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万華鏡

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第三十八話 夏の巫女その四

「はい、持ってない人は使ってね」
「あっ、私かけたから」
「私も」
「私もなの」
「あたしもだよ」
 四人共答える。大丈夫だというのだ。
「お母さんに言われたから、夏の夜は蚊にも注意しろって」
「そう言われてるからね」
 それで四人共既に武装しているというのだ、蚊に対して。
「実は八条神社の時も持ってたし」
「かけてたのよ」
「そういえばそうだったわね」
 景子も言われて思い出した、皆確かに事前にかけていた。
「しっかりしてるわね」
「蚊に刺されたら厄介だからな」
 沖縄生まれの美優が話す。
「痒くて仕方がないし」
「日本脳炎の注射はしたけれど」
 里香が言う。
「それでも怖いから」
「それなのよ、蚊って怖いのよ」
 景子はこのことも話した。
「実はね」
「痒いだけじゃなくてね」
「ほら、マラリアだって」
 日本では幸いないが熱帯では今も猛威を奮っている伝染病だ。
「蚊からだから」
「そうなのよね。景子ちゃんって蚊にも詳しいのね」
「だって子供の頃から苦しめられてきたから」
「神社だからなのね」
「そう、だからね」
 ここでも神社の話をするのだった、話をするその周りには夜の暗がりの中で飛ぶ虫達、おそらく蚊もいるであろう彼等が飛んでいる。
 その虫達を横目で見ながらだ、景子は里香に応える。
「詳しくなったのよ」
「それでなのね」
「蚊は大嫌いよ」
 景子は眉を顰めさせてこうも言った。
「いつも対策が大変だから」
「寝てる時はペープマットなの?」
「あれ匂いがきついから」
 琴乃の問いにだからだと返す。
「いつも蚊取り線香なの」
「あれ使ってるの」
「そうなの、あれだと匂いもきつくないし風情もあるから」
「日本のお家に合うわよね」
「蚊取り線香は偉大よ」
 夏の必須品だというのだ。
「もっともうちの家もクーラーあって夏も基本的に家の窓は閉めてるけれどね」
「それも虫ってお家の中に入ってるからね」
 だからだというのだ。
「ちゃんと警戒はしてるのね」
「そう、そうしてるの」
 こう話すのだった。
「蚊取り線香がないとね」
「夏はなのね」
「そう、いられないわ」
 五人で話しながらだった、五人で雑用を済ませていく。
 雑用は多く次から次に出て来た。五人で神社のあちこちを右に左に動きながらだった。
 五人は夜の神社で働いていた、その中で。
 琴乃は持って来たタオルで額の汗を拭きながらだ、こう言ったのだった。
「暑いわね、蒸し暑いわ」
「そうでしょ、神社の裏はね」
「ええ、暑いわ」
 実際にそうだとだ、琴乃は景子に答えた。
「巫女の服も関係してるけれど」
「それでもよね」
「そう、暑いのよ」
 そうだというのだ。 
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