世界の片隅で生きるために
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天空闘技場編
ライバル?
あれから3日。
私は100階フロアにたどり着いていた。
何故か私は一日1戦、多くて2戦しか組まれないので、時間がかかってしまった。
もちろん、全部一撃で気絶させて全勝してるけど。
件の人物に会うこともなく100階までこれたので、これはコレでよかったと言わざるを得ない。
ただ、その残念ドMもそろそろこのフロアに来ると思うので、まだしばらくは油断できないけれど。
そして、四季大会[秋]にも申し込んだ。
受付嬢にとても喜ばれたので「女性参加者は少ないんですか?」と聞いてみた。
――――聞かなければよかった。
女性参加希望者は、私だけ。
女性闘士自体は、私の他にあと数人いるはずなんだけど。
さらに聞けば、自分の試合数が他の人よりも少ない理由もわかった。
どうも、観戦チケットにプレミアがついてしまって入手困難になりつつあるそうだ。
そのために、何度も闘技場に足を運んでほしいために、わざわざ試合数を減らして調整しているとのこと。
女性闘士自体が珍しいから、彼女達のカードの観戦チケットは高いのは知っていたけれど……。
ちょっと予想外だった。
四季大会も問い合わせも、かなりあったらしく「参加は確実でしょう」と太鼓判まで押された。
大会までに200階クラスに移っても参加決定後なら大丈夫とのことだった。
「ねえ、隣の席いいかしら?」
120階にあるレストラン(闘技場のスタッフと選手のための社員食堂みたいなもので、観光客は入れない)でお勧め定食を食べていた私は箸を止めて、声の方を見る。
年齢にして、二十代前半から後半くらい。
金色の長い髪と青みがかった黒い瞳のアオザイのような青い服を着た目が醒めるような美女がそこにいた。
このアオザイという衣装は、ベトナムの民族衣装だけどチャイナドレスの亜種っぽく見える。サイドに両スリットが入ったチャイナドレスに、ゆるい裾のパンツ(ズボン)をあわせたような。生地によってはパーティドレスにもぴったりだったりするけど。
そんな余談はともかくとして、席は他にもあいてるのになんで私に声をかけてきたんだろう?
「別に構わないですけど……他にも席空いてるじゃないですか」
「ああ、貴女と話したかったの。スミキさん」
思っていたよりも、低めのハスキーボイスでそう言うと、彼女は手に持っていたトレイをテーブルに置いた。
「あたしは、クラヴィス。180階クラスよ。
女性選手って少ないでしょ? だから、声かけてみたくなったのよね」
名前を聞いてちょっと吹きそうになった。
元の世界に、アンジェ○ークっていう某無双や野望シリーズで有名なメーカーが出してる乙女ゲームがあったんだけど、それの初期の頃に出てきた闇の守護聖の名前が確かクラヴィス。性別は男性。
でも、目の前の人はどっちかというと同ゲームの夢の守護聖っぽい上に、性別は女性だから、一緒にしたらマズイんだけどさ。
「そうなんですか。今まで、声かけられたことないんでびっくりしました」
「あらそうなの? 有名になってるし、1階の時、えーと……カストロ? だっけ、アレに声かけられてたじゃない」
ナンデスト!?
あれ……見られてたのか、この人に。
「……ああ、あれはノーカウントにしたいです。色んな意味で……」
自意識過剰が引き金になった笑えない自爆。
黒歴史すぎる。
「新人に面白そうな子いないかしらって見に行って、見かけたのよねー。
彼も、イイ線いってるけどちょっと足りないわ。本当、惜しい」
青みがかった黒というか、濃すぎる青というか。
そんな瞳のクラヴィスと名乗った彼女は、クスクス笑いながらパンをちぎる。
「でも、あれってポジティブシンキングを越えた何かですよ?」
「あら。前向きに考えられるっていいことよ? ネガティブになるよりよっぽどいいし」
さすがに、他人に向かって残念ドMと素直に言うのは一応はばかれるので、マイルドな言い方にしてみたけど、私はどっちかというとネガティブになるタイプなので、ポジティブすぎる人が苦手。
だって、絶対相手すると疲れるよ?
明るくて前向きって、見方を変えると空気読めなくて楽観的にしか考えられないということだと思う。悲観すぎるのも悪いけど、なにごともほどほどがいいのだ。
それに相手は一応原作関係者。触れるな危険。
「それにしても、口調固いわねー。もうちょっと砕けた感じで話してくれたらいいのに」
「人見知りする方なので、あまり面識ない人とはこうなります」
そして、クラヴィスに対しては警戒心を解くことがちょっとできない。
彼女、纏がきちんとできてる。全身を覆うオーラに淀みもなくとても綺麗。私よりも上手い。
だから、念能力者の可能性がとても高い。
でも、敵意みたいな嫌な感じはしないので、ほんとに珍しいから声かけてくれたのかもしれないけど。
「そう……残念だわ。
そういえば、スミキさんは四季大会申し込んだの?」
「申込みました」
「じゃあ、あたしと対戦があるかもしれないわね」
あれ?
女性は私だけしか希望出してないって聞いてたけど?
「え? 女性は私しか申し込みしてないって……」
「ん。申し込んだのは、ついさっきだもの」
タイミングがずれたのかな?
一瞬、「ニューハーフ」とか「女装」とか「男の娘」とかいう言葉が頭に浮かんだけど、すぐにそれを打ち消した。
だって、その大きな胸や細いしなやかな指先は、どう見ても女の人だし。
「……悪いけど、優勝はいただくわよ?
貴女は、すでに『知っている人』みたいだから、手加減はしないわ」
スッ…と笑みを消して真顔になると、クラヴィスはそう言った。
それと同時に彼女のオーラが変わった。暖かな優しい日差しのような気配から、鋭く冷たい氷のような気配に。
思わず、背筋に冷や汗が浮かぶ。
「わ、私も、負けられない理由がありますから」
弟子卒業試験がかかっているのだ。
なんとか、あの宝石は手にしなければ。
「うん。良い返事ね。
それじゃ、またね? スミキさん」
いつの間にか食べ終えていた彼女はそのままトレイを持って立ち上がり、返却口の方へと歩いていった。私は、その姿をそのまま見送ることしか出来なかった。
今のままの私では彼女に勝てるかあやしい。
だからと言って、大会に出ないという選択はできない。
念能力を使うにしても、私の能力は闘うことには向かない。
闘いに役に立つ念能力を考えるべきなんだろうか。
すっかり冷め切ってしまった食事を前にしながら、私はため息をついた。
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