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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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Mission Kiritsugu Ⅱ

 
前書き
目が、目があああああああああああ。詳しくはつぶやきの「目が痛い」 

 
 空高く、異国の夜空を飛ぶ物体があった。運用ステルス機。爆撃を行うシステムを全て捨て、多少のスペースを取ることに特化した、今回きりの使い捨てのステルス機。ただし、中の環境はISのコアを使い、地上とほぼ変わらないように保たれている。多少鍛えてあれば酸素ボンベが無くても酸欠にはならない。
 追跡を警戒してスコール達は一旦散会し、⒑キロ程度距離を取った地点でそれに乗り、完全に行方をくらました。上空三万フィートを飛ぶ空の怪物は、残念ながら爆撃でもしない限り、レーダーに掠りもしない。結果、彼女たちは束の間の休息を取れていた。
 その怪物の中には5名の乗組員と三名の客が居た。スコール・ミューゼット、オータム、エム。その三人が客だ。荷物は別室にある。織斑千冬は縛られ、衛宮切嗣の四肢は断ち切られ、部屋の隅に転がっている。
 「なあスコール」
 「何かしら?」
 「衛宮切嗣の事だけど、あそこまで警戒する必要は無いんじゃないか?」
 少しうんざりしたように言う。四肢の切断は彼女がやる羽目になったのだから、その苦情はもっともだ。
 「こうしてアイツのISは奪っておいたんだから別に良いだろ」
 その手の中には銀色に輝くアクセサリーがあった。切嗣の腕に巻かれていた二羽の鳥。多少血に濡れていたが、間違いなく彼が身に着けていたものだった。
 「一応最善は尽くしておくべきでしょ?貴女やエムはその辺りが抜けているのよ」
 グラスに注がれたミネラルウォーターをあおる。
 「しかし、驚いたものね。彼のIS装備がハンドガンだけなんて」
 「それホントか?」
 「まあ、あの形状から言って、ほぼ間違いないでしょう。どちらにせよ、あれ以上の装備は彼自身が持てないでしょう」
 断言するスコール。実際その見立ては正しかった。データ干渉のレーザー砲も、単に持てないためにあるようなものだ。実際の所、あの攻撃法は非情にエネルギー効率が非常に悪い。他に手段があるなら彼も考え直したかもしれない。中々使わなかったのは、切り札であると同時に使うに使えないという現実があったからだ。それを知ってか知らずか、彼女はオータムを見ながら饒舌に喋る。
 「安心なさい。帰ったらまず一緒に食事をしましょうね」
 「……!ああ、そうだな」
 嬉しそうに微笑み返す。それが、彼女が最後に見た、オータムの笑顔だった。もの凄い轟音が響いた。
 「え……?」
 笑顔のまま、自分に何が起きたか解らないままオータムは崩れ落ちた。胸に紅い染みが広がっていく。
 「オータム?」
 「安心しろ」
 関を切ったように溢れ出す血がスコールに降りかかる。崩れ落ちるのと入れ替わりに、背後に男の姿が目に入った。らしくない姿をした、
 「殺されてまで、食事の心配をする必要はないだろう」
 死神の姿を……
 「衛宮!貴様、なぜ!?」
 四肢は切断した筈だ。なぜ、今見ているお前は五体満足でいる?そう言う目をしていた。
 「学習しないな。足の再生はお前も見た筈だろう」
 「見た。確かに見た。だからこそ貴方のISはここに……」
 そう言うと、オータムが握っている銀のアクセサリーを見やった。そこには確かに彼が持っていた銀の鳥があった。再生能力は知っていた。だからこそ、その発生源たるISを奪った。だが、いつ、誰が、
 


 「いつ、誰が、これをISだと言った?」



 「本物はこっちだ」
 そう言うと、彼は右腕を突き出した。その甲には紅い十字架が切られていた。いや、剣か?
 「剣?」
 「ああ。これは契約の証であり、僕の烙印だ。人類の救済を掲げた、最後の流血を祈った証であり、全てを裏切った烙印だ」
 淡々と答える切嗣。その眼には何も映っていない。いや、曇っているだけだ。もう誰も、傷つく姿は見たくない。だから殺す。なにも映さないのでは無い。何時の頃か、人を直視できなくなってしまった。そうでもしなければ、進めなかった。いや、生きることが出来なかった。
 だが、
 「侮るな」
 確かに彼は弱い人間かも知れない。寓話の主人公からは程遠い主役かもしれない。だが、そんな弱い人間が必死に生きる事、それ自体が強さではないか?今から彼女が、スコールが挑むのは、衛宮切嗣という、魔法のような人間だ。
 「なぜ態々捕まってやったと思う?」
 戦いを引き延ばすだけでは、終わらせる事は出来るが幕を引くことが出来ない。なら、その一手先を行けばいいだけの話だ。
 「くそっ」
 舌を打ちながらも、ISを部分展開させる。だが、
 「勝てると思っているのか?閉鎖空間でも、僕はこの力を全力で使える。だが、お前がISを完全に展開すれば確実にこのステルス機は墜ちるぞ」
 それが全てだった。相手に全力を出させない。絶対に勝てる状況を作り出す。それが彼の必勝法。今、逃げ切るためにステルス機を失えないスコールに、ISを展開させるという選択肢は無い。やれるとすれば、せいぜいが嫌がらせをすることくらいか。
 「最後に聞いておく。黒幕は誰だ?」
 「絶対に言わない。言うものですか!」
 予想通りの答えを聞き、眉ひとつ動かさず彼は引き金を引いた。
 コンテンダーから銃弾が飛び出す。それは一秒とかからず彼女の心臓に突き刺さった。重心がずれたその体は、一度地面にバウンドすると、二度と動かなくなった。
 「終わったか……」
 そう言うと、彼はその部屋を出て行き、ドアの外に投げておいた少女を抱え上げた。エムと呼ばれた少女。その顔に爪を立て、思いっきり剥いだ。大人しそうな顔のマスクが剥され、一気にその素顔が露わになった。
 「一体、どういう事だ……?」
 こんな物を見なければ、彼自身ここまでリスキーな行動はとらなかった筈だ。だが、戦いの途中、見せられた。その素顔を。それを見た瞬間、彼は計画を変えた。動揺した振りをし、エムのレーザーに焼かれ、四肢を切らした上で、最終的に彼が一番必要なモノを手に入れた。
 「終わったか?」
 その時、声が掛かった。そこには多少血の気は失せたが、特に目立った外傷は特にない千冬が立っていた。スコールに髪を切られたせいで、一瞬誰か解らなかったが、その雰囲気までは変わっていなかった。
 「ええ。そちらは?」
 「乗組員は操縦士を一人残して全員気絶させておいた。不時着するには問題ないだろうが、操縦は厳しいだろうな」
 「ステルス機は見た事が無いのでその辺りはお任せします。それよりこれを」
 そう言うと彼は抱えていた少女の顔を千冬に見せた。暗がりのせいで確認するのに手間は掛かったが、確認するや否や、彼女の鉄仮面が崩れた。
 「これは……」
 「ご存じなかったのですか?」
 「いや、正直な話、これには驚いた」
 ならば、千冬に尋ねるのは無駄だと見切りをつける。心当たりはあるようだが、それ以上は無い。そうだとするならこれ以上、この場で時間を使うべきでない。ステルス機が不時着し、その地元の公機関が駆け付けるまでそう時間は無い。他にすべき事が他にある。千冬にそのことを話した上で今後の処理方針を決める。
 「……まず、このエムと言う少女の扱いですが、隠しましょうか?」
 「……そうだな。下手に耳目を集めるのはまずい。手段は?」
 「それはこちらで」
 「では次に――」
 切嗣が何かを言おうとした瞬間、何か嫌な音が艦内に響いた。
 「……なあ、衛宮?ステルス機って、不時着できるのか?」
 「……さあ?」
 「奇遇だな。私も知らん」
 嫌な沈黙が続いた。この感覚は、恋人同士が仲睦まじく喋っている時に、偶々突入してしまった、アレだ。いや、もっと気まずい何かだった。お互いに知りたくない何かを知ってしまったような、あの雰囲気だ。


 …………………


 「なんで知らないのに自信満々なんだアンタ!?」
 「私も知るか!?あのパイロット『バッチリ不時着できますよ』って、良い笑顔で言い切ってたぞ!?」
 「それ絶対に道連れにする気だろ!?」
 掴まれれば、国にもよるがほぼ死刑か終身刑確定なのだ。それを視野に入れて実行するだろう。
 どうする?そうこう考えているうちにも機体の高度はドンドン下がっていた。さっきから凄い音量でアラームが鳴っている。
 「いや待て!お前たしかIS持ってるだろ!?それで飛び降りて飛べば――」
 「このISに飛行能力は無い!」
 「ド畜生!!」

 高度3000フィート
 「大体お前が作戦を事前に話してくれれば!」
 「無茶言わないでください!僕だって即興で考えたんですよ!」

 高度2500フィート
 「すると何か!?貴様はその場で考えた作戦に人を付き合わせたのか!?」
 「それが一番効率良かったんですよ!それを悪辣となじるなら大いに結構!正義で世界は――」
 「待て!そのセリフはここで使うのは何か致命的に間違っている気がする!」
 
 高度2000フィート
 「少し冷静になろう。私たちはまず冷静になる必要がある」
 「それには賛成です。ではまず……」
 「ああ。遺書を書こう」

 高度1000フィート
 「しまった!紙媒体では遺書が残せない!」
 「そもそも何か残るんですか!?」
 今になって漸く冷静に戻る二人であった。
 「本当にどうするんですか!?さっきから警告のランプが真っ赤になっているのですが!」
 「遺書なんか書くんじゃなかった……」
 『愛する一夏へ』という文字が悲しく滲んでいた。
 「その後悔は助かった後に言って下さい!さあ行きますよ!」
 「行くって、どこへ?」
 もう達観したように言葉を紡ぐ千冬。
 「壁をぶち破って脱出する!一応これもISだ。多分きっとどうにかなる筈!………多分」
 「はあ……もうどうにでもなれ」
 そう言うと、二人は普段は地上で開け閉めするためのハッチに向かっていった。ドアを蹴破り脱出するための経路を確保する。片手にはエムがきちんと抱かれている。
 「僕のカウントに合わせて飛び降りますよ」
 「ああ、解った」

 足がすくむが、必死に現実を見る。

 右手にしっかり千冬の手を握り、左手にはエムを抱える。

 ISが起動している事を最後に確認して

 お互いの顔を見て

 「ああ、帰ったら、うんと一夏を甘やかすんだ……」
 「僕はね、正義の味方に為りたいんだ」

 

 最後に死亡フラグを立てやがった。



 結果的に言うなら、切嗣の作戦は成功した。当面の敵は排除し、手に入れなければならないものは手に入れた。
 しかし、落下する最中、彼はある疑問を抱いていた。
 (アイツは最後に黒幕の存在を否定しなかった。言い換えれば、アレは所詮尻尾に過ぎないという事か。しかも、今回の計画の杜撰さを考慮するなら、どう考えても使い捨ての駒扱いだ。仮にも秘密結社の首領を?)
 有り得ない。彼がなりふり構わず対策すれば、全て潰す事の出来た程度の計画。それを自信満々で実行するとすれば、余程の馬鹿か使い捨ての末端か。
 (だとすれば、直ぐでも第二第三の攻撃が……)
だが即座に否定する。一番効果的なのは、熱さが過ぎ去った直後を叩くことだ。時間的には多少の余裕はあるだろうと判断する。
 なら、一番に対処すべきは……… 
 

 
後書き
  
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