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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-37激情と本懐

 一行は、サントハイム城の門前に立ち、前景をながめる。

 アリーナたち三人が旅立ったその時は、人気(ひとけ)が無く静まり返っていたその場所は、今は邪悪な気配に満ち、時折なにか、人ならぬ者の()き声を響かせていた。

 アリーナが決然とした意志を持って先頭に立って進み、ライアン、少女の前衛組がそれに続き、後衛の仲間たちもそれに続いて、殿(しんがり)をトルネコが務める。


 城内に踏み込んだところで、冷静に歩みを進めているかに見えたアリーナが、立ち止まる。

 周囲の警戒を(なか)ば以上ライアンに任せ、アリーナの様子に気を配っていた少女が、()(とが)め呼びかける。

「アリーナ?」

 暫し逡巡していた様子のアリーナが、意を決したように口を開き、答える。

「……済まない。先に、行く!」

 言うが早いか、真っ直ぐに玉座の間を目指して走り出す、アリーナ。

「王子!」
「アリーナ様!」

 ブライとクリフトが叫び、すぐにも後を追おうとするのを、少女が鋭い声で止める。

「待って!」
「なんと!?」
「でも、アリーナ様が!」
「ばらけると危ない。私が行く。ライアン、マーニャ!一緒に来て!」
「承知」
「わかった」
「ユウ!」
「みんなはあとから、まとまって来て!」

 少女に名を呼ばれたふたりが端的に応じ、すぐさま三人で走り出す。

 狼狽(うろた)え、後を追おうとするブライとクリフトを、ミネアが止める。

「待ってください。ユウの言う通り、魔物の巣食うこの場所で、ばらけてしまっては危険です。ひとまず足の早い三人に先行してもらい、私たちは私たちでまとまって行動するのが、正しいでしょう」

 少女の意図を冷静に解説され、ふたりが我に返って踏み留まる。

「むう……情けないが、その通りじゃの。済まぬの、ミネア殿とて、平静ではいられぬであろうに」
「いえ。私たちのことは、今に始まったことではありませんから。それより、急ぎましょう。あの四人が揃えば滅多なことはないでしょうが、回復の手がユウだけでは不安があります」
「そうですね。アリーナ様は玉座を目指されたようですから、そちらに向かえば合流できるはず。私が、先導します」
「前衛のみなさんが行っちゃったから、あたしが踏ん張らないとね。攻撃はそこそこだけれど、盾役は任せてちょうだいな!さあ、行きましょう!」
「うむ。マーニャ殿もおらぬことじゃしの、攻撃ならば、わしの出番じゃの」

 残された四人も隊列を組み直し、先行した四人を追う。



 ひとり、突出して城の奥に突入したアリーナは、気配を消して魔物との遭遇を最小限に留め、出会(でくわ)した魔物は攻撃される前に駆け抜けるか瞬時に打ち倒すかで時間もかけずに突き進み、間も無く玉座の間に到達した。

 玉座に座る貧相な男を認めて目を細め、低い声で呼びかける。

「……お前。誰の許可を得て、そこに座っている」

 貧相な男は、気怠げに顔を上げ、高慢に応じる。

「私の城で何をしようと、私の勝手であろう?誰の許可も、必要無い」

 あくまで低く抑えた声で、アリーナが続ける。

()()()るな。この城は俺たちの城で、それは父上の玉座だ。貴様如きが、戯れにでも座って良いものでは無い」

 気怠げだった男が、興を引かれたように、皮肉な笑みを浮かべる。

「ほう?これは、傑作だ。滅んだ城を打ち捨てた王子が、今になって惜しくなって、戻ってきたか!残念だったな!既にこの城は、我が手に落ちた!この城も玉座も、亡国の王子には、過ぎた代物(しろもの)よ!最早(もはや)王子とも呼べぬ者が、偉そうなことだな!」

 淡々と、アリーナが応じる。

「お前のような小物(こもの)と、語る言葉も惜しいが。一度だけ聞こう、この城に居た者たちの、行方を知っているか?」

 男の眉が、ぴくりと動く。

「はっ!進化の究極を極め、神にすら近付いた、この私を!言うに事欠いて、小物とは!虚勢もそこまで行くと、いっそ滑稽だな!」

 挑発するように言い返す男にも動じず、アリーナが返す。

「貴様のような小物が、知っている訳も無いか。やはり、時間の無駄だった」

 怒りに顔を紅潮させ、玉座の男が立ち上がる。

「……私を、愚弄するな!最早、デスピサロ様も……、いや、デスピサロの奴も、私には及ばないのだ!愚かでひ弱な人間如きが、大きな口を叩いたことを、あの世で後悔するが良い!!」

 大仰に腕を広げ、(なにがし)かの動作に入ろうとするのを待たず、アリーナが間合いを詰め顔面を強打し、その勢いで玉座から吹き飛ばす。

「無駄なことはせず、始めからこうすれば良かった。……楽に死ねると思うな」

 吹き飛ばされた男が、よろよろと立ち上がる。

 アリーナが呟く。

「小物の割には、無駄に頑丈だな」

 男が苛立ちも露に叫ぶ。

「くっ……!これだから、愚か者は困る!この偉大に進化した身体を、冥土の土産に見せてやろうという、慈悲がわからぬと見える!」

 皆まで聞かず、アリーナが再び間合いを詰める。
 男は慌てて変身の動作に入るが、間に合わず再び殴り飛ばされる。

 殴られながらもなんとか変身の手順を完遂した男が、さらに連撃を浴びながら、人外のものに姿を変えていく。

 変身を終えた男が、攻撃を受けながらも大きく息を吸い込み、身構える。

「アリーナ!下がって!」

 ライアンと少女の剣技、マーニャの魔法の力技で道を切り(ひら)き、突き進んで追い付いてきた三人は、少女の叫びにも立ち止まること無く、異形(いぎょう)の魔物に突進する。

 魔物の意図を察知しているアリーナは、しかし少女の呼びかけに応じることなく、あくまで攻撃を加え続ける。

 魔物が厭らしく顔を歪め、大きく口を(ひら)いて、凍り付く息を吐き出す。

 避ける気も無く攻撃を続けていたアリーナは、正面からまともに息を浴びる。

「アリーナ!」
「任されよ!」
「ちっ」

 前に出ようとした少女を制し、ライアンがアリーナを横合いから突き飛ばして魔物の正面に立ち、鉄の盾で息を受け止める。
 少女はアリーナに駆け寄り、至近距離で受けた冷気による凍傷を回復する。

 マーニャが、叫ぶ。

「ライアン!退()け!」

 ライアンが瞬時に跳び退()き、直後にベギラゴンの火炎が魔物に向かって殺到する。

 炎に包まれた魔物が悲鳴を上げ、一行は一旦距離を取って、態勢を整える。

「アリーナ!ちっと頭冷やせ!」
「少々、無茶が過ぎますな」
 
 マーニャがアリーナを怒鳴り付け、ライアンも鉄の盾と、盾を構えた腕の表面が凍りついたのを、軽く腕を振って払いながら、苦言を呈する。

 ライアンの腕から飛び散る氷と霜を見詰め、気まずそうにアリーナが呟く。

「……済まない」
「ライアン。治すね」
「この程度。……いや、(かたじけ)ない」

 一旦は治療を断ろうとしたライアンは、手の空くうちに治すべきと思い直し、少女の治療を受け入れる。

「わかったんならいいけどよ。……あれ、バルザックか?ずいぶんとまた、変わってやがるが」
「さあ。名は聞いていないな、そう言えば」
「確認しねえで殺すなよ。オレらの(かたき)なんだからよ」
「悪い」
「おい!てめえ、バルザックか?」

 マーニャの呼びかけを受け、炎に呼吸を阻害され咳き込んでいた魔物が、咳払いで息を整え、尊大に応じる。

「ふ……ふはははは!見違えたか!いかにも、私がバルザックだ!エドガンの息子よ、やはり、来たか!逃げ延びて折角拾った命を、遥々(はるばる)こんなところまで、捨てに来るとは!全く、ご苦労なことだ!全く、愚かなことよ!」

 時折咳き込みながら高笑いするバルザックに、マーニャが顔を(しか)める。

「相変わらずの小物っぷりっつうか……。進化してねえか?」
「以前のことは、知らないが。小物ではあるな」

 マーニャとアリーナの呟きに反応し、バルザックが激昂する。

「まだ、言うか!私を、誰より神に近付いた、この私を!!愚弄、するな!!」
「……小物だな」
「ああ、小物だ」
「あまり、挑発されませんように」

 巨大な棍棒を振りかぶり、突進してくるのを、ライアンが前に立って、迎え撃つ。

「スクルト!」

 追い付いてきたクリフトの詠唱が響き渡り、魔力の鎧が一行を包む。

 魔力の補助を受け、バルザックの痛烈な攻撃を、揺らぎもせずにライアンが受け止める。

「なっ!?」

 丸太のような自身のそれと比べれば、あまりにも頼りなく見える女戦士の細腕と力で拮抗し、動揺するバルザックを囲い込むようにして、アリーナ、ライアン、トルネコ、少女が攻撃を仕掛ける。

「兄さん!あれが、バルザックなのか!?」
「そうだってよ」
「なんで、そんなやる気なさげなんだよ!」
「そんなこたあ、ねえけどよ。あんまりにも、小物臭が酷くてな」
「そんなのは元からだろ!」
「そうだったか?……そうだったな」
「とにかく、アリーナたちには悪いけど、(とど)めだけは譲れない」
「当たり前だ。行くか」
「あいや、待たれよ」

 決意も新たにバルザックに向かう兄弟を、ブライが止める。

「なんだよ、ばあさん。こればっかりは、譲れねえぞ」
「譲れとは言わぬ。ただ、わしにも一矢(いっし)報いる機会を、くれぬかの」
「殺すなよ」
「うむ。元より、わしでは殺せはすまいがの。行くかの」

 前衛陣の攻撃に、バルザックが弱り切ったところを見計らい、ブライが高らかに宣言する。

「皆の者。下がりなされ」

 声を荒げるでも無く、しかし凛としてよく通る老婆の声に、一同がはっとして距離を取る。

「ただ殺すばかりが、能では無いということじゃ。……マヒャド」

 たっぷりと間を取って放たれたそれが、冷気の呪文であったことに、バルザックの口元に嘲笑が浮かぶ。

 果たして、ブライの手元から放たれた激しい冷気は、バルザックにダメージを与えることは無く。
 バルザックの足元に集中して放たれたそれは、バルザックの下半身を凍りつかせて床に縫い止め、行動不能とした。

「な……!!なん、だと……!?」

 動揺し、闇雲に身体を動かそうとするが、既に力尽きそうなほど体力が落ちたバルザックに崩せるほど、最上級呪文は甘くない。

「うむ。良いぞよ、マーニャ殿、ミネア殿」
「なんだよ。見せ場は持ってかれたな」
「ありがとうございます。みなさんのお怒りも、お預かりします」
「うむ。頼むぞよ」

 マーニャとミネアが、それぞれ手元に火炎と、真空の渦を出現させる。

 バルザックがいよいよ動揺を深め、取り乱して命乞いを始める。

「ま、待て!やめろ!殺さないでくれ!一時は、家族のように暮らした仲じゃないか!」
「その家族同然の親父とオーリンを、てめえはどうしたんだったかな」
「ここでかける情けがあるなら、そもそも追う必要は無かったね」

 呪文解放時の威力をより高めるため、バルザックに歩み寄る兄弟。

「ま、待ってくれ!……そうだ!俺は、騙されていたんだ!騙されて、魔物に、操られて!だから、俺の本意では、無かったんだ!」
「また都合良く記憶が戻ったもんだな」
「キングレオの王子でも、ここまで酷くは無かったね」
「待て!だから、その」
「いい加減、見苦しいぜ」
「生きて償うことを認めるには、あなたの罪は重すぎる。少なくとも、僕たちは許せない」
「親父を殺すだけでなく、妙な秘法まで広めちまいやがって。尻拭いさせられるのも不満だが、てめえにゃもうなんも期待してねえ。せめて、死んで償え」

 いよいよ呪文を放つ態勢に入る兄弟と、標的になるバルザックの姿を、ライアンが少女の視界から隠そうとするが、少女が止める。

「ライアン。わたしは、見ないといけないの。わたしも、同じだから」
「ユウ殿。……わかりました」

 兄弟が、呪文を放つ。
 命乞いの言葉は、呪文が放たれた瞬間に、恐怖の悲鳴に変わり、更に断末魔の叫びに取って代わり。

 やがて、バルザックの命と共に、消えた。


「……終わったな」
「……そうだね」
「……すっきりするってもんでも、ねえんだな」
「……そうだね」

 少女が、兄弟に歩み寄る。

「……マーニャ。……ミネア」

 兄弟が、少女に笑いかける。

「大丈夫ですよ」
「ちっと、気が抜けただけだ。心配すんな」
「……うん」

 少女が、今度はアリーナに向き直る。

「アリーナも、大丈夫?」

 アリーナが、しっかりと頷く。

「ああ。奴は何も知らなかったが、逆に言えば、悪い情報も知らなかった。状況は変わらないが、悪くはなっていない。城に居座る魔物も、親玉は倒したから、あと少し掃除でもしていけば、ひとまずは問題無いだろう」
「そう。……そうね。それじゃ、残りの魔物を。倒しに、行こう」

 頷き合い、動き出そうとしたところで、アリーナ、ライアン、少女が魔物の気配を察知し、身構える。
 他の仲間たちも三人に(なら)い、警戒を高める。


 と、バルザックの(しかばね)を囲む形で、数体の魔物が現れた。

「実験は、失敗だったようだな。デスピサロ様に、報告せねば」
「進化の秘法を完成させるには、やはり黄金の腕輪が必要なのだ。暗黒の力を増幅させるという、黄金の腕輪」
「黄金の腕輪を手に入れ、進化の秘法を完璧なものとしたとき。そのときこそ、我ら暗黒の種族の時代が来ようぞ」

 一行の姿など目に入らぬ風に、バルザックの屍だけを見詰めて話し合っていた魔物たちは、話し終えるとまた唐突に姿を消した。
 同時にバルザックの屍も、掻き消える。

「なんだ、今の。実験?とか言ってやがったな」
「進化の秘法の、実験、をしていたのか?ここで、バルザックで?」
「黄金の、腕輪か……」
「あのとき、誘拐犯に渡したもののことでしょうか……」
「やはり、碌なことにはならなんだの。まあ、今さらどうにもならぬことではあるの。渡さなかったとて、我らが確保する等ということも、せなんだろうしの」
「よく、わからないけれど。その、黄金の腕輪、というの?昔、アリーナさんたちが、関わったものなのね?まだ、魔物たちにも、渡ってはいないようだったけれど。だからといって、探すのも、難しそうねえ。」
「そうですな。探そうにも、探す手は魔物共のほうが多いでしょうから、あちらの手に渡るのは時間の問題と考えたほうが良いでしょう。それよりは、邪悪の者共を先に倒すことを考えたほうが、まだしも現実的でしょうな」
「それなら、今までと、同じね。今までと同じで、黄金の腕輪のことにも、気を付けてれば、いいのね」


 重要そうな情報ではあるものの、当面できることは無いということで話はまとまり、一行は二手に別れて予定通り城内の掃討を開始する。
 サントハイム組は案内役として二手に別れ、平民から登り詰め城内の隅々まで知り尽くすブライが一方に、身分の違いで守備範囲の異なるアリーナとクリフトがもう一方に組む形で別れる。

 アリーナとマーニャの組み合わせにミネアが強い不安を感じつつも、戦力配分の関係上、ブライ側にはライアン、少女、ミネア、もう一方にはアリーナ、クリフトの他にトルネコとマーニャが加わる。

「トルネコさん、クリフトさん。お手数ですが、どうぞよろしくお願いします」
「大丈夫よ。アリーナさんの、お城なのだし。おかしなことも、ないでしょう。」
「それなら、いいんですけど……」
「私も、出来る限り、気を付けてはおきますが。……力及ばなかったら、申し訳ありません……」
「いえ、謝られるようなことでは……。本当にすみませんが、お願いします……」 
 

 
後書き
 本懐を遂げても戻らぬものに、虚しさは募る。
 徐々に明らかになる闇の胎動に、更なる手掛かりを求めて、一行は旅を続ける。

 次回、『5-38情報と宝を求めて』。
 10/2(水)午前5:00更新。 
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