ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
五十六話:切ない別れの時
今さら死なれるとかイヤだし、妙な死亡フラグ立てられる前に、止めたほうがいいんだろうか。
と、一瞬迷った私の目の前で、擬態を解いて魔物の姿を現す、魔物(もはや呼称として成り立ってない)。
驚くヨシュアさんとマリアさん、あとヘンリー。
ていうか、私も驚いた。
……シュプリンガーじゃん!!
結構、強いヤツじゃないの?
もしかして危なかった?私。
それとも、個体差で弱いヤツなの??
「どうか、私に!名前を、ください!」
「……リンガー」
「ありがとうございます!」
え?いや、ごめん、違う。
シュプリンガーならリンガーだねえ、という混乱の中のどうでもいい思考が、つい口を衝いて。
「リンガー!私の、名前ですね!大切にします!本当に、ありがとうございます!」
そんなことは、言えない雰囲気だね!
喜んでるから、まあいいか!
驚いていたヨシュアさんが、立ち直って呟きます。
「……聞いたことがある。そうか、ドーラさんはモンスター使いだったのか」
本当、出来る男だね!
知ってるなら話は早い!
厳密には、まだ違いますけれども!
「それにしても、魔物が入り込んでいるとは……やはり、この教団は……」
「そういうことです。ヨシュアさんも、どうかお気を付けて。残られるにしろ去られるにしろ、彼が力になってくれるでしょう」
私の言葉に、力強く頷くリンガー。
「ありがとう、ドーラさん。妹だけでなく、どうやら私も助けられることになりそうだ」
ヨシュアさんがじっと、私の瞳を見詰めます。
「……私は、残ろうと思う。私の誘いで教団に帰依した者は、少なくない。実態を知らずに高い地位を得て、いい目を見たことも少なからずある。……罪を、償わなければ」
うーん、やっぱりそう来るか。
脱出後に再会して、そこから!という線は、消えたね!
本人もいい男な上に、美人の義妹がついてくる、超優良物件なのに!
まあ、仕方ない。
私のために、逃げ延びて!
とか縋り付くほどの気持ちでは、まだ無いしなあ。
そもそもそんなんしたところで惑わせるだけで、決意は変わらなそうだし。
「……そうですか。……命を、大事にしてくださいね」
作戦名、命大事に!
全員、常にそんな感じで、よろしく!
「……ありがとう。……ドーラさん。あなたとは、別の形で、会いたかった」
本当にねー。
お互いに、残念極まりないね!
まあ待つとかは無いけど、生きてればまた、会えるよ!
リンガーたちがいるし、我々の(実力行使という名の)努力の甲斐あって、チクりそうな輩はこの場にいないし。
たぶん、なんとかなるって!
とか考えながら口を開こうとしたところで、またもヘンリーが割り込んできました。
うん、わかってたし。
いいけど、別に。
候補からは、完全に外れたところだし。
「……人払いも、長くは保たないだろ。いい加減、行くなら行こう」
少々イラついた感じのヘンリーの態度に、ヨシュアさんがふっと微笑みます。
「……そうだな。すまなかった。妹とドーラさんを、頼む」
「妹さんはともかく、ドーラのことを頼まれる筋合いは無い」
「そうだな。それでも、頼みたい」
「……わかった。達者でな」
……うーん。
ヨシュアさんから、大いなる誤解の気配を感じますが。
変に誤解を解いて、期待持たせるのもなあ。待たないし。
……まあ、いいか。
と、少々不本意ながらも誤解は放置することに決定して、ヨシュアさんとマリアさん、リンガーとヘンリーがそれぞれ言葉を交わし合うのを横目に、乗り込む予定のタルを確認します。
うん、狭そう。
元々死体一人分を入れる想定なんだろうから狭いのは仕方ないし、あんまり広くても中で叩き付けられる危険が増すだけだから、いいけど。
ヘンリーとマリアさんでフラグが立ってれば、接触も推奨したところだが。
立ってない現在、マリアさんの操(というほどのことでも無いが)は私が守らねば!
「よし、ヘンリー。先に入って」
「……おう」
素直に入ったヘンリーに続いて、私が入ります。
「……おい、ドーラ」
「さあ、マリアさん。こちらに」
「はい」
私の促しに応じ、可愛らしく頬を染めたマリアさんが、私の腕の中に収まります。
はー、役得、役得!
「おい。ドーラ。……この体勢」
「なにか、問題でも?」
ヘンリーの腕の中に収まった私が、更にマリアさんを抱き込むような形になってますが。
「問題……無いのか……?」
「こうしないと、肘とかぶつかったら痛いじゃない!場所なら代わらないよ!」
本命でも無い男にマリアさんを抱かせるなんて、とんでもない!
「いや……それはいいけど……」
「私はとりあえず、マリアさんを死守するから!ヘンリーは適当に、腕突っ張るとかなんかしてて」
「……わかったよ」
なんか諦めたような感じで、溜め息を吐くヘンリー。
なんだ、今さら何が不満だ!
聞く気は無いが!
「では、ヨシュアさん。お願いします」
「ああ。ドーラさん、ヘンリーくん、マリア。……元気で」
ヨシュアさんによってタルの蓋がきっちりと閉められます。
視界が真っ暗になり、改めてしっかりとマリアさんを抱え直すと、ヘンリーもしっかりと私を抱き締めてくる気配が。
「ちょっと。ヘンリー」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
外でガタンと音がして、タルの揺れが大きくなります。
……文句があるわけじゃ無いけどさ。
そんなにしっかり私を抱えてたら、自分のガードができなくなるんじゃないの?
と、思う間にタルの揺れが無くなり、浮遊感が取って代わります。
いよいよ、喋ってる場合じゃ無い!
時々滝に掠ってるのか、微妙に揺れますが、ほとんど自由落下みたいになってるんですけど!
大丈夫か、これ!
大丈夫か、ヘンリー!
私の腕の中で震えるマリアさんが助けを求めるように縋り付いてきますが、役得とか考えてる場合じゃ……いややっぱり考えるけど、それは!
時間の感覚がおかしくなって、長かったのか短かったのかよくわからない間の落下のあと。
タルが勢いよく、たぶん海面に叩き付けられ、衝撃が私たちを襲います。
私たちというか、主にヘンリーを。
後書き
タイトルに偽りがあるのではないかという苦情があってしかるべきですが、ドーラさんの内心を省いてセリフだけ読めば、ウソでもありません。
問題ありません。
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