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エターナルトラベラー

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第九十二話

 
前書き
今回からfate/zero編になります。いつものように時間移動についてはスルーの方向でお願いします。 

 
さて、聖杯戦争が終わり、あの冬の城へと戻る事を拒否したイリヤのもとに、彼らの差し向けた刺客がそれはもう、ゴキブリの如く来るわ来るわ…

一向に減らない刺客に流石の俺もギブアップ。いちいち相手なんてしてられない。

面倒になったので、陣地作成スキルをフル活用してアインツベルンの森を魔改造。侵入者は決して入って来れないほどの魔窟へと改造しましたよ。

最初からこれをすれば聖杯戦争ではもっと楽が出来たのではないかと思ったが、あれ以上ベターな終わりは期待できなかったから良しとしよう。

魔術教会や聖堂協会への対応はパイプの無い俺達では来た者を排除する他には手は無いが、抗魔力Aを持ち、基本的に魔術の効かないサーヴァントが居るのだからその内諦めるだろう。

一番気を使うのはイリヤが外出する時だが、その時はプライベートには目を瞑って俺が霊体化して付いていく事を了承してもらっている。

そうでなければ、すぐにイリヤは連れ去られてしまうだろう。

聖杯戦争が終わっても現界しているサーヴァントが居ると言うのが逆に危険を高めているが、それでもソレが抑止力になるまでの我慢だ。

イリヤと遠坂凛は馴れ合いはしないが、まともに魔術の話が出来る知人としてそれなりに付き合いが出来ているようだ。

彼女の家系が追い求める第二魔法への足がかりにと割と頻繁に城に来るし、何か広い場所が必要な時などはこの城で実験をしている。

今日も何かの実験をしに凛はこの城に来ていた。

なにやら大掛かりな機材を持ち込んだ凛。

多少危ない事にはなるかもしれないが、いざと言うときに此処が一番被害を軽減できる。イリヤも何かと協力してその実験は開始された。

良く分からないが、それは第二魔法の何かの実験だったのだろう。

万全を期した実験も、なぜか彼女がするとここぞと言うときにポカをする。それは遠坂家に伝わる呪いだとか。

ほんの極小の孔を世界に開ける実験だったらしい。

なるほど、それ自体は俺もやった事がある。しかし、まだ制御が未熟な術式だった為か暴走してしまった。

「ちょっちょちょっ!何よっ…これはどうしたらっ…」

凛の持った宝石で出来た剣が輝き城を閃光で埋め尽くす。

「リン、これはもう…どうにもなら無いレベルね」

何やら諦めてしまっているイリヤ。

「って、諦めちゃだめでしょっ!」

凛が吠える。それはそうだろう。

「チャンピオン何とかしてーっ!」

こらっ凛!お前が何とかしろよ。魔術師ではない俺を頼るな。

「とは言っても、既に無理だな。術式の破壊は出来るが、開いた孔を塞ぐ事は出来ない。頑張って制御してくれ。その間に俺はイリヤを連れて逃げる」

「なっ!待ちなさいよねっ!いいわ、こうなったら道連れよっ」

自棄になった凛はイリヤの方まで走り寄る。

「こっち、来ないでよリンっ!」

「いやーーーーーーっ!」

「こら、最後まで制御を諦めるなっ!」

混乱がその場を支配して、閃光が俺達を包み込むと、孔は掃除機の如く辺りの空気を吸い込み始めた。

か弱い女の足ではその強風に抗うことは出来ずにその孔に吸い込まれる。

「きゃーーーーっ」
「ひぃーーーーっ…」

「っイリヤ」

二人を抱きとめることには成功したが、すでにその孔の吸引力は俺でも抗いづらく、その孔へと俺達は飲まれて消えた。

もう少し保てば孔も消えたのか、それとも中に俺達が入ったことで消えたのか。振り返ったそこにはすでに孔らしい物は存在しなかった。

咄嗟の事だったが、このような事態には悲しい事に慣れている。

周囲の風を操って球状に纏わせて置いた。これでしばらくはこの未知の空間でも生きていられるだろう。

「ここはどこ!?」

イリヤが問うが、さて何処だろうか。なんか見たことが有るような空間だね。…って言うかいつものだね。

「え?世界の境界?もしかして私根源への扉を開いちゃった?」

根源がどんな物か分からないが、多分違うね。

「そんなんじゃ無いと思うよ」

「じゃあ何なのよっ」

「時空間トンネル、ワームホールとかそんな感じの何かだろう。前にも潜った事が何度か有る」

「へ?時空間…それって…第五魔法?」

「時間旅行ね。もしわたし達が無事に生きて現実世界に出られたらそうかもしれないってだけの話だわ」

諦めの境地でイリヤが言う。

「そうね…この空間に出口が有ればの話よね…って、もっと慌てなさいよイリヤスフィール」

「慌てた所で事態は好転しないもの」

「そうかもしれないけれど…」

「ねぇ、チャンピオン。あなたならこの空間から抜け出す事は出来るかしら?以前通ったことがあるのよね?」

イリヤが問いかける。

「まぁ、何度かね」

「その時はどうしたのよ」

凛がようやく落ち着きを取り戻したのか幾分か冷静さを取り戻して聞いた。

「偶々見つけた亀裂に滑り込んだ」

「それで?」

「滑り込んだ先は正に異世界。人間が生きていける環境だった事は幸いしたな。宇宙空間とかだったら流石に死んでいる」

俺の返答を聞いて二人の表情が沈んだ。

「何とかできる?」

何をどうすれば良いのか。しかし…

「何とかせねば成るまい」

そう言うと俺は勇者の道具袋をまず取り出し、そこからリスキーダイスを取り出した。

「それは?」

「サイコロ?そんなものでこの状況がどうにかなる訳っ!?」

「リン、うるさい。チャンピオンが何の理由もなしにただのサイコロなんて出すわけ無いじゃない」

うっ…と押し黙る凛。

俺は魔法で球形のバリアを作り出すと、上部だけを穴を開け、そこへそのリスキーダイスを投げ入れた。

「何の目がでたの?」

「どれどれ、って大吉?大吉ってなによっ!このサイコロバカにしてんじゃないの?目が全部大吉じゃない…あ、いや一面だけ大凶があるわね」

憤りながらサイコロを摘み上げた凛がそう指摘した。

「良かった。運は向いてきたぞ」

「そりゃそうでしょうよ、これだけ大吉が有るのだから大凶が出る方が難しいわよっ」

うがーと吠える凛。

「それでそのサイコロの意味はなんな訳?」

「簡単だ。このサイコロは自分の運気を上げる。大吉を出せば賭け事で負ける事は無いだろうな」

「なっ…それじゃ賭け事なんてボロ勝ちじゃない…それはどんな宝具なのよっ!…ああ、いいえ、そう言う事ね」

「どういう事?リン」

「良い?世界は等価交換なの。このサイコロを振って幸運を味方につけた分だけ、大凶を引いたときの厄災はでかくなるんじゃないかしら。ねぇ?」

「そう言う事だ。大凶が出たときには今までの幸運の分だけの厄災が訪れる。最悪死ぬかもしれないな」

だが、これからやる事に対しては絶大な運が必要だ。

「さて、幸運も味方につけたことだし…やりますか」

「やるって何を?」

右手に待機状態から解除したソルを持ち、カートリッジをロードする。

『ロードカートリッジ』

ガシュガシュガシュとフルロード。

薬きょうが6発排出され、この身に魔力が充実する。

「シルバーアーム・ザ・リッパー」

俺の右手が銀色に輝きソルをも包み込み、全てを切裂く権能を与える。

「チャンピオン、それは?」

「ヌアダの輝く右腕。全てを切裂く権能を俺に与えてくれている」

「なっ!?ヌアダですって?ダーナ神属のっ!?」

凛が自分の常識外の事に驚いて悲鳴を上げた。だが、今はそれに構っている暇は無い。

さらに俺はソルに自分の因果を操る能力を付加し、即席に時空間を切り裂く神剣を作り上げた。

「それでどうするの?」

「全てを切裂く能力に、時間の概念を付加させた。今のこれなら時空間を裂く事も可能だろう」

「なっ!?」

凛の驚きの声はもう聞き飽きた。とりあえず今はそれよりも…

「二人とも、俺にしっかり捉っていろ。空間を切裂いて脱出するよ」

「う、うん」

イリヤは直ぐに掴った。

「で、でも切裂いた先が人が生きていける世界だと言う保障は無いのよね?」

「そこでさっきのサイコロだ。運がよければ人が住める世界に出るだろう」

「運って…あー、もうっ!今はそれしか無いわね」

そう言った凛はようやく踏ん切りをつけたようだ。

二人が俺に掴った事を確認すると俺は右手を垂直に振り下ろし、この空間を切裂いた。

切られた空間は俺達を放り出すとすぐさま癒着し、消えてなくなる。

放り出された俺達は石造りの床の上に着地した。

イリヤと凛が離れたところで俺は大量の魔力行使の反動で膝を着く。

「くっ…」

「大丈夫?チャンピオン」

「大丈夫だ。問題は無いよ」

ソルを腰の鞘へと戻すと辺りを確認する。

その間もソルが環境データを観測し、この風の結界を解いても俺達が生存可能かどうか調べ上げる。

結論は可。それを聞いてようやく俺は風の結界を解除した。

「ここは…イリヤスフィールの城?」

辺りの視界に映った物を見た凛が言った。

「え?あ、本当だ…でも、少しちがう?」

イリヤも確認するが、どうやら此処は先ほどまで居た場所と造りが似ている。が、しかし、良く見れば調度品の類の相異が目に付く。

「少し、調べてみよう」

と俺は提案し、不慮の事態を避けるために皆一緒に行動する。

まずはエントランスを出て外へ。それからもう一度中に入り内部を捜索する。

やはり似ているが、先ほどまで居た城ではない。生活感が欠けている。

しかし、どうやらここはアインツベルンの聖杯戦争における居城で間違いないようだ。

日付を確認できるようなものはこの城には無かった為に日の高いうちに森を出てみる事にしたが、この城から一番近い国道へと出たのは良いが、こんな僻地にはあまり車は通らない。

「冬木市へ行こうにもタクシーは愚か車一台通らないってどういう事よっ!」

うがーと吠える凛。何かに当たりたいだけだろう。

「もう直ぐ日が暮れるわ。そうなったらチャンピオンに運んでもらいましょう」

「運んでもらうってどうやってよ…」

「ふふっ…リン、楽しみにしておきなさい。めったに出来ない経験をさせてあげるわ」

と俺よりもイリヤが優越感に浸っているのは何故だろうか…まぁマスターだから良いのだけれど…

日が落ちるまで結局車一台通らず、辺りは暗闇に包まれたころ、俺達は闇夜を舞っていた。

「チャンピオン、もっとスピードあげなさいっ」

「はいはい」

お嬢様のリクエストに応えて翼をはためかせると、夜風を切裂き飛行する銀の竜。

ドラゴンに変身した俺だ。

変身した俺に二人を乗せて冬木市の郊外へと向かっているわけだが、背中に乗っているはずの凛の反応が無い。

「…………」

「どうしたの?リン。呆けちゃって…おーい、リン?聞いてる」

「…………」

イリヤ反応を返さない凛の目の前にひらひら手を振っている。

「ダメね、完全に頭のネジが飛んじゃったわ」

彼女達魔術師の常識で考えれば最強の幻想種であるドラゴンの背に乗っているのだ。さもありなん。

結局冬木外延部の工業地帯へと降りるまで彼女が再起動する事は無かった。

「はっ…夢ね、私は今夢を見ていたのよ…いえ、でも世界を越えたのは事実のはず…って事はさっきのは現実っ!?」

ようやく再起動した凛の提案で二手に分かれて街の調査へと乗り出した。

俺とイリヤはシーサイドを歩きながら冬木市の新都へと向かう。凛は逆に自宅がある高台の方へと向かうらしい。

新都へと入った俺達は、割と簡単に現状を確認する事が出来た。確認した日付はおおよそ10年前。地名や番地は変わらずにどうやらここは冬木市で間違いないようだった。

一番必要な情報を手に入れた俺達は更に差異が無いか調べようと散策する。

しかし、イリヤの様子がおかしい事に気がついた。

なにかそわそわしている、そんな感じだ。

「イリヤ?」

と、声を掛けた時、イリヤは何かを見つけたのか固まってしまった。

イリヤの視線の先に目を向けると、そこには白い髪に紅い目をした丸で白い妖精のような女性が黒いスーツを着た麗人を引き連れている。

その白い髪の女性はどことなくイリヤに似ていた。

その彼女が此方へと歩を進める。向こうはこちらに気がついて無いのだから、ただの偶然だろう。

「チャンピオン…霊体化して出来るだけ気配を絶って…」

「え?」

「お願い…」

イリヤにお願いされれば逆らい辛い。すぐに俺は霊体化する。

歩いてきた女性がイリヤの存在に気がついたように彼女を見つめた。

「…なぜ、こんな所にアインツベルンのホムンクルスが…」

そんな事を呟いてその白い女性はイリヤに近寄った。

「アイリスフィールっ」

後ろの黒いスーツの麗人が制止の声を掛けるが彼女…アイリスフィールと呼ばれた彼女は止らなかった。

て言うか、アレってセイバーじゃない?

え?どういう事?

「当主から何か言伝を預かってきたのかしら?」

フルフルとイリヤは首を振る。

「そう。それじゃあ何の用なのかしら?」

イリヤは答えない。ただその瞳に涙を浮かべている。

「どうしたのかしら…ホムンクルスにしては感情が激しい子ね…と言うか、子供のホムンクルスなんて居たかしら?」

イリヤは感極まったのか、アイリスフィールと呼ばれた彼女に抱きつき、無言で泣いていた。

懐かしいだれかに出会ったとでも言うように、亡くした誰かに出会ったとでも言うように…

これだけ考えればおのずと彼女が何者なのか見えてくる。

おそらく彼女はイリヤの母親だ。死別した母に似た存在にイリヤは感極まってしまったのだろう。

小さく嗚咽を洩らすイリヤをアイリスフィールはその背をポンポンと叩いて慰めていた。

その光景を後ろでセイバーがおろおろと見つめているが、イリヤにしてみればセイバーなど眼中にも無いのだろう。

ようやく泣き止んだイリヤに向かってアイリスフィールが優しく問いかける。

「あなたのお名前はなんて言うの?」

イリヤはその質問に一瞬詰まってからか細い声で答えた。

「…アリア」

「そう、アリアね。アリアはアインツベルンのホムンクルスで間違いないかしら」

コクリと頷くイリヤ。

「そう、それじゃどうしてあなたはこんな所に居るの?」

「…わからない。気がついたらここに居たの」

「気がついたらって…」

うん、嘘は言って無い。確かに気がついたらこの時代に居たといっても良い。

「アイリスフィール、その子をどうするのですか?このままでは戦闘に巻き込んでしまう。それに第一、その子がアインツベルンのホムンクルスであると言う証拠は無い」

セイバーはそう客観的な見地から物を言う。

「そうね。でもこの子はアインツベルンのホムンクルスよ。だって、こんなにも私に似ているのだから」

彼女にしか分からない何かでも有るのだろうか。彼女は確証を得ているようだった。

「それで、その子をどうするのですか?アイリスフィール」

「そうね…このまま此処に置いてはおけないわ」

「なっ…連れて行くというのですか!?流石の私も二人では守りきれるかどうか」

「安全な所…冬木の城まで連れて行けば大丈夫よ」

「アイリスフィールがそう言うのなら…しかし、今はタイミングが悪い」

セイバーはふっと視線をあらぬ方向へ向けた。

「これは明らかにこちらを挑発している」

「そう。サーヴァントなのね」

「どうします?アイリスフィール」

この挑発を受けるのか、受けないのか。イリヤを連れて行くのか、行かないのか。

「それは…」

「わたしの事は気にしないで大丈夫。二人には大事な用が有るのでしょう」

と聞き分けの良い子供のようにイリヤは言った。

一瞬逡巡したアイリスフィールだが、連れて行くのは危険だと判断したのだろう。

「ここで待ってて。かならず戻ってくるから」

と言い置くと、セイバーを連れて去っていった。

それを確認してから俺は実体化する。

「イリヤ、彼女は…」

「うん、わたしのお母様。十年前の聖杯戦争で死んじゃった」

「そうか…」

少しの間沈黙が支配する。

「だが、イリヤのお母さんが生きていて、尚且つセイバーを引き連れているとなると…」

「そうね、おそらく今は聖杯戦争中…チャンピオン、ここからお母様たちを覗ける?」

「多少イリヤから大目に魔力を貰う事になるよ」

「構わないわ」

と了承を得た俺はサーチャーを幾つか飛ばしていく。

物陰に隠れるようにして虚空にウィンドウを開き、移された映像を眺める。

「いつも思うけど、チャンピオンのこういうのって魔術と言うより科学よね」

「まぁ確かにどちらかと言えば科学だよ。ただ、体で生成するエネルギーを使うと言う点では魔術や魔法と言う分類になるのだろうけどね」

さて、無駄口もそこまでだ。

モニタに映る映像に集中する。

すると、やはり聖杯戦争のようで、セイバーがランサーとぶつかっていた。

二本の槍を操るランサーと見えない剣を操るセイバー。

「セイバーってそう言えばアーサー王なのよね」

「そうだね。エクスカリバーを持っていると言う伝説がアーサー王以外に無ければね」

「無いはずよ」

二人の戦いはランサーが宝具を開帳してからはランサー優位に動く。

互いに次が必殺かと思われた時、爆音を上げて乱入する何か。

それは粉塵を巻き上げ、雷光を蹴って飛来した牡牛が引く戦車だった。

その上には大柄の男と、ひょろくてモヤシのような少年が乗っていた。

「………あれ?なんか自分で真名名乗ってるけど?」

「余程自分に自身があるのね。まぁ彼の征服王イスカンダルともあろう者なら当然でしょうけれど」

ランサーはセイバーに宝具を言い当てられ、ケルト神話のディルムットである事も知れている。

これだけ序盤で真名がバレバレって聖杯戦争の基本ルールはまるっと無視ですか…まぁ関係ないから別に良いけど。

さらにライダーが大声を張り上げ、辺りに居たサーヴァントを呼び寄せる。

現れたのはアーチャー…あの姿は忘れもしないギルガメッシュだ。

聖杯の泥を被って性格が捻じ曲がったのだとばかり思っていたのだが、元からあんな性格だったのか…

更にその場に現れる黒いサーヴァント…バーサーカー。

一挙に5騎のサーヴァントが集った事になる。

もはや戦いは二転三転、荒れに荒れた。

バーサーカーがギルガメッシュと交戦し、ギルガメッシュが撤退。その後セイバーに襲い掛かるバーサーカーと、それに共闘してセイバーを倒そうとするランサー。バーサーカーをその戦車で押しつぶして退場させるライダーと混沌の戦いは、互いに引いた事も有り、実際は一騎も欠けることなく終了した。

「アイリスフィールが帰って来るぞ。どうするんだ?」

「リンとの待ち合わせも有るし、行きましょうチャンピオン」

「良いのか?」

「いいのよ…」

イリヤは少し寂しそうに呟くとその場を俺と共に去った。



「セイバー、そっちには居た?」

「いいえ、居ません、アイリスフィール」

夜の街を外国人の女性が二人、何かを探して走り回っている。

「何処に行ったのかしら…」

「分かりませんが、あれはアインハルトの長の使いの可能性が高いのでしょう?ならば自身のマスターの所へ戻ったと考えた方が自然でしょう」

「そうかしら…」

「それに、ここでは外国人は目立つ。それなのにこれと言った情報を得られなかったと言う事は自ら去ったと言う可能性が高い」

説得するセイバーだが、それは詭弁。聖杯戦争中の彼女達には雑事にかまけている暇は無いのだ。

今は一刻も早く自分のセーフハウスへと移動するべき時である。

それをアイリスフィールも分かっているのでそろそろ捜索を打ち切る頃合だった。

「そうね…きっと戻ったわよねアリアは」

「はい、きっと」

と見つからない事に言い訳をして彼女達はアインツベルンの居城を目指した。



大橋の近くの公園は閑散としていて、人の目が先ず無い。

凛との待ち合わせ場所へと移動した俺達は先に来ていた凛に遅いと怒られながらも合流する。

どうやら凛の方は30分ほど先に来ていたようだ。

「先ずは此処が何処かの確認をしましょう。あなた達も簡単に調べは付いたかと思うけれど、ここはどうやら十年前の冬木市。それは分かるわね」

コクリと頷く。

「そしてこれが重要なのだけれど、日付を確認するとどうやら今は聖杯戦争中のようよ。私の過去と一緒ならと言う事だけれどね」

「それはわたしも確認したわ。行き成り五騎のサーヴァントがかち合うなんて、私達の時では考えられないわ」

「は?ちょっと待ってイリヤスフィール。それは見てきたような口ぶりね」

「見てきたもの。しかも真名を3人もわかっちゃったし、この聖杯戦争は何処か変」

「…まあその話は後で聞くとして、今重要なのは私達はいわゆるタイムスリップしたと言う事かしら」

「そうみたいね」

「そして帰る手段が無い…」

沈黙が訪れる。

「まぁ、今までの経験上、結構帰る手段は存在するよ。大丈夫だ」

と、俺があっけらかんと言ってのけると凛が激昂した。

「そんな訳有るかっ!これはもう魔法の域なのっ!時間旅行っ!、第五の詳細は全く分からないけれど、私達じゃ到底帰る事なんて無理なのっ!」

「そうか。ならばこの世界でどうやって生きていくかを考える方が建設的だな」

「あっ…うっ…」

アノ世界に未練があるからこそ凛は怒ったのだ。そして意図してこの世界の事を考えないようにもしていたの有ろう。

しかし、今の状況はソレを許さない。

「聖杯戦争も始まっている。アレが俺達の居た未来と同じく汚染されているのなら、きっと災厄を撒き散らすのだろうな。…とは言え、過去は過去。十年前の火災は起こるだろうが、それは最悪と言う展開には程遠いだろう」

「…いいえ、そうとは限らないわ。未来は変化する物よ。私達の未来がそうだったからと言って、過去であるこの世界がそう言う結末を辿るとは限らない。いいえ、聖杯が汚染されていないと言う可能性すらある。平行世界と過去への介入は似ているものよ」

「つまり、俺達が此処でどう動こうが、俺達が居た未来は変化がなく、またこの世界がどうなるのかは分からないと?」

「ええ、そう言う事」

「と言う事は、この世界の知人は似ているが非なる存在。この過去の聖杯戦争に積極的に関わるつもりが無いのなら今日中に他の市へと移動した方が良さそうだ。気配を消しては居るが、俺はサーヴァントでイリヤはマスターだ。と言う事は、聖杯を手に入れる権利が発生している」

「つまりチャンピオンはわたし達も狙われるかもしれないって言っているの?」

イリヤがそう聞いた。

「ああ。それと、イリヤ。イリヤの負担は減っているか?聖杯戦争中は聖杯からのバックアップがあるから現界させる魔力も少なくてよかったが、終わった今は違う。10年前のこの地に居る事で聖杯のバックアップは得られたか否か」

「……ううん、無いわ。これは私達が今回の聖杯戦争に選ばれたマスターとサーヴァントじゃ無いからかもね」

「と言う事は戦闘はなるべく避けたい。戦っても簡単に負ける気は無いが、俺は魔力消費が激しいという弱点が存在する。聖杯のバックアップがあればまだ無理も出来るが…」

「聖杯の援護無しではイリヤスフィールの負担が大きくなる。最悪現界させるための魔力すら使い切ってしまうかもしれないと言う事ね」

と凛が纏めた。

過去は変えられない。変えられた過去は既に別の世界なのだ。つまり干渉する必要性すら感じない。

しかし、人間はそうと頭では理解しようと心は別だ。

「まだ、もう少しこの街に居たい…ねえチャンピオン、ダメかな…」

「私も、ちょっともう少しこの聖杯戦争を見なくちゃいけないと思うわ…」

その言葉には彼女達のどんな思惑が隠れているのか…

「俺はイリヤのサーヴァントだ、マスターの指示には従う。イリヤがこの街にまだ居ると言うのなら、最大限イリヤを守るだけだ」

「ごめんなさい、チャンピオン」

彼女達は自分でも危険だと言う事は理解しているのだ、だが過去のしがらみがイリヤをそして凛を此処に縛り付けたのだ。

「いいよ。それよりも、今日は何処に泊まるつもりだ?聖杯戦争にアインツベルンのマスターが参加するならばあの城は使えないだろう」

「お金の持ち合わせなら少しあるけれど、それは使えないわよね…」

「そりゃそうだろう」

凛が持ち合わせは多少有ると言うが、未来の貨幣は使えないだろう。

「仕方ない。衛宮くんの家に行きましょう。あそこなら雨風は凌げるだろうし、今の段階じゃ無人だったのは確かめてあるわ」

凛に先導され、特に異論は無いので衛宮邸へと移動する。

門を潜ると草がぼうぼうに生えまくり、手入れのされていない家は傷んでいたが、確かに雨風は防げそうだ。

しかし、寝具の一組も無いのはいかんし難い。

しょうがないので勇者の道具袋を取り出し、その中から神々の箱庭を取り出した。

「チャンピオン、これは?」

「俺の別荘」

「これが?このボトルシップみたいなミニチュアが別荘?」

「まあね、イリヤ、そこに立ってくれ、凛も」

「ここ?」

「え、ええ」

俺に言われてイリヤと凛が所定位置に付くと、俺は手をかざし、中へと移動するボタンを押した。

一瞬で俺達は箱庭の中に転移される。

「なっ!なによ、ここっ!」

「綺麗な所ね」

驚く凛とは対照的にイリヤはそう言うものと受け入れたようだった。

中に入ると、時間の流れを弄り、外の世界と進行を同調させる。

外へと通じる転送陣から少し移動すると、武家屋敷風の大きな一軒屋が見えてくる。

時間の流れを極限に遅く停滞させていたので、その別荘に劣化は無い。

「今日は此処に泊まろう。生活用具一式は揃っている…所々使い方の分からない物も有ると思うが、そう言う物は触らない事」

何だかんだで他の世界で収拾した物で溢れかえっていたりもするからね。

未来の技術で作られた物品もあり、現代人じゃ使い方の分からない物も多数存在したのだ。

「露天風呂もあるから、凛と一緒に入ってくるといい。その間に夕食を準備しよう」

「え?ロテンブロって日本の外にある大きなバスタブの事よね?」

「その認識はどうなのだろうか…まぁいい、バスタオルは用意しておく。言っておいで」

「うん。行きましょうリン」

「え?ああ、うん…」

ようやく現実と受け止めたのか凛もイリヤに付いて露天風呂へと向かった。

風呂から上がってきたイリヤ達をありあわせの夕食で迎える。

普通の日本の一般家庭の夕食だ。

そう突飛な物は出していない。

「おいしいわ。さすがチャンピオンね」

「…まけた。けど、納得がいかない。サーヴァントがどうしてこんなに料理がうまいのよ…」

「料理なんてこなせば上達する物だ。俺は他人より多く時間を持っているからね。古今東西の料理を練習する時間には事欠かなかったんだ」

凛を凹ませた夕食も終わり、今日のところはとさっさと就寝する事にした。あの事故以来、結構めまぐるしいく変化した一日で、ストレスも相当だったのだろう。二人ともベッドに入るや否や直ぐに就寝してしまった。
 
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