魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter28「憤りと後悔」
ホテル・アグスタをガジェットから防衛する前線部隊。
ヴィータが、グラーフアイゼンで打ち出した8つの鉄球は、魔力結合を妨害するAMFの影響をまるで受けずに、ガジェットⅠ型を打ち出した鉄球の数だけ破壊する。
シグナムの攻撃を受け止めようとしたガジェットⅡ型は、迫るアームごとレヴァンティンに真っ二つに斬り裂かれる。Ⅰ型から放たれるレーザーを、ザフィーラは不動のまま防ぎ、勇ましい雄叫びと同時に地中から魔力の針が出現し、Ⅰ型を串刺しにする。
圧倒的だ。
フォワード達は先行して戦っているヴォルケンリッター達の活躍を見て、驚かずにはいられなかった。
「副隊長とザフィーラ、すご~い!」
「これで……能力リミッター付き……」
純粋にスバルは、ヴォルケンリッターの戦いに驚いているようだが、ティアナは何か他の意味もあるようだ。それはさて置き、戦況は六課側が有利。
このまま行けば、ヴォルケンリッターだけで状況を終了させる事も可能だろう。
しかし、状況は新たに移り変わろうとしていた。
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ホテルからやや離れた森の中で、大柄な男と紫髪の少女が戦闘を眺めている。
そこへ、ある人物から通信が入る。大柄な男は通信者の顔を見た瞬間、僅かに眉が動く。
『ご機嫌よう、騎士ゼスト、ルーテシア』
「ごきげんよう……」
「……何の用だ」
紫髪の少女---ルーテシアは通信者---スカリエッティへ挨拶を返すが、大柄な男---ゼストは不快そうにスカリエッティを睨む。
『冷たいねぇ、近くで状況を見ているんだろう?あのホテルにレリックはなさそうなんだが……実験材料として興味深い骨董が1つあるんだ。少し協力してはくれないかね?
君達なら、実に造作もない事の筈なんだが……』
「断る……レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」
スカリエッティの頼みを即座に断るゼスト。
特に表情を変える事なくスカリエッティは、ルーテシアの方に視線を移す。
『ルーテシアはどうだい?頼まれてはくれないかな?』
「……いいよ」
『優しいな……ありがとう。今度ぜひ、お茶とお菓子を奢らせてくれ。君のデバイス……アスクレピオ
スに私が欲しい物のデータを送ったよ』
「……うん」
ルーテシアの言葉に、スカリエッティは少し微笑む。
「じゃあ……ごきげんよう、ドクター」
『ああ、ごきげんよう、吉報を待っているよ』
通信を切り、ルーテシアは魔法を行使するためコートを脱ぎ、ゼストに預ける。
「いいのか?」
「うん……ゼストやアギトはドクターを嫌うけど、私はドクターの事……そんなに嫌いじゃないから」
「そうか」
ルーテシアは両手を広げ足元に召喚のミッド式魔法陣を出す。
「我は乞う。小さき者、羽ばたく者、言の葉に応え、話が命を果たせ。召喚インゼクトツーク」
直後、ルーテシアの周囲に無数の小さな銀色の虫が現れる。
「ミッション、オブジェクトコントロール……いってらっしゃい。気を付けてね」
そう彼女が虫達に話し、虫達は光り、四方に飛び立つ。
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ホテル周辺で警戒を敷く、キャロのケリュケイオンが反応を示す。
「あっ!?」
「キャロ、どうしたの?」
「近くで、誰かが召喚を使ってる」
エリオの問いに答えるキャロ。それとほぼ同時に、現場指揮担当のシャマルから通信が入る。
『クラールヴィントのセンサーにも反応!だけど、この魔力反応って……』
『お、大きい……』
シャマルの通信に管制のシャーリーも入る。また魔力反応を探知して直ぐに、ガジェットの動きが急激に変わり状況が変わる。
動きが変わったガジェットはシグナム達の攻撃にすら対応しはじめた事で、副隊長陣もガジェットの対
応を状況に適したものへと移行せざるおえなくなった。
「(ザフィーラはシグナムと合流して)」
「(心得た)」
念話で戦術の変更を確認し、副隊長陣はガジェット迎撃を再開する。
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闇が支配する研究施設で、アグスタで行われている戦闘をモニターで確認しているスカリエッティ。
「やはり素晴らしいね、彼女の能力は……」
『極小の召喚中による無機物自動操作……シュテーレ・ゲネゲン』
アグスタの戦況を映すモニターの横に映る女性……ウーノがルーテシアの能力を解説する。
その言葉にスカリエッティはうっすら微笑み、言葉を続ける。
「それも彼女の能力の一端に過ぎないがね」
『……それはそうと、ドクター?例の骨董品とはいったい、どういった物なのですか?』
「気になるかい?……フッフ、そうだね……“忘却されし世界”への道標の1つとでも言っておこうか」
『忘却されし世界……ですか?』
「そうだよ……そして私はあの世界をこの目で見てみたいんだよ!……それでウーノ。逃走した4番目は無事捕獲できたのかな?」
『申し訳ございません。現在妹達が捕獲作戦を実行中ですが、未だ何の連絡も入ってはいません』
その報告を受けたスカリエッティはやはりかと呟くと、新たに戦力を送る事にする。
「ウーノ。私の友人に連絡を入れてくれ。娘達に手を貸してほしいとね」
『あの男の事ですか?お言葉ですがドクター。彼が私達に手を貸すとは思えないのですが……』
「大丈夫だよ。彼も計画がこれ以上遅れる事は避けたいはずさ。その要である自分の娘が計画の障害になっているなら尚更……必ず協力してくれるさ」
『……わかりました』
ウーノの映るモニターが消える。もはや必然か。スカリエッティは狂ったように笑い出す。
「クックック……アッーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
忘却されし世界……それが何を指すかは計画の当事者であるスカリエッティと彼の友人にしか分かりえない事。
ただ今言える事は、彼らの計画が成り立った時、世界は確実に良くも悪くも関係なく、その先に変革が待っている。
……目覚めの時は近い。
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戦況が変わりスターズとライトニングは合流し、ホテル正面付近で警戒に当たっていた。
そんな中、キャロのケリュケイオンが再び反応する。
「!?遠隔召喚、来ます!」4つの召喚魔法陣が地面に展開される。そして、そこから現れるたのは10機以上のガジェット。
「あれって、召喚魔法陣!?」
「召喚ってこんなこともできるの!?」
「優れた召喚師は、転送魔法のエキスパートでもあるんです」
現れた召喚魔法陣に動揺を隠せないエリオとスバルに、キャロが解説をする。
「なんでもいいわ、迎撃行くわよ!」
「「「おうっ!」」」
ティアナの声で、3人は臨戦態勢に入る。
(今までと同じだ、証明すればいい……自分の能力と勇気を証明して、私はそれで、いつだってやってきた!)
自らの存在を証明する事。
それがこれまでティアナを根幹から支えてきた意思であり、アイデンティティーだ。
だがそれはただ1人の証明であって、仲間の力を加えたものではない。
ティアナはまだ、自分がルドガーの教えに背いている事に気づいてはいなかった。
展開したガジェットⅠ型に向け魔力弾を放つ。
しかし、訓練のシュミレーターのものとは比べものにならない動きをするガジェットに、魔力弾は回避されてしまう。
かろうじて当たった魔力弾もAMFが強化されているのか、大したダメージを与える事はできなかった。
「くっ!」
自分の非力さに歯噛みをせずにはいられない。
同時に、ガジェットを難なく破壊するなのは達隊長陣の姿と、骸殻に変身し、ガジェットを蹂躙するルドガーの姿が頭にフラッシュバックし、自分に対して苛立ちを覚える。
『防衛ライン、もう少しもちこたえててね!ヴィータ副隊長がすぐ戻ってくるから!』
「守ってばっかじゃ行き詰まります!ちゃんと全機落とします!」
『ちょ、ティアナ大丈夫?無茶しないで!』
「大丈夫です!あんなに朝晩練習してきてるんですから!」
心配するシャーリーにそう応えると、エリオに指示を出す。
「エリオ、センターに下がって!私とスバルのツートップで行く!」
「あ、はい!」
「スバル!クロスシフトA、行くわよ!」
『おうっ!』
クロスシフトAとは、ウイングロードで駆け回りガジェットを撹乱し、複数のターゲットを殲滅する作戦だ。
(……証明するんだ……特別な才能や、凄い魔力がが無くたって、……一流の隊長達がいる部隊でだって……どんな危険な戦いだって……)
ティアナはスバルが時間稼ぎをしている間に、カートリッジを4発ロードし、周囲に無数の魔力弾を出現させ魔力を上乗せさせていく。
「私は、ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を打ち抜けるんだって!」
更に魔力弾に魔力を圧縮させ、威力を高める。
『ティアナ!4発ロードなんて無茶だよ!それじゃティアナもクロスミラージュも……』
「撃てます!」
《YES.(はい)》
再三の警告も、意固地となっているティアナに通じる訳もなく、シャーリーに構わず魔力を圧縮する事を続け、ティアナはクロスミラージュを構える。
「クロスファイアー!」
ガジェットに狙いを定め、引き金を……
「シュートッ!」
引く。
ティアナの放った誘導弾がガジェットに襲い掛かる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
次々に魔力弾がガジェットを破壊していく。
だが………
「あっ!?」
その内の一発がガジェットを逸れ、ウイングロードを走るスバルへと向かっていく。
多数の魔力弾の制御する事は難しい技術な上に、カートリッジの負荷。
完全制御できなかった魔力弾が暴走したのだ。
ガジェットを引き付けていたスバルは、自分の背に魔力弾が迫っている事に気付いた時には、避けることも防御する事もできない状況だった。
「「スバルさん!」」
エリオとキャロが声を上げる。
直撃……。
誰もがそう思った時、スバルの前に影が1つ割り込んだ。
そして、爆音と共にスバルが爆煙に飲み込まれた。
「う、嘘だろ……」
フォワードのフォローに駆け付けたヴィータが、爆煙を見て唖然とする。
無論、この目の前の状況を作ってしまったティアナも……。
誰もが最悪の光景を頭に思い浮かべていた。しかし、爆煙が薄れた先に見えた光景は想像していたものと違っていた。
「ル、ルドガー…さん?」
スバルの前には槍を構えたルドガーの姿があった。
また今のルドガーの両腕は漆黒の鎧のような物を纏っている。
そう。ルドガーは骸殻を、クォーター骸殻を発動させているのだ。
「ケガはないか、スバル?」
「は、はい、大丈夫です!」
言葉通りどこも怪我をしていないスバルを見て、安堵する。
ホテルではやてと一緒にいたルドガーは、ガジェットの動きが急激に変化し、防衛ラインのフォワード達が苦戦している事をシャマルから報告を受け、はやては応援にルドガーを向かわせたのだ。あの時ルドガーが割って入って、魔力弾を槍で防いでいなかったら、どうなっていたのか……想像もしたくない。
「すまねぇルドガー。アタシがもっと早く来ていれば……」
「ヴィータが気にする事じゃない。何事も無くてよかったよ」
「ホントにすまねぇ……」
ルドガーに謝った後、ヴィータは陸で呆然としているティアナを見る。
「ティアナ!この馬鹿!無茶やった上に味方撃ってどうすんだ!」
骸殻を解き、ほぼ同時にヴィータの怒声が響く。
「あ、あの!ヴィータ副隊長……今のもその、コンビネーションの内で……」
ミスショットを撃ってしまったティアナを庇おうとするスバル。
だがその弁解は無茶苦茶であり、全く筋が通っていない。
「ふざけろタコ!直撃コースだよ今のは!ルドガーを見ろ!ルドガーが割ってなけりゃ、お前の背中に直撃してたんだぞ!」
「違うんです!今のは私がいけない---」
「いい加減にしろスバル」
「えっ?」
言い争いに嫌気が差したルドガーは、スバルに厳しい口調で話し掛ける。
「さっきの動きでお前は何一つミスなんてしていない。ミスをやったのはティアナだ」
「ち、違い--」
更に食い付こうとするスバルにルドガーはやむを得ず、カストールをスバルの喉元に突き付け黙らせる。
「戦いで一番厄介なのはな、背中を預けられないような味方だ。お前は優しい……けど勘違いするな。今のお前の言葉はかえってティアナを苦しめているぞ」
「えっ?」
「誰だって失敗はする。問題はその失敗を次にどう生かすかなんだ。アイツの事を思うなら、今は何も言うな」
「…………」
殺気を少し混ぜたとはいえ、あんなに反論していたスバルが今のルドガーに何も言い返せなかった。
ルドガーも出来ればこんな事をしたくはなかったが、今の状況と今後の彼女達の成長を考えれば、多少厳しい方が2人の為になると考えた。
彼の兄、ユリウスがそうだったように。
「あと、スターズはもう前線から離脱しろ。戦闘なんてとてもじゃないが任せられない。これはエージェントとしての命令だ」
「!ま、待ってください!私達は---」
「ルドガーの言うとおりだ。テメェらは下がってろ。後はアタシ達がやる」
「……はい」
有無を許さないルドガーとヴィータに、スバルは大人しく下がる。
「俺がヴィータをサポートする。さっさと終わらせよう」
「ああ……背中は任せるからな。……行くぞッ!」
「おうッ!」
その後、副隊長陣とルドガーの活躍によりアグスタに進行していたガジェットは全て殲滅され無事防衛に成功。前線を外されたティアナとスバルはホテルの裏手で警備についていた。
「ティア……向こう、終わったみたいだよ?」
スバルは、後ろ向き俯いたティアナに気を使って声をかける。
「私は……ここの警備やってるから……アンタはあっち行きなさいよ」
「……あのね、ティア」
「いいから、行って」
「ティア、全然悪……」
ティアナは悪くない……そう元気付けようとしたが、ルドガーに言われた事を思い出す。
“今のお前の言葉はかえってティアナを苦しめているぞ”
「うんん、何でもない……また後で、ね?ティア」
それだけを言いのこし、スバルは走り去った。
1人残されたティアナは、壁に手をつき涙を流す。
「私は……」
頭に思い浮かぶのは、自分の放った魔力弾がスバルめがけて向かっていくところ。
もしルドガーがあの時、間に入っていなかったら……起こりえた最悪の事態を思い浮かべ、握り締めた拳を壁に叩く。
「私は……」
自分が犯したミスが許せず、ティアナはそれ以上言葉を続けられなかった。
そしてその憤りはティアナ自身を追い込んでいった。
後書き
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