オベローン
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第三幕その三
第三幕その三
「そう、何があろうとも」
「はい、それでは」
「残念だがそれはできはしないことだ」
しかしそれは太守が否定するのだった。
「何故ならレツィアはわしの四番目の妻となるからだ」
「四番目!?」
「ムスリムは四人まで妻を持つことができます」
今の太守の言葉にいぶかしむ顔になったヒュオンとシェラスミンに対してファティメが答える。
「ですからこれも普通のことなのです」
「またえらく変わった制度だな」
「奥さんを何人も持てるなんて」
二人にしてみれば首を傾げる話だった。なおこれはジハード等で夫を失った女とその家族への救済策である。実はムハンマドは中々フェミニストであったのだ。
「そういうものがあるのか」
「また変わったことだな」
「イスラムにはイスラムの考えがありますから」
ファティメはこう話した。
「ですから」
「そういうものか」
「それじゃあそういうことで」
「はい」
この件に関する話はこれで終わりだった。しかし話はまだ終わりではなく今度は。太守がここでヒュオンに対して告げるのであった。
「そなたはフランク人だな」
「はい」
「本来ならばその首を貰うところだ」
このことを彼に告げるのだった。
「だがわしは無闇に血を見る趣味はない。帰るがいい」
「帰れと?フランクに」
「左様。ただしだ」
しかし、というのである。
「帰るのはそなた一人だ。そなただけだ」
「僕だけだと」
「さっきも言ったがレツィアはわしの四人目の妻になる」
このこともまた話す太守だった。
「だからだ。帰るのはそなた一人だ」
「いや、それはできない」
言葉を最後まで聞いてすぐに言い返すヒュオンだった。
「僕は誓ったんだ、レツィアと何処までも一緒に。だからだ」
「帰らないというのか」
「一人では」
あくまでこう言うのである。
「そしてシェラスミンとファティメも。何があろうとも」
「一緒に連れて帰るというのか」
「そうだ、フランクに」
何としてもだというのである。
「連れて帰る、絶対に」
「私もです」
ここでレツィアも出て来た。意を決した顔で太守に告げるのだった。
「私も。ヒュオン様と共にいます」
「えっ、レツィア様」
「今ここでその様なことを仰ったら」
シェラスミンとファティメは今の彼女の言葉にぎょっとした顔になって止めに入った。
「それこそ御命が」
「何があっても」
ヒュオンと同じように縛られていたが何としても彼女を助けようとした。当然ヒュオンに対してもそのつもりだった。だがそれは間に合わなかった。
「よかろう」
太守はレツィアの今の言葉に怒りに満ちた声で応えるのだった。
「それではだ」
「それでは?」
「まさか」
「二人共死刑だ」
その怒りに満ちた声での言葉であった。
「そなた達は二人共死刑だ」
「えっ、それだけは」
「それだけはお止め下さい」
「黙っていろ」
必死に助命をする二人に後ろから彼等を抑えている兵士の一人が告げた。
「貴様等もただでは済まんぞ」
「ただで済まなくても」
「お嬢様達は」
「その二人はどうでもよい」
太守は彼等には何の興味も見せなかった。
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