オベローン
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第一幕その二
第一幕その二
「もうよい。また後でな」
「ええ、また後で」
「私は政治に向かう」
「では私は女官達に指示を出してきます」
「それではな。またな」
「ええ、また」
別れは愛想のいいものだった。どうやら仲はそんなに悪くはないらしい。オベローンは妻と別れた後一人でその鮮やかな色の森を歩いていた。そこに緑の葉で作った上着と青い幹で作った服を着た赤い髪と目の男の子が来た。顔はやけに朗らかな表情で肌の色は褐色だ。そのやけに風変わりな男の子が彼の前に出て来たのだ。
彼はオベローンの前に出て来ると。こう告げてきたのだ。
「オベローン様」
「うむ、パックか」
「何かあったのですか?」
オベローンの前に出て来て尋ねるのだった。
「一体。何が」
「少しな」
先程のことを思い出して幾分か憮然とした顔になるオベローンだった。そうして腕を組んだ姿になってパックに対して告げるのだった。
「王妃と言い争ってしまった」
「何と、そんなことははじめてですが」
「その通りだ」
驚いた顔で自分の前に片膝をつくパックにまた告げた。
「だから私も驚いているのだ」
「それでまたどうして」
パックは首を傾げさせながらまた王に問うた。
「そのようなことに」
「些細なことなのだがな」
「些細なことですか」
「貞節だ」
ここで貞節という言葉を出したのだった。
「男と女どちらが貞節かな。言い争ったのだ」
「貞節ですか」
「そうだ。どちらが上かだ」
彼はパックに言うのだった。
「どちらかな」
「何かどちらかを見極めるのでしたら」
パックはまた首を捻った。そのうえで主に告げた。
「あれですね」
「あれとは?」
「今人間の世界で面白いことが起こっています」
ここで人間の世界の話をするのであった。
「まず。夢の中でですが」
「夢の中でか」
「はい、フランク王国のギエンヌ公爵ヒュオンは御存知ですね」
「ああ、あの者か」
オベローンはヒュオンという名前を聞いてすぐに応えた。
「あれは中々いい若者だな」
「そしてバグダットの太守の娘の一人レツィアですが」
「あれもいい娘だな」
オベローンはこの娘のことも知っているのだった。
「器量も心もいいな」
「その二人が出会ったのです」
「夢の中でだな」
「そうです」
まさにそうだと述べるパックだった。
「それによりです」
「ふむ。あの二人なら御似合いだな」
オベローンはここまで話を聞いて腕を組んで述べた。
「いい話だ」
「それでです」
ここでさらに言うパックだった。
「どちらがより貞節か見極めるには」
「この二人を結びつけてみてどうなるか見てみるのだな」
「これでどうでしょうか」
こうオベローンに話すのだった。
「どちらがよりお互いに尽くすかを見ることで」
「よし、わかった」
ここまで聞いて意を決したのだった。
「ではパックよ」
「はい」
「そなたにこれを与える」
すぐに腰にあった角笛を彼に手渡した。
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