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フィガロの結婚

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49部分:第四幕その十三


第四幕その十三

「そういうことか」
「そういうことだよ。じゃあね」
「うん、じっくり見させてもらうよ」
「そうしなさい。じゃあね」
「うん」
 自分の隣に来た母を笑顔で迎える。そして最後の一人、彼女は夫人の服を着ていた。
「遂に出て来たな」
「まさかとは思ったが」
「あの方が」
 皆その服を見ただけで判断を下した。
「これはもう決まったな」
「詰んだ」
 こう言うのだった。そのうえで状況を見守る。
 伯爵は勢い付いていた。そのうえでさらに言葉を続けてきた。
「さて、ここにいるのは不実の女だ」
「それはどうでしょうか」
 その中で一人マルチェリーナが呟いていた。
「どうなるか。見ものだけれど」
「お許し下さい」
 夫人の服を着た女性が必死に許しをこうてきた。
「どうかここは」
「いや、ならん」
 しかし伯爵はその許しを許そうとはしない。
「ならんぞ。覚悟するのだ」
「どうか伯爵様、ここは」
「お許しになって下さい」
 周りの者達が彼に許しを願い出てきた。
「どうかここは」
「お慈悲を」
「命は取らん」
 その証拠かやはり剣は持っていない。
「だが。許しはせん」
「伯爵様」
 今度ハスザンナの服を着た女性が許しをこうてきた。
「どうかここは」
「お許しになって下さい」
「そなたの申し出でもだ」
 まだ気付いていない伯爵だった。
「ならんぞ。決してな」
「私の申し出でもですか?」
 ここで彼女は声を変えたのだった。
「それでも。なりませんか」
「おやっ!?」
「この声は」
 ここでフィガロとマルチェリーナの他の全ての者が気付いた。
「スザンナではないな」
「うむ、この声は」
「まさかとは思うが」
 伯爵もこの声で気付いた。今スザンナの服を着ているのは。
「スザンナではなく」
「はい、私です」
 やはり夫人だった。ここでにこやかに応えてきたのだった。
「私からも御願いです」
「何故そなたが」
「この人達の為に私からも」
「何ということだ」
「というかどうなっているのだ?」
 周りの者達は首を捻ってそれぞれ言う。
「スザンナの服を着ておられる」
「何がもう何だか」
「ううん、わからん」
「それではだ」
 伯爵は夫人の服を着ている女性に顔を向けた。スザンナの服を着ているのが夫人だとすれば彼女は。少し考えて誰かわかった。
「そなたは」
「はい、私です」
 スザンナの声だった。
「どうも。伯爵様」
「何ということだ」
 全てを察した伯爵は思いきり溜息をついた。
「私は。全て」
「伯爵様、それよりも」
 マルチェリーナが彼に言ってきた。
 
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