問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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破滅の抜け道 ④
「あぶね!」
心臓に向けて放たれた手刀を、一輝は体をそらせてよける。
ギリギリでよけることは出来たが、服の手刀がかすった部分が、刀で斬ったように、綺麗に切れる。
「この服も気に入ってたんだけど・・・それどころじゃないか。」
一輝は攻撃をよけながら、目の前の状況の分析を始める。
《剣がいきなり人に変わって、そいつの手刀で服が切れて、ついでに俺が作ってるいろんな剣も効かない。目が紫の少女で、全裸。ムネの大きさはBぐらいで・・・》
一通り今の状況を書き並べた結果、結論は
《何も解らん!》
である。だからか、一輝は直接聞くことにしたようだ。
相変わらず呑気に。
「こんにちは。オマエは何者?何で全裸?剣の性質を持った人であってる?」
一輝はどうせ何も答えてくれないだろうと、かなり適当に、聞きたいことを聞くが、
「私は人ではない。呪われた魔剣、“ダインスレイブ”。服を着ていないのは、剣の姿の際に、服など纏っているはずがないからだ。」
「・・・え?」
しっかりと、全ての問いに対する答えが返ってきて、一輝の思考が固まる。
「え?あれ?ヤシロちゃん、君さっき自我はもってるかどうか曖昧って言ってなかった?」
「うん、言ったね。」
「じゃあ、何であの子はこっちの質問にハッキリと答えたり、今もこっちが話してるのを狙ってこないの?」
「私、中には強い自我を持ってる子もいるって言わなかったっけ?」
「・・・言ってましたね。それがあの子?」
「うん。スレイブちゃん。」
一輝は再び少女、ダインスレイブのほうを見る。
「じゃあスレイブ、君は自我がありながら、自ら破滅に向かう気か?」
「その通りだ。私はこの世にあるべきではない呪いによって生まれた。毒だ。」
二人は戦闘を再開していた。
スレイブが切りかかり、一輝がそれを何種類もの剣で防ぐ、一方的な戦いが。
「その毒は、一体誰に迷惑をかけるんだ?」
「誰に、だと?愚問。我が呪いを知らぬからそんなことが言える!」
「じゃあ教えてくれよ。そうしないと、お前を救えない。」
一輝が何のためらいもなく言った一言に、スレイブはキレる。
「私を、救う?何をふざけたことを言っている!今まで、敵を全て切り倒していたものが!」
「確かに、自我の弱いやつは切り倒したな。破滅することに、何の感情も持たないやつは。」
「ならば!なぜ助けるなどとのたまう!」
「オマエは、間違いなく自我を持ってる。それも、かなり強い自我を。だからだよ。」
「それのどこが理由なのだ!」
「そんなやつが、自ら破滅に向かうのを、俺は見たくない。もう二度と、そんな光景は、な。それに、呪いなら俺の専門分野だ。」
一輝の中で、スレイブは少しだが父親とかぶって見えていた。
何かしらの責任感から、死へと向かう姿が。
「何度も言っているだろう!私は、この世から消えるべき存在なのだと!」
スレイブが手刀を振り上げるが、一輝はその手をつかみ、顔を近づける。
「そんなこと言うな。」
「っ!」
一輝は今までにないレベルの真剣な声で言う。
「オマエはちゃんと自我を持ってる。強い責任感を持ってる。そんなやつがこの世からいなくなったほうがいい訳がない。」
「それは、お前の考えだろう!」
「そうだ。ただの俺の、超個人的な考えだ。だからこそ、俺の目の前でそんなことを言ってたら、全力で止める。」
一輝はスレイブの目を見ながら、説得を続ける。
もちろん、万人は救われるべき、だなんて思っていない。
それでも、自分が救いたいと思ったら全力で動く。
それが、寺西一輝という人間なのだ。
「だが!私の持つ呪いは、この世にあっていいものではない!そして、この呪いはそう簡単には消えん!私ごと消えるのが、一番の方法なのだ!」
「呪いが消えれば、それでいいのか?そうなればオマエは、生きていくのか?」
「そんなこと、あるわけが・・・」
「俺には出来る。だから、オマエの呪いを・・・」
教えてくれ、と続けようとする一輝の声をさえぎり、スレイブが感情を乗せきった声で叫ぶ。
「私の呪いは!“一度鞘から抜かれたら、必ず誰かを殺す”!確かに、この呪いが消えるのならば、それはとても素晴らしいことだ!だが、私はお前を、こんな醜悪な呪いを消せるとは、信じられない!」
一輝は、やっと本心を語ってくれたことに少しうれしく思い、説得を続ける。
「そこは、信じてくれとしか言えないな。」
「それが出来たら・・・こんなに苦労はしていない・・・!」
スレイブは涙を流しながら、感情を吐露していく。
心を覆う鞘もなくなったタイミングでスレイブの手を離し、両肩をつかむと、自分に出来る最大の提案をする。
「だったら、俺はオマエを上に投げる。刃が下になって、俺を貫くように。」
「っ!」
「だから、オマエが俺のしたことで満足できなかったら、俺を貫け。そうすれば、俺を殺して、呪いによる犠牲も出来て、普通に生活できる。」
「だが、私の呪いは・・・」
「消えないな。それでも、もう一度鞘をかぶせる、ってことをしない限り、呪いは達成されたままだ。何も問題はない。」
スレイブの表情は、驚愕に固まっていた。
目の前にいる男の善人っぷりに。
自分の命を差し出してまで、人を助けようとすることに。
だから、まだ疑っていた。
「そんなことをして・・・お前に何の得がある?」
「得かぁ・・・一つ目は自己満足かな。」
この理由そのものには、納得できた。
だが、命を懸けるレベルではない。
「二つ目は?」
「そうだなぁ・・・なら、これでいいか。」
あごに手を当て、悩んでいた一輝だが、何か思いついたようにスレイブのほうを向く。
「もし呪いが解けて、俺を認められたら、俺の剣になってくれ。うん、獅子王を抜くと無形物が使えなくなるし、普段から使う剣も必要だし、それでいこう。」
「私をもらうと?」
「何か別の意味に聞こえるが・・・そうなるな。それが俺の得って事で。」
スレイブは、疑いが消えた。
二つ目の理由は、本当にその場で考えたものだ。
でなければ、一輝は相当の演技力の持ち主ということになるくらい、二つ目は適当に言っていた。
「・・・いいだろう。お前を信じよう。」
「おう、任せろ。」
スレイブの体が一瞬で剣に変わり、一輝の手に収まる。
「本当にやるんだ?」
「ああ、やるよ。この命に代えても。」
「ふうん・・・じゃあ、私の破滅の物語をどう変えるのか、見せてもらうね?」
「どうぞどうぞ。」
一輝は、ヤシロとこんな会話をしているが、内心はそれどころではなかった。
一度深呼吸をすることで落ち着き、ポケットからギフトカードを取り出す。
「・・・魔剣の解呪、開始!」
一輝はダインスレイブを空高く、刃が自分のほうを向くように投げる。
そしてギフトカードを掲げると、、刀が最高点に達したところで、
「禍払いの札よ!我が願いは魔剣の解呪。汝らは我が望みに従い、剣に宿りし呪いを、全て喰らいつくさん!!」
今まで作ってためておいた、大量のお札を放ち、スレイブの呪いを取り除いていく。
さすがに、長い時をかけ、道具を人としてしまうほどの呪いは軽いものではなく、お札が触れた瞬間に朽ちていく。
ギフトカードの中には、億のお札が有ったが、それもものすごい勢いで減っていく。
「我が命に従い、我が願いをかなえん!」
一輝は、言霊をかけなおす事によってその働きを高め、少しでもその呪いを消そうとする。
そして、ころあいを見て一輝はお札の発射をやめ、その場に立つ。
剣は空から勢いをつけて一輝に一直線に近づき、そして・・・
寸前で人の姿になり、一輝に抱きついた。
「この反応ってことは?」
「ああ。確かに私の中に有った呪いは、全て消えた。呪いが消えるというのは、こんなにも、気持ちのいいものだったんだな・・・」
「それはよかった。解呪、おめでとう。」
「ありがとう。今日から新しい自分となる。よろしく、マスター。」
「おう。よろしく、スレイブ。」
一輝は、新しい仲間であり、心強い剣、“ダインスレイブ”を手に入れた。
「一輝ー!」
「一輝さーん!」
二人が落ち着き、一輝が自分の昔の服の中からスレイブに合うサイズのものを取り出し、着せたところで音央と鳴央もやってきた。
「こっちだ、音央、鳴央!」
一輝は二人を呼ぶ。
「そちらは無事に終わりましたか?」
「ああ、たった今終わったよ。そっちは?」
「疲れはしたけど、私も鳴央も無傷よ。」
「それはよかった。」
三人は、お互いの無事を確認し、現状の確認を始める。
結果、一秒とたたず(最初から気づいていたのかもしれない)、一人増えていることに気づいた。
「えっと、一輝?」
「その子は敵ですか?味方ですか?」
今あったことを、二人は正確には知らないので、一輝に尋ねる。
「大丈夫、味方だ。名前はとりあえず、スレイブ。今引き抜いた。」
「では、あのお札はそのために?」
「そうだ。結構消費した。」
「そう、私は六実音央。よろしくね、スレイブちゃん。」
「私は六実鳴央です。よろしくお願いします、スレイブちゃん。」
「ああ、よろしく、えっと・・・」
「私は音央でいいわ。」
「私も鳴央で構いません。」
「では、よろしく、音央、鳴央。」
一輝は、先ほどまでとは違い、やわらかく対応しているスレイブを見て、普通にも出来るんだ、と安心する。
「ところでマスター、とりあえず、とは?」
「ただの気分だよ。このまま慣れたらスレイブで行くけど、道具扱いしてるみたいでなんか引っかかるんだよ。」
「そうですか?私はあまり気にしませんが。」
「まあ、そのあたりはまた今度な。」
一輝は視線をヤシロへと向ける。
「で?まだ誰かいる?」
「もういないよ。それにしても・・・まさか全滅されるだけじゃなく、一人引き入れちゃうとは、お兄さんはすけこましさんなのかな?」
「それはないと思う。ただ、偶然うまくいっただけだよ。」
一輝の答えに、ヤシロは少し笑うと、一輝たちのほうを向きなおす。
「じゃあ、そろそろ私が行くけど、死なないようにだけ気をつけてね。」
ついに、魔王『ノストラダムスの大予言』の攻撃が、始まる。
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