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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターン26 今週のビックリドッキリ…

 
前書き
復帰記念、誰に頼まれたわけでもないけどとあるテーマの宣伝回。弱い弱い言われてるけど、この話みたいにライフ4000だったらシャレにならないテーマだと思う。 

 
「ねー十代ー、今ヒマ?」
「いや、今日は翔と隼人と万丈目と釣り競争する約束してるぞ。どうしたんだ?」

 ある休日の午後、どうしても気になることがあったから十代の部屋につながってる扉を軽く蹴り開けて声をかけてみる。というか十代、そんな予定初耳なんだけどなんで僕も誘ってくんないのさちょっと寂しいじゃん。

「悪い、今朝聞こうと思ったんだけどよく寝てたからさ。別に構わないから一緒に行こうぜ!」
「う~ん、自分から話振っといてこんなこと言うのもなんだけど、今日はちょっとやっときたいことがあるから。暗くなる前には帰ってくるからー!」
『面白そうだな、俺も付いてくぞ。というかどうせ俺が釣りに行ったところで竿が持てん』

 よっこらせ、と立ち上がって靴をはく。さーて、うまく入れるといいけどなっと。

『ところで、どこに行くつもりなんだ?』
「特待寮」
『………は?』





 大体10分後、僕らは前にも一度入った特待生用の廃寮の前にいた。いやー懐かしいな、十代達と扉を2~3枚引っぺがしに来た時以来だ。あのときはお世話になりました。

『んで、また来たわけだが。入る算段はついてるんだろうな』

 怪しむような声で疑問を投げかけるユーノだが、その疑問はもっともだと思う。一回タイタンと偽闇のデュエルをした時にあっさり入れちゃったのが問題になったせいでバリケードが強化されて、前来た時は中に押し入るのにとんでもなく苦労したからなあ。でも、今は大丈夫なんだよね。

「チャクチャルさん、よろしくっ!」
『了承した。存分にやってくれ』

 腰に付けたデッキケースに声をかけて、ダークシグナーの能力を全開放する。唖然とした表情のユーノを放っておいて、自分の腕に紫色の痣が浮かび上がってくるのを眺める。たぶん、目もそろそろ白目の部分が真っ黒になって黒目の部分に紫色が出てきただろう。

「………よし、完璧」
『うむ』

 満足げに頷く僕とチャクチャルさんとは対照的に、呆れてものも言えない、といった様子で佇むユーノ。どうしたんだろう、急に。そう思いながらも、誰かに見つかったらやばいなんてもんじゃ済まないのであんまりのんびりはしてられない。ということで、ダークシグナーの身体能力を生かして高さ3メートルぐらいの柵をひょいっとジャンプして飛び越えた。おお、体が軽い。ちらっと後ろを振り返ると、幽霊だけができる特権のリアル壁抜けをしてユーノが敷地の中に入ってきた。

『んで、お前ら。これはどういうこった?』

 呆れてものも言えんわ、と言いたげな表情のユーノの第一声がこれ。まったく、もうちょっと気のきいたことは言えないもんなのかね。

「何って言われても、ダークシグナーの能力・応用編だけど。別名身体能力底上げ法」
『うむ』
『うむじゃねえよそこの自爆神。フィールド魔法たたき割るぞコラ』
「まあまあ、別にチャクチャルさんだって悪気があって僕をダークシグナーにしたわけじゃないし」
『うるせこの駄ークシグナー。もうちょいそれっぽいことに能力使えるようになって出直してこい』
「………精霊実体化っ!出てきてブリザード・ファルコン!」
『うわちょ、やめれ!つつくなトリ!ってかなんでお前は俺に触れるんだ、やっぱ精霊だからか?……あ痛っ!』

 わーわー騒いでるユーノの声が万一精霊の見える人に聞かれたりしたらいろいろめんどくさいことになりそうなので、ブリザード・ファルコンに戻っておいで、と声をかけてさっさと建物の中に入る。前に来た時と同じで、誰も使ってないにしては妙に滑らかに動く扉だった。

「えーっと、確か前に来たときはこっちにあったと思ったんだけど……」
『それよりそろそろ教えてくれよ。俺らはいったい何しにここまで来たんだ?』
「あれ、まだ言ってなかったっけ。ちょっと欲しくなったものがあってね。前ここに来たときチラッと見たのを思い出して」

 そこまで言った時、コツ、コツ、と足音が聞こえた。冷や汗がタラリ、と頬を伝うのを感じたけど、それをぬぐってるほどの余裕はない。え、ちょっと待って。なんで今ここに人がいるの!?十代にも結局行先は教えてないのに、なんでこの場所に!?とりあえず逃げて隠れなきゃ、そう思ってゆっくりと後ろを振り返った瞬間、オベリスクブルーの制服を着て、丸メガネをかけたいかにも頭のいい優等生という感じの生徒と目があった。………嘘、いつの間に後ろをとられたんだろう。まるで気づかなかったんだけどどゆこと。

「えっと………」

 先に話しかけてきたのは向こうだった。その声を聞いた瞬間、自分のすべきことを思い出す。すなわち、

「後ろを向いて全速全身っ!」
「え、ちょっと君!?」

 慌てて追いかけてきたけど、無視!ダークシグナーの身体能力があれば、バイクより速く走ることだってできる!

『それ違う人だな』





「ぜー、ぜー………ここどこ?」

 あれから10分ほど脇目もふらずに走り続け、ふと気づいたら一回も通ったことのない長い廊下にいた。足元の赤いカーペットにはたっぷりと埃が積もっていて僕の足跡がはっきり見えるけど、さすがにあれだけ走ったら追いつかれるまでにはまだまだかかるだろう。

「あ、いた!おーい、待ってよ君!」

 えっ。恐る恐る振り返ると、足音を立てずに走ってくる例のブルー生の姿が見えた。あれ、これ人生詰んだ?

「待ってー!せっかく久しぶりに人に会えたんだから、せめて話だけでも聞いてってー!」
『ん?なにかしら聞いたほうがよさそうじゃねーかこれ。もしかしたら吹雪みたく帰ってきたあの人コースかもしれんぞ』

 そっか。確かにここは行方不明者の出た廃寮、ダークネスになってた吹雪さんの例もあることだし絶対違う、とは言い切れないか。

「じゃ、じゃあ少しだけ……」
「ホント!?よかった~!それじゃあまず、君の名前は?ほら、いつまでも君ってだけじゃ話するのにも不便でしょ?ちなみに自分は稲石(いないし)っていうんだ。よろしく!」

 久しぶりに人と話をする(本人談)からか妙にハイテンションな稲石……先輩?の話をざっとまとめていると、どうもこの人は吹雪さんよりももう一つ上の学年の人らしい。吹雪さんはその年の新入生の中でもカイザー、そして藤原さんとかいう人と並んでトップクラスの強さを誇る人だったから印象に残っていたそうだ。どうでもいいけど吹雪さん、その頃は獣戦士デッキの使い手だったらしい。ちょっと意外。稲石さんのことに話を戻すと、ある夜に地下が騒がしいから様子を見に行ってみたら不思議な光に包まれて、ふと気づいたら埃まるけの廊下に倒れてて僕を見つけたから近寄ったらしい。

「(……ねえユーノ、これあなたの時代から数年経ってますよって教えたほうがいいのかな)」
『うーん、まあ黙っててもすぐにばれるだろうな。遅かれ早かれならまだ今のうちに教えてやるのが優しさってもんじゃねーか?』
『(それはわかってるんだけど、でもやっぱり言いにくいなあ)」

 ぼそぼそと稲石さんに聞こえないように後ろのユーノと作戦会議してると、本人が不安げに声をかけてきた。

「ねえ遊野君、どうしたんだいさっきから?まさか、自分が嘘ついてるって思ってる?確かに自分だっていまだに信じられないけど、全部本当のことなんだ!」
「ああいや、別にそういうわけじゃ………」
「じゃあこうしよう!」

 いやあの、だから信じてないわけじゃないんですが。人の話を聞かないのはルール違反ですぜ兄さん。

「自分と今からデュエルしてもらう!自分が勝ったら自分の話は本当のことなんだって認めてもらうからな!ついてきてくれ、ここは狭い。この近くだと食堂が広いから、そこまで案内するよ」
『安定と信頼のデュエル脳お疲れさんです。あれ、なんか……妙だな』

 流れで押し切られて稲石さんの後を歩く途中、ユーノが首をかしげた。

「何が?」
『いや、よくわからん。間違い探し見てるみたいな感覚がするのは気のせいか?』

 そう言われてみれば、なんとなーくおかしな気がする。何がおかしいってわけじゃないんだけど、何となく違和感。何気なく後ろを振り返っても、そこには積もった埃にくっきりと浮かび上がる僕の足跡だけ。うーん、なんなんだろう?

「ほら、この部屋が食堂さ。さ、入った入った。自分はロウソクに火をつけてくるから、ちょっと待っててね」

 そう言いながらポケットからマッチ箱を取り出し、素早くでっかいテーブルの上に置かれた燭台に火をつけていく。ろうそくの明かりに照らされた室内は思ったよりも明るく、カーペットの赤色もきれいに映えている。そうか、ロウソクってのも電気代節約にいいなあ。レッド寮みたいなところでも毎月電気代はばかにならないから、うまく誤魔化せれば毎月の電気代とロウソク代の差額でういたお金で設備をよくできるかも。これは覚えておかないと。

『この部屋、まるでシャドウ・スペクターズのCMに出てきたみたいな食堂だな。まあ、偶然………なのか?』
「さあ、これで明るくなったね。いくよ!」

「「デュエル!!」」

「先行は自分だね。ドロー、手札断殺を発動!自分はこのカードを墓地に送るよ」

 手札断殺
速攻魔法
お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。
その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 えっと、手札2枚を墓地に、か。あれ、今チラッと見せてきたカードに見覚えのあるのがいたような。気のせいかな?とりあえず僕は手札にレベル3モンスターを置いておきたいからこのカードと、それと………うん、ごめんチャクチャルさん。ぶっちゃけフィールド魔法もないのに初手に来られるとさすがに邪魔。闇だからヒゲアンコウが使えるわけでもないし。

「そして自分は、キラー・トマトを召喚!カードをセットして、ターンエンドさ」

 フランス料理の盛った皿の上にかぶせるあの丸い取っ手付きの蓋、なんでもクロッシュという道具らしい。とにかくそのクロッシュが稲石さんの場に現れたかと思うと、それをはねのけてケタケタと笑う真っ赤なトマトが飛び出してきた。

 キラー・トマト 攻1400

「闇属性リクルーター……闇属性使いですか」
「ふふふ、君はどう思う?ターンエンドさ」

 伏せカードもないし、今いるのはリクルーターのみ。よし、先制攻撃で一気にライフを削っておこう。

「ドロー!手札のハンマー・シャークを召喚、効果発動!自分のレベルを1下げて、手札のレベル3以下水属性を特殊召喚する!来て、オイスターマイスター!」

 ハンマー・シャーク ☆4→3 攻1700
 オイスターマイスター ☆3 攻1600

「へえ、もうモンスターを2体も!」
「バトル、オイスターマイスターで攻撃!オイスターショット!」

 投げつけられた牡蠣は勢いよく飛んでいってキラー・トマトの顔面、つまり体全体のど真ん中に命中する。よし、まずは一撃!

 オイスターマイスター 攻1600→キラー・トマト 攻1400(破壊)
 稲石 LP4000→3800

「モンスター効果発動!自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性を特殊召喚する!ゴーストリックの魔女、召喚!」

 またどこからともなくクロッシュが運ばれてきて、その中から魔女衣装の女の子がほうき片手に元気いっぱいの様子で飛び出てきた。あれ意外、2体目のキラー・トマトじゃないんだ。

 ゴーストリックの魔女 攻1200

「でも、攻撃は止めないよ!ハンマー・シャークでゴーストリックの魔女に攻撃!」
「いいや、攻撃は止めてもらう!自分は手札から、ゴーストリック・ランタンの効果発動!その攻撃を無効にして、このモンスターを場にセットする!」

 魔女に向かって空中を泳いでいったハンマー・シャークが、いきなり天井から飛び出してきたとんがり帽子にかぼちゃ頭の幽霊に動きを邪魔されてあきらめて帰ってくる。むー、残念。

 ゴーストリック・ランタン
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 800/守 0
自分フィールド上に「ゴーストリック」と名のついた
モンスターが存在する場合のみ、
このカードは表側表示で召喚できる。
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
また、相手モンスターの直接攻撃宣言時、
または自分フィールド上の「ゴーストリック」と名のついた
モンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。
その攻撃を無効にし、このカードを手札から裏側守備表示で特殊召喚する。

『魔女だけならまだわからんかったが、やっぱり【ゴーストリック】か。ライフ4000なこの世界じゃあなかなか厳しいな』
「カードをセットして、ターンエンド」

 稲石 LP3800 手札:2 モンスター:ゴーストリックの魔女(攻)、1(ゴーストリック・ランタン) 魔法・罠:1(伏せ)
 清明 LP4000 手札:3 モンスター:ハンマー・シャーク(攻)、オイスターマイスター(攻) 魔法・罠:1(伏せ)

「ドロー!自分の場にゴーストリックモンスターが表側でいる場合、このカードは通常召喚できる!ゴーストリック・シュタイン召喚!」

 ゴーストリックの魔女がほうきを振ると、ボワンと音を立てて案の定クロッシュ登場。その中から出てきたのは、ずいぶんコミカルなタッチのフランケンシュタインだった。

 ゴーストリック・シュタイン 攻1600

「さらにゴーストリックの魔女の効果発動!1ターンに一度、相手モンスターを裏守備にできる!自分はこの効果で、オイスターマイスターを選ぶよ」

 ゴーストリックの魔女
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻1200/守 200
自分フィールド上に「ゴーストリック」と名のついた
モンスターが存在する場合のみ、
このカードは表側表示で召喚できる。
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
また、1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを裏側守備表示にする。

「さらにランタンをリバースしてバトル、裏守備になったオイスターマイスターをゴーストリック・ランタンで攻撃!」

 ランタンのかぼちゃ頭の周りにいくつもの人魂が浮かび、それが同時に突っ込んできて裏側になったオイスターマイスターを焼き尽くした。

 ゴーストリック・ランタン 攻800→???(オイスターマイスター) 守200(破壊)

「オイスターマイスターが……」
「まだまだ!って言いたいところだけど、自分の場にハンマー・シャーク以上の攻撃力を持つモンスターはいないね。カードをセットして、ターンエンドさ」

 てっきり手札か場にコンバットトリックできるカードがあるのかと思ったら、予想に反してあっさりとターンを終わらせた稲石さん。あれ、もしかしてこの人初心者とか?さすがに特待生っていうぐらいだからそれはないんだろうけど、じゃあなんでわざわざ攻撃するわけでもないモンスターを攻撃表示で出したんだろう。

「うー、怪しいけどそれ言い出したらきりがない。もういいか、ドロー!ハンマー・シャークの効果を使ってハリマンボウを特殊召喚!」

 ハンマー・シャーク ☆3→2
 ハリマンボウ ☆3 攻1500

「さらに、僕はまだモンスターを通常召喚していないから、それもいくよ!竜宮の白タウナギ、召喚!」

 竜宮の白タウナギ 攻1700

「これだけモンスターがいれば、なんとかなるはず……」
「残念でした、ここで激流葬を発動!全モンスターを破壊さ!」

 激流葬
通常罠(準制限カード)
モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。
フィールド上のモンスターを全て破壊する。

『なるほそ、シュタイン棒立ちを警戒して大量展開することもで全部織り込み済みってわけか。ってことは、あのもう一枚の伏せカードは……』
「さらに自分は、この激流葬にチェーンしてゴーストリック・アウトを発動!自分が見せるのは、ゴーストリック・スペクターさ」

 ゴーストリック・アウト
通常罠
手札の「ゴーストリック」と名のついたモンスター1体を相手に見せて発動できる。
このターン、自分フィールド上の「ゴーストリック」と名のついたカード
及び裏側守備表示で存在するモンスターはカードの効果の対象にならず、
カードの効果では破壊されない。

 さあ、まずいことになった。僕はもうこのターンにモンスターを出す手段がない。これでこっちの場は完全にがら空き、だけど稲石さんのゴーストリックたちは無傷。幸いにもゴーストリックは全員攻撃力が低いからあのモンスターの総攻撃を受けたとしてもギリギリライフは残るけど、さらに2体以上のモンスターを出されたらだいぶ危ない。とりあえず、やれることだけでもやっておこう。

「ハリマンボウが墓地に贈られた時の効果で、ゴーストリック・シュタインの攻撃力を500ダウン!カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 ゴーストリック・シュタイン 攻1600→1100

 稲石 LP3800 手札:2 モンスター:ゴーストリックの魔女(攻)、ゴーストリック・ランタン(攻)、ゴーストリック・シュタイン(攻) 魔法・罠:なし
 清明 LP4000 手札:1 モンスター:なし 魔法・罠:2(伏せ)

「自分のターン、ドロー!うーん残念、みんなで一斉攻撃!」
「うわあっ!」

 ゴーストリック・ランタン 攻800→清明(直接攻撃)
 清明 LP4000→3200
 ゴーストリックの魔女 攻1200→清明(直接攻撃)
 清明 LP3200→2000
 ゴーストリック・シュタイン 攻1100→清明(直接攻撃)
 清明 LP2000→900

 いてて、あっという間にライフが4分の1以下にまで減らされた。セットカードのうち一枚はバブル・ブリンガーだけど、これレベル1のランタンにレベル2の魔女、レベル3のシュタイン相手じゃ何の意味もないんだよね。

「そしてゴーストリック・シュタインが相手に戦闘ダメージを与えたことで、自分はデッキからゴーストリック・ハウスをサーチしておくよ。そしてそのハウスを発動!これが自分らのお化け屋敷さ!」

 ゴーストリック・シュタイン
効果モンスター
星3/闇属性/アンデット族/攻1600/守 0
自分フィールド上に「ゴーストリック」と名のついた
モンスターが存在する場合のみ、
このカードは表側表示で召喚できる。
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
デッキから「ゴーストリック」と名のついた
魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。
「ゴーストリック・シュタイン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

「さらにゴーストリックのみんなの効果発動!全員裏側表示に変更さ!」

 稲石がそう言うと三体のゴーストリックが煙に包まれ、さっきまでモンスターがいた場所に計3つのクロッシュが置かれていた。

「それと自分は、忘れずにこのカードも使っておくよ。永続魔法うごめく影!ライフを300払って、自分の場の裏守備モンスターをシャッフルして並び替えるね」

 稲石 LP3800→3500

 今度は3つのクロッシュがグルングルンと動き回ってシャッフルされ、どこにどのモンスターが入っているのかわからなくなってしまった。もう、これじゃあ次の攻撃で一番危険な魔女を当てられる確率が3分の1になっちゃったじゃないか!

『いや、もっと確率は低いな。何せハウスをどうにかしないとモンスターには攻撃すらまともに届かんぞ』
「ふふっ、ターンエンドさ。さあ、もっと楽しくデュエルしようよ!」
「まだあきらめないよ、僕のターン!リバース効果が怖いなら、こっちもセットで対抗してやる!モンスターをセットしてターンエンド!」
『………あほ。ハウスの効果があるってのに』

 稲石 LP3500 手札:2 モンスター:3(ゴーストリック・シュタインorゴーストリック・ランタンorゴーストリックの魔女) 魔法・罠:うごめく影
 清明 LP900 手札:1 モンスター:1(???) 魔法・罠:2(伏せ)、うごめく影
 場:ゴーストリック・ハウス

「自分のターン、場のゴーストリックを全員リバースして、さらにゴーストリックの雪女を攻撃表示で召喚!」

 ゴーストリックの雪女 攻1000

「さらにゴーストリック・ハウスの効果によって、自分のモンスター皆でまたまたダイレクトアタック!さあ、この4連打を止められるかな?」

 ゴーストリック・ハウス
フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、
お互いのフィールド上のモンスターは、
裏側守備表示のモンスターに攻撃できず、
相手フィールド上のモンスターが裏側守備表示のモンスターのみの場合、
相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、
お互いのプレイヤーが受ける効果ダメージ及び、
「ゴーストリック」と名のついたモンスター以外のモンスターが
プレイヤーに与える戦闘ダメージは半分になる。

「そのオーバーキル狙いにイラッとくるね!トラップ発動、イタクァの暴風!」

 一斉に僕の伏せモンスターをジャンプで飛び越えて踊りかかってきたゴーストリックたちが、激しい風にあおられて元の場所まで吹き飛ばされる。その後ふくれっ面でくしゃくしゃになった髪型を整える魔女やずれたとんがり帽子をかぶりなおすランタン、頭を振って起き上がるシュタインに風でめくれかかっていたスカートを押さえる雪女と、なんとも思い思いの反応を見せてくれた。

 イタクァの暴風
通常罠
相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの表示形式を変更する。

 ゴーストリック・ランタン 攻800→守0
 ゴーストリックの魔女 攻1200→守200
 ゴーストリック・シュタイン 攻1600→守0
 ゴーストリックの雪女 攻1000→守800

「ごめんごめん、ちょっと失礼だったね。メインフェイズ2に雪女以外の皆を裏守備に変更、うごめく影の効果を使用さ」

 稲石 LP3500→3200

 またもや3体のモンスターがクロッシュの中に隠れてしまい、シャッフルされることでどれがどれだかわからなくなる。ただ一人、ぽつんと佇む雪女を除いて。

「さ、これで自分はターンエンドさ」
「僕のターン、ドロー!」

 状況はかなり悪い。バブル・ブリンガーが使い物にならない今最後の砦だったイタクァまで使っちゃったし、このドローによっては詰みもありえる。………頼むよ、僕のデッキ!

「よし!まずセットモンスターを反転召喚、ペンギン・ナイトメア!このモンスターの効果で、ゴーストリックの雪女を手札に戻す!」

 ペンギン・ナイトメア
効果モンスター
星4/水属性/水族/攻 900/守1800
このカードがリバースした時、
相手フィールド上のカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。
また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分フィールド上の水属性モンスターの攻撃力は200ポイントアップする。

「あ、雪女!」
「さらに実は、もう一つ手があるのさ!僕の墓地の水属性はハンマー・シャークにオイスターマイスター、ハリマンボウに竜宮の白タウナギとゼンマイシャークの5体!手札から氷霊神ムーラングレイスを特殊召喚!」
「へえ………!」

 氷霊神ムーラングレイス
効果モンスター
星8/水属性/海竜族/攻2800/守2200
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の水属性モンスターが5体の場合のみ特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚に成功した時、
相手の手札をランダムに2枚選んで捨てる。
「氷霊神ムーラングレイス」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
このカードがフィールド上から離れた場合、
次の自分のターンのバトルフェイズをスキップする。

「さらにムーラングレイス召喚時の効果で、そっちから見て右から2枚のカードを捨ててもらうよ!」
「くっ、2枚は痛いなあ。キョンシーなんてまだ出してすらいないのに」
「僕はこのターン通常召喚してないから、ペンギン・ナイトメアをリリースして、氷帝メビウスをアドバンス召喚!そしてフリーズ・バーストを使って、その左側の伏せとゴーストリック・ハウスを破壊!」

 メビウスの投げつけた2本のつららが正確に2枚のカードの中心を射抜いた。だけど、まだまだ僕のターンは終わらないよ!

「バトル、ムーラングレイスで真ん中のモンスターを攻撃!」

 氷霊神ムーラングレイス 攻2800→???(ゴーストリック・シュタイン) 守0(破壊)

「シュタイン撃破、やっとこれで1体倒した………あれ?」
『手札半分捨てさせたのにまだ落ちてなかったのか。運が悪かったな』

 確かにシュタインは倒した。なのにセットモンスターの数、つまりクロッシュの数が一つ増えて3つになっているのはなぜだろう。

「残念、自分は今の攻撃終了後に手札からあるモンスターの効果を発動させたのさ。そのモンスターの名は、ゴーストリック・スペクター!そしてそのもう一つの効果で、自分はカードをドローする」

 ゴーストリック・スペクター
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 600/守 0
自分フィールド上に「ゴーストリック」と名のついた
モンスターが存在する場合のみ、
このカードは表側表示で召喚できる。
このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
また、「ゴーストリック」と名のついたモンスターが、
相手のカードの効果または相手モンスターの攻撃によって
破壊され自分の墓地へ送られた時に発動できる。
このカードを手札から裏側守備表示で特殊召喚し、
デッキからカードを1枚ドローする。

「だったら次、メビウスの攻撃!アイス・ランスで左側のモンスターを撃破する!」
「残念だったね、こっちはゴーストリック・ランタンさ。魔女じゃないよ」

 氷帝メビウス 攻2400→???(ゴーストリック・ランタン) 守0(破壊)

「魔女が倒せなかった………ごめんメビウス、ターンエンド」

 稲石 LP3500 手札:1 モンスター:2(ゴーストリック・スペクターorゴーストリックの魔女) 魔法・罠:うごめく影、1(伏せ)
 清明 LP900 手札:0 モンスター:1(氷帝メビウス)、氷霊神ムーラングレイス(攻) 魔法・罠:1(伏せ)

「自分のターン、ドロー!グレイヴ・オージャを守備表示で召喚」

 これまで稲石さんが使ってきたのとは全く毛色の違う岩人間が、そのごっつい腕で守備体勢をとる。

 グレイヴ・オージャ
効果モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1600/守1500
自分フィールド上に裏側守備表示モンスターが存在する限り、
このカードを攻撃対象に選択する事はできない。
自分フィールド上のモンスターが反転召喚する度に、
相手ライフに300ポイントダメージを与える。

「そしてゴーストリックの魔女、ゴーストリック・スペクターをそれぞれ反転召喚!これでグレイヴ・オージャの効果が2回発動して、合計600のダメージさ」
『あと一体伏せモンスターがいたら即死だったな』

 清明 LP900→300

「さらに魔女の効果でメビウスを裏守備にして、そのまま攻撃!」

 ゴーストリックの魔女 攻1200→???(氷帝メビウス) 守1000(破壊)

「メイン2、魔女とスペクターをもう一回裏守備に変更して、カードをセットする。これで自分はターンエンド。もう一回自分のターンが回ってきたら、自分の勝ちは確定。さあ、君はどうする?」
「どうするかって?もちろん僕はこのドローに、このデッキに賭けるよ!ドローっ!」

 威勢よく啖呵を切ったはいいけど、このターン中にグレイヴ・オージャをなんとかしないと負けは確定………逆転のカードが来ますように!

「さて、何のカードを引いたかな?」
「来た来た来た!貪欲な壺発動、墓地のオイスターマイスター、ハリマンボウ、ハンマー・シャーク、竜宮の白タウナギ、氷帝メビウスをデッキに戻して2枚ドロー!そしてサルベージと強欲なウツボのコンボで、墓地のペンギン・ナイトメアとゼンマイシャークを手札からデッキに戻して3枚ドロー!伝説の都 アトランティスを発動して死者蘇生、僕が墓地から呼ぶのはこのカード!七つの海の力を纏い、穢れた大地を突き抜けろ!地縛神Chacu Challhua、特殊召喚!………いい、チャクチャルさん。これ闇のゲームでもなんでもないから大人しくしててね。暴れちゃダメ、ゼッタイ」
『承知している。私のことはただのカードと思ってくれて構わない』
『お前、実際カードはカードだろが』

 伝説の都 アトランティス
フィールド魔法
このカードのカード名は「海」として扱う。
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
また、お互いの手札・フィールド上の水属性モンスターのレベルは1つ下がる。

 氷霊神ムーラングレイス ☆8→7 攻2800→3000 守2200→2400

 地縛神Chacu(チャク) Challhua(チャルア)
効果モンスター
星10/闇属性/魚族/攻2900/守2400
「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。
相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、1ターンに1度、このカードの守備力の半分のダメージを
相手ライフに与える事ができる。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
このカードがフィールド上に表側守備表示で存在する限り、
相手はバトルフェイズを行えない。

「攻撃力2900の最上級魚族だって!?そんなカード………そうか、自分が使った手札断殺か!」
「その通り!さらに手札から、ウミノタウルスを通常召喚!」

 ウミノタウルス
効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1700/守1000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
自分フィールド上の魚族・海竜族・水族モンスターが
守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 ウミノタウルス ☆4→3 攻1700→1900 守1000→1200 

「バトルフェイズ、ウミノタウルスでセットモンスターのうち右側に攻撃!そしてウミノタウルスは自身の効果によって、貫通能力を持つ!」
「ぐっ………スペクター!」

 ウミノタウルス 攻1900→???(ゴーストリック・スペクター) 守0(破壊)
 稲石 LP3500→1600

「やれやれ、次の攻撃を受けたらひとたまりもないね。君もオーバーキル狙いかい?」
「とぼけないで。手札断殺で墓地に送ったカード………1枚はネクロ・ガードナーなのはわかってるんだよ」
「なんだ、ばれてたのか。つまんないの」

 むしろばれてないと思うほうがどうかしてます。さっきあれだけ見せてきたじゃん。


「チャクチャルアの効果で、プレイヤーにダイレクトアタック!」
「ネクロ・ガードナーっと!」

 まあ、使ってくるとしたらここだよね。

 ネクロ・ガードナー
効果モンスター
星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300
相手ターン中に、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。
このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

「でも、これで僕の勝ち!貫通能力はついてるんだ、構うことはない!ムーラングレイスでそのまま攻撃だ!」
「ここで最後のトラップ発動、マジカルシルクハット!」

 これまでのようなクロッシュではなく、クエスチョンマークが描かれた青いシルクハットが2つ上から降ってくる。さらに魔女が入っていたはずのクロッシュも同じデザインのシルクハットになり、計3つのシルクハットが稲石さんの前に壁を作った。

 マジカルシルクハット
通常罠
相手のバトルフェイズ時に発動する事ができる。
自分のデッキからモンスター以外のカード2枚を選択する。
その2枚をモンスター扱い(攻/守0)として、
自分フィールド上に存在するモンスター1体と合わせてシャッフルし裏側守備表示でセットする。
デッキから選択して特殊召喚した2枚のカードはバトルフェイズ終了時に破壊される。

 ???×2 守0

「な、なんだ?」
「さあ、攻撃してごらん。ちなみに自分がセットしたカードは、それぞれ黒いペンダント(ブラック・ペンダント)とコザッキーの自爆装置。どれを攻撃するのも君の自由さ。自分のライフがなくなるのは変わりないけど、5割以上の確率で相打ちに持ち込める」
『黒いペンダントはフィールドから墓地に送られた時に相手へ500のダメージ、自爆装置はセット状態のとき破壊したプレーヤーに1000のダメージ………うまく魔女に攻撃が当てられたらこっちの勝ちだが、外したら戦闘破壊が終わってからライフ0になるこの世界なら相打ち、か』

 ど、どうしよう………戦略も何も関係ない、完全に運任せってことか。僕が勝つ確率は3分の1とやや不利だけど、いいね、燃えてきた。たまにはこういうのも面白い。

「じゃあ、僕は………」
「うん、僕は?」
「僕は、一番左のカードを攻撃!頼むよムーラングレイス!」

 ムーラングレイスが放った青白い光線がシルクハットの一つをぶち抜く。攻撃するカードを選んだ以上、できることは何もない。あのカードの正体は?

「………ふふ、自分の完敗だよ。運も実力のうち、君は強いね」

 氷霊神ムーラングレイス 攻2800→???(ゴーストリックの魔女) 守200(破壊)
 稲石 LP1600→0





「負けちゃったけど、久しぶりにデュエルができて楽しかったよ。ありがとう」
「いや、そっちこそ強かったです。特待生はさすがにレベル高いですね」

 素直に感心したのでそう言うと、なぜか稲石さんはあははと笑った。

「うん、ありがとう。ああそうだ、これはお礼って言ったらなんだけど、よかったら君がもらってくれない?自分が持ってても使い道がよくわかんないし」

 ポケットに手を突っ込んで、僕に金属片を見せる稲石さん。細長い形のそれは、一方の端にひもがついてちょうどペンダントのようになっていて………ってこれ!

「しゅ、守護者の鍵ぃ!?まままさか稲石さん、あんたセブンスターズだったのっ!?」

 確かあの鍵の形は、夢想がカミューラに投げ渡した奴だったはず。慌てて飛び退り、デュエルディスクを構えなおして警戒態勢に入る僕をぽかんと見つめる稲石さん。あれ、なんだか思ってたのと反応が違う。

「違うよ。これは、自分が数日前に地下でなんだかよくわからない変な喋り方のデーモン使いの人に会ったときデュエルを挑まれてね、とりあえず倒したらこれ落として逃げちゃったのさ」

 変な喋り方のデーモン使いって、もしかしてタイタンだろうか。今度はあの人何しに来てたんだろう。まあそれはいいとして、人を疑ったんだから謝んないとね。

「どうもすいません、ここ最近いろいろ立て込んでたから」
「いや、今の反応だけでもこれがなにかすごいものだってのはわかったよ。はい」
「ど、どうも………」

 そう言って、妙に冷たいその鍵を受け取る。自分の首に引っ掛けてる鍵とも見比べてみたけど、たぶん本物だ。うーん、なんでタイタンがこんな物を。帰ったら夢想に渡しておこうっと。

「じゃあ、外に出ましょうか」
「そうだね。今日は楽しかったよ」

 それから歩くこと数分。玄関前の大広間に出たあたりで後ろにいるはずの稲石さんの足音が聞こえないことに気づき、振り返ってみる。

「…………あれ?」

 誰もいない。おっかしいな、確かにいたと思ったのに。来た道を探しに戻ろうとしたところで、デュエルが終わってから黙りっぱなしだったユーノがゆっくりと口を開いた。

『……なあ、清明』
「何?今稲石さんを捜しに行くんだけど」
『その稲石のことなんだけどな?俺やっと気づいたんだよ、デュエル前に感じた違和感がなんだったのか』

 あ、それは聞きたい。まだちょっと気になってたし。すると心なしかひきつった声で、ゆっくりと語りだした。

『………あいつ、お前と一緒に歩いてたろ?おかしいじゃねえか、なんで足跡がひとり分しかつかないんだよ。あの時、廊下に残ってたのはお前の足跡だけだったろ?』
「え」
『おかしなところはまだあるぜ、その七星門の鍵だ。どうしてたった今目が覚めてうろついてたらお前を見つけた男が数日前にタイタンとデュエルして鍵をぶんどれるんだよ』
「え」
『もう一つ。その鍵、受け取ったとき妙に冷たかったろ』
「え」
『まだある。いくらあっちのほうが道に詳しいって言っても、仮にもダグナーの身体能力だぞ。俺みたいに壁抜けでもしない限り、あんなすぐに追いつけるはずがないんだよ』
「え」
『さっきからえしか言ってないけど、とどめさしてやるよ。この地図よーく見てみろ』

 いやな予感しかしないけど、見てみないわけにはいかない。ゆっくりと首を動かすと、何の変哲もないこの建物全体の案内図があるだけだった。えっとユーノさん、これが一体どうしましたか……?

『ここ。この寮の食堂ってな、俺らが今通ったのとは真反対の方向に一か所あるだけで、今俺らが来た道はどう見ても行き止まりのはずなんだよ』
「えっと、それって……」
『ああ。俺らはついさっきまで存在しない部屋で、な・ぜ・か、足跡がつかない人間とデュエルしてたんだよ』
「……………」
『………』
「もう出るっ!レッド寮に帰る!」





「ってことがあったんだよ。これが証拠の鍵。どー思う皆」
「まじかよ!く~、俺も行っときゃよかった!」

 その日の晩、レッド寮の狭い食堂でいつものメンバーと食卓を囲みながら今日会ったことの報告。さすがにみんな最初は疑ってたけど、少なくとも何かあったらしいことはわかってくれたようだ。

「それで、どんな人だったんスか?その稲石って人」
「うん、いい人そうだったよ。いやー、まさかユーノ以外の幽霊に会うなんてね、思わず気づいた時には冷や汗が出たよ」
「ふん、意気地のない。ところで清明、一体何をしにあんな場所まで行ってきたんだ?」

 あ。万丈目に突っ込まれるまできれいさっぱり忘れてたけど、そういえば目的があったんだっけ。

「実は……」
「実は?」
「あの寮、やたらと高級そうな皿とか食器とかあったでしょ?ウチのちょっと欠けちゃってるお茶碗とかと交換しようかなーと」
『え、俺そんなくだんないのについてったの?お前、そりゃ幽霊が出ても文句言えませんわ』

 その瞬間、玄関でコトリと音がした気がした。普段なら放っておくところだが、何となく気になったので席を立って玄関に行く。ドアを開けると誰もおらず、足元に高そうな食器が何十枚も積んであり、その横に銀製っぽいフォークやらスプーンやらの束が重ねてある。その上に手紙が一枚置いてあったので、慎重に取って文面を見る。

『なになに?[今日は楽しかったよー♪君が欲しがってたみたいだから、これは自分からのプレゼントさ。裏はないから受け取ってちょうだい。稲石より 追伸:稲石なんてあの寮にはいないし……ってね。なんなら歴代名簿でも見てごらん、稲石なんて名前の生徒は一人もいないから。じゃあ一体、僕は誰でしょう?」………よかったじゃないか、欲しいもんが手に入って』

 あはは、と笑いながら食器を拾い上げる。そんな僕の笑い声がちょっとひきつっていたのは否定できない。否定できないけど、また稲石とデュエルしたいな、とも思う自分がどこかにいた。 
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