皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第1話 「ザ○とは違うのだよ。ザ○とは」
前書き
銀河英雄伝説の世界に生まれ変わってしまった上に、
不用意な一言によって、いきなり原作ブレイク。頭を抱えながらも生きてます。
この広い世界はこんなはずじゃなかったと思う事ばかりだ。
我が名はルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウムである。
銀河帝国皇太子をやっている。
いやまいったね。
よりによってこいつかよって感じだ。
小説にしろ、OVAにしろ、皇太子ルードヴィヒって見たことあるか?
俺はない。
エピソードもベーネミュンデ侯爵夫人の子どもを毒殺させたとかぐらいしか知らね。本当かどうか知らんがね。そんなやつになってどうしろというのだ。
いっそフレーゲル男爵の方がはるかに良いかもしれん。
ところでなってみて初めて気づいた事がある。
俺とベーネミュンデ侯爵夫人、つまりシュザンナとは同い年だったって事だ。ヤンと同じぐらいだとばかり思っていた。もしくはキャゼルヌぐらいか?
おやじー息子と同い年の女を愛妾にすんなよ。このロリコンがっ!!
不敬罪? 知るかそんなもん。文句あっか?
俺は皇太子だぞ。
文句あるならルドルフでも連れて来い。実際来たら、俺の言い分に賛成するだろうがな。
とはいえ、なったもんはしょうがねえ。
やるしかあるまい。
というわけで、銀河帝国皇太子ルードヴィヒはじまります。
第1話 「ザ○とは違うのだよ。ザ○とは」
目の前にロールアウトされた人型機動兵器が立っている。
冗談半分で汎用人型機動兵器を造れと命じたら、本当に造ってきやがった。
できるもんだな~と思うのと同時に、
……どうしようこれ?
スパルタニアンやワルキューレみたいになるのだろうか……。
非効率な事この上ない。
目の前にあるザ○。形もそのままだ。まあこいつは俺のリクエストだからな。その事については他の誰も悪くない。全ての責任は俺にある。
出来上がってから解ってしまった。艦隊戦が主流の世界でMSは使いどころがない。距離の暴力の前には無力だ。せいぜいワルキューレ代わりだろう。
ただ門閥貴族には評判が良かった。
意外だろ? デザインがジ○ン系だからだろうか? しかも一番人気はギャン。どういう事だよ、おい。誰か答えろ。思わず開発責任者の胸倉を掴みそうになっちまったぜ。
屋上行こうぜ。ひさびさにキレちまったぜ。って感じ?
いきなりUCの袖付きはどうかと思って、リクエストしなかったが、しておけばよかったかもな。あれ結構好きなんだよ。
できるんならあれは俺の専用機にするつもりだし。
それぞれの家の紋章を刻んだ機体が注文されだしたとか、聞いたときに目の前が真っ暗になったものだ。どおりで軍需産業からやたらと贈り物が来るはずだよ。
八つ当たりだと分かってはいるが――むかつく。
その上、士官学校での授業でも取り入れられてしまった。
いきなり原作ブレイクかよ。蝶の羽ばたきってレベルじゃねえぞ。
銀河英雄伝説じゃなくて、宇宙世紀の世界になっちまった。
俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。
よし、自己暗示完了。
これはこれで使いどころが見つかると思うしな。なんでも使い方次第だ。
それにロリコンな親父の事だ。アンネローゼにも手を出すだろうし、そうするとラインハルトも来るだろう。まあ来たら、こいつに乗せてやる。ザ○に乗って戦うラインハルト。想像したら笑えてくる。もう原作なんかどうでもいいや。
なんも考えずに言っちゃった言葉で、原作ブレイクしちゃったし。
始まる前から終わっちゃったって感じ?
いや~申し訳ない。
ごめんね、ラインハルト。お前の出番ないわ。
「殿下」
うるせえ爺がやってきやがった。国務尚書のリヒテンラーデだ。
親父は酒びたりでも許されるのに、俺には一々文句を言ってくる。うぜえよ。皇帝になったら、帝国宰相にでもして、丸投げしてやるからな。そして俺は酒池肉林で過ごしてやる。
「なんだよ」
「その物言いは銀河帝国皇太子殿下とは思えませぬぞ。お気をつけなされ」
「へいへい」
「まったく」
爺は汗を拭きつつ、愚痴りだす。年寄りの愚痴は長いんだ。
「ところで何用だ」
「おお、そうでした。ブラウンシュバイク公爵とリッテンハイム侯爵が、殿下と面会の約束があるとやってきております」
「来たか、よし行こう」
足早にノイエ・サンスーシを横切る。
ああもう、ルドルフの野郎。こんだけ広い宮廷を造るんならよ、便利なようにしておけ。のんびり歩いてばかりって訳じゃないだろ。急いでいるときは面倒なんだよ。
バイクで突っ走ってやりたいぜ。
文官や女官たちが俺の姿を認めるのと同時に、廊下の端に下がっていく。
その中を肩で風切って歩く俺。
こういうところが皇太子らしくないと言われる所以なのかもしれない。
やたら重厚な扉を人力で開ける。
自動ドアにしとけよ。皇帝になったら、この辺りも変更してやる。
中に入ると、若いブラウンシュバイク公爵とリッテンハイム侯爵が、座っていたソファーから立ち上がり、挨拶しようとしてくる。
「挨拶はよい。非公式なものであるし、なにより我らは義兄弟ではないか、今日は我ら三人で胸襟を開き、話し合いたいと思っているのだ」
「はっ」
二人が揃って返事を返してくる。
一応この二人って、俺の義兄になるんだよな。勘弁して欲しいぜ。
堪忍、堪忍や。許してたもれ。
「さて、いきなり本題で悪いが、卿らは現在の銀河帝国の現状をどう思っているのだ?」
「現状でございますか?」
「うむ。自由惑星同盟との長きに渡る戦争。それにともなう財政赤字。門閥貴族達の在り方。いまや銀河帝国は未曾有の危機の中にあるといっても過言ではない」
「自由惑星同盟……叛徒どもの事をそのように呼んでも」
「ブラウンシュバイク公爵。いや、オットー。建前はどうであれ、我ら三人は現実を見ようではないか。叛徒と呼んではいるが、奴らは国を運営しているのだ。敵をまともに見ようともせずに勝てようはずもない」
「それは確かに」
リッテンハイム侯爵が額に浮かんだ汗を拭いつつも、返事を返してくる。ブラウンシュバイク公爵の方はなにやら真剣に考え込んでいる。
内心ではどう答えたものかと思っているのだろう。
しかし現実を直視しなければならない。今のままではダメだ。
それだけは確かだ。
戦わなきゃ、現実と。
「まず持っていっておくが、私が皇帝になった暁には、貴族に対する課税も視野に入れている」
「なっ」
「そ、それは」
「貴族に対する課税は息を飲むほど、衝撃を受けるものなのか? そうでなければ立ち行かんところまできているのだぞ。卿らもうすうす解っているはずだ」
「しかし貴族達の反発は必至でございましょう」
リッテンハイム侯爵が言ってきた。
この髭が。ちっとは現実を見ろ。貴族どもの思惑だけで進むと思うなよ。
「だからこそ、帝国でも一、二を争う大貴族である卿らに話しているのだ。知恵を出せと」
「貴族は帝国の藩屏でございますぞ」
「ならばそれにふさわしい働きを見せてもらおうか。それとも俺を暗殺するか? かまわんぞ。だが自分達に都合のいい皇帝をつけてみても、帝国そのものが自壊してはどうしようもあるまい。話はそこまで来ているのだ」
「殿下を暗殺など」
「そのような事は決して」
「私は卿らの帝国に対する忠誠心を信じている。信じてはいるが、それだけではなく、わたしの持っている危機感をも共有して欲しいのだ。これからも続く帝国のために」
■ノイエ・サンスーシ 皇太子の間 オットー・フォン・ブラウンシュバイク■
リッテンハイム侯爵とともに皇太子殿下に呼び出された。
それ自体に不自然なところはない。
義兄弟でもあるし、皇太子殿下としても我らと交わる事で、地盤を強化しようとしているのだと思っていたからだ。
だが皇太子の口から出た言葉に、背筋が震えるほどの衝撃を受けた。
帝国の現状。
それは我らが認識している以上に、切迫していた。
人、金、物。何もかもが足りない。
行く末も暗い。
長きに渡る戦争と我ら貴族が帝国を蝕んでいる。
これから目の前におられる皇太子殿下は、貴族達をいかに淘汰していくかを考えておられる。生き残りたければ協力しろと突きつけているのだ。
目の前にいるこのお方は、先を見ている。
銀河帝国の未来だ。門閥貴族として一家のみの繁栄を求める事を、このお方は許しはしないだろう。暗殺してもよいぞ。と嘯かれたが、代わりに帝国を背負うなど考えただけでも恐ろしい。
このお方、ルードヴィヒ皇太子殿下いがいに帝国を背負えるお方はおらぬ。
我らは藩屏として協力してゆくほか道は無い。
隣に座るリッテンハイム侯爵も青ざめた表情を浮かべ、皇太子殿下を見つめている。
内心では帝国の未来に対し、私と同じように恐れているのだろう。
■ノイエ・サンスーシ 薔薇園 フリードリヒ・ゴールデンバウム■
ルードヴィヒがなにやら動き出しているようだ。
この帝国をどうにかするつもりらしい。
予にはできなんだが、あやつならばどうにかするであろう。幼い頃からそうであった。あやつには他の者とは一風変わった処があったのだから……。
それにしてもザ○は大いに笑わせてもらった。
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