Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第七十六話 始まる暴走
破滅の光と加護の光がぶつかりあう。
「ぐっ!」
プライウェンの加護の力に左腕が徐々に焼かれていく。
それにしても凄まじいな。
なのはとフェイトの時も感じた事だがこうして自分で受けてみると良くわかる。
なんともふざけた威力だ。
下手な宝具では防げるかも怪しいものだ。
それにしてもアリサもすずかも大したものだ。
これだけの常識の理から外れた戦いだ。
一般人がいる時、守る際にもっとも厄介になるのは錯乱される事。
守ろうとする俺達も拒絶して逃げようとされると守れるものも守れないことがある。
やはり恐怖はあるのだろう。
必死に眼を閉じているが、泣き叫ぶことなくじっと耐えている。
ともかくこれが収まったらアリサとすずかの退避がなによりの優先事項だな。
ゆっくりと桃色の閃光が薄れていく。
そしてようやくおさまった。
プライウェンを破棄しながら左手の損傷に内心舌打ちをする。
アレだけの魔力攻撃を防ぐ加護の力。
その代償として左腕がボロボロだ。
既に痛覚が無く、動かしてみても、動いている実感が感じられない。
時間が経てば問題なく治るだろうが、すぐに戦闘で使うのは難しそうだ。
「もう大丈夫」
「すぐに安全な場所に運んでもらうから、もう少しじっとしててね」
フェイトとなのはの言葉にどう反応するべきなのか困惑しているアリサとすずか。
「あの、これって」
「ちょっとどういうことか」
困惑する二人の足元に魔法陣が浮かび、姿を消した。
「転移か?」
「うん。守りながらエイミィに転移をお願いしてたから」
「それにユーノ君とアルフさんも二人を守ってくれる」
「そうか」
なら二人の事はユーノとアルフに任せるとしよう。
「でも見られちゃったね」
「うん」
アリサ達に見られた事に少しながら動揺してるなのはとフェイト。
「二人の事だ。
俺達が何かしている事はなんとなく察していただろう。
これが終わった後に全てを話すかどうか、決めればいい」
話さないという選択肢もあるが、アリサとすずかの二人だけが結界内に残されたのがどうにも気になる。
なのはやフェイト、俺の傍にいた事で魔法に対する耐性が自然に高まったとでもいうのだろうか?
すずかはまだわかるが、アリサもとなるとどうにも説明は難しい。
どちらにしろ、悩むのは全てが終わった後でいい。
「皆、聞える?」
俺の横に現れるモニター。
「はい。聞えています」
なのは達には念話で通信がいっているのだろう。
視線を向けたら頷いた。
「闇の書の主に、はやてちゃんに投降を停止を呼びかけて」
それは難しいだろう。
はやての意思は既に闇の書の中にある。
そして、外に出ている闇の書の意思は
「我はただ主の願いを叶えるのみ。
主には穏やかな夢のうちで永久の眠りを。
そして、愛する騎士達を奪ったものには永久の闇を」
同じ言葉を繰り返す。
同じ闇の書の一部とはいえ、抵抗し、はやてを救うためにどうするべきか迷っていたシグナム達とは違う。
はやての絶望をただ受け入れ、実行しようとする。
闇の書が輝き、大地が揺れる。
この感じ、下か。
大地を突き破って出てくる触手と巨大な尾。
これは確かフェイトとシグナムが戦った砂漠に居た奴。
魔法だけじゃなくて動物の身体の一部もコピーするのか。
尾を振り、ビルを砕き、その破片が落ちてくるのをかわす俺達。
その回避行動を読んでいたように迫る触手。
俺はさらに後ろに飛びながら投影した無銘の魔剣を片手で振るい叩き斬る。
触手に警戒しながらさらに距離をとるが、なのはとフェイトは闇の書に意識が向き過ぎていたためか、触手に捕らわれる。
触手を斬り落とした魔剣を投擲するが、尾に弾かれる。
「ちっ!」
俺の追撃してくる尾に舌打ちをしながらかわしながら、リズの持っていたハルバートで叩き斬る。
だがその時、地面を突き破りさらに出てくる触手。
片手で無理やハルバートを振るっていて体勢が崩れており、わずかに遅れ、全身に絡みつく触手。
武器の選択を誤ったか。
「私はお前を傷つけたくない。
そのまま動くな、私はただ」
本来の目標であるなのはとフェイトに視線をむける闇の書。
「主の願いを叶えるだけだ」
「願いを叶えるだけ?」
闇の書の言葉に苦悶の表情を浮かべながら、闇の書を見つめるなのは。
「そんな願いを叶えて、それではやてちゃんは本当に喜ぶの!
心を閉ざして何も考えずに主の願いを叶える道具でいて、貴方はそれでいいの!!」
触手に抵抗しながら、必死に闇の書に語りかけるなのは。
だが、それでも
「我は魔導書
ただの道具だ」
闇の書には届かない。
「だけど言葉を使えるでしょ。
心があるでしょ。
そうでなきゃおかしいよ、本当に心が無いなら泣いたりなんかしないよ!」
「この涙は主の涙、私は道具だ。
悲しみなどない」
なのはの言葉を受け入れないと拒否する闇の書。
それはまるで心がある事を認めようとしないで抵抗しているようでもあった。
その様子に
「バリアジャケット、パージ!」
「Sonic form.」
フェイトから魔力が放出され、触手を吹き飛ばし拘束から逃れる。
「悲しみなどない? そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって誰が信じるもんか」
「貴方にも心があるんだよ。
悲しいって言っていいんだよ。
貴方のマスターは、はやてちゃんはきっとそれに応えてくれる」
「だからはやてを解放して、武装を解いて。
お願い!」
二人の言葉にただ二人を静かに見つめる闇の書。
少しでも届いたのだろうか。
いや、届いてほしかった。
だがそれに応えるのは先ほどとは違う大地の揺れ。
そして、噴き出る炎の柱。
「早いな、もう崩壊が始まったか。
私も時期、意識をなくす」
闇の書が指す言葉。
それは闇の書の暴走。
もう時間が残されていない。
「そうなればすぐに暴走が始まる。
意識のあるうちに主の願いを叶えたい」
「Blutiger Dolch.」
闇の書の言葉に応えるようになのはとフェイトの周りに赤い刃が展開される。
暴走し、意識を失うとしてもまだ闇の書は道具であろうとした。
「闇に沈め」
爆音が空気を揺らす。
だがそれはなのは達を捉えていなかった。
さらにフェイトの速度が上がった。
フェイトの新しいバリアジャケット。
今までの以上に速度に比重を当てたものか。
これ以上、呑気に見ているわけにもいくまい。
虚空に剣を投影し、射出することで右腕を縛る触手を切り、自由になった右手で剣を掴み、触手を斬り払う。
「この駄々っ子」
「Sonic drive」
その時、フェイトがバルディッシュを構え、手足の翼が何かを確かめるように大きく羽ばたく。
まずい!
「言う事を」
「Ignition.」
「聞け!!」
凄まじい速度で闇の書との距離を詰めるフェイト。
その中でまるで差し出すように闇の書をフェイトに向ける。
「お前も我が内で眠るといい」
防御じゃない。
まだ見せていないナニカ。
「よせ、フェイト」
フェイトを追う様に魔力放出で踏み込むがとても追いつけない。
「はあっ!」
フェイトは正面から真っ直ぐに距離を詰めて、バルディッシュを振りかぶる。
展開される魔法陣。
魔法陣に叩きつけられるバルディッシュ。
バルディッシュは魔法陣を突破できず弾かれる。
それと同時に光に包まれるフェイト。
フェイトを抱きとめようと手を伸ばす。
だがその手は
「あ……し、ろ……う」
届くことなくフェイトは光の粒子となり闇の書に呑み込まれ消えた。
空を切る俺の右手、そして俺は地面に着地する。
「貴様!」
世界は残酷だ。
全員を助けることなどできはしない。
わかっていた。
わかっていてもその道を突き気進んで破滅した。
世界を渡り、大切な恩人の「幸せになりなさい」という言葉に少し自身の幸せを意識するようになった。
その中で正義の味方になれなくても近くに居る人達を守りたいと思った。
平和な暮らしを守りたいと思った。
だけどこの未熟者の手にはそれすら守りきれなかった。
大切な者達の手を振り払って、一人で正義の味方を目指した。
もしかしたら、それも自分では大切な者を守れないと気がついて逃げただけだったのかもしれない。
傍にいるだけで、傷つけるのかもしれない。
ならば俺は去る事を選ぼう。
家族を奪った俺をはやては恨むかもしれない。
敵でありながら好敵手であったシグナムやヴィータを斬り捨てた俺をなぜと責めるかもしれない。
助けるといいながら斬り捨てた俺をシグナム達は蔑むかもしれない。
それでもいい
恨まれてもいい。
責められてもいい。
蔑まれてもいい。
それで少しでも多く大切な人を救えるなら俺は背負おう。
「―――投影、開始」
右手にあるのはゲイ・ジャルグ。
左腕はまだ使えない。
だがそれで止まる気はない。
魔力放出で間合いを詰め、闇の書、魔導書の本体に向けてゲイ・ジャルグを突き出す。
魔法陣が俺に向けられるが関係ない。
それを突破し、闇の書を破壊し、フェイトを、はやてを取り戻す。
「抉れ、破魔の紅薔薇!」
だがそれは
「バインド!」
俺の右手首を止めるようにバインドがかけられる。
この程度、力任せに砕ける。
魔力をさらに高め、砕こうとする。
だがその数秒で闇の書には十分だった。
俺を覆う光の粒子。
その中で意識が朦朧とし、力が抜ける。
「お前も安らかな眠りを」
その言葉を最後に俺は意識を失った。
side out
「Absorption.」
閉じられる闇の書。
「士郎君、フェイトちゃん」
士郎とフェイトが消える姿を見たなのはは茫然と二人の名を呼ぶ。
だがその呼び声に応える者はいない。
大切な二人がいない恐怖にわずかに手が震えるが、必死に愛機を握り締め
「エイミィさん!」
二人の無事を願って確認する。
「状況確認、フェイトちゃんのバイタルまだ健在。
闇の書の内部空間に閉じ込められただけ。
士郎君も状況は同じだと思う。
助ける方法は現在検討中!」
一応は無事という言葉になのはから安堵の息が漏れる。
まるでその不安に応えるように
「我が主も、我らに力を貸してくれた騎士も、あの子も覚める事のない眠りのうちに、終わりなき夢を見る。
生と死の狭間の夢。
それは永遠だ」
「永遠なんてないよ。
皆変わっていく
変わっていかなきゃ、いけないんだ。
私も貴方も」
静かに闇の書を真っ直ぐを見つめるなのは。
先ほどあった手のわずかな震えはもう止まっていた。
三対一から一対一。
人数的に有利な状況から一対一という厳しい状況。
それでもなのはの目は死んでいない。
空が飛べないとはいえ士郎でも苦戦した相手。
苦しい戦いになるのはわかっていた。
でもただ大切な人を、闇の書を救う覚悟がそこにはあった。
「行くよ、レイジングハート!」
「All right, my master」
なのはは想いに応える自身の愛機と共に空を舞いあがる。
side フェイト
まどろみの様な意識がゆっくりと浮上する。
感じるの柔らかな日差し。
ゆっくりと瞼をあけて体を起こす。
見覚えのない部屋に柔らかなベット。
なんで私はここで眠っているんだろう。
今私が置かれている状況が理解できない。
そんな私の横で布団がゆっくり上下している。
耳を澄ませば、聞える寝息。
仔犬フォームのアルフと私と同じ長い金色の髪。
起こさないように少し顔を覗き込むと
「え?」
いるはずのない私と同じ顔の女の子。
心臓の鼓動が大きくなる。
大きく息を吐いて自分を落ち着かせて、部屋を見渡す。
天井に星が描かれたドーム状の部屋。
「……ここは」
知っているけど知らない部屋。
夢の中で、記憶の中で見た事がある隣で眠る子の部屋。
一体なんで私はここに居るんだろう。
何が起きたのかわからず困惑する中で、部屋がノックされた。
「フェイト、アリシア、アルフ、朝ですよ」
この声。
忘れるはずがない。
今はいない私の大切な人の声。
そして、その声に反応するようにどこか眠たそうに隣の女の子が目を覚ました。
「おはよう、フェイト」
私と同じ声。
でも私とは少し違うゆっくりとした話し方。
「皆、ちゃんと起きてますか?」
私が女の子の挨拶に呆然としている間に部屋の扉は開き、懐かしい声の人が入って来る。
隣の女の子とアルフと言葉をかわすけど、頭が追いつかない。
「リニス?」
「はい、何ですか? フェイト」
「アリシア?」
「ん?」
私の呼ぶ声に不思議そうに首を傾げながら私を見つめ返す二人。
私に色々な事を教えてくれたリニス。
記憶にあっても話す事も出来なかった私のお姉ちゃんのアリシア。
もういない二人、だけど知っている柔らかな微笑みに固まってしまう。
「今朝はフェイトも寝ぼけ屋さんのようです。
さあ、着替えて朝御飯です。
プレシアはもう食堂ですよ」
リニスの言われるまま、着替えて食堂に向かう。
その食堂には
「おはよう」
今のように穏やかな笑みを浮かべている大好きな母さんがいて
「おはよう。フェイト、アリシア、アルフ」
母さんを救ってくれて、何度も守ってくれた大好きな人。
士郎がそこに立っていた。
side 士郎
風が頬を撫ぜる感覚に目をあける。
穏やかな風が吹き抜けていく。
周囲に目をやれば花が咲き誇る庭園。
頭上に浮かぶのは満月の月。
見覚えのある城。
見覚えのある庭園。
「シロウ、どうかしたのか?
そのようなところで呆けているとは珍しい」
その声に振り返る。
黒い長い髪に赤い瞳。
漆黒のドレスを纏った少女がそこに居た。
後書き
というわけで士郎も闇の書の中に取り込まれました。
最初は士郎を取り込ませずにすることも考えましたが、取り込ませる方向に
少し士郎の元いた世界での生活が垣間見えます。
ちなみにフェイトの夢に士郎が出てきたのは取り込まれる前に手を伸ばした士郎がいた事と好意によるものだったり
次回はフェイトと士郎の夢の中の話です。
それではまた来週にお会いしましょう。
ではでは
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