ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第一幕その七
第一幕その七
「師匠の歌を正しく歌えてそのうえ韻や言葉を揃え」
「それは本当に重要なんだね」
「そうです。正しい場所にきちんと配置し師匠の調べにそれ等が合えば詩人の誉れが得られるのです」
「それもかなり長そうだな」
「だから早く来い」
「もう待てないぞ」
また仲間達の声がダーヴィットを呼ぶ。
「早く来いって」
「手伝ってくれよ」
「わかったよ、じゃあ今行くさ」
ダーヴィットは舌打ちしながら彼等に応えた。
「それじゃあ今からな」
「それでマイスタージンガーは」
ヴァルターは考え込んだままの顔で問うてきた。
「最後に教えてくれないか?それは一体」
「騎士様、それはですね」
ダーヴィットは行きかけたところで彼の方を振り向いて答えを返してきた。
「自分でよく考え、言葉や韻を自分で作り」
「うん」
「新しい旋律を編み出した人がマイスタージンガーなのです」
「それがか。それでは」
ヴァルターはここで意を決した顔になった。そうして誓うように言うのだった。
「私はそれになてみせよう。必ず」
「それで君達」
ダーヴィットは仲間達の方に向かって駆けながら言っていた。
「何してるんだよ」
「そんなの見たらわかるだろ?」
「見てわからないか?」
「わかるさ。だから言っているんだよ」
彼等のところに来てまた言う。
「椅子や記録板の位置だって」
「これでいいんじゃないのか?」
「違うのか?」
「違うよ。今日はただの試験なんだよ」
こう言いながら早速記録板を外して聖堂の端に行って小さな記録板を出してきた。
「こんな大きなのじゃなくていいし」
「そうなのか」
「机と椅子だって」
今度言うのはこの二つだった。
「もっと簡単なのでいいし椅子は」
「十二個だよな」
「そうそう」
今度は納得した顔で頷いてみせる。
「十二個だよ。マイスターの席にはね」
「それで試験を受ける人の為に一つ」
「これでいいよな」
「それでいいよ。あっ、椅子の数は合ってるね」
それは合っているのだった。
「だったら後は黒板に」
「あいよ」
「これでいいな」
「うん、そこでいいよ」
壁にそれが掛けられていく。
「それでチョークもね、用意して試験官が隠れるカーテンも用意して」
「これでいいな」
「万全だよ。さて、これで万端整ったよ」
「やっぱりダーヴィットがいると違うな」
「そうそう」
「こりゃ歌手になる日も近いかな」
半分やっかみではあったがそれでもダーヴィットを褒めてはいる。
「打たれるの韻はすらすら飲み込んでるし貧乏と空腹もいけるしな」
「特に踏み蹴りはそうだよな」
「ザックスさんからいつもやられてるからな」
「そうそう」
ここで皆わざとダーヴィットの前でその踏み蹴りの動作をしてみせる。
「こんな感じでな」
「仕込が違うからな」
「親方そんなことしないよ」
ここでダーヴィットは口を尖らせて彼等に反論した。
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