とある星の力を使いし者
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第81話
午後二時二〇分。
お昼休みが終わった。
麻生と竜也と秋葉の三人は街を歩いていた。
この親子は数年間会っていなかったので、麻生が次に出場する競技場まで親子揃って歩いて向かう事にした。
ちなみに上条夫妻や御坂美鈴はいない。
彼らも自分の息子が出場する競技場へ向かっている。
応援席の場所取り競争は前もって行われるらしい。
上条と美琴も次の競技まで時間があるのでどこかで時間を潰す予定だと言っていた。
インデックスはその二人について行った。
上条は麻生に何か言いたそうな顔をしていたが、麻生親子が数年ぶりに出会った事を聞いて水を差すのは駄目だと思ったのか、そのまま美琴とインデックスを連れてどこかへ行った。
正直、上条に言い寄られるのはとても面倒だと麻生は感じていたので、上条が引き下がってくれて麻生は少しだけ安堵する。
麻生を真ん中に左に竜也、右に秋葉と横一列になって歩いてた。
幸いにも歩道には人が少なく、三人が横一列に並んでも周りの人に迷惑をかける事はなさそうだ。
「ふふふ~ん♪」
日傘を差しながら秋葉はとても嬉しそうに歩いている。
「母さん、とても楽しそうだな。」
「だって、三人家族が揃ったのはとても久しぶりなんですもの。
嬉しくもなります。」
「私も母さんと同じ気持ちだ。」
竜也の方を見ると、心なしか楽しそうな顔をしている。
実は麻生がこうやって大覇星祭に本格的に参加したのはこれが初めてなのだ。
高校に入学する前は、大覇星祭が始まってもどこかに隠れ、一日中寝ているか散歩をするなどの行動をしているだけだった。
竜也達が大覇星祭を見に来てもほとんど変わらなかった。
少しだけ顔を見せるだけだった。
だが、今年は違った。
ちゃんと大覇星祭に参加し、さらには友達も出来ているのが分かった。
麻生の幼少の頃を知っている竜也達にとってとても嬉しい事だった。
「高校は楽しいか?」
「まぁ、退屈はしないな。
俺の周りには馬鹿ばっかりだからな。」
「あの当麻さんや美琴さんはお友達かしら?」
「友達じゃない。
ただの顔見知りだ。」
「それでも相手はお前の事を友達のように接していたぞ。
ああいった関係を友達って言うんじゃないか?」
「父さん達がどう思おうかは父さん達の勝手だ。」
「それじゃあ、友達にしよう。
他にもああいった人達はいるのか?」
「まぁ、いるんじゃないのか。」
「まぁまぁ、教えてくれませんか?
私はとても興味があります。」
麻生は少し面倒くさそうな顔をしたが、それでも自分の学校生活の事などを竜也達に話していく。
もちろん、魔術の事や今までの事件の事は話しはしない。
竜也達は麻生と会話している事がとても嬉しかった。
麻生が高校に入学する前は、会話らしい会話はした事がなかったからだ。
学園都市に住んでいるので、会う機会がないというのもあるがそれでも今のように会話する事はなかった。
全てはあの時に始まった。
麻生がまだ星の力に目覚める前の話。
竜也と秋葉と麻生はとあるマンションに住んでいた。
夕方になり、近くの公園で遊んでいるいつまで経っても麻生が帰ってこないのを心配した二人は、近くの公園まで様子を見に行った。
公園に行くと、地面に倒れている麻生の姿が目に入った。
二人は急いで麻生に駆け寄った。
何があったかは分からなかった。
どんなに呼びかけても麻生が目覚める事はなかった。
さらに、黒髪だった麻生の髪が真っ白な白髪に変わっていたのだ。
竜也は必死に麻生の名前を呼び、秋葉も涙を流しながら麻生の名前を呼んでいた。
救急車に連絡して、近くの病院に運ばれた。
先程まで黒髪だったのが白髪になったのだ。
医者も新種の病気なのかと、疑いながら麻生の身体をくまなく検査した。
しかし、病原菌おろか身体はどこも異常がなかった。
一応、何が起こるかは分からないので入院する事になった。
竜也と秋葉はずっと麻生の側にいた。
数日経つと、麻生は目を覚ました。
二人は麻生が目を覚ました事に喜んだ。
だが、麻生の顔を見てその喜びが消えていった。
目が死んでいたのだ。
どんなに麻生の名前を呼んでも全く反応しなかった。
目は死んだ魚の目のような感じで、瞳は感情と言ったモノが一切見受けられなかった。
すぐに医者を呼んで、身体検査をしてもらったが、どこも異常はなかった。
医者は二人にこう言った。
「おそらくですが、恭介君は今までにない強烈な精神障害に陥ってるかと思われます。
髪が白くなったのもそのせいでしょう。
これに関してはカウセリングなどをして、ケアしていくしか方法はありません。」
そこから数週間にかけてカウセリングをしたが一向に進展はしなかった。
秋葉や竜也が側についていないと、麻生は何もしなかった。
食事も秋葉が口元に運ばないと、食べてくれなかった。
それでも口元に運べば食べてくれるだけでましだった。
そうでなければ、点滴で栄養剤をうつ羽目になる。
そんな植物人間のような状態にしたくなかった。
竜也が麻生の手を取り、引っ張れば何とか歩いてはくれる。
いつかきっと治ると思っていた二人だが、治る気配がしなかった。
二人は話し合った結果、麻生を学園都市に連れて行く事にした。
学園都市の内部の技術は、「外」に比べて遥かに進んでいる。
もしかしたら麻生を心を治療する技術が存在するかもしれない。
学園都市を訪れ、病院の医者に麻生を診察してもらった。
その時のカエル顔をした医者は入院させて様子を見ると言った。
数日して、カエル顔の医者は難しい顔をして言った。
「率直に申し上げます。
今の僕では彼を治す事はできません。」
「どうしてですか!?」
「彼の脳を調べようとしましたが、何故か機械が故障して使えなくなるのです。
まるで、何かに守られているように。
科学の街に住んでいる医者がオカルトのような事を言ってしまって本当に申し訳ありません。
彼を治療する方法は一つ。
これまで通り、何度も話しかけ心をケアしていくしかありません。」
その医者の話を聞いて、秋葉は涙を流しながらその場でしゃがみ込んだ。
竜也は強く両手を握りしめながら言った。
「そんなの分かっているんですよ!!
あなたが言うように私達は毎日毎日、ほとんど恭介と一緒にいて、ずっと話しかけました!
それでも、あの子は何も反応しないんですよ。」
徐々に声が小さくなり、最後には竜也も涙を流した。
カエル顔の医者はこの時ほど、自分の力の無さに恨んだ事はなかった。
だから、自分にできる事を精一杯するしかないと思った。
「私の知り合いの一人に脳の研究などを専門にしている医者がいます。
その人にカウセリングをしてもらうように依頼してみます。」
そう言って、近くにある電話を手に取り、電話をかける。
数時間後、麻生が入院している病室に一人の女性が訪ねてきた。
服装も色の抜けた古いジーンズに何度も洗濯を繰り返して擦り切れたTシャツ、その上から羽織っている白衣だけが新品のカッターシャツを着た女性。
「初めまして、今日から恭介君のカウセリングの担当になった芳川桔梗です。」
そう言って、彼女は竜也に手を差し出してきた。
竜也は手を握り返し、自分達の自己紹介をする。
カエル顔の医者に病状を聞くと、桔梗は麻生に話しかける。
しかし、話しかけても全く反応しない。
それでも、彼女は何度も話しかけていた。
この行為を数日かけたが、何も変化はなかった。
困った桔梗は気分転換も兼ねて、麻生を外に連れ出した。
そして、夕方になって麻生が帰ってくる頃には喋れる程度にまでは回復していた。
二人は喜んだ。
まだ完全に治った訳ではないが、それでも喜んだ。
その後、身体検査をして何も異常がない事が分かって、竜也達は自分の家に戻ろうと思った時だった。
麻生が竜也達に言ったのだ。
「俺、此処に残りたい。」
そう一言だけ告げた。
二人は麻生がこんな事を言うとは思ってもいなかったので最初は驚き、戸惑った。
彼はまだ小学生だ。
その小学生を一人で学園都市に置く事は心配でたまらない。
竜也はまたあの時のように倒れてしまうのではないのかと思った。
だが、意外にも秋葉が麻生の言う通りにさせてみよう、と言い出したのだ。
「さっきまで何も話さなかった恭介さんが、自分から何かをしたいと言い出しました。
私は恭介さんの意思をくみ取りたいと思います。
この街で恭介さんは少しだけ回復しました。
此処にいる事で少しずつ回復していく可能性があると思います。」
「だが、小学生の恭介を置いていくわけには。」
「それなら、私が面倒を見ます」
竜也達の側にいた桔梗が突然言い出した。
「彼が一人で自立できるまでの間だけですが、私が面倒を見ます。
それでよろしいではないでしょうか?」
「どうして、突然そんな事を?」
「少しだけですが気になるんです。
あんな小さな子供がなぜ、ああなってしまったのか。
それに私は子供が好きなんです。
昔は教師を目指していたんですよ。」
最後の方に関してはあまり理由になっているように聞こえなかったが、秋葉の説得もあってか麻生はこの学園都市に残る事になった。
そして、今に至る。
三人は話しながら歩いていると気付いた時には、競技場についていた。
「それじゃあ、俺も此処でお別れだ。
次の競技まで時間があるしな、どこかで時間でも潰してるよ。」
「時間があるのなら、もっと一緒にいないか?」
「何気持ちの悪い事を言っているんだ。
心配しなくてもちゃんと競技は出る。
それに眠いし、どこかで昼寝でもしたいんだよ。
だから、父さん達は一番良い席でも取って待っていてくれ。」
「竜也さん、恭介さんにも色々予定があるんですから、無理に引き止めたら駄目ですよ。」
「仕方ない、ならまた今度にでも。」
「分かったよ。
それじゃあな。」
そう言って麻生は二人から離れようとしたが、足を止めて振り返る。
そして、視線を少しだけ逸らし、恥ずかしそうに言った。
「すまなかった。」
「「え?」」
「小さい頃、迷惑かけて・・・・その・・ごめん。」
二人はただ唖然としていた。
そして、竜也は乱暴に麻生の頭を撫で、秋葉は涙を流していた。
「だあああ!!母さん泣くな!!
それじゃあな!!」
そう言って珍しく恥ずかしそうな顔をしながら麻生は去って行った。
秋葉は涙を拭きながら言った。
「此処に連れてきてよかったですね。」
「ああ、本当に良かった。」
静かに二人はそう心から思うのだった。
後書き
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