【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第三八幕 「サルース・ルーメン」
前回のあらすじ:涙で霞む空に降臨した光の御子(病弱)
~前話より少し前の事~
“モナルカ”の待機形態である髪留めを見つめながら、ベルーナはひたすら迷っていた。
すなわち、この髪留めを髪留めとして使うかどうかである。ベルーナは生まれてこの方髪留めなどつけたことがないだけに、つけるべきか別の方法で持ち運ぶべきかをずっと悩む。髪留めは10cmほどの比較的大きめな幅であり、どうもポケットやカバンに入れるには不便そうだ。
となるとやはり最も自然なのが、そのままの用途で髪を留めるのに使うことだ。
ベルーナは少し迷った後、どうせISに乗れるようになれば付けることになるからと髪留めをつけることにした。
「・・・変じゃない、かな?」
慣れない手つきで恐る恐る左の側頭部辺りに留める。お洒落に頓着が無いせいか、鏡を見てもちゃんとできているか全く判別がつかない。ちょっと情けない気分になったベルーナはため息を吐いて鏡に背を向けた。
「・・・後でミノリに見てもらえばいいや」
自分で判別がつかない以上は他人に評価してもらうしかないと考えたベルーナは、この問題をいったん置いておくことにした。それよりも今問題なのは別の事だ。
それは、ベルーナの着る制服である。
リハビリのせいで全身汗だくになってしまったベルーナは制服を洗うことにしたのだが、そこで大きなミスを犯したことに気付く。ベルーナは普段着る制服以外に予備の制服を一着持っていのだが、今日は汚れた制服を洗い忘れたせいで予備の制服を着ていたのだ。つまり予備諸共汚してしまったベルーナは現在着る制服がない。
これが女子生徒ならば保健室に置いてある貸出の制服を使えるのだが、男性用の制服は全てが特注品のため予備が存在しない。そして都合の悪い事は重なるもの。ベルーナの唯一の私服も同時に洗濯をし忘れており、着るものがないのだ。
―――失敗した。ジャージか何かを用意しておけばよかった。そう考えるも後の祭りである。
一応もう1着だけ服があるのだが、それは親友たちが面白半分に渡した女物の服だった。無理して制服で過ごそうかとも思ったが、染み込んだ汗と冷房の風も相まって凍えそうなほど体を冷えさせたベルーナにはとてもその気にはなれなかった。(今はシャワーを浴びたので体温は元に戻っている)
「・・・・・・仕方ない。服を洗って乾燥させている間だけ、あれを着るしかない」
とにかく服を洗うために洗濯部屋へと向かおう。この学園の洗濯機は乾燥機能付きな上に異常なまでに性能がいいから洗うこと自体にはあまり時間がかからないはずだ。一応佐藤さんに頼むという方法もないではないが、ベルーナは彼女の電話番号を知らない上にあまり人に手間を掛けさせたくないために止めた。何よりこれから自分のする格好を、可能な限り見せたくない。
こうしてベルーナはその服・・・ワンピースを見に付けて服を洗いに向かった。
流石に洗い終わるまで待ち続けるのは嫌だったので一度部屋に戻り、洗濯と乾燥が終了する時間を見計らって再び部屋を出た。幸いというか、時間帯的にはまだ生徒たちは授業中。誰にも見られることはないだろう、と状況を楽観視していた。
そして・・・
「だ、だれ?!・・・・・・天、使・・・?」
(えー・・・)
その目を泣き腫らした少女にそう言われたとき、ベルーナは非常に複雑な気分になった。
いや、確かに「キモい」だの「ヘンタイ」だのと言われるのに比べれば似合っている方がいい。だが天使はない。冗談で言われたのならばまだいいが、彼女の声は明らかにそういうトーンではない。むしろ本物を見る目である。
ベルーナとて男の子。女物の服が似合っていると言われるのは男としては決して嬉しい事ではない。でも・・・アングロに着せ替え人形のようにいろんな服を着せられたことを思い出し、さらには前にオリムラとホンネに着ぐるみパジャマを無理やり着させられかけたことをも思い出す。やはり、僕は周囲からそういう服が似合うと認識されているのだろうか。・・・されているのだろうなぁ。
あー憂鬱だ。この身体はあの時以来急激に成長が遅くなってるし、男らしくなりたいと思っても体が付いてこない。軽く鬱に入り、もう皆にそう思われているならそれでいいかなとさえ思いかけ、そこでベルーナは辛うじて踏みとどまった。
「・・・望む場所がどんなに遠くとも、そこで可能性を捨てなければ、本当の終わりは訪れない・・・」
1パーセントでも自分の身体が男の子らしくなる可能性があるなら、その希望に縋りたいです。
「・・・・・・本当の、終わり」
・・・・・・はっ!?考えていることをうっかり口に出してしまっていたようだ。これは恥ずかしいなぁ・・・目の前の子もポカンとしてるし。とにかくこれ以上まじまじみられるのは嫌なので急いで洗濯物を回収しなければ!
こうして僕は足早にその場所から立ち去った。ああ、顔から火が出そうなほど恥ずかしい・・・
= = =
天のお告げ、というのだろうか。まさか神様が仏教徒である私にまで使いを出してくれるとは夢にも思わなかった。天使さんはまるで無垢な子供の様な、知識深き賢者の様な、強い意志を秘めた使者のような、様々な意識が入り混じったような表情で言葉を紡いだ。
「・・・望む場所がどんなに遠くとも、そこで可能性を捨てなければ、本当の終わりは訪れない・・・」
小鳥が囁くような小さな声だった。その姿に視線を釘付けにされながら、その言葉を頭の中で反芻する。
「・・・・・・本当の、終わり」
天使さんはつまり、こう言いたいのだろうか。
人が本当に夢を諦めるときとは、自ら夢を捨てる時だ、と。
夢を持ち続ければ、たとえ皆より遅くても夢に向かって歩んでいける、と。
私はその考えをを口にしようと改めて天使さんの方を見た。
「・・・あれ?いなくなっちゃった」
私が自分で答えに至ったから、用が済んでどこかに行っちゃったのかな?綺麗だったからもう少し見ていたかったんだけど。
「・・・ってナチュラルに天使さんだと思ってたけど冷静に考えたらそんなわけないじゃん!!」
アホか私は!とセルフツッコみ。良く考えたら天使の象徴たる羽もなかったし何より非現実的である。
しかし、それではあの“少女”は一体誰だったのだろうか?
学園の制服を着ていなかったことと時間帯を考えれば、この学園の生徒ではないだろう。先生方か職員の誰かのお子さん・・・若しくはが言うからの見学者?それもこんな所を一人で歩いていた理由が分からない。
「でも・・・可能性を捨てなければ終わりじゃない、か。なんか励まされちゃったかな?」
えへへ、と笑ってしまう。先ほどまであれほど追い詰められていたのが嘘のように、あの少女の言葉はすんなりと胸の中へと染み込んだ。
あの少女が誰だったのか、何を思ってそう言ったのか、それは私には分からない。でも・・・その言葉は私の夢への道が閉ざされていないことを認識するには十分だった。
「・・・よし!」
私はまだやれる。まだまだ頑張れる。佐藤さんの事で自分にまだ努力できる余地があることも分かったし、周囲においていかれても焦る必要はないんだって思えるようになってきた。
まさに心機一転、伍和は夢への渇望と情熱を完全に取り戻した。
= = =
翌日、彼女はやはりあの謎の少女の存在が気になり、受付へと足を運んだ。もし叶うならば、一言お礼を言いたいと思ったからだ。だが、受付の人から帰って来た返答に私は唖然とした。
「昨日は見学者なんて一人もいませんでしたよ?」
「そ、そんなはずは・・・銀髪で白いワンピースを着た、色白で小柄な女の子です!私確かに見ましたよ!?」
「そんなことを言っても・・・そもそも小柄で銀髪という条件に該当するのは先日転入してきたラウラさんくらいしかいません。その子、眼帯つけてました?」
「いいえ、つけてませんでしたけど・・・」
私は激しく混乱した。IS学園は子供が勝手に侵入できるほど警備の甘い場所ではない。そしてあの少女はラウラさんとは髪形も顔つきも一致しなかった。では、あの少女は一体誰だったのだろう?
(まさか・・・本物の、天使・・・!?)
この謎の真相が分かるのは、それから随分先の事となるのであった。
おまけ
「あれ?ベル君・・・なんでワンピース着てるの?」
「・・・制服が汚れちゃって、着る服が無くなった」
「ふーん・・・それにしてもそのちょうちょの髪飾り似合ってるね~・・・ひょっとして女装趣味とか」
「違う」
「あははっ、冗談だよ~」(ヤバイな~似合うとか言うレベルじゃないよこれ万が一ベルとも会にこの姿が見られたら間違いなく鼻から赤くて鉄臭い愛を吹きだす輩が出てくるってこれ!脳内の永久保存フォルダに追加確定だよこれー!!)
さり気なく女装(?)ベル君独り占めの佐藤さんだった。
「その服をチョイスしたベル君の友達とはぜひ一度はお話ししたいな~」
「・・・良ければ、今度の休みに紹介しようか?」
「いいの?それじゃ~お言葉に甘えて!」
ついでに邂逅フラグもちゃっかり立てるのであった。
なお、髪留めは結局装飾したままにすることに決めたらしく、その余りの似合いっぷりにベルーナのブロマイドがさらに売れまくったとか。
後書き
ベル君の顔は「少年合唱団とかにいそう」って感じのイメージ。何というか顔はそこまで女性的ではないけど雰囲気が女の子でも違和感なさそうっていうか。とにかく男の娘というにはちょっと微妙なライン、という設定です。あくまで自分の脳内では、ですが。
そして恒例のエネルギーチャージ期間に入ります。また来週頃に会いましょう。
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