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世界の片隅で生きるために

作者:桜里
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天空闘技場編
  未来の原石と頭痛の種

「……」

 幼いころは、確かに夢見ていた。
 魔法のアイテムで変身することを。

 でもね、実際にその立場になると、人間というものは遠い目になる。
 いや、そう思うのは精神年齢がすでに三十路を越えている私だからかもしれないが。

「服まで変わるとか……想定外だわー……」

 さっきまでは、黒一色のレースとフリル。そしてスカートの丈がかなり長めのゴスロリだ。

 それが……

 今は白色に白いレースのゴスロリ……というか、甘ロリ。
 全体のデザイン自体は、もともとの服を下地としているようなのだが、スカートの丈が圧倒的に短い。
 くるぶし付近くらいまであった長さが、ひざ上なのだ。……確かに、この長さのほうが動きやすいのは認めざるを得ない。

 ちなみに、甘ロリとゴスロリ、厳密的には全然違うもの。

 ゴスロリは基本、黒系ないし暗色系が基本であり、それに白や紫、赤の差し色が入り、ロング袖(ここ重要)である。
 そして全体的な色調も暗い。ちなみに、メイクも本来のゴスロリらしく仕上げるなら、どこの血色悪い人だばりのダークな感じに仕上げねばいけないのだが、私自身はそれが嫌なので普段通りのナチュラルメイクにしているのは余談である。

 甘ロリはゴスロリから、暗い色を省きパステルカラーで明るくふんわりさせたものと思っていい。
 コスプレで見かける「ゴスロリ」はこっちだ。レースやフリルがついたロリ系の衣装すべてをゴスロリと称する人もいるが、それは間違いだし、知らずにそのまま使っている人を見るのは微妙な気分になる。

 さすがに、それまちがってますよ? なんて、空気を読めば言うことは出来ないし。

「……やっぱり、シャドウレディを発想の一部にしたのが原因?」

 だって、変身モノだったし。

 本家と違って、アイシャドウを塗るだけで変身しなかったのは、これを使う私が無意識に制約と誓約をかけていたからだと思う。

 『化粧が完璧に終わるまでは、効果が発動しない』という制約を。

 わかってみれば、なんてことはない。
 服の色が白なのは、アイシャドウのベース色をホワイトパールにしたからだろう。
 使い方さえ間違わなければ、この能力は良いブーストになる。

 というか、さっきから白いモノが周囲を動き回っていてうるさくて仕方ない。
 そう、この白い龍みたいな色の……

 ん……?

 ちょっとまて。
 今視界の端に入った龍。

「なんで、白くなってんの!?」

 私の叫び声に、龍は可愛らしく小首をかしげて「どうしたの?」とでも言いたそうにこちらを見てくねくねと動いている。(もちろん空中を)
 いつもだったら、今の叫び声でビクンッと体を震わせて動きを止めてしまうような小心者の愛玩動物なのにそんな雰囲気は微塵も感じない。

 え、なにこれ。

 言葉もなく龍を見つめていると、ふらふらと近づいて私の左腕の傷口を舐め始めた。
 蛇のような二つに分かれた先をもつ舌が、傷口を舐めて固まっていた血を舐めとっていく。

 地味に痛い。

 せっかく出来たかさぶたが無理やりはがされるようなものだから、血がまた流れ出してくる。
 それでも、龍は舐める。

「ちょっと、あんたが食べるのは鉱石でしょ!? 何、血なんて舐め……」

 血を舐めとった龍は、その赤い宝石がはまった額から光を放った。
 それは、除念の時のまぶしい焼け付くような光とは違って、春先の暖かな太陽の光のような優しい光。
 光が収まると同時に、左腕にずっとあった鈍い痛みが消えた。

「……うそ……」

 斬り傷は、跡形もなく無くなっていた。
 龍は、私の顔をじっと見ている。
 それは「すごいでしょ? ねえ、すごいでしょ??」と言わんばかりにドヤ顔にしか見えなかった。









 あれから1週間と少し経った。

 私は、120階から200階に向かう直通エレベーターの前にいる。
 ぶっちゃけ、200階になんて行きたくなかったというのが本音だったりする。
 お金がもらえなくなるし、戦うことは名誉だなんて思えないし。
 弟子卒業試験がなければここに来ることはほぼなかったと思う。

 私はあくまで中身は小市民一般人ですから。

 下層に向かう、隣のエレベーターの扉が開いた。
 何人もの選手やスタッフが降りてくる。
 このフロアに関係者用のレストランがあるから、たぶん皆そこに行くのだろう。
 自分も軽く食事してきたところだし。

 そういえば、クラヴィスにも残念ドM…もといカストロにも会ってないけど、クラヴィスはともかく、カストロはちゃんとやれてるんだろうか。
 原作だと来年辺りには200階でヒソカと戦わないといけないんだから、そこそこ頑張ってもらわないと。

「お! おねーさん、200階についに行くの?」

 小さな子供の声が背後からした。
 振り向くと、銀色と言うよりは、白色という色合いの髪の猫のような目をした幼い少年が立っていた。

「ええ、そうよ。もう少し早くいけると思ったんだけど、一日の試合数が少なくてね」

 とりあえず、世間話として話を続ける。

「でも、十分早いじゃん。俺超時間かかったんだぜ?」

「あら、ぼうやも200階なの?」

「ボウヤってバカにすんなよ! キルアって名前があるんだからな」

 ……おい、ちょっと待て。
 お前、まだここにいたのかよぉぉぉぉぉぉぉ

「ま、俺はもうこれで帰るけどね。200階まで行ったら帰って来いって言われたし」

「……ふーん。おつかれさま」

 なんで、ここでキルアと会うんだ。
 私の内心と反比例するかのように、自分の顔から表情が消えて行くのがわかる。

「あ、おねーさんのそのひらひらの服がさ、俺のおふくろみたいなんだよね。強い女ってそういうの着たがるのかな? それ聞いてみたくてさー」

「さあ? ……似合っているならいいんじゃないの?」

「仕事の時とかじゃまになると思うんだけどなあ。よくわかんねー」

 そんな会話の後、エレベーターの扉が開いた。

「エレベーター来たね。じゃあね、おねーさん!」

 右手を上げて挨拶するキルアに、無言で手を振ってエレベーターに乗る。

 予想外の出来事だったけど、まあ年表から考えれば今の時期にいてもおかしくないんだよねえ。
 びっくりしすぎて怖いわ。


「スミキ様、200階到達おめでとうございます。ここから武器の使用が認められるようになるので気をつけて下さいね」

「ありがとうございます。でもそんなに変わらないと思うんですけど」

 エレベーター嬢が少し心配そうに私に声をかけてくれた。

 この人、初めに50階に行く時に話をした人だった気がする。
 どおりで乗った際に何も説明がなかったわけだ。
 私がきちんとパンフレットを読んでるってわかってるから、説明を長々としなかったのか。
 たくさんの人がいるはずなのに、よく覚えてたよね。
 職業柄なのかな?

「相手が女性だからって「服だけ」切り刻んで全裸にした選手もいるんですよ。男性の観客や選手は歓声上げてましたけど……」

 ほほう。

 真意はともかく、傷つけずに相手の戦意を喪失させるには悪くない手だ。
 私だって、女性相手だったらできれば傷つけたくないし。

 女性が暴力による肉体的苦痛を受けるのを見るのが好きって輩もある程度の数いるのは知ってる。私が一番嫌いなタイプだから、出来ればそういう肉体苦痛が好きってタイプとは当たりたくない。

 そういえば、私、武器は使ってないんだよなあ。
 何度も言ってるけど、近接攻撃は出来ればしたくないんだ。
 もろに相手へダメージ与えてるってわかるから。

 でも、そう考えると飛び道具系か。
 ここでその問題に当たるとは……。

 弓、銃、投げナイフ、手裏剣……あ、カードも素材によってはいける? 
 カードを武器にするとか、オズワルドのカーネフェルとかMUGENの朔みたいで是非そうしたいところだけど、ヒソカと武器が被るイメージ。

 さすがにあの変態と一緒はなあ……。
 まあ、なにか考えておくことにしよう。

「では、がんばってくださいませ」

 エレベーター嬢の声を背に200階に降り立ち、薄暗い通路を通って受付まで向かう。

 先程からピリピリと肌に刺すような異質な空気を感じる。
 おそらく、新人狙いの下衆が下手に気配を隠しているだけだろうと思う。
 本当の新人なら、この空気も感じないだろうし、逆にバトルジャンキーなら、喜んでしまうだろう。

 しかし、私にとっては気持ち悪いだけである。

 受付で簡単な手続きをして、前の階層での賞金を振り込んでもらう。
 それと、無事、私は四季大会(秋季)の選考に残ったらしく、受付嬢から秋季大会の参加者名簿をもらった。
 参加者は発表されたものの対戦の組み合わせが公表されるのは、大会当日とのことだった。

 大金が動くギャンブルだし、不正行為があっては困るということだろう。

 参加者の名前を見ていく。
 私を含めて、24人。ほとんどが知らない名前だ。
 ……もっとも、TVで放送されるくらい有名選手ばかりのはずなのだが、私が興味が無いのでその辺の情報がサッパリなのだ。

 予想通り、クラヴィスの名前もある。

 ……そして、名簿の最後の名前を見て私は固まってしまった。


 残念ドM……カストロの名前も発見してしまったからだった。 
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