緋弾のアリア 一般高校での戦い
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第7話 遠山家の奥義
前書き
更新です。
衝撃の力――撃力とは、実践上、激突する物の重さと速度によって決まる。
遠山家の奥義の一つである『秋水』とは、この法則が深く関わってくる。
ボクシングなどでは『拳にできるだけ体重を乗せる』ように放つと撃力が上がる――秋水ではこれを『余すところ無く全体重を拳に乗せる』。
そうすると、どうなるか。ベリーショートパンチ、つまりほとんど動きのない打撃でも甚大な撃力が生じる。
要はパンチに見えて、実は最も技術化された体当たりなのだ。
なお昔、兄さんが分かりやすく解説してくれたところによると――
拳銃の弾丸が大きな撃力を生むのは、『軽い』が『速い』。
秋水は、『重い』が『遅い』。婆ちゃんの体重だって40kgはある。弾丸の5千倍だ。それが拳に集中して一気に激突するなら、爺ちゃんを吹き飛ばすくらい、速度なんて僅かで済む。
――と、俺はコタツで婆ちゃんの用意してくれた豆菓子を、かなめと一緒に食べながら秋水について教えていた。
ジーサードはまだ掃除をしており、婆ちゃんは台所で晩御飯のしたく。
レキは連絡もなしに連れてきた為、レキが使う部屋が決まっていなかった。
なのでレキは爺ちゃんと一緒に、これから使う部屋を決めるために色々な部屋を見に行った。
そして俺と一緒にコタツでくつろいでいるかなめは、俺の説明を大人しく豆菓子を一緒に食べながら聞き、その後に『他の技についても教えて』と、興味津々に聞かれたので、俺の思い出せる範囲で秋水と同じように技の名前と理屈を教えてやる。
みんなそろってないし、晩御飯もまだ出来てないみたいだからな。
武偵高を離れてこんな話をしてるのもなんだが、時間を潰すくらいはできる。
まだ面白そうなテレビ番組もやってないことだし、他の事をしようにも疲れるしな。
一通り教えた後、かなめは――
「う~ん……理屈はわかるけど、使い方のイメージがなあ~」
技がどういうモノだが想像がつかないらしく、珍しく頭を悩ませていた。
「だから、さっきの婆ちゃんの秋水をよく覚えておけって言ったろ」
「うん。お兄ちゃんがあの時なんであんなこと言ったのか、やっと理解できたよ。確かに遠山家の技って理屈だけじゃ使えないね」
「ああ。実際、俺も秋水を見たのは初めてだったしな」
「……でも、なんで手取り足取り教えてくれないの?」
かなめがもっともらしい意見を口にする。
確かに俺もそれはガキの頃には疑問に思ったが、それにはちゃんと理由がある。
「遠山家の技や奥義の多くは、教える側と教わる側がヒステリアモード時でないと目視すらできないものや、できないモノだらけだからな。先に理屈を教えて、後は見せるだけの方が覚えるのが早いんだ」
だいたい技を覚えるためだけに、いちいちヒステリアモードになっていたら倫理的に遠山家はやばい一族になってるだろう。
「まあ、一部は形や型なども教える技なんかもあるけどな」
ジーサード戦に使った『絶牢』なんかは、まさにそれだ。
「そうなの?」
「ああ。ちょっとだけ教えてやる」
なので、ついでにいくつかの型なんかも軽くかなめに20分ほど教えて、まだ教えてないのは今度教えることにし、今教えた奥義などをかなめがちゃんと覚えているか確認すると……
さすがは人工天才、俺が言ったことをちゃんと理解し覚えていた。
そして、
「ねぇ、お兄ちゃん。今度教えてもらう時は、お兄ちゃんの技も教えてよ」
「は? なんで俺の技を教えてほしいんだ?」
「だって、お兄ちゃんの技ほとんど見たことないんだもん」
かなめが唇を少し尖らしてそう言ってくる。
そういや、かなめの見てる前で俺ほとんどヒスって戦った事ないな。
「教えてるのいいが……ほとんど俺の技はヒステリアモード時でないと出来ないものばかりだから、かなめには使えるか分からないぞ?」
実際、同じ人口天才のサードもヒスらなきゃ使えんかったしな。
「それは分かってるよ。お兄ちゃんとサードって使ってる技の形がほとんど同じなんでしょ? なら、近くで見たことが何回かあるけど、見えないモノばかりだったよ」
「ならなんでだよ?」
「だからこそ、どうな技なのか知りたいんだよ。今の遠山家の技のように理屈だけでもね」
と、かなめは少し顔を曇らせながら話す。
……なるほど。
それだけで、今かなめが何を考え、今まで何を感じてきたのかが分かった。
いや、分かってしまった。
そう、この顔は何となくだが――かつての俺と似てる。
兄さんがアリアを殺すといった時の、どうしてだか分からなくて迷っていた時の俺に。
かなめは何回もサードが戦ってる姿を見てきてるはずだ。
しかし、同じ遠山家の遺伝子を持っているのに、どんな技かも分からない。
そのことが情けなくて、そして弱さを自分から言うようで怖くて聞けなかったんだろう。あの時のかなめは、サードに。
俺も兄さんがアリアを殺すって言ったあと、兄さんが何を言っているのか分からなかった。
アリアが強襲科で兄さんに襲われてる時、自分が弱くて情けないものだと感じた。
その時の鏡で見た時の顔に似ていたのだ。
そんな顔を見たら……
「……まあどういったものなのかを教えるくらいはいいけどな」
断ることなんか、出来るわけないじゃないか。
その俺の返事を聞き、かなめは嬉しそうに――
「お兄ちゃん……ありがとう」
そして、しおらしい笑顔になり、お礼を言ってきた。
俺はその笑顔に、さっきまでの顔と相まって、そんなかなめの珍しくしおらしい笑顔に不覚にも、少し顔が熱くなってしまった。
そのことをかなめにバレない為に俺は、
「しかし、それにしても……やっぱりコタツは眠くなるな」
と言って、少しわざとらしく話を逸らし、寝転がる。
「お兄ちゃん?」
「ほら、かなめも横になってみろ。だんだん眠くなってくるぞ……もうすぐメシだから本当には寝れんけどな」
「え、でも……」
「いいから。お前も半分は日本人なんだから、日本の家庭的なことも知っておけ」
コタツで横になって寝るのが日本の家庭的な面なのかは断言できないしれんが……少なくとも俺はコタツがあって入ったら眠くなるので、そう言っておく。
「わ、わかった」
かなめも躊躇いながら、俺の言ったように横になる。
すると――
「あ、ホントだ。ホカホカして気持ち良さと、横になった重力からの解放感で、なんだか眠くなってくるね……」
向かい合って座っていた為、横になったらお互いに姿は見えず声しか聞こえないが……かなめの声からして眠さが感じられた。
そしてそのまま横になること数分……俺はさっきまで足を伸ばしていた位置を変えようと、足を動かすと――
――むにゅ……
「あっ!」
――足の先に柔らかい感触と、脹脛にハリのある柔らかい感触……それと同時にかなめの驚いたような声がした。
なんだ、と思い、少し足を動かしあたっているモノを確認する。
「あ……あっ、んっ、お、お兄ちゃん……ちょっと……っ――」
俺が足を動かすのと一緒にかなめの声が、だんだんヘンな感じになっていくのが分かる。
(……まさか……!)
なんかヤバいと思い、急いでコタツを開けてみると……
(――なっ!)
なんと、俺の足がかなめの足の真ん中……しかもスカートの中に足のつま先が当たっていた。
さらに俺の足で東池袋高校のスカートがめくれて、奥が見えそうになっている。
いや、正確には俺の脹脛に当たるかなめの太股から分かるように、普通は見えているはずなのだが……
俺の足が、かなめのスカートの奥の部分に当たりながら被さり、見事にスカートの奥が隠されていた。
そのことに気づいた瞬間、俺はヒステリアモードでもないのに橘花を使ったんじゃないかと思うくらいの速さで足を引き、コタツに座りなおす。
それと同時に身体の真芯を確認する。
(あ、危なかった……)
少しヤバめだった。ギリギリ甘ヒスになりかけていたが……相手がかなめのおかげか、すぐに収まりそうだ。
もし完全にヒスっていたら、俺は自分で自分に何をしたか分からんぞ。
「かなめ、悪かったな」
真芯を確認し終わり、落ち着いた所でかなめに謝るが、
「だ、大丈夫。ちょっと、くすぐったかっただけだから……」
弱弱しく声が返ってくるだけで、少したっても顔を上げない。
「かなめ、お前どうし……」
と、かなめの方を少し覗いた所で気づく――
「……ごめん、ちょっとだけ待ってお兄ちゃん。あとちょっとで落ち着くから……」
かなめがなりかけていたのだ――ヒステリアモードに。
いや、この感じからすると甘ヒスになっているかもしれないぞ。
そんな覗きこむ俺に気づいたかなめは、少しヒスってるせいか、少し女性らしい笑みを浮かべながら、
「あはは……お兄ちゃんと一緒のコタツで寝れて、少し興奮してたのを必死に誤魔化してたんだけど……お兄ちゃんに触られて、少しヒスっちゃった……」
と、言ってきた。
コタツに俺と寝てるだけで何を興奮することがあるんだよ……
それとも、俺が触った所が悪かったのか?
俺が触ってた所ってあれだろ、スカートの奥が当たってたって事は、かなめの下着を穿いている所ってことで……
――これ以上考えるのは止めよう!
とにかく、俺も少しからず悪かった。それ以外に考えることは何もない!
かなめがヒスってるのは確かだしな!
なら謝るのが礼儀だ。
「……なら、少し落ち着くまで寝てろ。あと……ホントに悪かった」
「ううん、別にいいよ。誰も今この部屋にいないから。……でも、ヒスった感じってこんな感じなんだ。前回の時のこと、ほとんど覚えてないから初めての感覚かも」
なるほど、甘ヒスだから完全には切り替わっておらず、泣き出したりもしないし、記憶が残るのか。
「へぇ、どんな感じだ?」
俺のヒステリアモードと女性版ヒステリアモードでは、感覚に違いがあるかもしれないので、気になって聞いてみた。
俺の場合、思考が冴えるのと同時に、身体の芯が熱くなり、さらに肉体が活性化していく感じなのだが……
かなめだと男の俺と違って、『弱くなる』ヒステリアモードなので、どんな感じなのだろう?
「なんか、前なった時の微かに残ってる記憶に、ヒスる前のがどんな感じだったかあるんだけど……それと一緒で真芯が……お腹の奥が、きゅんってして……頭の回転は速くなってる感じなのに、あまり物事が考えられなくて、身体がやけに重い……」
「なるほど……」
その会話を最後に、しばらく俺とかなめは黙り、部屋には台所で婆ちゃんが料理しているのか、微かに聞こえる包丁の音だけになった。
気まずい……
かなめをヒスらしてしまったのには、俺も少しは関係しているはずなので、何か収まることを手伝いたい気持ちもあるのだが……実質、ヒステリアモードを抑えるには、なりかけてる本人が気持ちを落ち着ける他にない。
なので、俺には何も出来ず、黙っていることしか出来なかった。
かなめと気まずい空気になってから、数分が経った頃、部屋の外から足音が聞こえた。
すると俺の後ろから、
「なんじゃい、キンジ。テレビもつけずに黙って座りおって」
「あ……いや、実家が懐かしくてね。コタツを楽しんでいたんだよ」
爺ちゃんそんな事を言いながら部屋に入ってきたので、適当に話を誤魔化す。
まさか、妹と気まずくなってました、なんて言えんしな。
「ほー……まあよい。ところでキンジ。お前も来年18になる。もう覚えてもいい歳じゃ……『春水車』をな」
「え、シュンスイシャ? 何それ」
俺が聞くと……爺ちゃんは婆ちゃんが料理してる音を確認してから、
「遠山の秘技の一つ。技じゃよ、技」
声を潜めつつ、押し入れにあった金庫を出してきた。
正直、もう俺は格闘技なんかと無縁の生活をするべきなんだが……
(婆ちゃんにも秘密の――金庫にしまえる。技?)
どうなものだろう。興味は、湧くな。
カリカリカリ、カチッと金庫を開けた爺ちゃんが、
「これぞワシの爺ちゃんが版画で開発した、春水車。それを進化させたものじゃ。作り上げるのに時間がかかるんで、ワシも戦前からずっとコレクションしてきておるッ」
大量に取り出してきたのは……
……グ、グラビア雑誌や水着写真集の、切り抜きページっ……!
(な、なんてこった……!)
そういえばすっかり忘れてたけど、爺ちゃんは筋金入りのグラビアオタク。
いい歳こいてんのに、まだ現役だったのかよッ……!
「色本は、間を置いてからだとまた新鮮になる。飽きたと思っても、捨ててはならんぞ」
幾星霜の時をかけて選り抜かれてきた、名グラビアの数々が――
夢幻の光景のように、畳の上に広げられていく。
「ちょっ……しまってくれよ!」
興味が無かったから知らなかったが、こういうのは――
な、並べて見る鑑賞法だと、よりどりみどり感が広がってより危険だ!
しかも爺ちゃんからは丁度、横になってるから見えないかもしれないが、ここにはかなめが――
「……お兄ちゃん」
……間に合わなかったか。
声がした方を見ると、甘ヒスが収まったらしいが、代わりに冷たい目をしているかなめの姿があった。
「うぉ! かなめ、おったのか!?」
「かなめ……さっきの俺と爺ちゃんの会話を聞いてたんだったら、どっちが悪いのか分かるだろ?」
「うん。分かってるよ。――ちょっとお婆ちゃんの所に行って――」
婆ちゃんに、この春水車の事を伝えるためか、かなめがコタツから立とうとすると、
「ま、待つのじゃ、かなめ。遠山は自在に『返体』してこそ一人前なのじゃっ! これはその為の技なんじゃ!」
言い訳のごとく、かなめにすぐさま近づき、かなめの肩に手を置いて引き留める。
ちなみに、『返体』というのはヒステリアモードのことだ。
そしてさらに言葉を続ける。
「それに、かなめだって遠山を名乗るからには自在に『返体』なれなければ一人前にはなれんぞ! 確かに女子であるお前は、扱いを間違えれば弱くなってしまうが……キチンと使いこなせれば――」
「ちょっ、ちょっと待って爺ちゃん! 今の言い方だとまるで女性版のヒステリアモードのことを知っているような言い方だったけど……知ってるの?」
俺はかなめと爺ちゃんの会話にすかさず割り込む。
爺ちゃんは俺の問いに、ケロリと答えた。
「ああ、知っているよ」
「かなめのヒステリアモードが『弱くなる』ことも?」
「うむ。……しかしなキンジ。遠山の返体は一つだけではない。お前も何度か死線を越えて来たのなら経験があるんじゃないか?」
確かに、俺は何度かヒステリアモードの派生系である『ベルセ』や『メガルメンテ』、他にも『ワイズマン』などになったことがある。なので、かなめにも派生系が存在してもおかしくはない。
けれど――
「女性版ヒステリアモードは派生系も弱くなるんじゃないのか?」
「馬鹿者。女子の身体は、わしら男よりもデリケートなんじゃ。ゆえに、『返体』の数も多く存在する。……まあ、実際この目で見たことが無いから、よくは知らんがの」
その爺ちゃんの言葉を聞いたかなめは、
「あたしの中に……強くなるHSSの可能性がある……」
婆ちゃんに告げ口しに行くのも忘れて、爺ちゃんに言われたことを何ともいえない表情で呟いていた。
後書き
ここまで読んでいれば分かると思いますが、この小説のメインヒロインはかなめです。
しかし、かなめはキンジの妹。なので他のレキなどのヒロインものちのち絡ませて行こうと考えてます。
感想や間違いの指摘待ってます!
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