フィガロの結婚
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47部分:第四幕その十一
第四幕その十一
「わからなかったみたいね。よかったわ」
「んっ、そういえばだ」
フィガロはここでスザンナの服をまた見た。
「その服全部奥方様のものだな。似てると思っていただけだったがな」
「そうよ。服取り替えたのよ」
ここぞとばかりに得意げに笑って服を見せ付けるスザンナだった。
「この時の為にね」
「そうだったの」
「むむっ」
伯爵は二人の言葉に気付いた。そうして声をあげたのだった。
「おのれ、そこにいるのは」
「んっ!?」
「まさか」
「フィガロ、何をしておるか」
二人の方に顔を向けて怒った声をあげた。
「そこにいるのは奥ではないか。何をしておる」
「ほら、まだわかっていないわね」
「そりゃわかるものか」
スザンナはまた得意げに笑ってフィガロに言ってきた。フィガロもそれに応える。
「わしでもわからなかったのに」
「わからないようにしたのよ」
スザンナはいよいよ得意げになる。
「こっちもね」
「まあそうだろうな」
「さて、それじゃあ」
「うん」
「フィガロ」
「奥方様」
それぞれ演技に入るのだった。伯爵には気付いていないふりをして。
「今夜は二人だけよ」
「はい」
わざと熱い言葉を言い合いだした。
「後はどうしようかしら」
「そうですね。二人で小屋にでも」
「小屋だと」
この言葉で伯爵はいよいよ激昂しだした。
「許さん、許さんぞ」
「いい具合に乗って来られたわ」
「そうだな。後は」
「誰かいるか!」
伯爵は怒りの声で周囲に問い掛けだした。
「いるか。いるなら出て来るのだ!」
「なっ、あの人!」
「いかん!」
二人はここでも演技をする。やはり伯爵にはそれがわからない。
スザンナはすぐに小屋に隠れフィガロはその場に立ち往生となる。その間にも伯爵は周囲に呼び掛け続けるのだった。何があるとも知らず。
「早く出て来るのだ、早く」
「何だ!?」
「といってもフィガロの声ではない」
「伯爵様の声ではないか」
バルトロ、バジーリオ、アントーニオ、クルツィオが一斉に茂みから出て来て言った。
「何がどうなっているのだ?」
「訳がわからん」
「しかし伯爵様が呼ばれているのなら」
「出なくてはいけないか?」
「さあ、出て来るのだ」
伯爵は怒りのあまり周囲に彼等がいたことがどうしてか察しがいかなかった。
「今すぐにだ。ここに集まれ」
「一体どうしたのですか?」
「それで」
「フィガロだ」
フィガロの方を指差して半分叫ぶ。
「フィガロがだ。わしを裏切ったのだ」
「フィガロが?」
「スザンナではなくて」
「そうだ、フィガロだ」
伯爵はまた言った。
「あの者がだ。早く出て来るのだ」
「何が何なのかわからないが」
「参りました」
こうして出て来た。すぐに皆のうちの何人かがフィガロを引き立ててきた。このようにして彼は伯爵の前に引き立てられたのだった。
「お許しを」
「いや、許さん」
伯爵は怒りに満ちた声でフィガロに返す。
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