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ファントム・バレット
黄昏の作戦
前書き
お久しぶりです。
時は黄昏。無機質の岩や砂がその色に染まり、そろそろ夜間戦闘装備をしなければ相手を見ることが難しくて戦闘がままならない時間帯となっている。自分は暗視ゴーグルを持ってきているのだが、他の連中はもっていなさそうなので自分の予備で持ってきているものを使うなどして、対策が出来るようにはしている。その前に今回の標的であるプレイヤーたちが来てくれれば助かるのだが、結構長い時間を待たせられているため、自分の横にいるパートナーであるアウラは、自分の肩に頭を置いて、ドラグノフを抱えながら船を漕いでいた。
「おい、ダイン。今回のターゲットはまだ来ないのか?」
「ホントだぜ、まったく……本当に来るのかぁ?ガセネタなんじゃねえのかよ?」
自分がダインと呼ばれる大柄の男にそう聞くとパーティーメンバーである短機関銃を腰に下げている男が便乗して聞いた。それを聞いたダインは肩に下げているアサルトライフルを鳴らしながら首を振る。
「奴らはこの三週間、ほとんど毎日のように同じ時間、同じルートで狩り場に行ってるんだ。俺が自分でチェックしてるんだぞ。確かに今日はちょっと遅いけど、Mobの湧きまくって粘ってるんだろ。その分、分け前があるんだから文句を言うなよ」
「それなら俺みたいな運び屋を雇わなかったほうがいいんじゃないのか?増えたところで分け前が減るだけだろ。」
「お前らを雇ったのは保険だよ。保険をかけたって別に悪くはないだろ」
「別に大会に記録を残している二人がいるんだから大丈夫だとは思うけどな」
そう言って再び標的が来るルートを双眼鏡を使って眺める。だが、そこには何の変化も見られず、何もないため本当に暇になってくる。アウラはもう眠ってると思うくらいに動いていない。本当に今日は来ない、そんなこと思いながら、持ってきたベレッタとM500の点検を開始する。実際は何回もしているため、使えるのだがこうも暇だと何かをしてないと本当にアウラみたいに寝てしまいそうになってくる。そんなことをしている間に自分の後に話していた男とダインという男の会話が進んでいる。
「大体Mob狩りに光学銃ばっか揃えてるやつらがすぐに対人用の装備をそろえるなんて無理だし、揃えられたとしてもせいぜい支援火気一丁程度が限界だろ。そいつを潰すために今回はシノンとアウラに狙撃ライフルを持ってきてもらってるんだ。作戦に死角はねえよ。なあ、シノン、アウラ?」
不意に名前を呼ばれたアウラはびくッとしてから起きると、こくっと首を縦に振って頷いた。そしてもう一人、自分とは少し離れたところにいるマフラーで顔を埋めていたシノンという少女も小さく頷いた。このシノンと呼ばれる少女とは初めてバギーの後ろに乗せた少女だ。シノンとは何回か話しているのだが、まだぎこちなさはある。だが、それでも少しは信頼はされているのでいいとは思っている。
それを見たダインはつまらなさそうに鼻を鳴らす。しかし、アタッカーである男はシノンとアウラに向かってニッと笑いかけた。そしてまだ眠そうなアウラの横にいる自分を憎憎しげに見た。
「チクショウ。アウラは駄目か……クソ、何でこんな世界でリア充になれるんだよ……やっぱりアバターでの顔の差か……かなり課金してんだろあいつ……」
リア充といわれるが実際はリアルに充実、つまりは現実に生きているのに何の不自由もないことなのでほとんどの人がリア充じゃないのか、と思いながらその男を見る。男はアウラを見て溜め息を吐きながら首を振ると今度はシノンのほうを見てニカッと笑うと四つんばいで近寄って行った。
「シノっちさぁ、今日このあと時間ある?俺も狙撃スキル上げたいかで相談に乗ってほしいなーなんて。どっかでお茶飲みながらでもどう?」
シノンはそう言われて一瞬顔をしかめたように見える。だが僅かな差なので相手にはピクッと反応したようにしか見えなかったと思う。そしてしばらく考えているのか黙る。そして数秒後、シノンは頭を下げた。
「……ごめんなさい、ギンロウさん。今日はちょっとリアルで用事があるから……」
ギンロウは断られたのにうっとりとした表情をしている。珍しい女性プレイヤーの声を聞けたからだと思う。しかし、シノン自身はその声が嫌いなのか少し不機嫌、のように見える。
「そっかぁー、シノっちはリアルじゃ学生さんだっけ?レポートかなんかかな?」
「……ええ、まあ……」
そう答えると一度こちらに目を向けてくる。たぶん、いい加減鬱陶しくなったのであろう。自分に何とかしろ、と言ってそうな感じだ。そう解釈するとシノンに迫っているギンロウに向けて言った。
「ギンロウ、リアルの詮索はネットではマナー違反だろ」
「そうそう、シノンさんが困ってるでしょう。リアルの話を持ち出すなんてネットではご法度ですよ」
「そうそう。向こうでもこっちでも寂しい独り身だからってさぁ」
自分が言うとその後にスモーク処理されたゴーグルをつけている男と、迷彩のヘルメットを斜めに被った男が支援してくれるように言う。そう言われると自分のところには睨み返してから他の二人に拳をぐりぐりと押しながら言い返す。
「ンだよ。お前らだって何年も春が来ないくせに」
ひゃひゃひゃと笑う三人を見て、この三人はリアルでも知り合いなのか、と考えながら再び視線を標的が通ると思わしきルートを見る。だがまだ、そこからプレイヤーの影すら見えない。本当に今日も来るのか、と思いながら双眼鏡を使ってそこを見る。そして数十分が過ぎた辺りから、そこにはゆらゆらと揺れながらこちらに向かってくる人影が見えた。
「おい」
自分がそう言うと偵察役の奴が頷き、言った。
「わかってる。来たぞ」
偵察役のその言葉にさっきまでふざけていた三人も話しをピタッと止める。さすがに、戦闘前ともなると一気に空気が変わるものだ。
「ようやくお出ましか」
そう小声で唸りながら中腰で偵察役から双眼鏡を受け取って双眼鏡から覗き込んで戦力を確認する。自分も見た感じから相手の戦力を把握する。
「……確かにあいつらだ。七人……」
「お前から聞いた話じゃ、あいつらは六人じゃなかったか?」
「ああ。だけど、1人多い。たぶん新しく入れたかなんかだろ。で、装備は光学系ブラスターの前衛が四人。大口径レーザーライフルが1人。それに……《ミニミ》持ちが一人。こいつは先週は光学銃だったから、慌てて実弾系に持ち替えたんだろうな。狙撃するならこいつだな。最後の一人は……マントを被ってて武装がよく見えないな……お前はどうだ?ゲツガ?」
「いいや、こっちも見えない」
そう言うとシノンと先ほどの空気が変わったことで起きたアウラは各々のライフルについているスコープから見ている。二人も六人の装備は確認できたようだがマントを被ったプレイヤーの武装は確認できていない。ダインがシノンにも聞いて確認して、アウラは自分に言ってから自分がダインに伝えた。
「二人にも見えないか……それでゲツガ。お前はあの膨らんだマントから武装は確認できるか?」
「わからん。でもあの膨らみ具合からして短機関銃クラスだろうな。アウラは?」
「私もそう思う」
アウラにも聞くがそう答える。ダインもそう思っていたらしくそうかとだけと言った。そして断片的に会話を聞いていたギンロウは気になったのかその部分を聞いてきた。
「マントで顔が見えねえって?」
ギンロウが冗談めいた言葉を言うが、その言葉からは僅かな緊張を帯びていた。そしてそのまま話を続ける。
「あれじゃねえのか?噂の……《デスガン》」
「ハッ、まさか。実在するものか」
「デスガン?何だそいつは?」
その存在を知らない自分はダインについてそいつの情報を聞く。
「お前知らないのか?自分からデスガン、死銃って名乗ってる男だよ。前にどこかの酒場のモニターでMストをやってたときにそのモニターに向けて銃をぶっ放したらしい。で、その時に映っていたゼクシードが急に回線切断かなんかで消えて以来、ゼクシードが入ってきてないんで本当に奴が殺したんじゃないかっていう噂が立ち始めたんだ」
「それっておかしくねえか?相手はモニターに映ってただけだったんだろ?モニターに銃弾を撃ったってモニターを通り過ぎてゼクシードに当たるはずもないし、弾かれるだけだろ」
「そんな話ししてないでとりあえずあいつをどうするんだ?」
話をギンロウが切ってダインは少し考えてから言う。
「予想だとあいつはゲツガと同じ運び屋だろうな。稼いだアイテムやら弾薬やらを背負ってるんだろ。武装はたいしたことはないと思うからこいつは無視してもいい」
ダインはそう言うが自分的にはこいつを先に狙ったほうがいいと思う。二年半ぐらいのプレイ経験によって培われた勘がそう言っている。
「俺はあいつから狙ったほうがいい気がするんだけど」
「私も。狙うならあのマントの男にしたい」
自分がそう言うとシノンもそう言った。それを聞いたダインは双眼鏡から顔を離して、自分とシノンを交互に見て言った。
「何故だ?大した武装もしてそうにないのに」
「……根拠はないけど。不確定要素だから気に入らないだけ」
「俺も同意見だ。武装がわかっているのならともかく、武装がわからないのならどんな脅威を持っているかわからない。それだったら、そいつを倒していたほうがいいと思う」
「そうだろうな。だが、不確定要素ならミニミもだろう。あいつに手間取ってる間にブラスターどもに近寄られたら厄介だろ。それにあいつらにはライフルもいるからそいつも早めに潰していたほうが短期戦に持ち込める。いいか、俺はお前の雇い主なんだ。シノンはともかくお前には何の言う権利もない」
正論だがさすがにここまで言われるとイラッと来る。アウラはそれを聞いてドラグノフをダインに向けようとしていたが手で制す。
「わかったよ。あんたのいう通りにする」
「それでいい。お前は?」
ダインはシノンを見てそう言った。
「……わかった。第一目標はミニミとレーザーライフルにする。可能だったら次弾でマントの男を狙う。アウラ、あなたもそれでいい?」
「了解」
二人はそう言って作戦に乗った。
「おい、喋ってる時間はそろそろないぞ。距離二千五百だ」
今まで偵察していた男がダインから双眼鏡を取り返すと覗きながら言う。それを聞いてダインは頷く偵察以外の視界に入る全員に向けて言った。
「よし。俺たちは作戦通り、正面のビルの陰まで進んで敵を待つ。シノンとアウラとゲツガ、動き始めたら奴らの動きを俺らは把握できないから状況が変わったら知らせろ。狙撃のタイミングは指示する。で、乱戦が始まったらゲツガは俺の指示があるまで待機だ」
「「了解」」
自分とシノンはそう答え、アウラは頷く。
それを見たダインは頷くと自分とアウラ、シノンを覗く全員に向けて言った。
「よし、行くぞ」
「おう」
そして作戦が開始された。
後書き
退院しました。そしてまだまだつぶやきのほうの募集中です。そして自分も入っているライングループの小説家になろう交流会も募集しています。入りたいなーと思う人はレキさんにメッセを飛ばしたら入れるので興味のある方はぜひ。
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