ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第二幕その十九
第二幕その十九
「何処が悪いのですか?今ので」
「ここはこの方がいいのでは?」
「どういう風にですか?」
「我が心は爽やかなるよき気分を迎えたり」
これは詩であった。
「こうではどうですか?」
「それでは韻に合いません」
ベックメッサーは韻を考えていたのだった。
「それもいいですがあえてです」
「それでは節がよくないのでは?」
ザックスも負けてはいない。
「音楽と言葉が合わなければ」
「それはそうですが」
「ではまたはじめて下さい」
ザックスはまたベックメッサーを急かしてきた。
「さあ、どうぞ」
「はい、それでは」
「ハンマーは三回止めておきますので」
「御好意ですかな」
「そう受け止めて下さって結構です」
こうベックメッサーに述べる。
「ですからさあ、どうぞ」
「有り難うございます。それでは」
こうしたやり取りの後でまた歌うベックメッサーだった。咳払いをしてから歌う。まずは先の詩を歌うが確かにその間ハンマーはなかった。ところが新しい場所に入ると。
「死等はおもいも寄らず」
ハンマー。
「それよりも若き娘の手を勝ち得んとす」
ハンマー。
「何故おそらくこの日こそ最も美しき日なるぞ」
ハンマー、強く。
「私は全ての人に告げる」
ハンマー。
「美しき娘が」
ハンマー二回。
「彼女の愛する父上により」
またハンマー。そのハンマーに賛成するかのようにまたハンマー。
「彼女の誓いし如く」
小さいが多くハンマー。
「花嫁と定められたり」
ハンマー五回。少し怒ったようであった。
「我と思わん人は」
ハンマー。
「来たりて見よ」
ハンマー。
「ここに美しき処女あり」
ハンマー二回。
「私は彼女に切なる望みがあり」
ハンマー。
「されば今日は美しく青く」
数多く打たれる。
「私ははじめに言ったように」
また多く打たれていく。ここでベックメッサーは遂に切れてきっとした顔でザックスを見て問うのだった。
「何処が悪いのですかな、一体」
「何も言っていませんが」
平気な顔で言うザックスだった。
「私は何も」
「いえ、そのハンマーがです」
「ですから記録係の練習として」
「そんなに酷いですかな、私の歌は」
「採点中ですよ」
穏やかな顔でベックメッサーに言うだけであった。
「ですからお話は後で」
「後で、ですか」
「そう、後で」
また言うザックスだった。
「さあ、それよりも今はです」
「そうですな」
憮然としながらもベックメッサーも従うのだった。やはりマイスタージンガーとしてここは記録係に従うしかない。彼もマイスタージンガーとしての誇りがあった。
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