢磨をし、勝ったり負けたりし、より高みへと登ることが出来る。兄との戦いでは得られない経験と高揚。理由は違えど同じ高みを目指している人間と共に空を駆けるのは心が躍った。まだだ、僕はこんなものじゃない。一夏もまだこんなもんじゃないはずだ。もっと速く、もっと力強く!!
そして一夏も。
(認めざるを得ないな・・・やっぱりユウはすげえ!俺より練習時間少ないはずなのに・・・)
初めてIS同士で戦う親友の実力に感嘆していた。ユウは初めて会った時から何でもできる奴で、俺はそれに頼りながらも「いつかは並んでも恥ずかしくない男になりたい」という秘めたる思いを抱いていた。だが、やはりこいつはそう簡単に隣に立たせてはくれない。でも―――こうやって互いにぶつかり合うのは悪くない。とても悪くない気分だった。
「楽しいよねぇ!一夏ぁ!!」
「もうすぐ笑えなくしてやるよ、ユウーーッ!!」
棒術の動きに合わせて参型の“零落白夜”が発動し、棒に纏わせていたバリアごと棒を切り裂く。一次的に武器を失い後退する風花に一撃必殺の剣を構え直す白式。この間合い、この距離ならば斬って捨てるは難くない。
ユウの手前に転がっていたイニシアチブが一気に一夏に寄った・・・かに見えた。
「そこで油断しちゃうのがいただけないよ!!奔れ、“鎌首”!!」
棒が折れた時点で既にユウは別の武装を展開していた。25m特殊鋼アンカーワイヤー“鎌首”・・・その名の通り特殊鋼を編上げて作られた超高強度ワイヤーである。唯一つ普通でないところがあるならば、その先端にある有線式クローアンカーの存在だろうか。既に斬る態勢に入っていた一夏は慌てて回避しようとするが避け切れず、蛇のように追いすがるクローに足を掴まれる。しまったと感じた時にはもう遅かった。
「おぉぉぉぉぉ・・・りゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「どわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
掴んだと同時に後方へ全力で噴射加速。足を掴まれている所為でAMBACも叶わない一夏は牽かれるままの勢いで、アリーナの地面へと全力で叩きつけられた。大質量であるISが地表に激突したことによって大きな土煙が舞う。
「武装の展開が、早い・・・!」
「装備品の少なさを活かした高速切替モドキ・・・すっかりモノにしてるみたいだね」
「俺の弟だからな」
高速切替とはシャルの十八番である高等技能だ。本来は大容量の拡張領域を使って量子化した武器を即展開できる量子構成直前の状態にセットしておくもので、拡張領域が狭い機体では行えない。
簡単に言えば戦闘状況に応じてすぐさま武器を切り替える“後出しじゃんけん”のような真似が可能な技能なのだが、ユウは少ない拡張領域を使って次に展開する武器“だけ”を状況に応じてセットしている。この使い方は非常にリスキーなため実践する人間はまずいない。もし当てが外れて別の武器が必要になった場合に量子構成のセットをいったん解除してから再度量子化しなければならないためにすぐさま相手に対応できなくなるからだ。
しかし、ユウは状況に応じた戦術変更の速さに優れている。だからこそこのようなハイリスクな方法でもあそこまで次々に戦法を変えて適切な武器を取捨選択して見せている。これもまた、兄を越えるためにあらゆる戦法を模索した結果身についたユウだけの技能だ。
だが、その言葉に反論するものもいる。それは、一夏とともに剣を振るった箒だ。
「それを言うならば一夏は私の弟子みたいなものだ。このままで終わるほど軟な奴ではないぞ?」
「そうね・・・諦めの悪さならあいつもユウに負けてないわ」
そして箒と鈴に応えるように、舞った土煙の中から眩い光が迸る。
「やられた分は・・・倍返しだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
砂塵を突き破るように姿を見せた純白のフレーム、いまだ健在の白式と一夏だ。
とはいえ既に残りエネルギーはとっくに半分を切っている。度重なるダメージに加え、“零落白夜”の発動で結構な量のエネルギーを消費した今の白式にこれ以上戦いを長引かせる余裕はない。
相対するユウと風花も、実はこれ以上戦いを長引かせるわけにはいかなかった。機体性能が反応速度を除いて全て白式に負けている風花は手の内を明かせば明かすほど不利になっていく。元々拡張領域がそれほど広くない風花にはこれ以上相手の虚を突ける武器は無かった。残された手段は懐に入り込んでバリアパンチの嵐を食らわせるくらいのもの。
「・・・懐に入らせてくれるか?いや、そうする必要がある!!」
正面から突っ込んでくる白式は次の接触で勝負を決めるつもりか既に“零落白夜”を発動させた弐型を握りしめている。
あれを掻い潜れればユウの勝ち。逆に掻い潜れなければ一夏の勝ち。
非常にシンプルで、本人たちの技量が最も試される瞬間。
白式が瞬時加速でこちらに突き進む。風花が噴射加速を使ってあちらから向ってくる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その勝敗を分けたのは―――皮肉にも技量ではなく情報だった。
「・・・間合いに入ったな!!」
「何!?」
実際にはまだ弐型の間合いに入っていないにもかかわらず不敵に微笑んだ一夏に、ユウは咄嗟に離れようとスラスターを吹かした。だが噴射加速の勢いを止めるには至らない。結果として、ユウはその“間合い”から逃れられなかった。
「刀身形成・・・伸びろ、雪片ぁ!!」
「これは・・・エネルギー刃が!?」
雪片弐型は“零落白夜”を発動させると剣の中央部の装甲が展開し、中から“零落白夜”で構成されたエネルギー刃が姿を現す仕組みになっている。そのエネルギー刃が、突然爆発的に大型化した。刀身は10メートルに達しようとしているそれは、もう刀とは呼べない。滞留する莫大なエネルギーが白式の身体をさらに眩く照らす。
巨大な刃と化した弐型を腰だめに構えた一夏は、それを躊躇無く解き放った。それと同時に恐るべき速度でシールドエネルギーが減少していくが、もはやこの距離で失敗はあり得ない。
「薙ぎ・・・払えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
全ての障害を両断せんとする刃が横一線に振るわれる。拳でもバリアでも防御不可能、そして回避も不可能。全てのシールドエネルギーを根こそぎ奪う実体無き刃は空を疾り、風花の目の前まで迫る。
「う・・・ッおおおおおおおおおお!!?」
「俺の・・・勝ちだッ!!」
逃れるすべは既になく、空を走る一撃必殺の刃は―――見事、風花を捉えて見せた。
同時に風花が自身のシールドエネルギーを全て失ったことを告げる。
『試合終了―! 勝者!織斑一夏でーす!!』
審判である佐藤さんの一声にて、この戦いは決着した。
これが、記録に残る初の男性操縦者同士の試合記録となる。訓練試合であるがゆえに詳細な情報は残らなかったが、後にこの二人は幾度となく激突することとなる。
~
「今回は一夏の奴に軍配が上がったか・・・最後の最後に読み間違えたな、ユウ」
「あれは、普通読めない」
簪は思わずジョウの言葉に口を挟んだ。あそこに至って急に刀身が伸びるなどと予測できる人間などいないだろう。少なくとも簪には完全に予想外だった。だがジョウは人差し指を立て、ちっちっちっ、と左右に振る。
「そこを読んでこその強者だよ、簪ちゃん?ちゃんと次の手を予測できる前兆はあったしね。それにユウはこの試合で一度もお得意のショートレンジに戦いを持ち込めなかった。結果的に惜しい試合にはなったが、その辺りは間違いなく反省すべき点だ」
「・・・なるほど」
前者はともかく後者の話は確かに頷ける点だった。自分の得意な土俵に勝負を持って行けるかはどの勝負でも重要なポイントだ。やはりこの人は周囲より頭が幾つか飛び出ている。
「さすがジョウ。戦いでは弟を甘やかさないね!」
「うるへー!あれは甘やかしてるんじゃなくて愛情表現なの!」
「いや~・・・若いっていいなぁ。青春してるよホント。年甲斐もなくドキドキしちゃうな」
「そうだねぇ、あれはパワーあふれる若者だけの特権・・・って、あれ?」
その場の全員がサラッと聞き覚えのない声が混じっていることに気付く。一斉に声の主の方を向いた全員の視線に映ったのは、一人のスーツ姿の男。ジョウとシャルは直ぐにその男の素性に気付き、胡乱な目で男を睨んだ。
「・・・そんな目で見つめないでくれないか?」
「何やってんだ警備主任。仕事しろよ」
「そうだよ警備主任。サボリは良くないよ?」
「ちゃんと部下に押し付けてきたから問題ない。というか承章とシャルロットは年上を少しは敬え」
「やっぱり仕事してねえんじゃねえか!」
「そんなんだから敬えないんだよねぇー」
そこに一夏がいればさぞ驚いただろう。何故ならばその男は休暇中に自分が出会った男だったのだから。
そう、そこにいるのは学園の警備主任である男、クラースだった。
「・・・ところでラウラちゃん、何でクラースさんの膝の上に座ってるの?」
「父の膝に座ってはいけないか?」
「「「えっ!?」」」
(あーやっぱりそういうパターンですか)
正直そんなことじゃないかと思っていた佐藤さんは小さくため息を吐きながら、データ採取のためにこっそりメモ帳を持ち出した。なお、最近の佐藤さんはひと月に1冊ペースでメモ帳を消費していたりする。メモは社会人の基本だよね。
後書き
とうとうやってきた雪片弐型の出番。一度に大量の敵を相手にすることを想定して造られたがエネルギー消費が激しい。スパロボで言えばMAP兵器に近い役割。
クラースさんは学園の警備主任をやってますが、逆を言えば侵入者騒動とかが無ければ何の出番もなく事務仕事してるだけの人です。実際には本社経由で独自の情報網を持っていたり、それとは別に世界中に散った傭兵稼業での教え子情報網を持っているので更識は彼をかなり重宝してます。
またクラースさんとその所属であるマークウルフの存在はそれだけでも抑止力として働くので・・・つまり簡単に言えばクラースさんは実質学園内にいるだけで仕事してることになるんです。
なお、3年生になるとクラースさんの特別講義を受講できるようになります。
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