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八条学園怪異譚

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第三十八話 狐道その九

「和食も変わった、随分とな」
「江戸時代より前とじゃかなり違うらしいんだよな」
「そうそう、戦国時代とかもう今と全然違うらしいね」
 ここで猫又と送り犬も言う。
「お酒だって濁酒ばかりだったしな」
「お茶もなかったんだよね」
 茶が定着するのは安土桃山時代からだ、茶道というものが形成されてからそのうえで広く飲まれる様になったのである。
「お茶がないって今思うと寂しいよな」
「あれがないと日本って感じしないね」
「だよな、九尾の旦那はその頃から生きてるけれど」
「ちょっと想像出来ないね」
「うむ、やはり茶がないとのう」
 狐自身もこう言うのだった。
「平安の頃の御馳走も茶がなかったのじゃよ」
「確か乳製品があったのよね」
 愛実は狐にこのことを問うた。
「醍醐とか酪とかいうのが」
「ほう、それを話に出すか」
「奈良にいる親戚から聞いたの、そういうのが最近お店で売られてるって」
「そうじゃ、確か蘇じゃな」
 その名前の乳製品だというのだ。
「あれが出ておるな」
「どんなの?バターとかヨーグルトみたいなの?」
「チーズじゃな、蘇は」
 具体的にはそちらだというのだ。
「そうしたものはあったし江戸時代でも将軍様が食っておったわ」
「江戸時代でも食べてたの」
「うむ、あの頃の乳製品はごく一部の者だけが食しておった」
「凄い御馳走だったのね」
「今ではチーズも普通に食せる」
 それこそスーパーに行けば普通に売られている、熱いパスタや肉料理に乗せれば溶けて最高の味にもなる。
「時代は変わったわ」
「そうなのね」
「油揚げの味もよくなった、醤油や生姜も充実してきた」
「美味しくなったのね」
「うむ、そうじゃ」
 狐はこう愛実に話す。
「よいことじゃ、それでじゃが」
「狐道よね」
「そこに行くか。しかしその前にお稲荷様にお賽銭を出してくれるか」
 このことは二人に言った。
「そうしてくれるか」
「そうね、折角だから」
「折角お稲荷さんの前に来たから」
 二人も狐の言葉に頷いた、そしてだった。
 それぞれ財布からお金を出して賽銭箱に入れた、それから両手を叩いて頭を下げた。
 そうしてからだ、二人はその賽銭箱を見てこうも言った。
「このお金盗まれないわよね」
「それは大丈夫よね」
「そうしたことをしようという不心得者にはわしが直々に術をかけて懲らしめておる」
 狐は二人の疑問にこう答えた。
「その場合はな」
「そうしてるのね」
「そんな悪い人には」
「お稲荷様へのお賽銭を盗もうなぞいい度胸じゃ」
 こう千年生きている狐が言うのだった、尻尾が九本にまでなっている彼に。
「そんな奴にはその辺りに落ちている糞を食わせてやっておる」
「それって結構以上に厳しくない?」
「そんなの食べさせるって」
「お稲荷様への無礼じゃ、本来ならば半殺しじゃ」
 本音ではそうしたいというのだ。
「しかしそこはぐっと堪えてじゃ」
「化かしてなのね」
「そういうことをさせているのね」
「若しくは風呂と化かして池に入れたりとかのう」
 狐や狸の化かしの基本だ、こうした話は童話によくある。 
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