オベローン
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第三幕その二
第三幕その二
「いいな、それで」
「はい、それで」
「行きましょう」
こうして三人で向かおうとする。しかしここで一人の兵士にヒュオンが見つかってしまったのだった。
「!?何だ御前は」
「あっ、この方はですね」
「新しく入られた」
「嘘を言え!」
兵士はすぐにシェラスミンとファティメの嘘に気付いたのだった。
「その様な者見たこともない!」
「くっ、駄目か」
「ヒュオン様、こちらに!」
二人はそのままヒュオンを案内して逃れようとする。しかしそれは適わなかった。
兵士が笛を鳴らした。するとだった。
「何だ!?」
「どうした!?」
すぐに他の兵士達が出て来た。そのうえで三人を取り囲んでしまった。
「くっ、この数では」
「ヒュオン様、これは」
「これじゃあ抵抗しても」
「無駄か」
最早二人に言われずともわかることだった。
「むしろ下手に動いたら」
「はい、危ないです」
「かえって」
「ここで死ぬよりも機会を見るか」
ヒュオンはこう判断を下した。
「仕方ないな」
「それでどうしますか?」
「やはりここは」
「こうするしかないね」
こう言って剣を前に投げ出した。それこそが今の彼の意思表示だった。
彼はすぐに兵士達に捕らえられた。シェラスミンとファティメもだった。三人はそのまま宮殿の前の広場に連行される。そこにはチェニスの太守と兵士達がいた。
チェニスの太守を見てヒュオンは。ふと言うのだった。
「あの服装は」
「ええ、殆ど同じですよね」
「バグダットの旦那様と」
シェラスミンとファティメもそれを見て応える。見れば太守の姿は確かにバグダットのそれとそっくりだった。ただし彼の方が痩せていて髭も薄い。その彼が言うのだった。
「貴様は何故わしの宮殿に忍び込んだのだ?」
「レツィアを助け出す為に」
その目的をありのまま語ってみせる。縛られていても彼は勇気を失っていなかった。
「その為にここに」
「忍び込んだのか」
「そうだ、レツィアは僕の恋人だ」
強い声で言うヒュオンだった。
「だからだ。何があろうとも救い出す」
「何があろうともか」
「そうだ、絶対に」
彼はまだ言う。
「例え首を刎ねられようとも」
「言うな。それではだ」
太守はここまで聞いて後ろに控える兵士達に顔を向けた。そうしてそのうえで告げるのだった。
「あの娘をこちらに」
「はい」
「わかりました」
こうしてそのレツィアが連れられて来た。レツィアは不安げな顔でヒュオンを見ていた。
「ヒュオン様、ここにまで」
「言った筈だ、死ぬまで一緒だって」
ヒュオンはここでもこうレツィアに言うのだった。
「だから僕は何処までも君を」
「ヒュオン様・・・・・・」
「一緒にギエンヌに、フランクに戻ろう」
こうも言うヒュオンだった。
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